動産売買先取特権を活用するための注意事項(債権回収、企業法務)
2020年03月02日企業法務
「商品を納入していたのに代金が支払われる前に倒産された」という事例が出てくることがあります。その場合に役に立つのが「動産売買先取特権」です。これは、商品がまだ納入先にあるのであればその商品を差し押さえて競売にかけることができ(優先弁済)、転売されて、その転売代金が回収前であればその代金を回収できるというものです。
ただ、色々と制約があり、ざっくり言うと、
①契約書や発注書、請求書、製品の番号などで未払い代金に対応する売買の目的物が特定できること
②債権の弁済期が来ていること(このために、「期限の利益喪失」を定めた契約書が必要になります)
③転売されている場合には、転売された商品との同一性が確認できること(転売先の協力が必要です)
といったことが必要になります。つまり、平時から契約書をきちんと用意しておこうということです。
これは早急に対応しなければならず、ぐずぐずしていると破産管財人が在庫品も売却してしまいます。そうなったらもう優先弁済は受けられません。
野村剛司編著『実践フォーラム破産管財実務』(青林書院,2017年11月)94頁
【破産管財人による目的動産の任意売却
野村 動産売買先取特権の目的動産について,仕入先から権利行使の意思表明等があった場合,破産管財人による目的動産の任意売却は許されるのかという問題がありますが, どのように考えますか。
籠池 先ほどの申立代理人の場合と同様,動産売買先取特権自体には目的動産の換価を制約する権限はありませんから‘執行官によって現実の差押えがなされるまでは,破産管財人による任意売却は妨げられませんし,任意売却による換価金を回収したとしても‘不法行為や不当利得になるとは解されません。
石岡 動産売買先取特権も担保権の一つですよね。そこまで言い切ってもよいのでしょうか。動産売買先取特権者の権利行使が確実な事案では配慮せざるを得ないのかなと思うのですが。
八木 動産売買先取特権にはそこまで配慮する必要はないのでは。
籠池 破産管財人の担保価値維持義務を根拠として.動産売買先取特権に一定の配慮をなすべきであるとの見解もありますが,約定担保であればともかく法定担保である動産売買先取特権について. 明文の規定のない担保価値維持義務を認めるべき法的根拠は希薄です*9.また,動産売買先取特権が公示性を欠く担保である点に鑑みても、動産競売開始許可決定の送達がされ、現実の差押えがなされるまでは, 目的動産を特定することができませんから,破産管財人としては. そのような外形上存否が不確実な権利のために適時の換価回収を遅らせるべきではないと考えます。
中川 そう言い切っていただけると若手としてはありがたいですね。どうしても謙抑的になりがちですからね。
森私は,単に権利行使の意思表明だけで目的動産の特定もなされていない場合は意思表明があっても売却しますが,動産競売開始許可申立が可能な程度に商品名や商品番号などで目的動産が特定されていれば売却せずに和解処理を試みます。差押えという手続は履践していませんが,動産売買先取特権の存在が認められると考えるからです。
山田 その点ですが、単に未払いの仕入先が納品した商品であるというレベルではなく,商品一つ一つが仕入先の債権の明細と突合できることが必要ですね。前年のキャリーの商品と新しく納品した商品が混ざっているようでは全くだめです。債務者の手元にある個々の商品に製造番号のタグやバーコードがあり,請求書明細にそのタグ等がきっちりある場合だけが, 「担保椎の存在を証」する文書(民執190条2項)があるといえ,動産売買先取特権を主張することができますね。そこまでやっているなら,仕入先の努力を評価してもよいのではないでしょうか。】
【物上代位権の目的となる売掛金債権の回収
野村 さて, 申立代理人段階でも見ましたが,動産売買先取特権の目的動産の処分代金については物上代位の効力が及び, さらにいえば、破産手続開始後であっても物上代位椎の行使は可能です*11.このような物上代位権の目的となる売掛金債椛の回収についてはどのように考えますか。
籠池 物上代位の目的債権についても, その回収を制約するような実体法上の権利は動産売買先取特権にはありませんから,破産管財人としては, 目的債権の差押命令が第三債務者に送達されるまでは,粛々と目的債権の回収を進めるべきです。】