社内不倫について、会社に対して不法行為責任を問えるかという相談(労働問題)
2024年09月17日労働事件(企業法務)
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市内に住む30代女性です。私も夫も働いていて、未就学の子どもが2人います。夫の様子がおかしいのでこっそり夫のスマホをチェックしたところ、夫が職場内で同僚と不倫していたことが発覚しました。一緒に出張に行った先で不倫をしていたようです。会社がきちんとしていれば職場内での不倫は避けられたのではないかと思います。不貞相手には慰謝料を請求する予定ですが、会社に対しても損害賠償請求をできないでしょうか。
A、「事業の執行につき」の要件を欠くので、損害賠償請求はできません。
【解説】
会社でセクハラ行為がされた場合に、セクハラ被害者が会社に対して使用者責任や安全配慮義務違反を問うことは可能ですが、社内不倫は基本的にはプライベートの問題です。「事業の執行につき」という要件を満たしません。債務不履行の問題で考えても、会社は、相談者との関係で社内不倫を防止する義務がありません。そのため、会社が懲戒処分をすることは別論として、会社が損害賠償責任を負うことはありません。
民法
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
【参考文献】
中里和伸『判例による不貞慰謝料請求の実務』(LABO,2015年6月)229頁
「1 使用者責任(民法715条)
AY間の不貞行為がAとYの共通の職場等で行われることがある。その場合、Xとしては、Y仙人のみならずそのような不貞行為が行われた会社にも責任があるとして、Yの使用者である会社等に対しても損害賠償責任を追及するための訴訟を提起する場合がある。
しかしながら、裁判所はかかるXの主張を基本的に認めていない。」
「およそ不倫というのは純粋に個人間の問題であって、仕事とは無関係である以上、その勤務している会社等の法的責任など考える余地もない、とも言える。しかしながら、現実には、本文で紹介するとおり、会社等も訴えられることがある。会社経営者にとっては、煩わしい問題であろう。このことからしても、企業を経営していくことの難しさを感じさせられる。」
https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB19066639
東京弁護士会労働法特別委員会編著『新 労働事件実務マニュアル 第6版』(ぎょうせい,2024年2月)277頁
【工 社内不倫
社内不倫は、企業外での不倫とは異なり、多くの企業の就業規則に記載されている、「社内の秩序、風紀を乱し、又は乱すおそれのあったとき」などの就業規則の懲戒事由の適用が考えられる(例えば、男女のトラブルに関してこの懲戒理由ありとされた豊橋総合自動車学校事件:名古屋地判昭和56年7月10日労判370号42頁等)。あるいは、いわゆる不倫自体が、「特段の事情のない限りその妻に対する不法行為となる上、社会的に非難される余地のある行為」として「素行不良」に該当し得るとされる(繁機工設備事件:旭川地判平成元年12月27日労判554号17頁)。】