初犯・在宅の大麻事件で、何を確認し、どう対応するか。
2026年9月9日更新。統計の対象年と集計範囲は、本文中に明記しています。
私は、覚醒剤事件を含む薬物事件の刑事弁護に取り組んできました。大麻の所持や自己使用について初めて捜査を受ける方は、刑事処分だけでなく、逮捕、仕事やご家族への影響、報道発表についても大きな不安を抱えています。
このページでは、初犯・在宅の大麻所持・自己使用事件を受任した場合の一般的な弁護要領を、捜査の流れに沿って説明します。不起訴処分や報道発表の回避を目指すとともに、事件後も薬物から離れて生活を続けられるよう、必要な対応を考えます。
2024年12月12日の改正法施行により、大麻の所持等は麻薬及び向精神薬取締法の規制対象となり、不正な自己使用も処罰の対象となりました。過去の大麻事件の情報を、そのまま現在の事件に当てはめることはできません。行為の時期、適用法令、証拠の内容を確認することが出発点です。
犯罪の成立、捜査の適法性、再発防止を、それぞれ検討します。
「大麻の事件だから認めるしかない」「初犯でも必ず起訴される」と決めつけることはしません。事実と証拠を確かめ、ご本人が何を守りたいのかを聞き、捜査機関への対応と生活の立て直しを一緒に考えます。
「在宅事件」とは、逮捕・勾留などの身柄拘束をされずに進む事件です。在宅で捜査が始まっても、その後の逮捕がないと保証されるわけではありません。このページは、在宅での対応を中心に説明しています。
このページの内容
1.犯罪の成否と、捜査の適法性を検討します
2.身上経歴・ご家族・生活環境を確認します
3.対応方針と、処分の見通しを協議します
参考:起訴率・起訴猶予率の読み方
4.取調べへの対応と供述方針を検討します
5.尿検査・証拠収集への対応を考えます
6.更生支援と再発防止に取り組みます
7.検察官と、処分について交渉します
8.起訴された場合は、公判での弁護方針を検討します
9.報道対応・発表回避について検討します
10.事件の結果と、その後の生活を見据えます
参考文献
1.犯罪の成否と、捜査の適法性を検討します
行為の時期と、適用される法律を確認します
まず、いつ、何をしたことが疑われているかを確認します。現在、大麻の不正な所持・自己使用を規制しているのは、麻薬及び向精神薬取締法(以下「麻薬取締法」)です。
本ページで扱う、営利目的のない大麻の不正な所持は同法第66条第1項、不正な自己使用(施用)は同法第66条の2第1項などが問題となり、いずれも現在の法定刑は7年以下の拘禁刑です。施用に関する規制は同法第27条に定められています。
過去の行為については、改正前後の適用関係を確認します。2024年12月12日より前の大麻の使用を、新たな施用罪によってさかのぼって処罰するものではありません。ただし、その時期の所持など、別の行為が問題になることはあります。
物の鑑定、ご本人の行為、認識を分けて検討します
ご本人から詳しく事情を伺い、押収された物、尿検査、携帯電話の記録など、把握できる資料を確認します。例えば、次の点を検討します。
- 押収された物は、規制対象となる大麻や成分を含む物なのか。
簡易検査なのか、正式な鑑定が行われているのか、その結果がどこまで分かっているかを確認します。 - その物を、ご本人が所持していたといえるのか。
発見された場所、保管の状況、誰が管理していたかなどを確認します。他人の物だという説明も、その具体的な事情と法律上の評価を検討します。 - ご本人が使用したことや、薬物についての認識を認定できるのか。
入手・摂取の経緯、説明を受けた内容、検査結果とご本人の説明の関係などを確認します。
捜査段階では、警察・検察が保有する証拠をすべて確認できるとは限りません。確認できた資料と、まだ分からないことを区別して、犯罪の成立や立証上の問題を検討します。
関連する相談例・解説を読む
各記事には、執筆当時の法令や、覚醒剤事件についての説明を含みます。個別の事件への適用は、その時期と事情を確認して検討します。記事で取り上げた事件を、現在すべて受任しているという意味ではありません。
