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薬院法律事務所

刑事弁護

佐賀県迷惑行為防止条例第3条(卑わいな行為等の禁止)の解説・第2回卑わいな言動


2025年01月06日刑事弁護

下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。

以下では、佐賀県迷惑行為防止条例(以下「本条例」といいます)第3条第1項本文および同項第2号について、これまでの「条例解説のスタイル」を踏襲して詳細に解説します。


1. 第3条(卑わいな行為の禁止)の目的・趣旨

本条例第3条は、公衆が利用する場所(いわゆる「公共の場所等」)での卑わいな行為を広く取り締まる規定です。強制わいせつなどの刑法犯に至らない程度の行為であっても、「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせる」ような行為を規制することで、県民や滞在者等の平穏な生活を守ることが目的とされています。

  • 保護法益: 被害者の性的プライバシーや尊厳、安心して公共の場所を利用する権利
  • 基本的な構造: 第3条第1項で禁止する具体的行為を列挙し、第3項以降ではのぞき見・盗撮行為等を規制

2. 第3条第1項本文

(第3条第1項本文)
「何人も、公共の場所等において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。」

(1) 「公共の場所等」の範囲

  • 道路、公園、広場、駅、興行場、飲食店などの「公共の場所」や、電車、バスなどの「公共の乗物」を含む、不特定又は多数の者が利用する場所を指します(条例上の定義)。
  • したがって、ショッピングモールや映画館、イベント会場、電車・バス・タクシーなど、多くの人が出入りする、または乗降する場所での迷惑行為が対象となります。

(2) 「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」とは

  • 被害者が強い恥辱や恐怖心を抱く程度の卑わい・脅威的な言動が対象。
  • 条文の趣旨から、「客観的に見て、人が羞恥や不安を覚える蓋然性がある態様」であれば、被害者本人の感じ方だけでなく、行為の外形的状況も重視されると解されます。

3. 第3条第1項第2号の条文

(第3条第1項第2号)
「前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。」

(1) 前号(第1項第1号)との関係

  • 第1号は「他人の身体に触れる行為(いわゆる痴漢行為)」を対象としていました。
  • 一方、第2号は**「触れる」以外の卑わいな言動**を広くカバーしている規定です。
    • つまり、身体的接触はなくとも、性的に不快・不安を与える言動全般が含まれます。

(2) 「卑わいな言動」とは

  • 性的な意味合いを強く帯びており、一般的な道徳観念や社会常識に照らし、「卑わい」「みだら」「猥褻」と評価される行為・言葉を指します。
  • 典型例として、公共の場所で性的な言葉を執拗に浴びせる、あるいは性的なジェスチャーを行うなど、人を強く羞恥・不安にさせる言動が該当しやすいです。
  • 佐賀県警察本部「佐賀県迷惑行為防止条例逐条解説」(2017年12月)8頁【(10) 「卑わいな言動」とは、いやらしくみだらな言語、動作で、普通人の性的道徳観に反して性的羞恥心を害し、嫌悪の念を催させ、又は不安を覚えさせるような言動をいう。刑法第174条にいう公然わいせつ罪より広い概念で、わいせつ行為に至らない程度のみだらな言動を含む。
    本件の成立には、行為者に当該行為が卑わいな行為であるとの認識(故意)が必要である。行為者の意図なく行われる行為、例えば、車が揺れたため、隣の女性の身体に触れてしまう行為等は違反とならない。】

a. 言葉による卑わい行為の例

  • 公共の場所で特定の相手に対し、卑わいな内容を繰り返し喋る、卑猥な言葉を叫ぶ、猥褻な内容を嘲笑まじりに告げる等。
  • 本人が拒んでいるにもかかわらず、性的な話題を強引に押し付ける(下ネタを強要する、卑猥な質問を続けるなど)。

b. 身体表現・視覚的行為

  • 過度に卑わいなポーズをとる、露骨に性的なジェスチャーを見せつける、性行為を連想させる動作を相手に対して繰り返す等。
  • 過激な露出(刑法上の公然わいせつとまでは言えないが、周囲が強い不安・羞恥を抱くレベル)を故意に行う場合なども含まれうる。

(3) 行為態様と成立要件

  1. 公共の場所等であること
    • 路上や電車内など、第三者が容易に目撃したり、被害者が逃れにくい状況で行われることを想定。
  2. 「卑わいな言動」の故意
    • 行為者に「卑わいと言われる言動をしている」という認識が必要。(もっとも、客観的に見て明らかに卑わいと評価される場合は、「知らなかった」という主張は通りづらいでしょう。)
  3. 被害者が「著しく羞恥」「不安」を覚えるような程度
    • 単なる冗談や軽微な下ネタではなく、公衆の面前で行われる「性的辱め」に近い状態であること。
    • 行為の場所、言葉の内容、時間帯などが総合的に判断されます。

