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薬院法律事務所

刑事弁護

アルコール依存症を理由に運転免許が取り消されそうという相談


2026年06月14日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は会社員です。先日、飲酒後に車を運転し、自損事故を起こしました。幸い、人身事故にはなりませんでしたが、警察や病院で飲酒の問題を指摘されました。

その後、公安委員会から、アルコール依存症を理由に運転免許を取り消す可能性があるという通知が届きました。

私は、たしかに酒をよく飲んでいましたし、飲酒後に運転してしまったことは深く反省しています。しかし、自分では「アルコール依存症」とまで言われるとは思っていませんでした。仕事で車を使うため、免許が取り消されると仕事を続けられません。

このような場合、どう対応すればよいでしょうか。

A、アルコール依存症を理由に運転免許が取り消されそうな場合、すぐに弁護士と医師に相談すべきです。

この問題は、通常の酒気帯び運転の点数制度による免許取消とは異なります。

自動車で酒気帯び運転をした場合、呼気中アルコール濃度や前歴・累積点数によって、免許停止又は免許取消の行政処分が問題になります。

一方、アルコール依存症を理由とする免許取消は、点数制度そのものではなく、「アルコールの中毒者」として、自動車等の安全な運転に支障があると判断される場合の行政処分です。

したがって、争点は単に「飲酒運転をしたかどうか」ではありません。

本当に道路交通法上の「アルコールの中毒者」に当たるのか。
現在の状態で、安全な運転に支障を及ぼすおそれがあるのか。
断酒を継続できているのか。
再飲酒のおそれが低いといえるのか。
医師の診断書で何を示せるのか。
免許取消ではなく、停止又は処分回避を主張できる事情があるのか。

ここを具体的に検討する必要があります。

ただし、「私は依存症ではありません」と本人が言うだけでは足りません。

医師の診断書、治療状況、断酒継続の記録、家族や職場の支援、飲酒運転再発防止策、生活環境の改善などを資料化し、聴聞手続で説得的に主張する必要があります。

また、仮にアルコール依存症がある場合には、免許を守るためだけでなく、本人の生活と安全を守るためにも、治療と支援につながることが重要です。

 

【解説】

 

1 通常の飲酒運転による免許取消とは違います

 

飲酒運転で免許取消になる典型例は、酒気帯び運転や酒酔い運転による点数制度上の処分です。

たとえば、自動車で酒気帯び運転をして呼気中アルコール濃度が高い場合、違反点数により免許取消が問題になります。

これに対して、アルコール依存症を理由とする免許取消は、通常の点数制度とは異なります。

道路交通法上、公安委員会は、運転免許を受けた人が「アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者」であることが判明した場合、政令で定める基準に従い、免許を取り消し、又は免許の効力を停止することができます。

つまり、この場合の問題は、

「今回、酒気帯び運転をしたから何点になるか」

だけではなく、

「この人に自動車等を運転させることが道路交通の安全上危険なのか」

という適性の問題です。

そのため、刑事事件の罰金や不起訴とは別に、公安委員会による免許取消・停止が問題になることがあります。

 

2 「よく酒を飲む人」だから当然に取消になるわけではありません

 

ここで大事なのは、「酒をよく飲む人」や「飲酒運転をした人」が、当然に道路交通法上の「アルコールの中毒者」とされるわけではないという点です。

問題になるのは、単なる飲酒習慣ではありません。

飲酒のコントロールができない状態にあるのか。
アルコール使用による精神症状や記憶障害等があるのか。
断酒を継続できているのか。
再飲酒のおそれが低いのか。
安全な運転に支障を及ぼすおそれがあるのか。

これらが問題になります。

したがって、本人としては、単に「自分は依存症ではありません」と主張するのではなく、医師の診断、治療状況、断酒状況、生活環境、再発防止策を具体的に示す必要があります。

 

3 聴聞手続で何を主張するか

 

アルコール依存症を理由に運転免許が取り消されそうな場合、処分前に聴聞手続が行われることがあります。

聴聞は、公安委員会が免許取消・停止という不利益処分をする前に、本人が意見を述べ、資料を提出する機会です。

この手続で重要なのは、次の点です。

・アルコール依存症といえるのか
・道路交通法上の「アルコールの中毒者」に当たるのか
・現在、断酒を継続しているのか
・アルコール使用による精神症状、記憶障害、判断障害等があるのか
・再飲酒のおそれが低いといえるのか
・今後、安全な運転が可能といえるのか
・医師の診断書にどのような記載があるのか
・家族や職場がどのように支援するのか
・飲酒運転を二度としないための具体策があるのか
・免許取消が仕事や生活に与える影響はどの程度か