捜索・採尿などの手続に、違法がなかったかを確認します
犯罪の成否と併せて、捜索差押許可状や強制採尿令状の発付、実際の捜索・採尿の過程に問題がなかったかを確認します。令状が出ていることだけで、適法な捜査であったと判断するものではありません。
強制採尿について、最高裁昭和55年10月23日決定は、事件の重大性、嫌疑、証拠の重要性と取得の必要性、適当な代替手段がないことなどを踏まえ、捜査上真にやむを得ない場合の最終的な手段として認めています。適切な法的手続と、身体の安全や人格への配慮も必要です。
私が一審を担当した覚醒剤事件でも、強制採尿令状の発付が違法と認定された事案があります。ただし、一審は有罪、別の弁護人が担当した高裁では無罪となり、最高裁令和4年4月28日判決は、違法性を認めつつ証拠能力を肯定して、高裁の無罪判決を破棄しました。
捜査が違法であることと、その証拠が排除されること、最終的に無罪になることは、同じではありません。違法の内容と程度、ほかの証拠も検討し、捜査段階での意見提出や、公判での主張につなげます。
最高裁令和4年4月28日判決を読む(裁判所・PDF)
関連する弁護活動の紹介
麻薬特例法の適用が問題にならないかも確認します
大麻の所持・自己使用について十分な立証ができない場合でも、事実関係によっては、麻薬特例法違反が問題となることがあります。押収物の鑑定結果だけで事件全体が終わると判断せず、ほかにどのような嫌疑が考えられ、その要件を満たす証拠があるかも確認します。
大麻取締法違反・麻薬特例法違反に関する掲載事例
麻薬特例法を確認する(e-Gov法令検索)
2.身上経歴・ご家族・生活環境を確認します
ご本人の職業や学業、ご家族、生活環境、交友関係、生い立ち、前科・前歴などを丁寧に伺います。これは、処分の見通しを考えるためだけでなく、事件が生活に与える影響と、今後の支援を考えるための作業です。
実際に大麻を所持・使用していた場合には、入手した経緯や使用に至った動機を一緒に振り返ります。一度の好奇心だったのか、ストレスへの対処として繰り返していたのか、周囲の誘いを断れなかったのか。理由を一つに決めつけず、具体的な状況を確認します。
「もうしません」という約束だけでなく、再び手を出さないために何を変える必要があるのかを考えます。そのためには、ご本人がどこに難しさを感じているかを、率直に話していただくことが大切です。
ご家族の支援が得られるかも確認します。必要に応じて面談に同席していただき、生活上の協力や、身元引受けなどについて相談します。ただし、ご家族がすべてを監督できると決めつけることはしません。実際にできることと負担を確認し、継続できる支援を考えます。
事実関係を争っている方に対しては、所持・使用をしたことを前提に反省や治療を求めるのではなく、その説明と資料を踏まえて検討します。
3.対応方針と、処分の見通しを協議します
ご本人から伺った事情と証拠を踏まえて、今後の捜査や、起訴された場合の見通しについて説明します。逮捕を避けたい、前科を付けたくない、仕事や家族への影響を抑えたいという希望を確認し、そのために何を検討するかを協議します。
不起訴には、犯罪の成立や立証に問題がある場合と、犯罪の成立を前提に、事情を考慮して起訴しない「起訴猶予」などがあります。嫌疑不十分などを主張する活動と、起訴猶予を求める活動を区別して考えます。
参考:起訴率・起訴猶予率は、対象年と集計範囲を確認して読みます
令和7年版犯罪白書には、2024年(令和6年)の薬物犯罪に関する起訴率・起訴猶予率が掲載されています。法改正前を中心とする罪名別の参考値として、次の数値を紹介します。
| 統計上の罪名 | 起訴率 | 起訴猶予率 |
|---|---|---|
| 大麻取締法違反 | 44.1% | 35.5% |
| 麻薬取締法違反 | 57.5% | 15.9% |
出典:令和7年版犯罪白書 第4編第2章第3節「処遇」1「検察・裁判」。罪名は同白書の表記です。
「起訴猶予率」は、検挙された人全体に占める割合ではありません。
起訴率 = 起訴人員 ÷(起訴人員 + 不起訴人員)× 100
