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薬院法律事務所

刑事弁護

交通犯罪弁護要領※chatGPTo1pro作成(救護・報告義務違反)


2025年01月25日刑事弁護

 

プロンプト

【自動車を運転している人が、交差点を左折する際、左側にいた自転車に気づかずに進行し、自転車の前部と自動車の左後部を衝突させ、自転車を転倒させ、そのまま気づかずに走り去ったという事例で、後日警察から過失運転致傷罪(加療2週間)と救護・報告義務違反に問われたという場合に、弁護人として救護・報告義務違反の故意を否定して過失運転致傷罪のみの処罰にとどめること、運転免許取り消しの行政処分(救護義務違反35点)を免れるための弁護方針について、1万字以上で詳細に解説してください。】

 

以下に示す解説は、日本法における交通事故に関する刑事・行政上の問題を念頭に置きつつ、「過失運転致傷罪(加療2週間相当)」と「救護義務違反(道路交通法72条1項前段)」が問われている事例について、弁護人が救護・報告義務違反の成立要件を満たさない(すなわち故意が認められない)と主張し、最終的に「過失運転致傷罪のみ」での処罰にとどめるよう活動する方針を軸に、加えて運転免許取消(35点加点による)という行政処分を回避・軽減するための具体的な弁護戦略と手続上の注意点を、できる限り詳細に解説します。


第1章 事案の概要と争点整理

1-1. 事案の想定

  1. 事故態様(車両と自転車の接触)
    • 自動車運転者Aさん(被疑者/被告人)が、交差点を左折する際、左側を並走していた自転車に気づかず進行。
    • 自動車の左後部(後輪付近)と自転車の前輪部が接触し、自転車側が転倒。
    • 被害者は転倒の際に軽傷を負い、全治2週間程度(加療2週間相当)のケガをした。
    • 自動車を運転していたAさんは、「まったく事故に気づかずにそのまま走行を続けた」と主張している。
  2. 後日の呼出し
    • 被害者からの届出や目撃者の通報、防犯カメラ等により、Aさんの車両やナンバーが特定され、後日警察から連絡が入る。
    • Aさんは警察署に出頭し、取り調べを受けた結果、「過失運転致傷罪」と「救護義務違反(道路交通法72条1項前段)・報告義務違反」が疑われている段階にある。
  3. Aさんの主張
    • 「接触したとは気づいておらず、『縁石か何かに乗り上げたかな』と思った程度で、自転車が転倒したとは考えもしなかった。歩行者や自転車などを巻き込んだと確信も持てず、事故とは認識しなかった」
    • 「決して故意にそのまま逃げたわけではない」
    • 「接触したことに気づいていれば絶対に止まっていたし、救護もしていたはずだ」
  4. 被害状況・負傷
    • 自転車の運転者は加療2週間相当のケガ。たとえば打撲や擦り傷程度だが、病院では全治2週間程度と診断されている。
    • 自転車のフレームや前輪が損傷している可能性がある。
  5. 法的リスク
    • 過失運転致傷罪(刑法211条2項または自動車運転処罰法5条):法定刑は「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」
    • 救護義務違反(道路交通法72条1項前段):刑事罰としては1年以下の懲役又は10万円以下の罰金が予定されている(状況によっては道路交通法117条の5の逃走罪等が検討される場合もある)。
    • 報告義務違反(道路交通法72条1項後段):事故を起こした運転者には直ちに警察署等に報告する義務があるが、それを怠った場合にも処罰規定がある。
    • 行政処分上のリスク(違反点数)
      • 過失運転致傷に関しては「人身事故」の処分が科される可能性がある(加点数は状況により異なる)。
      • 救護義務違反が確定すると35点が加点され、免許取消(欠格期間2年)となる可能性が極めて高い。

