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薬院法律事務所

刑事弁護

下着盗撮事件において余罪を自白すべきか否かという問題※chatGPTo1pro作成(盗撮、刑事弁護)


2025年01月24日刑事弁護

まず前提として、弁護士は「依頼者にとって最も利益が大きく(不利益が少なく)なるように」助言を行います。しかしながら「嘘の供述を指示する」ことや「証拠があるのに事実をあえて否定させる」ことは弁護士倫理に反するためできません。あくまで弁護士は、依頼者と証拠をしっかり検討したうえで、黙秘や供述の範囲について適切な判断をサポートする立場にあります。以下では、盗撮事件の捜査・公判手続きを想定し、「余罪」を自白するかどうかの判断要素について、具体的に解説します。


1. 余罪を自白する(供述する)ことが有利に働く可能性があるケース

1-1. すでに証拠が確実に押さえられている場合

  • スマートフォン等の解析結果で、他の撮影データが見つかっている
    例:警察が押収したスマホの中から同様の日時・場所での盗撮データが複数見つかった場合。このように物的証拠が既に存在するなら、黙秘・否認を続けてもいずれ立件される可能性が高いです。

    • メリット: 早期に素直に認めることで「捜査に協力的」「真摯に反省している」という情状をアピールでき、結果として処分が軽減される場合がある。
    • デメリット: 余罪の件数が増えれば、当然事件全体としては重く扱われる可能性がある。とはいえ、揺るぎない物的証拠がある場合は「後からバレる→その後、再犯扱いでさらに不利」という展開を避ける利点が大きい。

1-2. 余罪の可能性を捜査機関が強く疑っており、証拠を収集しようとしている場合

  • 被疑者が頻繁に同じ場所で盗撮していたという目撃証言や、防犯カメラ映像の存在が示唆されている
    捜査官から「他にもやっているだろう」「すでに何件か証拠を押さえている」と示唆され、捜査が拡大される可能性が高いケースです。

    • メリット: 自発的に供述し、捜査に協力的な態度を見せることで、検察官・裁判所に「真面目に反省し、再発防止に前向き」と評価されやすい。複数の余罪が一括処理されることで、後日追加的に再逮捕・再立件されるリスクが減る。
    • デメリット: 自分から余罪を告白する結果、立件される事件数が増え、処分の重さに影響し得る。ただし「全件を一度に処理する」方がトータルとしては有利になる(後から追加立件されると繰り返し処分を受けることになる)ことも多い。

1-3. 「後に発覚→再犯扱い」での不利益が大きい場合

  • 初犯かどうかが処分上決定的に重要になるケース
    もし今回の盗撮が「初犯」だと考慮されて罰金や執行猶予が付いたとしても、その後に余罪が発覚すれば「再犯扱い」や「執行猶予取消しの可能性」が生じる場合があります。

    • メリット: 最初の段階でまとめて処分を受けておくと、一括して量刑・処分が判断されるため、一度きりで処分が済む(まとめて起訴猶予や執行猶予判決にできる可能性がある)。
    • デメリット: 当然、余罪分についても処罰対象となる。しかし、後日バラバラに発覚してその都度処分されるより、処分の合計量が結果的に軽く済む場合もある。

2. 余罪を黙秘する(言及しない)方が望ましい可能性があるケース

2-1. 捜査機関が余罪を把握していない可能性が高い場合

  • 押収物から余罪を立証できる物的証拠が見当たらず、捜査当局もそこまで強く疑っていない
    例:スマホを解析されても他の事件の証拠データが見つからない、公衆の防犯カメラ映像等も出てこないなど。

    • メリット: 「あえて自分から余罪を話す必要がない」と判断し、今の事件だけで処分を終えられる可能性がある。
    • デメリット: あくまで捜査が進んでいないだけで、後日何らかのきっかけで発覚すると、「その後新しい事件が判明→再犯・常習犯扱い」となる可能性がある。

2-2. 余罪について立件されても大きく処分が変わらない、あるいは捜査当局が既に諦めている(立件を見込めない)場合

  • 古い時期の犯行で証拠が散逸しており、時効になっている可能性がある
    盗撮行為の場合、各都道府県の迷惑防止条例の公訴時効は比較的短い(多くは3年程度)ため、時効が完成していればそもそも処罰の対象とならない。

    • メリット: 余罪を告白しても処罰されない場合もあるが、告白したことで心証が良くなるとも限らない。逆に「過去に何度もやっていた事実」を自ら明らかにし、裁判官に「常習性がある」と受け取られて不利になる可能性がある。
    • デメリット: 時効が完成していない、かつ当局が捜査の糸口を得た場合には、改めて立件されて合算されるリスクがある。ただ、ここでいう「当局が諦めている」ほど証拠がないと推測される場合は自白する意義が薄いと判断することもある。

2-3. 「自白しなくても、そもそも立件されない」と弁護士が判断した場合

  • 事件全体の状況・客観的証拠から見て、当局が余罪立件の見込みをほぼ持てない
    捜査官が「他に似たような事件をやっているのでは」と尋ねても、明確な根拠がなく、単なる疑いでしかない場合。