起訴猶予率 = 起訴猶予人員 ÷(起訴人員 + 起訴猶予人員)× 100
両者は分母が異なります。起訴猶予率35.5%は、「検挙された人の35.5%が起訴猶予になる」「初犯の方が不起訴になる確率が35.5%」という意味ではありません。
この表は、改正後の大麻の単純所持・自己使用だけを取り出した統計ではありません。初犯、少量、在宅という条件に限定された数字でもありません。2024年12月12日から大麻の所持・使用が麻薬取締法の対象となったため、旧法の「大麻取締法違反」と、改正後の大麻事件を同一の集計範囲として比較することはできません。
また、麻薬取締法違反には大麻以外の薬物や異なる行為が含まれます。上記の15.9%をそのまま改正後の大麻所持・自己使用に当てはめたり、規制する法律が変わったことだけから起訴猶予率の変化を予測したりすることも適切ではありません。
2025年の検挙統計とは区別します
警察庁「令和7年における組織犯罪の情勢[確定値版]」では、2025年の大麻事犯の検挙人員は6,832人で、違反態様別には所持5,354人、施用700人などとされています。
ただし、これは警察の検挙統計です。これらの人数から、所持・施用それぞれの起訴猶予率を計算することはできません。検察での処分の統計とは、対象と処理段階を区別する必要があります。
警察庁「令和7年における組織犯罪の情勢[確定値版]」85頁・90頁(PDF)
個別の事情に即して、目指す結果と対応を考えます
所持量、所持・使用の態様、前科・前歴、反省や再発防止への取組みなどは、一人ひとり異なります。初犯・少量でも必ず不起訴になるわけではありませんが、量や過去の事例だけを見て、最初から働きかけを諦めるものでもありません。
事実関係に争いがある場合には、その主張を裏付ける資料を検討します。事実関係を認める場合には、なぜ起訴せず社会内での立ち直りを支えることが相当なのかを示すため、具体的な取組みを考えます。
起訴され有罪となった場合に、執行猶予を見込めるか、実刑となる危険があるかについても、個別の事情に基づいて説明します。楽観的な説明だけで安心していただくのではなく、厳しい見通しも含めて共有し、必要な準備を進めます。
4.取調べへの対応と供述方針を検討します
何を聞かれ、どこを確認されるかを、事前に整理します
取調べでは、入手先、使用を始めた時期や回数、一緒に使用した人などについて質問されることが考えられます。弁護人として、想定される質問と、その質問が事件のどの部分に関わるかを説明し、ご本人と対応を打ち合わせます。
その際は、事件の経過を時系列で整理します。実際に記憶していることと、推測していることを分け、分からない部分を無理に埋めないようにします。見栄えのよい説明を作るのではなく、事実を正確に伝えるための準備です。
事実に即した対応を重視しながら、黙秘権を含む選択肢を説明します
私は、本ページのような初犯・在宅事件で、事実関係に争いがなく客観的な証拠もある場合には、必要な範囲で事実を正確に説明し、反省と再発防止の取組みを示す方針を重視しています。在宅での生活を維持し、適切な処分を求めるために、どのような対応が有効かを考えるからです。
ただし、黙秘権は被疑者の権利です。黙秘したというだけで、当然に逮捕・勾留の理由になるわけではありません。捜査機関がどのような支障を想定する可能性があるか、その見方にどう対応するかを具体的に検討します。
尿検査の結果があるから、事実と違っていても使用を認めるべきだということにはなりません。ご本人が実際に何をしたか、どの証拠があるかを踏まえ、説明するか、黙秘するかも含めて協議します。
在宅事件での黙秘権の行使と、逮捕の問題について
弁護士の立会いがない取調べへの対応について
供述調書の内容を確認し、納得できないまま署名しない
供述調書を閲覧し、または読み聞かせを受けた際には、ご本人が説明した内容と一致しているかを確認します。言い間違いや記憶違いだけでなく、推測したことが断定した表現になっていないか、不明瞭な部分がないかにも注意します。
事実と違う記載があれば訂正を求め、納得できない場合には署名押印を拒むこともできます。取調べ後も、質問された内容や作成された調書について、ご本人が確認した範囲でお知らせいただき、必要な対応を検討します。
