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薬院法律事務所

刑事弁護

会社で横領・経費不正を疑われた場合、警察に行く前にすべきこと


2026年06月08日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は会社員です。

会社から、経費精算に不正がある、会社のお金を私的に使った、横領ではないかと言われています。会社の上司や管理部門から呼び出され、「このままだと警察に相談する」「被害届を出す」「刑事告訴も考えている」と言われました。

一部については、確かに不適切な経費精算がありました。ただ、会社が主張している金額には納得できない部分があります。業務のために使ったものもありますし、上司から了承を得ていたと思っていたものもあります。

会社からは、すぐに返済計画書や自認書にサインするよう求められています。警察に行く前に、何をすべきでしょうか。

A、まず、すぐに弁護士に相談してください。

会社で横領・経費不正を疑われた場合、警察に行く前、会社の事情聴取に応じる前、自認書・返済合意書・退職届に署名する前に、刑事事件に詳しい弁護士へ相談すべきです。

重要なのは、嘘をつかないことです。
しかし、会社の言い分をそのまま認めることと、嘘をつかないことは違います。

会社の内部調査では、事実関係、金額、法的評価が混ざってしまうことがあります。

「経費精算に問題があった」ことと、「業務上横領罪が成立する」ことは同じではありません。
「会社に損害が生じた」ことと、「会社の主張する全額を刑事事件上の被害額として認めるべきこと」も同じではありません。
「返済する意思がある」ことと、「横領したと認める」ことも同じではありません。

そのため、警察に行く前に、まずは時系列、資料、金額、会社内のルール、承認経緯、実際の使途を整理する必要があります。

また、証拠を消したり、関係者と口裏合わせをしたり、会社に虚偽説明をしたりしてはいけません。そのような行為は、逮捕、勾留、起訴、重い処分につながる危険があります。

横領・経費不正の事件では、早期に被害弁償や示談交渉を進めることが重要です。しかし、金額や内容を確認しないまま、不利な書面に署名することは避けるべきです。

弁護士と相談しながら、事実関係を整理し、返済すべきものは返済し、争うべきものは争い、会社との交渉、警察対応、出頭方針を一体として設計する必要があります。

 

【解説】

 

1 横領・経費不正は、会社内の問題で終わらないことがあります

 

会社のお金、売上金、預り金、経費精算、会社カード、仮払金、備品、在庫、顧客からの回収金などをめぐる不正は、会社内の懲戒問題だけでなく、刑事事件になることがあります。

会社が警察に相談した場合、次のような罪名が問題になることがあります。

・業務上横領
・横領
・背任
・詐欺
・電子計算機使用詐欺
・窃盗
・私文書偽造、偽造私文書行使
・有印私文書偽造、有印私文書行使
・有価証券関係の犯罪
・会社法上の特別背任

どの罪名になるかは、資金や物の管理状況、本人の権限、会社内の決裁ルール、経費精算の方法、会社を欺いたかどうか、本人が占有していた財物かどうかなどによって変わります。

たとえば、経理担当者が会社資金を管理する立場で会社のお金を私的に流用した場合には、業務上横領が問題になり得ます。

一方、虚偽の経費申請をして会社から精算金を受け取った場合には、詐欺や電子計算機使用詐欺が問題になることがあります。

また、会社のために事務を処理する立場で、任務に背いて会社に損害を与えた場合には、背任が問題になることもあります。

つまり、「経費不正」「使い込み」「横領」と一口に言っても、刑事事件としてどう評価されるかは、かなり細かく事実関係を見る必要があります。

 

2 警察に行く前に、まず事実関係を整理する

 

