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薬院法律事務所

刑事弁護

被告人に刑事記録の写しを渡すとき、弁護人は何をしなければならないか ――目的外使用を防ぐための適正管理義務


2026年08月27日刑事弁護

検察官から開示された証拠の写しを被告人に交付する場合、弁護人には刑事訴訟法281条の3に基づく適正管理義務があります。交付の可否、被告人に対する説明、誓約書、記録の回収までを弁護士が解説します。


はじめに

刑事事件では、被告人本人に供述調書、実況見分調書、写真、捜査報告書などを確認してもらい、弁護人と事実関係を検討する必要があります。

しかし、刑事記録には、被害者や証人の氏名、住所、連絡先、供述内容、写真など、秘密性・プライバシー性の高い情報が含まれていることがあります。被告人がこれらを第三者に見せたり、インターネット上に公開したりすれば、関係者への報復、証人威迫、名誉・プライバシーの侵害などの重大な問題が生じます。

そこで、刑事訴訟法は、検察官から開示された証拠の写しについて、弁護人に適正な管理を求めるとともに、被告人などによる目的外使用を禁止しています。現行の刑事訴訟法281条の3から281条の5までが、その中心となる規定です。(e-Gov 法令検索)

なお、本稿では便宜上「刑事記録」と表現しますが、刑事訴訟法281条の3以下が直接対象としているのは、刑事記録一般ではなく、主として検察官が被告事件の審理の準備のために閲覧または謄写の機会を与えた証拠に係る複製等です。

 

1 弁護人は刑事記録を「適正に管理」しなければならない

 

刑事訴訟法281条の3は、弁護人に対して、開示証拠の複製等を適正に管理し、その保管をみだりに他人に委ねてはならないと定めています。

この規定でいう「他人」には、事件と無関係な第三者だけでなく、被告人本人も含まれると解されています。

したがって、被告人が依頼者であるからといって、弁護人が開示記録を無条件にすべて渡してよいわけではありません。記録を被告人の手元に置く必要性があるのか、どの記録をどの範囲で交付するのか、交付後に適切な管理を期待できるのかを、弁護人が判断しなければなりません。

この管理義務が設けられているのは、目的外使用によって、罪証隠滅、証人威迫、関係者の名誉・プライバシーの侵害、捜査や公判への協力を得ることの困難化などが生じるおそれがあるためです。また、記録の流出を防止できなければ、検察官が証拠開示に慎重になり、結果として被告人側が受けられる証拠開示の範囲が狭くなりかねません。

 

2 被告人への記録交付が一律に禁止されているわけではない

 

刑事訴訟法281条の3は、被告人に記録を渡すことを全面的に禁止する規定ではありません。

被告人に記録を読んでもらわなければ、供述調書の誤りを確認できない、写真に写っている人物や場所を特定できない、弁護人と詳細な打合せができないといった場合があります。そのため、被告事件の事実関係を調査し、公判の準備をするために必要があるときは、弁護人が被告人に開示証拠の写しを交付することは許されます。

もっとも、交付する場合でも、弁護人は被告人に対して、記録を適正に管理するよう具体的に指示し、第三者への流出が生じないよう留意しなければなりません。また、記録を被告人の手元に置く必要がなくなったときは、弁護人が回収して自ら管理する必要があります。

つまり、弁護人に求められているのは、単に「記録を渡した」「目的外使用をしないよう口頭で言った」というだけの対応ではありません。

交付前の必要性判断、交付範囲の限定、具体的な説明と指示、交付後の管理、不要となった後の回収までを、一連のものとして行う必要があります。

 

3 被告人に禁止される「目的外使用」とは

 

刑事訴訟法281条の4は、被告人、弁護人及びこれらであった者が、開示証拠の複製等を、当該刑事事件の審理や法定された関連手続、その準備以外の目的で、次の方法により第三者へ提供することを禁止しています。