過去の使用歴・余罪についても、影響を説明して方針を決めます
今回以外の所持・使用や、ほかの薬物について質問されることもあります。私は、心当たりがある場合には、後日発覚して捜査が繰り返される負担も考え、正直に説明するよう勧めることが多くあります。
一方、説明したことが新たな事件の捜査や立件につながる可能性もあります。使用の時期と適用法令、ほかの行為との関係を確認し、その影響を説明します。何をどこまで話すかは、ご本人と十分に協議して決めます。事実を隠すための虚偽の説明を勧めるものではありません。
5.尿検査・証拠収集への対応を考えます
任意提出と、令状による強制採尿を区別します
大麻の自己使用が疑われる場合、在宅捜査でも尿の提出を求められることがあります。任意提出の求めに応じるかどうかと、令状に基づく強制採尿の問題は、区別して考える必要があります。
私は、本ページのような初犯・在宅事件では、在宅での生活を維持することを重視し、基本的には任意の尿検査に協力する方針を取ります。ただし、提出の意味と影響、ご本人の事情と証拠関係を確認し、方針を相談したうえで対応します。
任意提出を断れば、必ず強制採尿の令状が出るというものではありません。令状の発付には、嫌疑や必要性などの要件の検討が必要です。一方、任意提出に応じたからといって、逮捕を回避できると約束されるわけでもありません。
簡易検査の反応と、鑑定結果、その意味を分けて確認します
検査キットによる簡易検査が行われた場合と、科学捜査研究所などで鑑定が行われた場合では、確認する資料が異なります。何を対象とする検査で、どのような結果が示されているかを確認します。
尿の検査・鑑定結果は、使用を立証する重要な証拠となり得ます。しかし、陽性という結果だけで、ご本人の認識や摂取の経緯を問わず、有罪が決まるものではありません。ご本人の説明、検査の内容、ほかの証拠との関係を検討します。
陰性の場合も、その結果だけで、所持を含む事件全体や使用の立証がなくなると判断せず、ほかにどのような証拠があるかを確認します。簡易検査と鑑定の区別も含め、検査結果が何を示すかを正確に理解することが重要です。
結果が出るまでの日程や捜査の進み方は、事件によって異なります。その間も、ご本人の住居や出頭状況、逃亡・証拠隠滅のおそれに関わる事情、必要な支援への取組みなどを整理し、身柄拘束をせずに捜査を進めるよう働きかけることを検討します。
押収物や端末の記録から、どのような嫌疑があるかを確認します
大麻そのものの量や鑑定に加え、携帯電話・パソコンの記録、入手先とのやり取り、保管に用いた物などが捜査の対象となることがあります。量や器具、売買の記録によって、自己使用目的の所持だけでなく、営利性や譲渡の疑いが向けられる場合もあります。
弁護人としては、把握できる押収物や記録を確認し、何が疑われているのか、その見方に誤りがないかを検討します。正当な用途で保管していた物について疑いがある場合には、その用途を示す資料を確認します。例えば、医師から処方された薬であれば、処方に関する資料を用いて説明することが考えられます。
有利な資料の収集・提出も検討しますが、何を提出するかは、ご本人と協議して決めます。虚偽の説明や、記録の削除・改変をすることを勧めるものではありません。
6.更生支援と再発防止に取り組みます
実際に薬物を使用していた方については、再び使用しないための支援と環境づくりを重視します。これは、処分を軽くするためだけの活動ではありません。事件が終わった後も、ご本人が生活を続けるための取組みです。
ご本人の状態、生活や仕事、ご家族が協力できる範囲を踏まえ、次のような方法を検討します。すべての方に同じ方法を求めるのではなく、必要なものを選びます。
① 専門医療機関への相談・受診
自分では使用をやめられない、繰り返してしまう、精神的なつらさを抱えているといった場合には、精神科や依存症専門外来などへの相談を検討します。
