従業員のひき逃げ事故、自首しないように説得することは犯人隠避罪を構成するか(警視庁の場合)
2026年01月15日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、東京都に住む会社経営者です。本日、従業員が業務中に交通事故を起こしてしまったということで報告を受けました。しかも、歩行者にぶつかったのに現場から立ち去ってしまったそうです。自首したいということだったのですが、もしかしたら報道されるかもしれないと思い、明日に顧問弁護士に相談するから待つように言いました。しかし、翌日に警察が会社に来て従業員は逮捕されてしまいました。警察からは私も犯人隠避罪ということで取調べを受けているのですが、私も犯罪者になるのでしょうか。
A、古い本ですが、ひき逃げ事故を起こした者に対して、自首を思いとどまらせることも犯人隠避にあたるとする解釈をとっているようです。とはいえ、顧問弁護士に相談してから決めるように指示することまで犯人隠避といえるか否かは疑問があります。経緯が重要になりますので、弁護士とよく協議されてください。
【解説】
犯人隠避罪は「蔵匿以外の方法により官憲の発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいう」とされていますが、その限界はやや不明確なところがあります。本件の場合、自首を思いとどまらせたと評価すれば「隠避」にあたるとみる余地があるのかもしれませんが、実際のところは何か積極的に逮捕を免れさせるような行動をしたわけではないと思われます。犯人隠避罪の成立には疑問がありますので、弁護士に依頼して十分な検討をする必要があるでしょう。
【参考文献】
警視庁交通部交通総務課法令指導係『交通関係質疑回答集〈諸法令編Ⅰ〉』(警視庁,1996年3月)194-195頁
【事例14 ひき逃げ事故を起こした者に対して、自首を思いとどまらせた者の刑責
問 甲は、夜間、トラックを運転中、誤って人をひいて傷害を負わせ、そのまま会社に逃げ帰ったが、自首した方がよいと考え、社長乙に事実を打ち明けて相談した。これに対し乙は「だれにも見られていないなら、なにもすぐ出ていくことはない。ほとぼりのさめるまで2~3日待ったらどうだ。」といって、甲の自首を思いとどまらせた。しかし、甲は翌日の夕方、目撃者の証言によって、ひき逃げ犯人として逮捕された。この場合、社長乙に刑法103条の刑責(犯人隠避)を問うことができるか(甲についての業務上過失傷害罪及び道交法72条1項違反の罪については別論とする。)】
【設問の事案についてみると、乙は、運送会社の社長として雇人たる甲のひき逃げ人身事故を知ったものであり、そのような地位にあるものとしては、甲に自首を促すべきであるにもかかわらず、かえって甲の自首する意思を阻止し、被疑者の発見、逮捕を遅らせる積極的な行為をしたものですから、本条の隠避に当たると解されます。】
山口厚『刑法 第4版』(有斐閣,2025年2月)477頁
【(i)総説 本罪の実行行為は,客体である犯人等を蔵匿し,又は隠避させることである。蔵匿とは,官憲の発見・逮捕を免れるべき隠匿場を供給して匿うことをいい(大判明治43.4.25刑録16輯739頁,大判大正4・ 12.16刑録21輯2103頁),隠避とは,蔵匿以外の方法により官憲の発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいう(大判昭和5・9・18刑集9巻668頁(各572)(10))。本罪は危険
犯であり,刑事司法作用が現実に害される必要はなく,その危険が生じれば足りる(東京地判昭和52・7・18判時880号110頁〔捜査官憲が被蔵匿者の所在を知っていても,蔵匿行為があれば犯人蔵匿罪が成立する〕参照)。】
【10)犯人の逃避行為を直接容易にする行為に限られるとした判決として,大阪高判昭和59.7.27高刑集37巻2号377頁〈各571〉(逃走中の被疑者の依頼により,その内妻に金銭を供与する行為。その結果,安心して逃走できるということでは足りない)参照】
https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641139732
西田典之ほか編『注釈刑法 第2巻 各論(1) §§77~198』(有斐閣,2016年12月)111-112頁
【「隠避」とは,蔵匿以外の方法により官憲の発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいう, とする判例があり(前掲大判昭5• 9 • 18 〔留守宅の状況,家族の安否,官憲捜査の形勢について情報を提供した事案〕),通説もこの定義を支持している(大コメ (6) 345 頁〔仲家〕,西田・各459頁,山口•各579頁,アクチュアル(各)482 頁〔安田〕)。
こうした定義の下,以下のような行為が隠避とされている。まず,①犯人に対して直接働きかける行為として,犯人に特定の地域に向けて逃走するよう勧告した行為(大判明44・4・25刑録 17 輯659頁),身代わり犯人として公訴が提起されていた被告人の弁護人が真犯人の自首を阻止するとともに,その事件の公判において,被告人が犯罪を行ったと供述するのを黙認して結審させた行為(大判昭 5• 2 • 7刑集 9巻51 頁)】
https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641017825