ここで、単に「仕事で困る」と述べるだけでは不十分です。

免許取消によって仕事や生活に重大な影響があることは重要な事情ですが、まずは、そもそも取消事由に当たるのか、仮に問題があるとしても停止処分で足りるのか、治療・断酒・支援により安全運転に支障がないといえるのかを検討する必要があります。

 

4 医師の診断書が重要です

 

アルコール依存症を理由とする免許取消では、医師の診断書が非常に重要です。

本人や家族が「大丈夫です」と言っても、それだけでは公安委員会を説得することは難しいです。

医師に相談する際には、次の点が問題になります。

・アルコール依存症に該当するのか
・現在の飲酒状況
・断酒を継続できているか
・アルコール使用による精神症状や記憶障害等があるか
・再飲酒のおそれが低いか
・通院、治療、服薬、カウンセリングの状況
・家族や職場の支援体制
・運転再開について医学的にどう評価されるか

ただし、医師に「免許を取り消されたくないので大丈夫と書いてください」と頼むべきではありません。

必要なのは、実態に即した正確な診断です。

アルコール依存症がある場合には、その治療を受けることが本人のためにもなります。無理に否定するのではなく、現在の状態、回復の見込み、断酒の継続、再飲酒リスクを医学的に評価してもらう必要があります。

 

5 断酒の記録を残す

 

アルコール依存症を理由に免許取消が問題になる場合、断酒を継続しているかどうかが重要になります。

そのため、断酒している場合には、記録を残すべきです。

たとえば、

・通院記録
・医師の診断書
・アルコール専門外来への受診記録
・カウンセリング記録
・自助グループへの参加記録
・家族による生活状況の記録
・飲酒日記又は断酒日記
・アルコールチェッカーの記録
・職場や家族の支援体制を示す資料

などです。

ただ「飲んでいません」と言うだけでは、説得力が弱いことがあります。

断酒をどのように続けているのか。
飲酒したくなった時にどう対応するのか。
家族や支援者がどう関与しているのか。
再飲酒を防ぐための仕組みがあるのか。

ここまで示す必要があります。

 

6 仕事で免許が必要な事情は資料化する

 

免許取消になると仕事を失う場合、その事情も資料化すべきです。

ただし、「仕事で困る」と言うだけでは足りません。

具体的に、次のような資料を準備します。

・職務内容
・運転業務の頻度
・営業、配送、訪問、現場移動の実態
・運転免許が必須であることを示す就業規則、職務記述、会社資料
・公共交通機関で代替できない事情
・配置転換の可否
・免許取消になった場合の雇用への影響
・家族の生活費、扶養、住宅ローン等への影響
・会社や家族による支援策
・業務中に飲酒しない仕組み
・勤務前日や休日の飲酒管理策

ただし、免許が必要であることは、取消事由を否定する事情そのものではありません。

免許が必要だから処分しないでほしい、という主張だけでは弱いです。

免許を維持しても道路交通の安全を害しないといえる事情、すなわち治療、断酒、再発防止策、安全運転体制が重要になります。

 

7 家族の支援体制を作る

 

アルコール依存症が問題になる場合、家族の支援体制も重要です。

ただし、家族が「見張ります」と言うだけでは不十分です。

具体的には、次のような支援が考えられます。

・飲酒状況を家族と共有する
・車の鍵を家族が管理する
・飲酒した日は絶対に運転させない
・飲酒機会を減らす
・通院や相談に家族が同行する
・飲酒したくなった時の相談先を決める
・家族もアルコール依存症について学ぶ
・家族自身も相談機関につながる
・再飲酒した場合の対応ルールを決める

アルコール依存症では、家族も疲弊していることがあります。

本人だけでなく、家族も専門機関に相談することが重要です。

 

8 治療につながることは、免許のためだけではありません

 

アルコール依存症を理由に免許取消が問題になると、本人は「免許を守りたい」という気持ちが先に立ちます。

しかし、本当に重要なのは、免許だけではありません。

アルコール依存症がある場合、放置すれば、飲酒運転だけでなく、健康、仕事、家庭、借金、人間関係、事故、刑事事件につながることがあります。

治療につながることは、免許を守るためだけではありません。

本人の生活を守るためです。

医療機関、精神保健福祉センター、保健所、カウンセリング、自助グループ、家族会など、使える支援を検討すべきです。

 

9 飲酒運転の刑事事件と同時に進むことがあります

 