依存症の有無や治療の必要性は、医師などの専門家に評価してもらいます。その助言に応じて、治療やカウンセリング、プログラムへの参加を考えます。ご本人の同意を踏まえ、受診の経過や治療計画を示す資料を、処分についての意見提出に用いることも検討します。
② 自助グループや相談機関の活用
地域の自助グループへの参加や、精神保健福祉センターへの相談も選択肢です。ご本人が一人で抱え込まず、薬物から離れた生活を支える人や場所につながることを考えます。
参加したことの証明だけを目的とせず、ご本人に合う活動か、続けられるかを確認します。活動記録などを提出する場合も、ご本人や支援先と相談して、共有する範囲を決めます。
③ 生活環境・交友関係の見直し
使用につながった場面や生活の負担を振り返り、交友関係、外出の仕方、仕事や学業との向き合い方などを具体的に検討します。必要に応じて、実家で生活することや、信頼できる親族と同居することも相談します。
ご家族には、実際に協力できる範囲を確認します。漠然と「厳しく監督する」と約束するのではなく、困ったときに誰へ相談するか、どのように生活状況を共有するかなど、続けられる方法を考えます。
④ 反省文・誓約書の作成
ご本人が事実を認めている場合には、なぜ薬物に手を出したのか、どのような問題があったのか、今後何を変えるのかを、自分の言葉で整理してもらいます。
形式的に「反省しています」「二度としません」と書くだけではなく、実際の行動につながる内容にすることを重視します。文書を検察官や裁判所に提出する場合には、弁護方針と、ご本人の意向を確認します。
⑤ 薬物検査による経過の確認
希望する方については、医療機関での検査や簡易検査を、経過の確認に用いることも検討します。検査方法や結果の意味を確認し、必要に応じて専門家の説明を受けながら、取組みを示す資料として扱います。
ただし、陰性の検査結果が続いたことだけで、その間のすべての時点で使用していないと証明できるわけではありません。検査の限界を踏まえ、受診や生活上の取組みなど、ほかの事情と合わせて説明します。
処分を受けるための準備ではなく、事件後も続けられる生活をつくる。
医療や支援先の力を借りながら、ご本人に必要な取組みを考えます。弁護士は、その内容と経過を整理し、捜査機関や裁判所に伝える役割も担います。
7.検察官と、処分について交渉します
事件が検察官に送致された後は、それまでに整理した事実、証拠、再発防止の取組みを踏まえて、処分について意見を述べます。在宅事件の送致や処分には、逮捕・勾留中の事件と同じ期間制限があるわけではありません。日程は個別に確認し、処分が決まる前に必要な意見と資料を届けることを重視します。
犯罪の立証を争うのか、起訴猶予を求めるのかを明確にします
犯罪の成立や証拠の評価に問題がある場合には、その点を具体的に指摘します。違法捜査の問題がある場合も、証拠能力や公判での立証を見据えて、意見書の提出や面談を検討します。
一方、事実関係を認めている場合には、犯罪の内容、ご本人の事情、事件後の取組みを踏まえて、起訴猶予が相当であると主張します。刑事訴訟法第248条は、犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重・情状、犯罪後の情況などを考慮して、訴追を必要としないときは起訴しないことができるとしています。
「寛大な処分をお願いします」という希望だけでなく、なぜ、この人について起訴せずに立ち直りを支えることが相当なのかを説明します。
医療・支援・生活の変化を、具体的な資料で示します
受診やプログラムへの参加、ご本人の振り返り、ご家族や支援者が協力できることなどを、実際の経過に即して説明します。診断書、活動記録、反省文、家族の陳述書などは、必要性と内容を確認したうえで提出を検討します。
必要に応じて、ご本人を伴う検察官との面談についても相談します。書面と説明が一致し、ご本人が自分の課題と今後の取組みを理解していることを、正確に伝えるためです。
薬物犯罪の重大さを軽く扱うのではなく、事件の内容と本人の事情を踏まえ、刑罰を科すことと社会内で支援することをどう考えるべきかを、具体的に主張します。
本ページで扱う単純所持・自己使用には、罰金刑の選択肢がありません