会社から「警察に行く」と言われると、多くの人は強い不安で混乱します。

しかし、この段階で焦って対応すると危険です。

まず整理すべきなのは、次の点です。

・いつからいつまでの行為か
・会社が問題にしている金額はいくらか
・実際に私的に使った金額はいくらか
・業務のために使ったものはどれか
・領収書や請求書はあるか
・会社カード、仮払金、立替経費、現金、売上金のどれが問題か
・誰が承認したのか
・上司の指示や黙認はあったのか
・会社の経費規程、決裁規程、稟議ルールはどうなっているか
・同じ処理を他の社員もしていたか
・会社側がいつ、どのように発覚したと説明しているか
・会社が求めている返済額の根拠は何か
・本人が認める部分と争う部分はどこか
・既に会社に何を話したか
・録音、メール、チャット、経費システム、領収書、口座履歴などの資料は残っているか

大事なのは、「自分が悪かったと思う」ことと、「会社の主張する事実と金額をすべて認める」ことを分けることです。

一部に不正があったとしても、会社の主張する全額が刑事事件上の被害額になるとは限りません。

業務のための支出、会社の承認があった支出、慣行として認められていた支出、証拠上不明な支出、消滅時効や労働関係上の問題が絡む支出などが含まれている場合もあります。

 

3 嘘をつかないこと

 

横領・経費不正を疑われた場合、最もしてはいけないことは嘘をつくことです。

会社や警察に対して、

・使っていないと嘘をつく
・存在しない上司の了承を作る
・領収書を後から作る
・架空の取引先を説明する
・同僚に口裏合わせを頼む
・メールやチャットを削除する
・経費精算データを改ざんする
・会社カードの明細を隠す
・関係資料を持ち出す

といった対応は絶対にしてはいけません。

これらは、証拠隠滅、虚偽説明、口裏合わせと見られる可能性があります。逮捕や勾留の理由になることもありますし、会社との示談交渉にも悪影響を及ぼします。

一方で、嘘をつかないことは、会社の言い分を全部認めることではありません。

覚えていることは覚えていると言う。
覚えていないことは覚えていないと言う。
不正だったと認める部分は認める。
業務上必要だった部分はその根拠を説明する。
会社の主張する金額に疑問がある場合は、その理由を示す。
法的評価については弁護士と相談してから答える。

この姿勢が重要です。

 

4 会社の事情聴取で作られる書面に注意する

 

会社の内部調査では、本人に対して、自認書、顛末書、始末書、返済誓約書、退職届、懲戒処分に関する確認書などへの署名を求められることがあります。

ここで注意すべきです。

会社内の書面であっても、後に刑事事件の証拠として使われる可能性があります。

たとえば、

「私は会社の金銭を横領しました」
「被害額全額について返済義務を認めます」
「会社に迷惑をかけたので退職します」
「警察に提出されても異議はありません」

といった書面に署名すると、後から争うことが難しくなる場合があります。

もちろん、本当に認めるべき内容であれば、謝罪し、返済することは重要です。

しかし、内容を確認しないまま、会社に言われるまま署名することは危険です。

特に、次の書面には注意してください。

・横領を認める自認書
・被害額全額を認める返済合意書
・分割弁済の誓約書
・退職届
・懲戒解雇を受け入れる確認書
・会社が警察へ提出することを予定した供述書
・会社作成の事情聴取メモへの署名
・「異議ありません」という確認書

署名を求められた場合には、「内容を確認したうえで回答したい」「弁護士に相談してから対応したい」と述べ、即答しないことが重要です。

 

5 返済は重要だが、金額確認が先です

 

横領・経費不正の事件では、被害弁償が極めて重要です。

会社に損害を与えた場合には、早期に返済することが、刑事処分、逮捕回避、告訴回避、示談成立に大きく影響することがあります。

しかし、金額を確認しないまま返済合意をすることは危険です。

会社側が主張する金額には、

・実際の私的流用額
・業務上の支出
・会社の管理ミスによる損失
・証拠上不明な金額
・懲罰的に上乗せされた金額
・調査費用
・弁護士費用
・逸失利益
・精神的損害のような名目の金額

