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薬院法律事務所

刑事弁護

大麻所持事案、家宅捜索でドアチェーンをいきなり切断されたという相談


2026年01月19日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、福岡市のマンションに住む男性です。今朝、自宅に警察官が数名訪ねてきて、ドアのインターホンを押してきました。オートロックなのに部屋の前まで入ってこれたのは不思議ですが、管理会社から開けてもらったのかもしれません。私は寝間着姿だったので、「着替えるから待っていて欲しい。」と伝えたのですが、警察官は乱暴に「だったらこじ開けるから」といって合鍵らしきもので鍵を開けて、ドアチェーンも切断して入ってきました。令状の提示もされる前からこのようなことをしてきたのは、違法捜査ではないでしょうか。

A、ドアチェーンの切断は、刑事訴訟法111条1項の「必要な処分」としてなされたものだと思われます。ただちに違法と判断することはできないのですが、あなたが協力的な態度を示したのに構わず切断してきたといった場合には、捜索の執行が違法となることもあり得ます。

 

【解説】

 

ここでは3つの問題があります。①令状を事前に提示する前に捜索差押に着手したことが違法ではないか、②合鍵で開錠したことが違法ではないか、③ドアチェーンを切断したことが違法ではないかということです。一般論としては、薬物事犯ということを考えると、①と②は違法とされにくいです(後掲の最判平成14年10月4日刑集 第56巻8号507頁)。もっとも、ドアチェーンの切断まで必要な事案であったかは、例えば、あなたが協力的な態度を示して開けようとしていたのに強行したといった事情があれば、違法とみる余地があると思われます。

 

※刑事訴訟法

第百十一条 差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。公判廷で差押え、記録命令付差押え又は捜索をする場合も、同様である。

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131#Mp-Pa_1-Ch_9-At_111

 

※犯罪捜査規範

(実施上の一般的注意)
第140条 捜索、差押え、記録命令付差押え又は検証を行うに当たつては、必要以上に関係者の迷惑になることのないように特に注意しなければならない。
2 捜索、差押え、記録命令付差押え又は検証を行うに当たつては、やむを得ない理由がある場合を除くほか、建造物、器具等を損壊し、又は書類その他の物を乱すことがないように注意するとともに、これを終えたときは、できる限り原状に復しておくようにしなければならない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50400000002/#Mp-Ch_6-Se_1-At_140

 

※最判平成14年10月4日刑集 第56巻8号507頁

判示事項
捜索差押許可状の呈示に先立ってホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置が適法とされた事例

裁判要旨
被疑者が宿泊しているホテル客室に対する捜索差押許可状の執行に当たり,捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らがホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は,差押対象物件である覚せい剤を短時間のうちに破棄隠匿されるおそれがあったことなど判示の事情の下では,適法である

https://www.courts.go.jp/hanrei/50051/detail2/index.html

 

【参考文献】

 

伊丹俊彦監修『捜索・差押ハンドブック(第2版)』(立花書房,2023年6月)114-115頁

【(2)実務上の留意点
ア 「必要な処分」の手段・方法
実務上、捜索・差押えの際に「必要な処分」としていかなる手段・方法を採ることが許されるかが問題となる。
この点については、被疑事実の内容、差押対象物に係る破棄隠匿のおそれと容易性、証拠としての重要性、被処分者の財産的損害・プライバシーの侵害の程度、捜索場所や被処分者の協力状況等具体的事情を考慮して個別に検討する必要がある。
イ本設問の検討
例えば、覚醒剤取締法違反事件での捜索・差押えにおいて、被処分者が、警察官が同法違反の疑いで捜索・差押えに来たことを知れば、証拠隠滅等の行為に出る可能性が高いなどの事情がある場合には、あらかじめ管理人から鍵を借り受けておき、来意を告げることなく、借り受けた合い鍵で入ロドアを開けて室内に立ち入った上で、被処分者に捜索差押許可状を呈示して捜索を開始することも必要である。
このような方法は、有形力を行使したものでも、玄関扉の錠ないし扉そのものの破壊のような住居の所有者や居住者に財産的損害を与えるものでもないことなどから、手段・方法においても、社会通念上相当性を欠くものではないと評価できる(令状実務詳解720頁、令状請求HB193頁、後掲(参考判例 l) 、(参考判例 2)参照)】

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3858

 

捜査実務研究会編著『4訂版 捜索・押収必携(補訂7刷)』(東京法令出版,2019年9月)259頁

【逮捕の現場で捜索・差押を行うに際しては、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。したがって、設問の場合には、客観的に被疑者AがT子方に現在する高度の蓋然性があり、かつ、洗面所で水を流す音がする等罪証隠滅のおそれも大きく、緊急に捜索する必要があるため、必要最小限度の範囲でドア錠の破壊、チェーンロックの切断等の強制力行使が可能となる】

 

笠井治・前田雅英編『ケースブック刑事訴訟法【第3版】』(弘文堂,2012年3月)156頁

大阪高判平成5年10月7日判時1497号134頁

【[判旨]
控訴棄却
「たとえ人の在室が予想されたとしても,合鍵による開扉,鎖錠の切断は,捜索差押の執行についての必要な処分として許されると解され,警察官がこれらの手段を使って室内に立ち入ったことには問題はなく,また,必ずしも捜索差押の開始に先立って捜索差押許可状を被告人に呈示しなかったからといって,それが違法不当であるとは思われない。したがって,本件捜索差押には,違法は認められず,その際に押収した覚せい剤などを違法収集証拠として証拠能力を排除しなければならない理由も認められない。」】

https://www.koubundou.co.jp/book/b156089.html

 

井上正仁監修『裁判例コンメンタール刑事訴訟法 第1巻〔§1~§188の7〕』(立花書房,2015年4月)465-466頁

【ウ ガラス戸を破壊するなどの行為
合鍵で解錠することを超えてガラス戸を破壊したり、扉を破壊するなど、物理的な損壊行為を行うことが認められるかが問題となる。これは、結局、当該事案において、当該行為に社会的相当性が認められるかによるが、相手方の対応、損壊の必要性、他の手段の有無、破壊行為の態様などを総合的に判断することとなろう。
この点で、薬物事犯における罪証隠滅のおそれ、捜索・差押えを直ちに行う必要性、ガラス戸の破壊以外の方法が存在しないこと、ガラス戸の損壊方法・程度が相当性を超えるとはいえないことから、ガラス戸を損壊して入室した上で行った捜索・差押えについて違法とはいえないとした裁判例(大阪高判平 7• 11 • 1判時1554 • 54) がある。これに対して、差押対象物件に覚醒剤が含まれておらず、緊急性の乏しい状況で、玄関ドアが施錠されていたことから性急にベランダのガラスを割って、室内に立ち入って行った捜索・差押えを違法とした裁判例(東京高判平15 • 8 • 28 〔永井敏雄・判例解説(刑)216〕)もある。】(和田雅樹 函館地方検察庁検事正)

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3227