麻薬取締法第66条第1項による大麻の単純所持、同法第66条の2第1項による不正な自己使用の法定刑には、罰金刑の選択肢がありません。そのため、これらの罪について、通常の略式手続で罰金を科して終えるという対応はできません。
起訴されれば、公開の法廷で審理されることになります。ただし、起訴が直ちに有罪を意味するわけではなく、争点に応じて公判での弁護を検討します。捜査段階では、まず、その事件で不起訴を求める根拠と活動を尽くします。
8.起訴された場合は、公判での弁護方針を検討します
不起訴を求めて活動しても、起訴に至る事件はあります。その場合には、起訴後も継続して依頼するか、業務の範囲と費用を改めて協議します。
証拠開示を踏まえ、事実と証拠能力を検討します
公判での方針は、開示された証拠とご本人の説明を踏まえて検討します。所持や使用の事実、故意、鑑定の評価、捜索・採尿の適法性などに争点があれば、必要な主張を行います。
起訴されたからといって、当然に事実関係を認め、量刑だけを争う方針に切り替えるわけではありません。捜査段階では分からなかった資料も確認し、その事件で何を争うべきかを考えます。
身柄拘束が続いている場合には、保釈を検討します
起訴後に身柄を拘束されている場合は、保釈請求を検討します。在宅のまま起訴された場合には、現在の生活と公判への出頭を維持しながら、裁判に備えます。
事件が続くことによる不安や負担も確認し、再発防止の取組みを継続できるよう、ご本人や支援者と相談します。
事実を認める場合は、量刑と社会内での立ち直りを考えます
事実関係を認める場合には、犯行に至った経緯、反省、再発防止への取組み、仕事や生活への影響、周囲の支援などを具体的に主張立証します。
初犯で自己使用目的の事案では、執行猶予を求める方針を検討します。ただし、初犯ということだけで結果は決まりません。量や態様、前科・前歴、ほかに起訴された犯罪なども踏まえて見通しを説明します。
社会内で生活を続けながら立ち直ることが適切だと考える場合には、その根拠と具体的な支援体制を示し、判決に反映してもらえるよう努めます。
身柄拘束事件の対応と、起訴後の保釈について
弁護士費用について
9.報道対応・発表回避について検討します
刑事処分と同じくらい、警察の報道発表やニュース報道を心配される方もいます。公表された場合に、ご本人の仕事、ご家族、生活にどのような影響があるかを伺います。
私は、逮捕の回避に向けた活動と併せて、事案に応じ、警察に報道発表を控えるよう上申することがあります。発表する公益上の必要性と、公表によって生じる不利益などを踏まえ、実名発表が適当ではないと考える事情を具体的に伝えます。
在宅事件なら発表されない、弁護士が付けば実名報道を防げる、というものではありません。捜査機関による発表と、報道機関による取材・報道も別の判断です。その限界を説明したうえで、必要な資料の提出や意見の申入れを行います。
起訴後の裁判は公開されるため、記者などが傍聴する可能性もあります。事件が小規模であることだけで報道がないと約束することはできません。取材を受けた場合も、ご本人と協議し、プライバシーに配慮した対応を検討します。
警察の報道発表回避については、『季刊刑事弁護』121号に論考を執筆しています。関連する解説も併せてご覧ください。
薬物所持・自己使用事件と、勤務先への影響について
「警察の報道発表回避(実名報道回避)のための弁護活動」の掲載案内
執筆・研究活動
10.事件の結果と、その後の生活を見据えます
以上が、初犯・在宅の大麻所持・自己使用事件を受任した場合の、一般的な検討と対応の流れです。
犯罪の成立と証拠を確かめ、取調べや尿検査への対応を協議し、必要な支援と資料を整えて検察官に意見を述べる。事実関係を争う場合も、事実を認めて起訴猶予を求める場合も、ご本人の事情に即して活動します。
不起訴を目指すことと、事件後の生活を立て直すことの両方を大切にします。法令、統計、裁判例を確かめながら、その事件で何ができるかを考え続けます。