    • メリット: 自白しなければ事案は一件のみで終了する可能性が高い。
    • デメリット: 後から証拠が見つかると不利益が大きくなるリスクは常に残る。自白していない限りは示談や一括処理もできないので、後から発覚すれば再逮捕もあり得る。

3. 実務的な判断プロセス

3-1. 弁護士と依頼者の協議

  1. 捜査状況・押収物の確認
    • 警察がどれくらい余罪を追及しているか
    • スマホやパソコンなどの解析結果
    • 防犯カメラの映像や被害申告の有無
  2. 依頼者の認識・記憶
    • 本当に同種行為を複数回行っていたのか
    • いつどこで行ったのか、被害者を特定できるのか
  3. 処罰リスク(公訴時効・刑の重さ・再逮捕リスクなど)の評価
    • 既に公訴時効が完成している可能性の有無
    • 自白してもまとめて一括処理できるか
    • 後に発覚すると「再犯扱い」になってより不利になるか

弁護士はこれらの情報を総合的に評価し、「余罪を告白するメリット・デメリット」を依頼者にわかりやすく説明します。たとえば、複数の盗撮データがスマホに明確に残っているならば、余罪を否定し続けても後から発覚して再度立件される恐れが大きいので、最初から全件を認めて処理してもらう方が結果的に得策、という判断がなされることが多いです。

3-2. 捜査機関・裁判官の心証への影響

  • 自発的に申し出た場合
    「他にもやったことがある」と自発的に申し出れば、当然余罪が立件されて処分が重くなる可能性はありますが、その一方で裁判所は「事実を隠さず真正面から反省している」と評価することもあります。公判で弁護士が「被告人は自主的にすべてを明らかにし、再発防止のためのカウンセリングを受け始めた」などを主張すれば、ある程度情状面でプラスに働く可能性もあるでしょう。
  • 後から見つかった場合
    当初否認していても、後から物的証拠が出てくるなどして余罪が発覚すると、「処罰を逃れようと隠していた」という印象を与え、検察官や裁判所の心証が悪化する場合があります。特に一度判決が出た後に新たな余罪が立件されると、「反省していると思ったらまだ隠していたのか」と判断され、厳しい処分に繋がりやすいというリスクが高いです。

4. 実際の例:判断を分けるキーポイント

  • すでにスマホに盗撮データが何十枚も残っている → 自白する方向
    捜査機関が解析すれば確実に出てくるデータがあるならば、隠すメリットは薄い。むしろ早めに「この時期からこの時期まで複数回やっていました」と認め、示談交渉や反省の姿勢を示す方が処分一括で済む可能性が高い。
  • 単発犯行で、スマホにも履歴が一切残っていない → 黙秘で終わる選択肢も
    現行犯で捕まった今回の1件以外に証拠が全くなければ、余罪を認める必要はないことが多い。後から余罪を疑われても立証が難しく、現段階で自ら話しても全体の印象が悪くなる場合がある。
  • 余罪と思われる行為があるが、公訴時効が迫っている・満了している → ケースバイケース
    時効が過ぎているなら起訴されないため、その分まで「自分はこんなに何度もやっていた」と言う意味があるのかを慎重に判断。反省を示したいのであれば「時効分まで含めて自白」する手もあるが、裁判官に「常習性が強い」と認定されて不利になる可能性もある。
  • 余罪被害者との示談が可能かどうか → 示談交渉の見込み次第
    同時期に被害を受けた複数の方と示談交渉をまとめて行い、「示談がすべて成立した」という事実を情状として示すのは処分上有利に働きやすい。しかし、そもそも被害者が特定できない、または示談を拒否しているなどの状況だと「余罪を出すことで得られるメリット」があまり見込めないこともある。

5. まとめ

盗撮事案の弁護で「余罪の有無をどう供述するか」は、非常に繊細な問題です。決定的に大事なのは証拠の状況と、後から発覚した場合のリスクとのバランスです。捜査機関が既に押さえている・押さえる可能性が高い余罪については、先に自白してまとめて処分してもらう方が再逮捕や心証の悪化を防げるメリットがあります。一方、証拠がなく、さらに捜査機関が積極的に立件しそうにないのであれば、自白して事件が増えた結果、まとめてより重く処罰される可能性も無視できません。公訴時効の問題や示談の可能性も含め、メリット・デメリットを慎重に見極める必要があります。

最終的には、**「確実な証拠があるか」「捜査機関がどこまで把握しているか」「後日発覚するリスク」「公判での心証」**などを総合的に勘案し、依頼者が納得のいく判断を行うよう、弁護士が助言を行います。特に複数の盗撮データや目撃証言が存在する場合には、「余罪を隠したまま処分が決まった後、追加で立件されるリスク」を考慮し、自白した方が全体として軽い処分で収まる可能性も高いことを説明します。逆に、捜査当局が立件を諦めるほど証拠不十分な場合や単発で終わっているような場合には、「自ら余罪を告白するメリットが少ない」こともあり得るのです。

結局のところ、**「余罪を自白すれば必ず有利」「黙秘すれば必ず有利」**という一律の答えはなく、事件ごとの証拠状況や見通しを踏まえた柔軟な対応が求められる、というのが実務上の実態となります。

下着盗撮事件弁護要領(性的姿態等撮影罪・迷惑防止条例)