1-2. 主要な争点

  1. 救護義務違反の故意(認識)について
    • 救護義務違反が成立するためには、運転者が「事故を起こしたこと」および「人が負傷している可能性がある」という事実を認識していながら、あえて救護や報告をしない、という故意が必要。
    • 本件ではAさんが「事故にまったく気づいていなかった」と主張しているため、捜査機関・検察官側は「通常の注意を払えば気づいたはずだ」「明らかに衝撃音や自転車の転倒を視認できたはずだ」と立証を図るとみられる。
    • 弁護人としては「事故だと認識できるような衝撃がなかった」「自転車と車体との接触箇所・程度が軽微だった」「周囲が混雑しており車両の挙動に気づかなかった」などを丁寧に示し、『認識可能性』と『実際の認識』を区別しながら、**「Aさんに事故を認識する故意がなかった」**ことを主張する。
  2. 過失運転致傷の成立自体は認めるかどうか
    • 交差点左折時の安全確認不足により自転車にケガを負わせた点につき、Aさん側に過失が存在することは否定しにくい。
    • 過失運転致傷罪の成立自体は認め、反省・謝罪・示談に努める方針をとる可能性が高い。
    • ただし、その一方で「救護義務違反」は否認し、最終的には過失運転致傷罪のみの処分を求めるスタンスとなるのが一般的な弁護方針となる。
  3. 被害者との示談交渉
    • 事故被害者に対する損害賠償・慰謝料を支払うことで、処分の軽減や不処分(不起訴)を目指す。
    • ただし「救護義務違反」が立証されると、たとえ示談が成立していても刑事処分(特に実刑や重い罰金)や免許取消のリスクが高まる。
    • したがって示談交渉を行いつつも、捜査機関に対しては「事故の認識がなかった」という点を粘り強く主張する必要がある。

第2章 救護義務違反の法的構成要件と故意の問題

2-1. 道路交通法72条1項の趣旨と構成要件

  1. 法条文の概要
    道路交通法72条1項前段では、「事故があった場合、運転者は直ちに車両を停止させ、負傷者の救護措置を講じ、かつ警察官等に報告しなければならない」旨を定めている。

    • この規定の趣旨は、交通事故により人身被害が発生する危険性が高い以上、運転者は迅速に救護活動を行い、事故処理に協力すべきだという点にある。
  2. 故意犯としての処罰
    • 救護義務違反は形式的に見ると「不作為犯」であるが、「事故を起こしたこと」を認識し、かつ「負傷者がいる可能性」を認識しながら救護・報告を怠った場合に成立すると理解されている。
    • 「過失により救護義務違反を犯した」という規定は道路交通法上なく、あくまで故意犯としての処罰が予定されている。
    • したがって、たとえ客観的には事故が発生していたとしても、運転者本人がその事実に気づいていなければ「救護義務違反(ひき逃げ)」には当たらない。
  3. 法定刑と行政処分
    • 刑事処分:1年以下の懲役または10万円以下の罰金(道路交通法117条の5)
    • 行政処分:違反点数35点が付され、免許の取消(欠格期間2年)がほぼ確実。
    • この点数の重さから、一度「救護義務違反」が認定されると、よほど特別な事情がない限り免許を失うことになる。

2-2. 故意の立証構造:検察官の主張と反論のポイント

  1. 検察官の立証方向性
    • 検察官は「事故が起きたことに運転者が気づかないはずがない」と主張することが多い。
    • 具体的には、以下のような立証を試みる。
      1. 物損や衝撃音が大きかったはず
      2. 被害者が転倒した際に声を上げる等、明らかに気づける状況
      3. 目撃者の証言:車体が大きく揺れた、衝撃音が聞こえた
      4. ドライブレコーダー映像の解析:自転車との接触がはっきり映っている
      5. 後で車体に傷や塗料の付着が認められ、通常気づくレベル
    • これらの事実を積み上げて「通常の注意力があれば人と接触したと認識できるはずだ」と推論し、それをもって運転者が実際に気づいていたと認定しようとする。
  2. 弁護側の反論方針
    • 救護義務違反の成立には、「事故を起こしたかもしれない(または起こしたに違いない)」との認識が必要である。単なる「不注意」(=過失)では足りない。
    • 従って、以下のような事実を主張・立証することで「事故を認識していなかった」ことを示す。
      1. 接触した部位が車の後輪付近で、自転車側が後方にいたため、ミラーでは確認しにくかった
      2. 衝撃が軽微で、道路環境(段差や路面の凹凸など)と錯覚しうる程度だった
      3. 混雑した市街地や工事現場付近で騒音が大きく、衝撃音に気づきにくい状況
      4. 車内環境(エアコンや音楽、同乗者との会話)により小さな衝撃に気づきにくい
      5. 被害者の衣服や自転車の塗装が車体に付着した形跡が極めて微小だった
      6. 運転者は過去に耳が遠い、あるいは注意力散漫の傾向があったなど特殊な事情
    • また、「客観的には事故が起きたと見なせるが、あくまで主観的に気づかなかった」という状況を具体的に示す。そのうえで、「これらの事情を踏まえてもなお『人身事故を起こしたと確信した』とまでは言えない」ことを強調する。

