自転車に乗った高校生から当て逃げされたのに、こちらがひき逃げとされているという相談(交通事故)
2025年12月13日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、先日、車を運転して青信号で横断歩道を通過しようとしたところ、突然猛スピードで左側から走ってきた信号無視の自転車が車にぶつかってきました。びっくりして停車したのですが、高校生はまずいと思ったのか、「すみません」といって、そのまま自転車を運転して去っていきました。車を停めてみると、特に傷はなかったので、「学生のすることだし赦してあげよう」と思って警察には通報しませんでした。ところが、翌月になって警察から連絡があり、私がひき逃げ犯だと責められています。自転車に乗っていた高校生がケガをしていたということで、通報しなかった私が悪いということだそうです。
A、近時増えている類型の事故です。交通事故の救護・報告義務は、どちらに過失があるかに関わりなく発生します。そのため、本件のような場合でも自動車・自転車の運転者双方に救護・報告義務が発生しえるのですが、自転車対自動車の場合は、自転車側のみがケガをするということが多いため、結果的に自動車の運転者のみに救護義務が生じます。そうするとこのようなことが起こり、高校生側がぶつけたことで逃げているわけですが、後日に親権者などから警察に通報がされます。そのままだと処罰や運転免許取消の危険性がありますので、すぐに弁護士に相談して救護義務違反が成立しないことについて意見書を出してもらうべきでしょう。
【解説】
自動車を運転していると、高校生の自転車がぶつかってきて、そのまま逃げられることがあると思います。 “車に傷がなくても”必ず警察に通報してください。 高校生が怪我をしていた場合「ひき逃げ犯」として、自動車の運転者が処罰されることがあります。免許も取り消され、3年間再取得できません。特に、ドライブレコーダーがないと、自転車側が立ち去ったことが証明できず不利な処分を受ける危険性もあります。高校生が立ち去った場合でも、警察に通報しておけば、運転者が報告義務を尽くして、救護義務も果たそうとしていたことが証明できます。
もっとも、弁護士に相談がくるのは通報しておらず質問のような事態が生じたあとです。そのときは、急いで交通事故・交通違反に詳しい弁護士を選んでください。一般論ですが、黙秘を貫けば解決できるという案件ではないです。
免許取消の行政処分については、刑事処分とは別個で進みます。行政処分を回避するためには、意見書を警察署と検察官の双方に提出することが大事です。刑事処分が嫌疑不十分不起訴となった場合でも、公安委員会から「救護義務違反」として免許取消処分がなされる可能性があるからです。私は、処分を回避するためには、警察に対しても「ひき逃げ」にあたらないことの意見書を出して、ひき逃げとしての「違反等登録」の対象にならないようにしておくことが大事だと考えています。
あまり意識されていないのですが、手続の流れとして、警察署等が認知した交通違反等については、その登録等に必要な関係書類を都道府県警察本部の行政処分担当課が審査のうえ違反等登録を行います。公安委員会の告知・聴聞はその後の手続です(道路交通研究会「交通警察の基礎知識196 行政処分の迅速かつ確実な執行について」月刊交通2019年2月号(611号)82頁)。従って、警察段階で「違反等登録」を回避できれば、免許取消処分の手続まで進まないのです。違反等登録票の作成は通常迅速になされていますが、ひき逃げ事件等の特殊な案件は除かれています(那須修『実務Q&A 交通警察250問』(東京法令出版,2021年9月)277頁)。違反等登録がされた場合にはほぼ自動的に免許取消になりますので、公安委員会の聴聞になる前の対応が肝心になります。
※救護義務に関する最高裁判例
最高裁昭和45年4月10日(刑集第24巻4号132頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/50949/detail2/index.html
【裁判要旨 車両等の運転者が、いわゆる人身事故を発生させたときは、直ちに車両の運転を停止し十分に被害者の受傷の有無程度を確かめ、全く負傷していないことが明らかであるとか、負傷が軽微なため被害者が医師の診療を受けることを拒絶した等の場合を除き、少なくとも被害者をして速やかに医師の診療を受けさせる等の措置は講ずべきであり、この措置をとらずに、運転者自身の判断で、負傷は軽微であるから救護の必要はないとしてその場を立ち去るがごときことは許されない。】
※道路交通法
(危険防止の措置)
第六十七条
2前項に定めるもののほか、警察官は、車両等の運転者が車両等の運転に関しこの法律(第六十四条第一項、第六十五条第一項、第六十六条、第七十一条の四第四項から第七項まで及び第八十五条第五項から第七項(第二号を除く。)までを除く。)若しくはこの法律に基づく命令の規定若しくはこの法律の規定に基づく処分に違反し、又は車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊(以下「交通事故」という。)を起こした場合において、当該車両等の運転者に引き続き当該車両等を運転させることができるかどうかを確認するため必要があると認めるときは、当該車両等の運転者に対し、第九十二条第一項の運転免許証又は第百七条の二の国際運転免許証若しくは外国運転免許証の提示を求めることができる。
https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105#Mp-Ch_4-Se_1-At_67
【参考文献】
道路交通執務研究会編著『執務資料道路交通法解説(20訂版)』(東京法令出版,2025年7月)788頁
【当該交通事故の発生に関与した運転者という意味であり、その事故の発生について故意又は過失のある運転者を意味するものではなく、当該交通事故を惹起させた車両等の運転者はもとより被害者の立場に立つ車両等の運転者も含むと解される(昭三七・二・二○山形地裁米沢支部、昭四四・一二・一七東京高裁)。例えば明らかに相手側の一方的過失によって事故が発生しその相手側が死傷したような場合、その他一般的に不可抗力と認められるような状況があったときで、いわゆる責任の全くない運転者であっても、本条の義務が課されることになる。】
https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?236
山口貴史「最近の運転免許の行政処分に関する行政事件訴訟の裁判例から」月刊交通2018年2月号(599号)21-30頁
【(平成25年9月25 日 さいたま地方裁判所)車両等の運転者が、いわゆる人身事故を発生させたときは、直ちに車両の運転を停止し十分に被害者の受傷の有無程度を確かめ、全く負傷していないことが明らかであるとか、負傷が軽微なため被害者が医師の診療を受けることを拒絶した等の場合を除き、少なくとも被害者をして速やかに医師の診療を受けさせる等の措置を講ずべきであり、この措置をとらずに、運転者自身の判断で、負傷は軽微であるから救護の必要はないとしてその場を立ち去るがごときは許されない。受傷の有無、程度は、専門医によっても一見して直ちに判断できるものではなく、これを運転者の判断に委ねることは立法趣旨にもとるからである。最判昭和45年4月10 日は、この理を明らかにしたものと解される。
そして、運転者が加害者であっても、被害者であっても、受傷の有無、程度は判断が困難な事項であるという経験則は等しく妥当するといえるし、そもそも交通事故において運転者が被害者であるか加害者であるかは事故当時に一見して明らかであるとは限らず、事故に関与した者には少なからず自己防御の本能が働いて事故状況や結果につき自己に有利な解釈をすることは否定できないから、運転者が交通事故に関与している限り、上記の救護義務についての解釈(最判昭和45年4月10 日の趣旨)は妥当するというべきである】(25頁)。