が混在していることがあります。

刑事事件で重要なのは、会社に実際に生じた被害額です。

もちろん、民事上の返済や解決金として、刑事事件上の被害額を超える金額を支払うことが相当な場合もあります。しかし、それは、内容を理解したうえで合意すべきです。

弁護士に相談し、会社が主張する金額の根拠資料を確認してから、返済方針を決めるべきです。

 

6 会社との示談交渉が重要です

 

会社が被害届や刑事告訴を出す前であれば、弁護士が会社と交渉し、民事的解決によって刑事事件化を避けられる可能性があります。

もっとも、会社が必ず告訴を見送ってくれるとは限りません。

横領・経費不正は、会社にとって重大な裏切りです。金額が小さくても、社内秩序や他の従業員への示しがつかないとして、警察への相談を選ぶ会社もあります。

それでも、早期に弁護士が入り、

・事実関係の確認
・被害額の整理
・返済原資の準備
・分割弁済の提案
・謝罪文の提出
・再発防止策の説明
・退職条件の整理
・守秘義務や社内公表範囲の協議
・被害届、告訴、厳罰処分意思についての協議

を行うことで、刑事事件化を避けられる場合があります。

仮に会社が警察に相談する場合でも、示談や被害弁償が進んでいることは、逮捕回避、不起訴、執行猶予などに影響することがあります。

 

7 警察に行く前に弁護士と供述方針を決める

 

警察から呼出しを受けた場合、出頭前に弁護士と供述方針を整理すべきです。

横領・経費不正事件では、警察の取調べで次のようなことを聞かれます。

・いつから不正をしていたのか
・どの方法で会社のお金を得たのか
・誰の承認を得たのか
・会社に損害を与える認識があったのか
・私的に使うつもりだったのか
・返すつもりだったのか
・何に使ったのか
・借金、ギャンブル、生活費、交際費、遊興費などの事情
・他にも余罪があるのか
・会社に何を説明したのか
・証拠となる資料はどこにあるのか

ここで、曖昧なまま話すと、不正確な供述調書が作られることがあります。

たとえば、「後で返すつもりだった」「上司も知っていた」「一時的に借りただけだった」「みんな同じような経費処理をしていた」といった説明は、事実関係によって意味が大きく変わります。

弁護士と相談し、

・認める部分
・争う部分
・分からない部分
・資料で確認すべき部分
・会社の説明と異なる部分
・法的評価として慎重に答える部分

を整理してから出頭すべきです。

 

8 「返すつもりだった」は慎重に整理する

 

横領・経費不正事件では、「後で返すつもりだった」という説明がよく出ます。

しかし、この説明は慎重に扱う必要があります。

本当に一時的な立替や精算のずれであったのか。
会社の資金を私的に使った時点で返済の具体的見込みがあったのか。
返すための原資があったのか。
会社に無断で使ったのか。
返済期限や承認はあったのか。
何度も繰り返していたのか。

これらによって評価は変わります。

単に「返すつもりでした」と言っても、実際には返済できる見込みがなく、長期間繰り返していた場合には、説得力を持ちません。

一方で、会社内の経費精算ルールが曖昧で、一時的な立替や仮払処理が混在していた場合には、刑事事件としての故意や不法領得の意思を争う余地があることもあります。

重要なのは、感情的な弁解ではなく、客観資料に基づいて説明することです。

 

9 退職届を出す前に相談する

 

会社から横領・経費不正を疑われた場合、「退職すれば警察には言わない」「退職届を出せば穏便に済ませる」と言われることがあります。

しかし、退職届を出す前に弁護士へ相談すべきです。

退職したからといって、会社が警察に相談しないとは限りません。退職後に追加調査で被害額が増えたとして、刑事告訴されることもあります。

また、退職により、会社内の資料にアクセスしにくくなり、反論資料を集めにくくなることがあります。

さらに、自己都合退職、懲戒解雇、退職金、未払賃金、返済との相殺、秘密保持、競業避止、社内公表などの問題も発生します。

刑事事件の観点からも、労働問題の観点からも、退職届に署名する前に相談すべきです。

 