禁止されるのは、記録を第三者に交付すること、記録を提示して内容を見せること、電子メール、SNS、ウェブサイトなどの電気通信回線を通じて提供することです。

例えば、公判の準備とは無関係に、次のようなことをしてはいけません。

  • 供述調書や証拠写真を友人、知人、支援者、報道機関などに渡す
  • 記録を家族や知人に見せたり、その場で撮影させたりする
  • 記録の画像やPDFをメール、LINE、SNSのダイレクトメッセージなどで送信する
  • YouTube、X、Facebook、ブログなどに掲載する
  • 不特定または多数の人がアクセスできるクラウドや共有フォルダに保存する

「複製等」には紙のコピーだけでなく、証拠の全部または一部をそのまま記録した写真、スキャンデータ、画像ファイル、文書ファイルなども含まれます。電子メールで送信したり、ウェブサーバーに保存してダウンロード可能な状態にしたりする行為も、「電気通信回線を通じた提供」に当たり得ます。

 

4 「裁判が公開されているから自由に公開してよい」わけではない

 

被告人から、「公開の法廷で取り調べられた証拠なのだから、インターネットに掲載してもよいのではないか」と質問されることがあります。

しかし、裁判の公開とは、法廷における審理や判決が公開されるという意味です。法廷で取り調べられた証拠の写しを、後から誰でも閲覧できる状態にすることまで認めるものではありません。

したがって、開示証拠が公判廷で取り調べられた後も、開示によって取得した複製等については、原則として引き続き目的外使用禁止の対象となります。

実際に、被告人であった者が、検察官から開示された実況見分調書の写真を動画投稿サイトに掲載し、不特定多数人が閲覧できる状態にした事件では、刑事訴訟法281条の5が適用され、懲役6月、執行猶予2年とした第一審判決が東京高等裁判所で維持されています。

東京高等裁判所は、目的外使用の禁止について、関係者への報復、嫌がらせ、名誉・プライバシーの侵害などを防ぎ、証拠開示を広く円滑に行える環境を確保するための必要かつ合理的な規制であると判断しています。(裁判所)

 

5 民事裁判への転用も原則としてできない

 

刑事事件が終了した後、被告人が、被害者、捜査機関、告訴人などを相手として民事訴訟を起こしたいと考えることがあります。

しかし、刑事事件の準備のために検察官から開示された証拠の写しを、そのまま民事訴訟の証拠として提出することは、原則として目的外使用に当たり、許されません。

民事訴訟で刑事事件の証拠を利用する必要がある場合には、文書送付嘱託、刑事確定訴訟記録法に基づく閲覧など、その手続に対応した別の制度を利用する必要があります。

「自分の事件の記録だから、別の裁判でも自由に使える」というわけではない点に注意が必要です。

 

6 被告人が目的外使用をした場合の刑罰

 

被告人または被告人であった者が、開示証拠の複製等を目的外で第三者に交付、提示または電子的に提供した場合、刑事訴訟法281条の5第1項により、

1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

に処せられる可能性があります。

実際に被害者や証人に損害が発生したかどうかは、違反行為の成否と必ずしも同じ問題ではありません。「結果的に誰にも迷惑をかけなかった」「短時間で削除した」という事情があったとしても、目的外使用自体が許されるわけではありません。

また、事件が終わって「被告人であった者」となった後も、目的外使用禁止と罰則は続きます。

 

7 被告人に記録を交付する場合に弁護人がしなければならないこと

 

刑事訴訟法281条の3は、検察官から開示を受けた証拠の複製等について、弁護人自身に適正な管理義務を負わせています

したがって、被告人が自分自身の刑事事件について記録を確認する場合であっても、「依頼者本人だから自由に渡してよい」ということにはなりません。

同条にいう「他人」には被告人も含まれると解されており、弁護人が被告事件の事実関係を調査し、審理の準備をするために必要がある場合には被告人に記録の写しを交付することができますが、その場合にも、弁護人は被告人に対して適正な管理をするよう具体的に指示し、記録が第三者に流出しないよう留意する必要があります。また、被告人の手元に記録を置いておく必要がなくなった場合には、記録を回収するなどして、再び弁護人自身が管理する必要があります。

さらに、日本弁護士連合会は「開示証拠の複製等の交付等に関する規程」(平成18年3月3日会規第74号)を定め、被告人に開示証拠の複製等を交付する場合の弁護士の具体的な義務を定めています。この会規は、現在も弁護士が開示証拠を被告人や第三者に交付する際に遵守すべき規律として位置付けられています。