第3章 弁護活動の具体的ステップ

3-1. 初期対応:依頼者(運転者)からの詳細ヒアリング

  1. 事実経過の確認
    • 事故前後の運転経路、交差点の状況、周囲の交通量などを綿密に確認。
    • 「いつ、どの瞬間に、どのような衝撃や違和感を覚えたか」を可能な限り正確に聞き取る。
    • 「単なる段差だと思った」「カーブを曲がる時に生じる振動と思った」など、運転者がその時どう感じたかを言語化する。
  2. 目撃者・ドライブレコーダー等の有無
    • 車両にドライブレコーダーを装着しているか(フロント・リア・サイドカメラの有無)。
    • スーパーマーケットやコンビニ、防犯カメラの映像が残っている可能性。
    • 目撃者情報(事故後に声をかけられなかったか)などを詳細に聴取する。
  3. 車両の損傷状況
    • 自動車に傷やへこみがあるか、塗料の付着があるか。
    • それらがどの程度の大きさ・目立ち具合か、事故当時に運転者が気づき得るレベルか。
    • 過去の擦り傷と区別がつくか。
  4. 被害者(自転車側)の負傷状況と加療2週間の根拠
    • 骨折や深い傷ではなく、打撲や擦過傷程度なのか。
    • 病院の診断書の内容を確認し、重症度を把握する。

以上を踏まえ、**「運転者Aさんが本当に事故を認識し得なかったのか」**という点を具体的事実に即して検討していく。仮にAさんが曖昧な供述をしていると「隠蔽のための嘘」と取られかねないため、丁寧にヒアリングして正確にまとめることが不可欠である。


3-2. 捜査機関との折衝:任意聴取・取調べへの対応

  1. 供述方針の確認
    • 弁護人はAさんと十分に協議し、「過失運転致傷については認めるが、救護義務違反については認識がなかったため否認する」という方針を固める。
    • Aさんが「もしかしたら接触したかも」と思っていたが面倒になって走り去った、などのニュアンスが混じらないよう、「実際の意識はどうだったのか」を明確に整理する。
  2. 調書作成時の注意点
    • 警察官は「本当は気づいていたのではないか」と誘導尋問的に質問することがある。
    • 例えば「ガツンと音がしたのでは?」「後ろを見たのでは?」などの問いに対して、Aさんが曖昧な返事をすると「やはり気づいていた」と調書に記載される恐れがある。
    • 弁護人としては、取調べ後などにAさんと面会し、捜査官の質問内容とAさんの回答内容を相互確認し、誤解のないように供述調書に反映させることが重要。
  3. 物的証拠・客観的証拠の分析
    • 警察が回収したドライブレコーダー映像、防犯カメラ映像、車両・自転車の損傷状況などを可能な限り閲覧・分析し、「どの程度の衝撃があったか」等を客観的に把握する。
    • もし衝撃が大きく見える映像がある場合でも、「車内で実際にどの程度体感できるか」は別問題である。弁護側は実験的な再現を検討することもある(類似の車種で同程度の接触を再現し、どの程度の音や振動があるかを検証する)。
  4. 複数回の取調べに備える
    • 捜査期間が長引く場合、Aさんの供述が変遷すると信用性が疑われる。
    • 初回の取調べから一貫して「気づかなかった」旨を主張し、あいまいな表現を避けるようAさんに助言する。