10 してはいけないこと

 

会社で横領・経費不正を疑われた場合、次のことは避けてください。

・会社の資料を勝手に持ち出す
・メールやチャットを削除する
・経費精算データを改ざんする
・領収書を後から作る
・同僚や上司に口裏合わせを頼む
・会社に虚偽説明をする
・警察からの呼出しを無視する
・会社に言われるまま自認書に署名する
・金額を確認せず返済合意書に署名する
・退職届を急いで出す
・SNSや友人に事件のことを書き込む
・弁護士に不利な事情を隠す

特に、証拠隠滅や口裏合わせと見られる行動は危険です。

逮捕や勾留の理由になるだけでなく、会社との示談交渉でも大きく不利になります。

 

11 つまずきの原因を取り除く必要がある

 

横領・経費不正の事件では、被害弁償だけで終わらせてはいけません。

なぜそのような行為に至ったのかを見なければ、再発することがあります。

背景には、次のような事情があることがあります。

・借金
・ギャンブル
・投資失敗
・生活費不足
・家族に言えない支出
・交際費や遊興費
・職場での過大なノルマ
・上司からの不適切な指示
・経理処理の曖昧さ
・会社カードや仮払金を自由に使える環境
・孤立
・うつ状態や精神的不調
・金銭管理能力の問題

本人を責めるだけでは再発防止になりません。

借金があるなら債務整理を検討する。
ギャンブルがあるなら依存症支援につなぐ。
生活費の不足があるなら家計管理を見直す。
職場環境に問題があるなら、退職や配置転換も含めて考える。
家族に言えない支出があるなら、家族への説明と支援体制を作る。

こうした現実的な対応が必要です。

刑事事件としての処分だけでなく、つまずきの原因を取り除くことが重要です。

 

12 弁護士に相談すべきタイミング

 

次の場合には、すぐに弁護士へ相談してください。

・会社から横領や経費不正を疑われている
・会社から事情聴取を受ける予定がある
・自認書や返済合意書への署名を求められている
・退職届を出すよう求められている
・会社から「警察に相談する」と言われている
・会社から被害届や刑事告訴を示唆されている
・会社の主張する被害額に納得できない
・一部は認めるが、全額は違うと思っている
・警察から呼び出しを受けた
・家族にどう説明すべきか迷っている
・返済原資をどう準備すべきか分からない
・借金やギャンブルなど背景事情がある

横領・経費不正事件では、初動が重要です。

会社との交渉、返済、示談、警察対応、退職問題を別々に考えるのではなく、一体として整理する必要があります。

 

まとめ

 

会社で横領・経費不正を疑われた場合、警察に行く前にすべきことは、次のとおりです。

第1に、弁護士に相談すること。
第2に、嘘をつかないこと。
第3に、証拠を消したり、口裏合わせをしたりしないこと。
第4に、時系列、金額、資料、承認経緯、会社内ルールを整理すること。
第5に、会社の主張する金額をそのまま認めず、根拠資料を確認すること。
第6に、自認書、返済合意書、退職届に署名する前に相談すること。
第7に、返済すべきものは返済し、示談交渉を進めること。
第8に、警察への出頭前に供述方針を整理すること。
第9に、借金、ギャンブル、生活費不足など、つまずきの原因を取り除くこと。

横領・経費不正事件では、会社に対する被害弁償と示談交渉が非常に重要です。

しかし、それと同じくらい、事実関係と金額を正確に整理することが重要です。

不正をした部分は認める。
返すべきものは返す。
しかし、やっていないことまで認めない。
会社の主張する全額を無条件に受け入れない。
自分を守るために嘘をつかない。
再発しないために生活を立て直す。

会社で横領・経費不正を疑われた場合には、警察に行く前、会社の書面に署名する前に、できるだけ早く刑事事件に詳しい弁護士へ相談してください。

 

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