熊本県迷惑行為防止条例第3条(卑わいな行為等の禁止)の解説・第2回盗撮行為(2)
2025年01月08日刑事弁護
下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。
以下では、前回に引き続き、熊本県迷惑行為等防止条例(以下「本条例」といいます)第3条(卑わいな行為の禁止)の第2項および第3項について、同様のスタイルで詳説します。いずれも第1項とは異なる「場所的要件」や「撮影行為の対象」が定められ、より私的領域に踏み込んだ盗撮・のぞき見などを取り締まる内容となっています。
1. 第3条第2項の概要
(第3条第2項)
「何人も、集会場、事務所、教室、貸切バスその他の特定かつ多数の者が利用するような場所又は乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、下着等を撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。」
(1) 適用される「場所」の範囲
- 公共の場所・公共の乗物以外にも、条例は第2項で「特定かつ多数の者が利用するような場所又は乗物」を追加的に規制対象としています。
- 例:
- 集会場:公的・私的なイベント会場、講演会場、コンサートホール等
- 事務所:会社のオフィス、事業所のフロアなど
- 教室:学校や塾の教室、研修室など
- 貸切バスその他の特定多数が利用する乗物:社員旅行や修学旅行などの貸切バス、貸切電車など
- 例:
- いずれも不特定ではないが、同じ集団が一定の人数で利用する空間として多数の人が集まる環境を想定しています。
(2) 禁止される行為
- 「下着等を撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置すること」
- 「下着等」とは、第1項と同様、衣服で通常覆われている下着や身体部分を指します。
- いわゆる「盗撮行為」を典型的に想定。実際に撮影が完了していなくても、撮影目的でカメラを設置・向ける行為自体が禁止対象です。
- 「正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」
- 医療行為、介護などの正当業務を除き、被写体の承諾なく性的プライバシーを侵害する行為全般を指します。
(3) 具体的事例
- 会社オフィス内で社員のスカート内を隠し撮り
- 席の下にカメラやスマホを置き、下着を撮影する。
- 学校の教室・部室でクラスメイトの下着を盗撮
- バッグに小型カメラを仕込んで撮影。
- 貸切バスの座席周辺での盗撮
- 修学旅行や社員旅行中、通路を挟んで他席の下着を覗き込むためにスマホを向けるなど。
- 熊本県警察本部「熊本県迷惑行為等防止条例解説(全128頁)」(熊本県警察本部,2018年7月)20頁
- 【〇学校や塾の教室において、女子生徒の下着を撮影する行為
- 〇貸切バスに乗車中、胸元を撮影する目的でカメラを向ける行為
- 〇複数社員が入る事務所において、下着等を撮影する目的で、女性従業員の机の下にビデオカメラを設置する行為】
(4) 実務上の特徴
- 公共の場所・乗物に限定しないため、私的空間に近い環境でも「複数名が利用する場所・乗物」なら取り締まりが及ぶ点が大きな特徴。
- 第2項違反の場合、撮影行為が実際に行われれば、第13条第1項で1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(常習は2年以下)と比較的重い処罰が規定されています。
2. 第3条第3項の概要
(第3条第3項)
「何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所に当該状態でいる人の姿態をのぞき見し、又は撮影し、若しくは撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。」
(1) 適用される「場所」の範囲
- 住居:自宅、マンションの一室など私的居住空間。
- 浴場:温泉、銭湯、サウナなど、不特定・特定を問わず多数が利用する公衆浴場も含む。
- 便所:公衆トイレ・個人宅トイレともに該当しうる。
- 更衣室:スポーツジム、更衣ロッカー、試着室など。
- 「その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」
- 例: 病院の検査室・診療室、宿泊施設の個室、プールのシャワールームなど、人が裸や半裸になる可能性の高い空間。