3-3. 被害者との示談交渉と処分の見通し

  1. 示談の意義
    • 被害者が被害届を取り下げたり、刑事処罰を望まない旨を表明してくれる可能性がある。
    • 少なくとも過失運転致傷罪の量刑や処分には大きく影響し、不起訴や罰金刑にとどまる確率が上がる。
    • ただし、救護義務違反の故意を否定する争いとは別問題であり、示談成立後も「救護義務を果たさなかったのは事実だ」と主張されるリスクが残る。
  2. 示談の内容
    • 治療費、慰謝料、自転車修理費などを賠償する。
    • 被害者が納得する金額や条件を提示し、謝罪文を用意するなど誠意を尽くす。
    • 被害者自身が「運転者が全く気づかなかったのも無理はない状況だった」と証言してくれれば大きな力になるが、被害者によっては「どう考えても気づいていたはず」と訴えてくる場合もある。
  3. 検察庁での処分見通し
    • 示談が成立したとしても、「過失運転致傷」については不処分(不起訴)になる可能性はあるものの、救護義務違反の方は「悪質性」を強調されやすいため、不起訴や起訴猶予を得るのは相当に難しい。
    • しかし、「実際に気づかなかった」という主張が検察に認められれば、そもそも救護義務違反での立件を見送られる(あるいは嫌疑不十分で不起訴処分)可能性もある。
    • 弁護人は、示談書や被害者の供述内容を検察官に提出するとともに、「本件は救護義務違反が成立する事案ではなく、過失運転致傷のみ」として略式罰金や不起訴を求める申し入れを行うことが多い。

第4章 公判段階の弁護方針:救護義務違反の故意をめぐる争い

もし検察官が「救護義務違反」の故意ありと判断して起訴した場合、正式裁判(公判)に進む可能性がある。以下では公判での主な争点と弁護活動を解説する。

4-1. 公判前整理手続・事実の争点化

  1. 主な争点の明確化
    • 「過失運転致傷」の成否に争いがないなら、争点は専ら救護義務違反の故意(認識)の有無となる。
    • 弁護人は被告人質問や証拠調べを通じて、被告人が事故を認識できなかった事情を具体的に主張・立証。
  2. 公判前整理手続の活用
    • 公判前整理手続では、検察側から提出される証拠一覧を確認し、弁護側の立証計画を示す。
    • 防犯カメラ映像やドライブレコーダー映像などの証拠開示を受け、事実認定の争点を一層明確化する。
  3. 目撃証人の尋問
    • 事故を目撃した第三者が「大きな音がした」「車が急に揺れた」などと証言した場合、検察側の有力証拠となり得る。
    • 弁護人は、目撃者がどの位置から見ていたか、音量や車内の状況を把握していたかなどを厳密に問いただし、目撃証言の信用性・客観性を吟味する。

4-2. 被告人質問と供述のポイント

  1. 実際に気づかなかったことの具体性を強調
    • 「あの時、なぜ気づかなかったか」を漠然と「小さな衝撃だった」と言うだけでなく、自転車が車の死角に入っていたこと、周囲が騒音で聞こえにくかったこと、自分がどんな姿勢で運転していたかなどを詳細に説明する。
    • 被告人質問では、事故当時の記憶を具体的に語ることで、信憑性を高める。
  2. 誠実な反省態度
    • 「結果的に被害者を転倒させてしまい、大変申し訳なく思っている。もし気づいていればもちろん止まって救護した」といった真摯な反省を示す。
    • 同時に「故意に逃げるような人間ではない」という人柄・キャラクターを裁判官に理解してもらう。
    • 被害者が公判に出廷した場合、直接謝罪の意を表すなど、誠意を伝える機会を模索する。
  3. 運転態度や日常生活上の背景事情
    • 長年無事故無違反であり、普段から安全運転を心がけていたとか、何らかの持病等で聴覚や感覚が鈍い可能性があるなど、背景事情を説明する。
    • ただし「感覚が鈍い」と主張すると「そもそも運転適性に問題がある」と指摘されかねないため、バランスを検討しつつ、当時の特殊な事情(花粉症がひどかった、窓を閉め切っていた等)も言及する。

