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薬院法律事務所

一般民事

既婚と知らずに肉体関係を結び、相手の配偶者から慰謝料請求されたという相談


2021年07月29日一般民事

最高裁の判例では、不貞行為は故意だけでなく、過失のある場合にも慰謝料支払義務が発生するとされています。

そのため、独身だと信じたことに「過失」があるということで慰謝料請求がなされることもあります。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53272

裁判年月日  昭和54年3月30日

法廷名  最高裁判所第二小法廷

【夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。】

もっとも、「過失」がどういった場合に認められるのかこの最高裁判例ではわかりません。

「独身」と告げられていて交際していたのに、実は既婚者だった場合に過失があるということで賠償義務を負うのはどういう場合でしょうか?

この点、弁護士の大塚正之先生は多数の裁判例を分析して以下のとおり述べています。

裁判例は、独身であることの調査義務を認めず、過失を認めないのが一般だそうです。

不貞相手にだけ慰謝料を請求する事例も多いこと、いわゆる美人局になりかねないことからすると、裁判例の態度は正しいと思います。

家庭の法と裁判12号(2017年12月号)51頁

不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析(3)
大塚正之
【婚姻関係の存在について故意過失が争われた事例15件中,婚姻関係の存在を知らなかったが,過失があるとした事例が2件(事例58, 80)であり,そのほかはすべて婚姻関係の存在を知らなかったとして,既婚者であると知らされる以前の行為については不法行為の成立を認めなかった事例である。一般に,誰かと交際する場合において,その相手方が独身であると述べているとき, どこまで疑って独身か否かを調査する義務があるのかという問題であり, この点に関して,多くの裁判例は,基本的に調査義務はないとして過失を認めていない。事例112のように独身を前提とする合コンで知り合い,本人も独身だと言い,周囲の知人たちからも彼は独身だと聞いているような場合においては,更に独身かどうか調査しないで性交渉を持っても過失があるとは言えないというのは当然であろう。
それでは, どのような場合に過失が認定されているのか。事例58は,平成20年頃から同25年10月まで被告は原告の夫と交際していたが,平成21年9月から同22年7月までの電子メールにより配偶者があることを容易に認識し得たとする。例えば,平成21年9月の原告の夫から被告へのメールには,前の彼女のことを妻に知られたという記載があり,それを閲読すれば通常妻がいると分かるもので,過失を認定したのは当然であり,むしろ,その時点で妻の存在を知らされたと言ってよいものである。】

林田敏幸「不貞慰謝料請求事件における過失の認定について」判例タイムズ1452号(2018年11月号)5-25頁にも同趣旨の記載がありました。

10頁

【裁判例【l】も指摘するように,異性間の交際は, 「相手方に対する愛情と信頼の上に成り立つものであ」ること,異性間で交際を開始する場合に,常に相手方の配偶者の有無を調査すべき義務を負わせることは,相手方の行動の自由を過度に制約することにつながりかねないことからすると, このような一般的な調査義務は否定すべきである。
したがって,相手方に配偶者がいることを疑わせるような具体的事情が存在する場合に予見可能性を肯定することになる。
今回検討の対象とした裁判例も,配偶者の存否について一般的な調査義務を肯定したと解されるものはなく,過失を肯定した裁判例は, いずれも,相手方に配偶者がいることを疑わせるような何らかの事情がある場合であった。】