同居人が大麻を吸っていたから、尿検査で陽性反応が出たという相談(大麻、刑事弁護)
2024年11月05日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市に住む20代女性です。同棲している彼氏と一緒に大麻を吸っていたのですが、彼氏が職務質問で捕まって、私も尿検査を受けました。彼氏は接見禁止がついているのですが、国選弁護人さんの話だと、私については「彼女は大麻はしていない」と庇っているそうです。ただ、警察からは私に対しても「大麻を吸っていただろう」と追及されています。「彼氏が吸っていたのを見たけど、私は吸っていない」と弁解しているのですが、どうなるか不安です。どうすれば良いでしょうか。
A、衆議院法制局の解説では「受動喫煙では尿中のTHC代謝物の濃度は低く、能動喫煙者と受動喫煙者の区別は科学的に可能であるとされている」と解説されています。警察が、ご相談者様の逮捕に踏み切らないのは、尿検査では十分ではないのか、それとも別の理由があるのかはわからないところです。弁護士の面談相談を受けて、方針を決める必要があるでしょう。
※大麻施用罪は令和6年12月12日施行です。
【解説】
大麻施用罪が新設されたことにより、今後、大麻事案についても覚醒剤取締法違反事件と同様の取扱いがなされることが予想されています。相談事例は、覚醒剤取締法違反(使用)で良くあるパターンです。覚醒剤の場合はこの種の受動喫煙の弁解はまず通らないのですが、大麻の場合でも同様かはまだわかりません。これは前例がないことから、経験豊富な弁護人でも判断が難しい事案になります。弁護人に依頼する場合は、捜査弁護の知識・経験、薬物事犯の知識・経験が豊富な弁護士を選ぶことが大事です。
私は、覚せい剤取締法違反事件で令状発付が違法であるという認定を得たことがあります(福岡地判令和2年12月21日最高裁判所刑事判例集76巻4号430頁)。国選弁護事件で、前例のない論点での違法収集証拠を主張し、強制採尿令状発付の違法が認定されました。一審は有罪判決でしたが、高裁では別の弁護人が就任して無罪判決となっています。最高裁では逆転有罪となっていますが、全ての審級で令状の発付が違法と認定されています。
最判令和4年4月28日
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91131
【参考リンク】
令和6年12月12日に「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行されます
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43079.html
厚生・労働2024年06月19日
大麻草から製造された医薬品の施用等の可能化・大麻等の不正な施用の禁止等に係る抜本改正
~大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律~ 令和5年12月13日公布 法律第84号
法案の解説と国会審議
執筆者:木村歩
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article3567820/
【(2)大麻等の施用等の禁止に関する規定・罰則の整備
① 大麻等を麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に位置付けることで、大麻等の不正な施用についても、他の麻薬と同様に、同法の禁止規定及び罰則を適用する。
なお、大麻の不正な所持、譲渡し、譲受け、輸入等については、大麻取締法に規制及び罰則があったが、これらの規定を削除し、他の麻薬と同様に、「麻薬」として麻薬及び向精神薬取締法の規制及び罰則を適用する(これに伴い、法定刑も引上げ)。】
【参考文献】
衆議院法制局「弁護士のための新法令解説(第504回)大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律(令和5年法律第84号)」自由と正義2024年10月号41-46頁
44頁
【この点、大麻の受動喫煙により尿中から規制成分が検出されてしまう懸念が指摘されたが、受動喫煙では尿中のTHC代謝物の濃度は低く、能動喫煙者と受動喫煙者の区別は科学的に可能であるとされている14)。尿中の大麻成分の代謝物濃度の基準については、研究報告の内容や海外のガイドラインなどを参考に今後定められることになっている。】
最高裁判所事務総局刑事局監修『薬物事件執務提要(改訂版)』(法曹会,2001年6月)
59-60頁
【④ 大麻(THC)
吸煙等により摂取されたTHCは,体内でほとんど完全に代謝を受けて数多くの代謝物に変換され,未変化体としてはほとんど排泄されない。摂取後5日間で投与量の90 %以上が排泄されるが,
主な排泄経路は糞で,約65 %が糞中に排泄され,残り25 %が尿中に排泄される。ヒトにおける主代謝物は, 11-nor ー△9ーTHC-9-carboxylicacid (THC-COOH) で,通常尿からはこの代謝物
のみが検出される。
大麻摂取の証明は,尿中のTHC-COOH を検出することにより行うが,その尿中濃度は,最大で数百ng/ml(8~10時間後),通常数十~数ng/ml のレベルと非常に少なく,高感度分析法が要求
される。また,車や狭い室内で,まわりの人が大麻を喫煙していると,その煙を受動的に吸い込み,本人は喫煙していなくても尿中から微量のTHC-COOH が検出されることがあることが知られており,尿中のTHC-COOH 濃度まで測定し,尿検査によって検出されたTHC代謝物が能動喫煙によるのか,受動喫煙によるのかの判断の目安としている。】
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002974325
井上堯子・田中謙『改訂版 覚せい剤Q&A 捜査官のための化学ガイドー』(東京法令出版,2021年10月)
83頁
【本人が吸わなくても、周囲の人がタバコや大麻を吸っていると、副流煙を吸い込み(受動喫煙といいます。)、尿から微量ではありますがニコチンや大麻成分代謝物が検出されることはよく知られています。
タバコや大麻の場合、常に火がついていて加熱されており、タバコや大麻を使用している人が吸っていない間も、タバコや大麻の成分が常時周囲に拡散している状態です。一方、覚醒剤の場合は、使用している者が吸入したい時のみ加熱することが多く、タバコや大麻の場合とは状況が異なると考えられます。
それでも覚醒剤の場合も、多少は、部屋の空気中へ覚醒剤の蒸気が拡散すると考えられますので、本人が使用しなくても、同室内に加熱吸入して使用している者がいれば、部屋の空気を吸うことにより覚醒剤を吸い込むこととなります。覚醒剤を摂取すれば、当然尿中へ排泄されることになりますが、次のような試算から、その量はごくわずかと考えられ、通常の尿鑑定で陽性になることはないと考えられます。】
https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?10456
小森榮『もう一歩踏み込んだ薬物事件の弁護術』(現代人文社,2012年6月)149頁
【実際の事件でよく出会う主張のひとつに、自分の意思で覚せい剤を使ったのではなく、覚せい剤乱用者が加熱吸引する煙を間接的に吸引したとするものがあります。また、乱用者と性交渉してその尿や精液を飲んだというものなど、多様な主張がされることもままあります。たしかに、このように間接的な方法で対象者の体内に覚せい剤が摂取されることはありえますが、しかし、このようなケースで閥接的に摂取される覚せい剤の量はきわめてわずかであり、通常の試験ではその尿から覚せい剤が検出されることはないとされます。
こうした主張に対して、鑑定担普者が法廷での証言や電話聴取害などで述べる意見も、類型化されているようなので、その典型的なものをまとめてみます。】
http://www.genjin.jp/book/b276417.html