4-3. 最終弁論での情状主張

  1. 救護義務違反が成立しない理由
    • 法的観点:
      • 「道路交通法72条1項前段が予定する『救護義務違反』は故意犯であるが、本件被告人には事故を認識する故意が存在しなかった」
      • 「認識可能性(過失)と認識(故意)は異なる。結果的に事故があった以上、過失運転致傷罪は認めるが、救護義務違反には至らない」
    • 事実認定上のポイント:
      • 「被告人車両の後輪と自転車前輪との軽微な接触で、他の騒音に紛れ気づかなかった」
      • 「被害者の転倒を直接視認できる位置関係ではなかった」
      • 「ドアミラー等でも確認困難で、車内では衝撃が小さいために認識が難しかった」
    • 以上を総合し「気づかなかったことは不自然とはいえない」という結論を示す。
  2. 量刑上の情状
    • 過失運転致傷罪については、示談成立・被害弁償の完了・被害者の宥恕が得られていれば、**寛大な処分(罰金刑または執行猶予つき判決)**を期待できる。
    • 被告人に反省があり、再発防止策(今後ドライブレコーダーを設置し、左折時の安全確認を徹底する等)を実施する旨を誓約。
    • 家族や会社の支援状況・監督体制を示し、社会的更生の見込みが高いことをアピール。

第5章 行政処分(免許取消)の回避・軽減策

5-1. 交通違反点数の制度概要

  1. 35点加算の重大性
    • 道路交通法上、「救護義務違反」が認定されると、これだけで一発35点が加算される。
    • 一般に累積点数が6点以上で免許停止、15点以上で免許取消となるが、35点は15点を大きく上回るため、たちまち免許取消となり、欠格期間2年に指定されるのが基本的運用。
    • よって「救護義務違反」が付されるかどうかが、被疑者にとって運転を続けられるかどうかの死活問題となる。
  2. 過失運転致傷だけの場合の点数
    • 人身事故の点数はケガの程度によって変わる(治療期間15日未満の負傷であれば4点、15日以上30日未満で6点など)。
    • もし加療2週間であれば、人身事故としては軽めの点数(4点程度)で済む可能性が高い。
    • それに付随する違反(安全運転義務違反など)で2点前後加算されるとしても、合計6点前後で免許停止処分にとどまる見込み。
    • 35点との差はあまりにも大きく、免許の存否がかかっていると言っても過言ではない。

5-2. 行政処分は刑事判決の確定とは別個に行われる

  1. 非裁量的な運用
    • 警察・運転免許センターが行う行政処分は、裁判所の判決内容と必ずしも連動しない。
    • 刑事手続では「救護義務違反が否定」されても、警察が独自に「いや、救護義務違反があった」と判断して点数を付する可能性がある。
    • その逆に、裁判で救護義務違反が認定された場合でも、行政処分で何らかの斟酌が働く可能性は極めて低い(ほぼない、と考えるべき)。
  2. 弁明の機会
    • 行政庁から「免許取消前の聴聞手続」や「意見の聴取」の通知が来る場合がある。
    • そこで「自分は事故を認識していなかった」「救護義務違反は成立しない」という主張を改めて行い、できれば刑事手続で「救護義務違反なし」の判断が出ていることを示す。
    • ただし、警察の事故捜査段階で「救護義務違反あり」の報告書が上がっていると、行政庁はそれを重く受け止める傾向が強い。
  3. 刑事処分との連動を狙う方策
    • 理想的には「刑事手続で『救護義務違反なし』との判断が示され、不起訴または無罪(あるいは起訴猶予)」が出れば、行政処分も救護義務違反を前提としにくくなる。
    • そのためには、捜査段階・公判段階で救護義務違反を否定する結論を得ることが先決。
    • 刑事上「不起訴処分」や「免訴・無罪判決」が確定していれば、それをもって聴聞で主張できる可能性がある。

5-3. 実務的対処:免許取消を防ぐための具体策

  1. 実況見分調書・捜査報告書の内容に注意
    • 警察が作成する実況見分調書や捜査報告書に「救護義務違反が明確」となる記載があると、後の行政処分に直結する。
    • 弁護人は捜査段階で「被疑者は事故を認識していなかった旨を一貫して述べている」「客観的にも接触程度は軽微である」などを報告書に反映させるよう主張する。
  2. 聴聞手続での主張準備
    • 行政処分が予想される場合、いずれ免許センターから聴聞手続の日時が通知される。
    • 弁護人は聴聞手続に同席するか、事前に意見陳述書を作成し、警察や免許センターに提出する。
    • その際、「刑事手続で救護義務違反が不問になった」「起訴猶予になった」などの結果を証明できれば、処分を阻止・軽減できる余地が生まれる。
  3. 行政不服審査・行政訴訟の可能性
    • もし聴聞後に免許取消処分がなされても、行政不服審査請求や取消訴訟を検討できる。
    • ただし、実務上は警察の判断が覆るケースは少なく、長期の争いになることが多い。
    • しかし、仕事で車を使うなど免許取消が死活問題の場合、最後まで争う価値がある場合もある。