4. 具体例

以下はあくまで典型事例であり、実際の適用可否は個別の事案により判断されます。

  1. 公共の乗物で卑わいな独り言を大声で連呼
    • 周囲の乗客に対して強い羞恥や不安を与えるような性的な言葉を繰り返す。
  2. 路上で特定の通行人に向けて卑猥な言葉を執拗に投げかける
    • 「お前の身体をどうこうしてやる」と性的脅迫めいた言葉を連呼する。
  3. 極端に性的なポーズを公然と取り続ける
    • 公園や商業施設などで、周囲の人々を狙ったかのように卑わいなジェスチャーを繰り返す。
  4. SNSライブ配信等で、公衆の目の前(飲食店内など)で卑猥な言葉やパフォーマンスを配信する
    • 条例はあくまでも「公共の場所等」での行為を対象とするため、場所的要素が満たされれば該当しうる。

5. 刑法との関係・注意点

  • 「公然わいせつ罪」(刑法174条)との境界
    • 公然わいせつは、裸体や性行為を公然とさらすなどの「わいせつな行為そのもの」に重点が置かれますが、本条では「人を著しく羞恥や不安にさせるような『卑わいな言動』」全般を広く対象としています。
    • 行為態様がより直接的・露骨な場合には刑法が適用される可能性がある一方、条例違反としての適用が優先される(あるいは併合罪のように判断される)場合もあります。
  • 「侮辱罪」「名誉毀損罪」等との違い
    • 侮辱罪や名誉毀損罪は、人の社会的評価を低下させる言動に関する罪ですが、本条で取り締まるのは「性的・卑わいな言動により恥辱や恐怖を与える行為」と整理されます。
    • したがって、侮辱罪と同時に成立しうる場合も否定できません(事案によります)。

6. 罰則・処罰

  • 第11条(罰則)
    • 第3条の規定に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処される可能性があります。
    • 常習の場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第11条第2項)と、刑が加重されます。
  • 条例違反の前科
    • 刑事処分としては比較的軽微な量刑幅ではありますが、有罪になれば前科が付くこととなり、社会的影響は大きい点に注意が必要です。

7. まとめ

  1. 第3条第1項第2号は、「身体への接触がなくても、人に強い性的羞恥・不安を与えるような卑わいな言動」を広く禁止する規定です。
  2. 公共の場所等における大声での卑猥な発言や、性的なジェスチャーの露骨なアピールなど、周囲に著しい不快感を与える行為が該当し得ます。
  3. 刑法上の公然わいせつ等とは別に、条例違反として成立する可能性があり、違反すれば前科が付くなど重大な結果を招くことがあるため、軽視できない規定といえます。
  4. 条例の目的である「県民及び滞在者等の平穏な生活の保持」を実現するため、本号は身体的接触の有無にかかわらず、性的嫌がらせ行為に対して強い抑止力をもたらす仕組みになっています。

 

 

佐賀県迷惑行為防止条例

https://sy.pref.saga.lg.jp/kenseijoho/jorei/reiki_int/reiki_honbun/q201RG00001111.html

(卑わいな行為の禁止)

第3条 何人も、公共の場所等において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。

(1) 衣服その他身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から又は直接人の身体に触れること。

(2) 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。

2 何人も、公共の場所等又は特定多数の者が使用する場所等(事業所、学校その他の特定かつ多数の者が使用する場所又は貸切バスその他の特定かつ多数の者が使用する乗物をいう。)において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。

(1) 衣服等で覆われている人の下着又は人の身体をのぞき見すること。

(2) 衣服等で覆われている人の下着又は人の身体を写真機、ビデオカメラ、撮影機能を有する携帯電話機その他の機器(以下「写真機等」という。)を使用して撮影すること。

(3) 衣服等で覆われている人の下着又は人の身体を撮影する目的で写真機等を向け、又は設置すること。

3 何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所に当該状態でいる人の姿態をのぞき見し、写真機等を使用して撮影し、又は当該姿態を撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。

(平22条例24・追加、平25条例50・平29条例32・令5条例29・一部改正)

 

文献紹介 清水庸平(法務省刑事局付検事「判例評釈 大阪高裁令和元年8月8日」警察公論2020年3月号

 

【参考文献】※情報公開で入手した資料は一部マスキング有

 

佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第1回)(全3頁)」(2017年4月7日)

佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第2回)(全3頁)」(2017年4月17日)

佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第3回)(全9頁)」(2017年4月25日)

佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第4回)(全13頁)」(2017年5月26日)

佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第5回)(全22頁)」(2017年6月29日)

佐賀県警察本部長「条例改正に関する協議について(全17頁)」(2017年6月29日)

佐賀地方検察庁検事正「罰則規定に関する協議について(回答)(全1頁)」(2017年7月31日)

佐賀県警察本部「佐賀県迷惑行為防止条例逐条解説」(2017年12月)