アルコール依存症を理由とする免許取消が問題になる場合、その前提として、飲酒運転、酒気帯び運転、酒酔い運転、交通事故が発生していることがあります。

この場合、刑事事件と行政処分が同時に進みます。

刑事事件では、

・酒気帯び運転
・酒酔い運転
・過失運転致傷
・危険運転致死傷
・救護義務違反
・アルコール等影響発覚免脱

などが問題になることがあります。

行政処分では、

・点数制度による免許停止・取消
・危険性帯有者としての停止
・アルコールの中毒者としての取消・停止

が問題になることがあります。

同じ飲酒運転をきっかけにしていても、刑事事件と行政処分は別の手続です。

刑事事件で罰金になったから、行政処分が終わるわけではありません。逆に、刑事事件が重くならなくても、アルコール依存症を理由に免許取消が問題になることがあります。

 

10 聴聞を欠席すべきではありません

 

聴聞は、本人の言い分や資料を出せる重要な機会です。

出欠自体は本人の自由ですが、免許取消を避けたいのであれば、基本的には出席して、資料を提出し、意見を述べるべきです。

聴聞に出る場合には、事前準備が重要です。

・通知書の内容を確認する
・取消理由を確認する
・医師の診断書を準備する
・断酒記録を準備する
・家族や職場の支援資料を準備する
・仕事で免許が必要な事情を整理する
・再発防止策を文書化する
・弁護士に相談する
・必要に応じて弁護士が補佐人として関与する

聴聞当日に思いつきで話すだけでは不十分です。

行政処分は生活に重大な影響を及ぼします。事前に資料を整えて臨む必要があります。

 

11 してはいけないこと

 

アルコール依存症を理由に免許取消が問題になっている場合、次のことは避けてください。

・飲酒状況について嘘をつく
・医師に虚偽の説明をする
・家族に口裏合わせを頼む
・飲酒運転の事実を隠す
・通院していないのに通院していると言う
・断酒していないのに断酒していると言う
・聴聞通知を放置する
・診断書を準備しない
・「仕事で困る」とだけ主張する
・取消処分後に運転する
・アルコール問題を放置する

免許取消後に運転すれば、無免許運転になります。刑事事件としてさらに深刻になります。

また、虚偽の説明をすれば、公安委員会、医師、職場、家族からの信用を失い、状況はさらに悪化します。

 

12 免許が取り消された後の再取得も簡単ではありません

 

一定の病気等を理由に免許が取り消された場合、病状が回復しなければ免許を再取得できません。

また、アルコール依存症を理由に取消処分を受けた場合には、断酒や治療が確認できたとしても、再取得の手続が簡単ではないことがあります。

安全運転相談、医師の診断書、適性検査、再取得手続などが必要になります。取消からの期間や地域の運用によっても手続が変わります。

したがって、「いったん取り消されても、後で取り直せばよい」と軽く考えるべきではありません。

免許取消になる前の段階で、聴聞に向けた準備をすることが重要です。

 

13 弁護士に相談すべきタイミング

 

次の場合には、早急に弁護士へ相談してください。

・アルコール依存症を理由に免許取消の通知が来た
・聴聞通知が届いた
・飲酒運転や自損事故後に、公安委員会から連絡が来た
・病院や警察でアルコール依存症を指摘された
・医師の診断書をどう準備すべきか分からない
・仕事で免許が必須である
・職場にどう説明すべきか分からない
・酒気帯び運転の刑事事件も同時に進んでいる
・免許取消になると仕事を失う
・家族としてどう支援すべきか分からない
・断酒や治療を始めたいが、どこに相談すべきか分からない

アルコール依存症を理由とする免許取消は、一般的な交通違反の点数処分とは違います。

医療、行政処分、刑事事件、仕事、家族支援が重なる問題です。

早期に弁護士と医師へ相談してください。

 

まとめ

 

アルコール依存症を理由に運転免許が取り消されそうな場合、通常の酒気帯び運転による点数制度上の免許取消とは異なる問題が生じています。

問題になるのは、

・道路交通法上の「アルコールの中毒者」に当たるか
・現在、自動車等の安全な運転に支障があるといえるか
・断酒を継続しているか
・アルコール使用による精神症状や記憶障害等があるか
・再飲酒のおそれが低いか
・医師の診断書で何を示せるか
・取消ではなく停止又は処分回避を主張できるか
・仕事や生活への影響をどう資料化するか
・治療と再発防止策をどう作るか

です。

「私は依存症ではない」と言うだけでは足りません。
「仕事で困る」と言うだけでも足りません。

医師の診断書、断酒記録、治療状況、家族や職場の支援体制、再発防止策を整え、聴聞で具体的に主張する必要があります。

また、本当にアルコール依存症がある場合には、免許を守ることだけを目的にするのではなく、治療につながることが重要です。

飲酒問題を放置すれば、再度の飲酒運転、事故、刑事事件、失職、家庭崩壊につながる危険があります。

アルコール依存症を理由に運転免許が取り消されそうな場合には、できるだけ早く、運転免許の行政処分に詳しい弁護士と、アルコール問題に対応できる医師・専門機関へ相談してください。

 

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