第6章 弁護活動の戦略・見通し

以上を総合すると、本件で弁護人が取り得る主要な方針は以下のとおりである。

6-1. 過失運転致傷の成立は認め、示談・反省に努める

  • 交差点左折時の安全確認不十分という過失を認め、被害者に対する謝罪と損害賠償を積極的に行う。
  • 被害者が軽傷であり、示談がまとまれば刑事処分上は略式起訴や起訴猶予で済む可能性が高まる
  • 裁判所や検察官に対しても「被告人は今回の事故を深く反省し、被害者に誠意を尽くしている」とアピールできる。

6-2. 救護義務違反は一貫して故意を否定する

  • 「事故を起こしたことを認識していなかった」を主軸とし、具体的な事実で裏付ける。
  • 事故の瞬間の衝撃の程度、周囲の騒音、視野の問題(自転車が死角に入っていた)などを詳細に主張。
  • ドライブレコーダー等で大きな音が確認できないなら有力な証拠となる。
  • 目撃者が「大きな音がした」と言っても、その人の場所、路上の環境などを丁寧に検証し、必ずしも運転者が同じ音量で聞こえたとは限らない旨を強調。

6-3. 行政処分の回避・軽減に注力

  • 刑事手続で「救護義務違反なし」の結論を得ることが最善策。
  • もし刑事手続で救護義務違反が否定されれば、免許センター側も処分判断に慎重になる可能性がある。
  • 聴聞手続では、刑事手続での判断、示談成立の事実、被告人の反省・再発防止策を訴え、少なくとも「救護義務違反なし」の扱いにしてもらうよう主張。

6-4. 予想される処分例

  1. 最良のシナリオ
    • 被害者との示談が成立し、検察官が「救護義務違反について故意の立証が難しい」と判断、過失運転致傷罪については起訴猶予
    • したがって刑事処分なし、行政処分でも「人身事故(軽傷)として4点程度+安全運転義務違反2点前後」の合計6点ほどで、免許停止処分にとどまる(あるいは過去の累積点数次第では免停も回避)。
  2. 次善のシナリオ
    • 過失運転致傷で略式起訴→罰金刑(例えば10万円〜20万円程度)となるが、救護義務違反は嫌疑不十分または不起訴。
    • 行政処分でも「人身事故・安全運転義務違反」の合計6〜8点程度で免停処分程度(30日や60日の免停)となる。
  3. 最悪のシナリオ
    • 検察官が「救護義務違反の故意あり」と判断し、公判請求され、有罪認定→「過失運転致傷+救護義務違反」で実刑や執行猶予付き判決
    • 行政処分では「救護義務違反35点」で免許取消(欠格期間2年)が確実。
    • 仕事での運転が必須の場合、職を失う恐れも出てくる。

第7章 まとめと今後の留意点

本事案での弁護の核心は、「運転者が自転車との接触事故を認識しながら故意に逃げた」という構図を崩すことにある。日本の交通事故処理においては、いわゆる「ひき逃げ・当て逃げ」は重大視され、「救護義務違反」が認定されると刑事・行政いずれも極めて重い処分が科されるのが通例だからである。

一方で、救護義務違反は**「故意犯」**のため、客観的に事故が発生していても「運転者が気づいていなかった」なら処罰されない。ただし、警察・検察が「気づかないはずがない」と決め付け、立件してくるケースは少なくない。そのため弁護人としては、以下の点を丁寧に立証・主張する必要がある。

  1. 事故の態様・接触部位の軽微さ
  2. 運転者の注意が散漫になっていた合理的事情(騒音、車内環境など)
  3. 被害者のケガが比較的軽度で、現場で悲鳴や大きな騒ぎが起きなかった可能性
  4. 車両の傷やへこみがごく小さい、または過去の傷との区別がつきにくい
  5. 被害者や目撃者の証言が「大きな音がした」という主観的感想に留まる場合、それを運転者が同程度に認識したとは限らない