(2) 禁止される行為
- 「のぞき見」
- 上記のような場所以外から隙間を覗いたり、窓ガラスを外から覗き込む、ドアの隙間から中を覗く行為など。
- この条項が有効かはひとつの論点です。
- 「撮影」
- スマホやカメラを用いて、入浴中や着替え中の姿を無断で記録する行為。
- 「撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置」
- 実際に撮影完了していなくても、撮影の準備行為が禁止対象(隠しカメラの設置など)。
(3) なぜ特に規制が厳しいのか
- これらの空間は一般に「人が無防備な状態」であり、プライバシー保護の必要性が極めて高い。
- 被害者に与える精神的苦痛も大きいため、条例により厳格に禁止している。
(4) 具体的事例
- 住居の窓を外から覗き込む
- 入浴・着替えの様子を外から覗く(いわゆる「のぞき」)。
- 浴場での盗撮
- 温泉や銭湯の更衣所・脱衣所に隠しカメラを設置する。
- トイレ個室の下や上から無断でスマホを差し入れる
- 便座の中や壁の隙間などから撮影する行為。
- 試着室での盗撮
- 試着室の隙間を狙って撮影する、鏡の裏などにカメラを仕込む。
(5) 他法との関係
- 令和5年施行の「性的姿態等撮影処罰法」(通称「盗撮処罰法」)では、こうした場所での撮影をより直接的に処罰する規定もあり、悪質な事案ではそちらが適用される場合がある。
- 条例も従来から同様の行為を規制していたため、現場では事案の悪質性や捜査当局の判断によって、本条例か、刑法(住居侵入罪、公然わいせつ罪など)か、あるいは盗撮処罰法を適用するかが異なる。
3. 罰則と実務上のポイント
(1) 罰則の区別
- 撮影行為が行われた場合(第3条第1項第2号・第2項・第3項):
- 第13条第1項により「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」、常習なら「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」。
- のぞき見のみ・接触のみなど(ただし撮影を伴わない行為)は、原則として第14条の適用(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金、常習で1年以下又は100万円以下)。
(2) 「正当な理由」が認められるケースは極めて限定的
- 医療行為、介助、緊急避難など、社会通念上やむを得ない事情がある場合を除き、「覗き込み」や「撮影」が許されることはほぼない。
- 実務上、「正当な理由」を主張しても認められにくく、被害者の承諾や同意がない限り処罰される可能性が高い。
(3) 実務上の立証
- 被害者が気付かないうちに行われる場合も多いため、防犯カメラ映像や現場から押収された撮影機器のデータなどで立件されるケースが多い。
- スマートフォン内の画像・動画、またはSNSやネット上へのアップロード履歴が証拠となることもある。
4. まとめ
- 第2項は「集会場、事務所、教室、貸切バス」など、特定かつ多数の者が利用する場所・乗物を対象に、下着等の撮影・盗撮行為を厳しく禁止しています。
- 第3項は「住居、浴場、便所、更衣室など人が衣服を脱ぐ可能性の高い空間」での、のぞき見や盗撮行為を規制する規定であり、プライバシー保護の度合いがさらに高いのが特徴です。
- いずれの項も、被害者の強い性的羞恥・不安を引き起こす行為を取り締まる点で同質ですが、場所の性格に応じて取り締まり範囲を拡大・明示しているといえます。
- 本条例で処罰されるだけでなく、より悪質な場合には刑法や盗撮処罰法で追及される可能性もあるため、撮影目的でカメラを向ける行為の段階で違反が成立する点には特に注意が必要です。
以上が、第3条第2項・第3項の概要と実務上のポイントです。いずれも、公共の場所からさらに踏み込んだ私的空間や多数が利用する場所での盗撮・のぞき行為をカバーし、県民の性的プライバシーを広範に保護する狙いが込められています。
熊本県迷惑行為等防止条例
https://www1.g-reiki.net/kumamoto/act/frame/frame110001225.htm
【参考文献】※情報公開で入手した資料は一部マスキング有
熊本県警察本部「熊本県迷惑行為等防止条例解説(全128頁)」(熊本県警察本部,2018年7月)
熊本県警察本部(?)「熊本県迷惑行為等防止条例の改正理由について(全4頁)」(2017年11月21日)