掲載した統計や活動方法は、特定の結果を保証するものではありません。ご相談・ご依頼の可否は、事件の内容と現在の受任方針により判断します。詳しくは、「刑事弁護のご依頼」をご確認ください。
参考文献
法改正、薬物犯罪一般、捜査の適法性、所持・使用の故意などに関する参考文献です。分類名をクリックすると一覧が開きます。
旧法や過去の実務を扱う文献も含みます。書誌や題名中の法令名・裁判の状況は、原則として掲載時の表記です。個別の事件では、現在の法令や、その後の裁判例との関係を確認して参照します。
1.令和5年麻薬取締法改正関係
太田達也「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の改正について」罪と罰61巻2号・通巻242号(令和6年3月)86-107頁
太田達也「大麻の濫用防止と法規制」法学教室2024年6月号(525号)60-65頁
藤本哲也「犯罪学の散歩道 341「大麻取締法及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の概要」月刊戸籍時報令和6年7月号(通巻855号)103-107頁
衆議院法制局「弁護士のための新法令解説(第504回)大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律(令和5年法律第84号)」自由と正義2024年10月号41-46頁
刑事局「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律について」法律のひろば77巻6号(2024年12月号)2頁
城祐一郎「誌上講義第64回 大麻取締法等の改正などをめぐる諸問題」捜査研究2025年1月号(893号)19-50頁
天保怜「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律の概要等について」警察学論集78巻2号(2025年2月号)103-140頁
2.旧・大麻取締法関係
古田佑紀・齊藤勲編『大コンメンタールⅡ薬物五法〔大麻取締法〕』(青林書院,1996年8月)
「大麻事犯の捜査要領について述べなさい」(KOSUZO SAITAMA 2023年2月号)77-79頁
3.薬物犯罪一般
村上尚文『麻薬・覚せい剤事犯に関する裁判例』(立花書房,1975年11月)
村上尚文『麻薬・覚せい剤犯罪-解釈と実務』(日世社,1975年11月)
最高裁判所事務総局編『麻薬・覚せい剤等刑事裁判例集』(法曹会,1979年9月)
司法研修所編『特別刑法の解釈上の諸問題-覚せい剤取締法-』(法曹会,1980年6月)
飛田清弘ほか『覚せい剤事犯とその捜査』(立花書房,1981年8月)
警察庁保安部薬物対策課編『覚せい剤・麻薬事犯捜査の手引』(警察庁保安部薬物対策課,1983年1月)
神奈川県警察覚せい剤事犯捜査研究会編『部内用 覚せい剤事犯捜査演習』(東京法令出版,1986年7月)
宮川一三『覚せい剤犯罪捜査の実務』(日世社,1990年12月)
最高裁判所事務総局編『麻薬・覚せい剤等刑事裁判例集(続)』(法曹会,1992年7月)
飛田清弘ほか『改訂 覚せい剤事犯とその捜査』(立花書房,1992年10月)
安西温『改訂 特別刑法〔3〕薬事・医事・公衆衛生・畜産』(警察時報社,1993年2月)
古田佑紀ほか『麻薬特例法及び薬物四法改正法の解説』(法曹会,1993年5月)
古田佑紀・齊藤勲編『大コンメンタールⅠ薬物五法〔麻薬及び向精神薬取締法〕』(青林書院,1994年4月)
古田佑紀・齊藤勲編『大コンメンタールⅠ薬物五法〔麻薬等特例法〕』(青林書院,1994年4月)
古田佑紀・齊藤勲編『大コンメンタールⅡ薬物五法〔あへん法〕』(青林書院,1996年8月)
古田佑紀・齊藤勲編『大コンメンタールⅡ薬物五法〔覚せい剤取締法〕』(青林書院,1996年8月)
吉松悟『麻薬特例法違反事件の捜査・処理上の諸問題(報告書第87集第2号)』(法務総合研究所,1999年12月)
最高裁判所事務総局刑事局監修『薬物事件執務提要(改訂版)』(法曹会,2001年6月)
藤永幸治編集代表『シリーズ捜査実務全書8 薬物犯罪(第2版)』(東京法令出版,2006年8月)
