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薬院法律事務所

刑事弁護

成人女性の承諾を得て、駅で「盗撮風」映像を撮影していたところ警察に捕まったという相談


2024年12月31日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、東京都に住む40代男性です。下着の盗撮映像をインターネットでコレクションしていたのですが、性的姿態等撮影罪が施行されてからインターネット上で盗撮映像を見ることができなくなってしまいました。そこで、SNSで女性を募集して、下着の盗撮風映像を撮影させてもらうことにしました。あらかじめ話し合いをした上で、後ろからついていってスマートフォンで下着を撮影していたところ、駅員さんから呼び止められました。その場で女性も「ちゃんと撮影の許可はしています。」と回答してくれたのですが、警察を呼ばれて二人とも迷惑防止条例違反だといわれています。ちゃんと承諾を得ているのに犯罪になるのでしょうか。

 

A、性的姿態等撮影罪と異なり、迷惑防止条例違反は「被写体となる人が同意」していても成立します。ただ、実務的には盗撮した場合に被害者が被害届を出さないと立件されないということが多いだけです。被害者が立ち去った場合でも立件されることがあります。ご相談の事例の場合は、両者が迷惑防止条例の共犯となります。もっとも、実際に立件されるかは別であり、初回であれば厳重注意で始末書処分で終わる可能性もあると思います。

 

【解説】

 

性的姿態等撮影罪については、個人的法益を保護するものですので、成人の被写体が同意していた場合には成立しません。もっとも、迷惑防止条例は、公共の場所での「平穏」を保持することを目的としているため、実は「同意」があっても迷惑防止条例違反になります。

 

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律

https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000067

(性的姿態等撮影)
第二条次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為

 

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(略称「迷惑防止条例」)の一部改正について

https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/keiyaku_horei_kohyo/horei_jorei/meiwaku_jorei_kaisei.html

(目的)
第1条 この条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて都民生活の平穏を保持することを目的とする。

(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

 

【参考文献】

 

浅沼雄介ほか「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律について(1)」法曹時報76巻2号(2024年2月号)23-122頁

49頁

【その上で、処罰対象となる撮影行為については、
〇単に、人の内心である「意思に反する」ことのみを要件とすると、
処罰の外延が不明確になることから、撮影対象者の意思に反することが外部的・客観的に明らかな態様・方法として、
・ひそかに撮影すること
・同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、撮影すること

を要件とし、】

 

坂田正史「迷惑防止条例の罰則に関する問題について」判例タイムズ1433号(2017年4月号)21-43頁

25頁

【(2)保護法益をいかに解するかとの関係で,研究会では,公共の場所で男女がお互い合意の上卑わいな言動に及んだ場合に迷惑防止条例違反の罪が成立するかが議論された。合意がある以上個人的法益の侵害は問題とならないものの,社会的法益の侵害は生じている(公共の場所で卑わいな言動が行われないという維持されるべき当該場所の平穏が損なわれている)のであるから,成立すると解すべきこととなろう18)。また,公共の場所に誰も居合わせず,誰にも気付かれずにその卑わいな言動が行われたような場合に犯罪が成立するかも問題となるが,当該場所が,不特定かつ多数の者が利用し又は利用し得る「公共の場所」(後記第4) に当たると評価される限りは,その場所の平穏を損なう行為として同罪が成立すると解すべきであろう19)】

 

盗撮事件弁護要領(性的姿態等撮影罪・迷惑防止条例)

被害者不明の事件、盗撮映像のデータを破棄している事件でも処罰されるかという相談(盗撮、刑事弁護)