同時に、被害者に対しては誠実に謝罪と賠償を行い、示談交渉を成立させるよう尽力することで、過失運転致傷罪の処分を軽くする効果が期待できる。

また、行政処分(免許取消)を免れるためには、できる限り「救護義務違反」扱いを避け、刑事手続でも「救護義務違反」が成立しないとの結論を得ることが最善策である。仮に刑事で否定されても、行政が必ずしもそれに従うとは限らないが、否定材料がないよりは遥かに有利に働く。逆に刑事で有罪認定されると、行政処分でもほぼ確実に取消が下りる。

万一「救護義務違反あり」とされ免許取消処分を受けた場合、どうしても生活・仕事に深刻な支障が生じるならば、**行政不服審査請求や裁判(行政訴訟)**を検討する。ただし現実には警察側の判断を覆すのは容易でなく、その過程も長期化する可能性があるため、できるだけ早期段階(捜査段階・検察段階)で「救護義務違反なし」と結論づけさせるのがもっとも実効的な方策となる。


(付録)本稿のポイントまとめ

  1. 事故態様・争点
    • 左折時に左側の自転車と軽微に接触したが、運転者は気づかず走り去った→過失運転致傷と救護義務違反の疑い。
    • 救護義務違反(いわゆる「ひき逃げ」)には「事故を起こしたとの認識(故意)」が必要。
  2. 弁護の基本方針
    • 過失運転致傷自体は認め、被害者への賠償・示談を誠実に進める。
    • 救護義務違反は「事故を認識していなかった」として故意を否定 →「不知」により違法性を争う。
  3. 具体的な弁護活動
    • (1) 事実確認・ヒアリング:衝撃の程度、車両の損傷箇所、騒音状況などを詳細把握。
    • (2) 捜査段階の対応:誘導尋問への対処、供述調書のチェック、物的証拠(ドライブレコーダー等)の分析。
    • (3) 被害者との示談:治療費・慰謝料等の賠償で合意を得て、処罰感情を緩和。
    • (4) 公判段階:目撃証言や客観的証拠を検証し、衝撃や認識のなさを具体的に主張立証。
    • (5) 行政処分への対策:聴聞手続で「救護義務違反なし」と主張。刑事で不起訴や無罪を得られれば有利。
  4. 処分の見通し
    • 救護義務違反が認定されなければ、過失運転致傷の人身事故点数のみで免停程度。
    • 救護義務違反が認定されると35点で免許取消(欠格2年)確定 → 生活・仕事への甚大な影響。
  5. 結論
    • もっとも重要なのは「本当に事故を認識できなかった」という点を事実・証拠に基づいて説得的に示すこと。
    • 同時に被害者への謝罪・賠償を誠意をもって行い、過失運転致傷の軽減や不処分を目指す。
    • 行政手続との相互作用も念頭に置き、早期に弁護人を立てて慎重に方針を固める必要がある。

以上が、本件のように「交差点を左折中に自転車と衝突し、被害者を転倒させたにもかかわらず、本人は気づかず走り去った」として「過失運転致傷罪」「救護義務違反」が問われている事案における、救護義務違反の故意を否定し、過失運転致傷罪のみの処罰にとどめるための弁護方針と、運転免許取消(35点)の行政処分を回避・軽減するための具体的な考え方の詳細解説です。

実際の事案では、事故態様・警察や検察の姿勢・被害者の意向・証拠の有無など多岐にわたる要素を見ながら、柔軟かつ綿密な対応が必要です。特に「気づかなかった」という主張は、説得力のある裏付け(環境、車両の特性、ドライブレコーダー映像の有無など)がないと認められにくいのが現実であり、早期に弁護士と協力して証拠収集や供述調整を行うことが極めて重要となります。

救護・報告義務違反での完全黙秘戦略の妥当性※chatGPTo1pro作成(道路交通法違反、刑事弁護)

※こちらが私の作成した弁護要領の記事です

交通犯罪弁護要領(救護義務・報告義務違反の例)