松田昇ほか『新版 覚せい剤犯罪の捜査実務101問〔改訂〕』(立花書房,2007年6月)
薬物事犯捜査研究会編著『薬物事犯捜査必携 三訂版 第1編 薬物取締基本法令等』(東京法令出版,2011年3月)
薬物事犯捜査研究会編著『薬物事犯捜査必携 三訂版 第2編 捜査書類』(東京法令出版,2011年3月)
薬物事犯捜査研究会編著『薬物事犯捜査必携 三訂版 第3編 質疑回答』(東京法令出版,2011年3月)
小森榮『もう一歩踏み込んだ薬物事件の弁護術』(現代人文社,2012年6月)
北海道警察本部刑事部組織犯罪対策局薬物銃器対策課編著『四訂版 覚醒剤事犯捜査のためのQ&A~迷わないための139~』(東京法令出版,2016年12月)
金井洋明「知人の覚せい剤取締法違反事件についての証拠隠滅事件の処理要領」捜査研究2017年3月号(795号)60-68頁
東京弁護士会期成会明るい刑事弁護研究会編『入門覚せい剤事件の弁護(改訂版)』(現代人文社,2018年2月)
内藤惣一郎ほか編著『覚せい剤犯罪捜査実務ハンドブック』(立花書房,2018年9月)
4.薬物事犯捜査の適法性
細谷芳明「判例から学ぶ捜査手続の実務 特別編①」(東京法令出版,2015年8月)
細谷芳明「判例から学ぶ捜査手続の実務 特別編②」(東京法令出版,2016年8月)
山口崇「実務刑事判例評釈[Case306]東京高判令元.6.25 薬物使用の疑いのある被疑者が職務質問に応じず,場所を移動したため,警察官がこれに同行し, この間,警察官が, タクシーに乗り込もうとする被疑者を制止した点,駅において電車に乗ろうとして改札を通過する被疑者を制止した点について,違法であるものの,令状主義の精神を没却するような重大なものではないとして,尿の鑑定書等の証拠能力を認めた事例(上告中)>>判例タイムズ1472号124頁」警察公論2020年11月号85-95頁
小林秀親「実務刑事判例評釈[case307]東京高判令元.7.16 尿の鑑定書の証拠能力が否定された事例」警察公論2021年1月号86-95頁
5.薬物所持・使用の故意
細野正宏「実務刑事 判例評釈(case 271)東京高判平28.12.9 尿中から覚醒剤成分が検出されたことはその者が自らの意思で覚醒剤を摂取したことを強く推認させる事実であるが,尿中から覚醒剤成分が検出されたことのみに基づいて自らの意思で覚醒剤を摂取したことを認定するには,その者の生活状況や前記推認を妨げる特段の事情に関する慎重な検討が必要であるとし,被告人が自らの意思によって覚醒剤を摂取したとするには合理的な疑いがあるとされた事例(確定)>>判例時報2332号109頁」警察公論2017年10月号86-95頁
大西直樹「覚醒剤の自己使用事案における故意の認定」警察学論集70巻11号(2017年11月号)155-174頁
合田悦三「覚せい剤営利目的輸入罪における故意(知情性)の認定について」警察学論集70巻12号(2017年12月号)52-75頁
染谷武宣「54 薬物事犯における「薬物の認識」」植村立郎編『刑事事実認定重要判決50選(下)《第3版》』(立花書房,2020年3月)
杉山慎治「55 薬物事犯における「使用」の認識」植村立郎編『刑事事実認定重要判決50選(下)《第3版》』(立花書房,2020年3月)
山﨑純「実務刑事判例評釈[case313]名古屋高判令2.2.13 覚醒剤自己使用の事案において,故意が認められないとして無罪を宣告した原判決に対し,尿から覚醒剤成分が検出された事実から覚醒剤使用の故意が強く推認されるとし,その推認を妨げる特段の事情として被告人の弁解の信用性を検討した上で,特段の事情は認められないとして原判決を破棄した事例>>公刊物未登載」警察公論2021年7月号87-95頁
明照博章『薬物事犯における故意犯の成否』(成文堂,2024年2月)
警察実務を知る。依頼者の立場で考える。
事実と証拠を確かめ、ご本人とご家族の話を聞き、必要な場面で具体的な意見を述べる。大麻事件についても、その後に続く生活を見据え、一つひとつの対応を考えます。
薬院法律事務所
弁護士 鐘ケ江 啓司(福岡県弁護士会)