具体的には、弁護士は被告人に記録を交付、提示又は電気通信回線を通じて提供する際、記録に含まれる秘密やプライバシーに関する情報の取扱いに配慮するよう注意を与えなければなりません

それだけではありません。

被告人に記録を交付する場合には、刑事訴訟法281条の4第1項が定める開示証拠の目的外使用の禁止と、同法281条の5第1項が定める目的外使用をした被告人に対する刑事罰について、その内容を説明しなければならないことが日弁連会規上明記されています。

つまり、被告人に開示証拠の写しを渡す場合、弁護人としては少なくとも、

  1. その記録を被告人に交付することが事件の審理準備のために必要かを判断する
  2. 必要な範囲に交付する記録を限定する
  3. 記録に含まれる被害者、証人その他の関係者の秘密・プライバシーについて注意を与える
  4. 記録を第三者に交付したり、見せたり、インターネット等を通じて提供したりしてはならないことを説明する
  5. 目的外使用には刑事罰があることを説明する
  6. 必要がなくなった場合には記録を回収するなど、交付後も適正な管理を行う

という対応が必要になります。

特に重要なのは、被告人に記録を渡した時点で、弁護人の管理義務が終了するわけではないということです。

刑事訴訟法が開示証拠の管理責任を負わせている主体は弁護人です。被告人に記録を交付することが必要な場合であっても、それは弁護人による適正な管理の下で行われなければなりません。

 

8 当事務所では誓約書を差し入れてもらった上で記録を交付しています

 

刑事訴訟法や日弁連会規は、被告人に記録を交付する際に、必ず「誓約書」という形式の書面を作成することまでは要求していません。

しかし、被告人に目的外使用の禁止や刑罰について十分に理解してもらうこと、弁護人がどのような説明と指示を行ったのかを明確にすることは重要です。

そこで当事務所では、被告人に刑事記録の写しを交付する場合、原則として事前に説明を行い、誓約書を差し入れてもらった上で記録を交付しています。

当事務所で使用している誓約書では、まず、交付する刑事記録が公判準備のためのものであり、目的外使用が禁止されていることを説明しています。

さらに、目的外使用に違反した場合には、刑事訴訟法281条の5により1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があることを明記しています。

その上で、単に法令の条文を示すだけではなく、中山善房編『大コンメンタール刑事訴訟法第三版第5巻〔第247条~第281条の6〕』(青林書院、2025年)の281条の3から281条の5に関する解説部分(540頁~563頁)の抜粋も交付し、その内容を確認してもらっています。

そして被告人本人から、

  • 自分以外の第三者に記録を閲覧させないこと
  • 第三者に記録を交付しないこと
  • 弁護人から返却を求められた場合には速やかに返却すること

を誓約してもらっています。

この誓約書には、二つの意味があります。

第一に、被告人自身に、渡される刑事記録が自由に利用できる私物ではないことを明確に認識してもらうことです。

自分が被告人となった事件の記録であると、「自分の事件についての資料なのだから、自分が自由に使ってよい」と考えてしまうことがあります。しかし、検察官から公判準備のために開示された証拠の複製等には、法律上明確な利用目的の制限があります。

第二に、弁護人が目的外使用禁止、刑罰、第三者への流出防止、返却について具体的な説明・指示をしたことを記録として明確にしておくことです。

口頭で「他人には見せないでください」とだけ伝えるのではなく、何が禁止され、違反するとどのような法的責任が生じるのかを説明した上で、被告人自身にも書面で確認してもらうという運用です。

もっとも、誓約書を取得すれば、それだけで弁護人の適正管理義務を果たしたことになるわけではありません。

交付する必要性があるのか、どの記録まで交付する必要があるのかを弁護人が個別に判断し、必要に応じて交付範囲を限定し、交付しておく必要がなくなれば回収することまで含めて、弁護人による適正管理が求められます。

当事務所では、**「被告人の防御のために必要な記録はきちんと利用してもらう。しかし、刑事記録を第三者への攻撃やインターネット上での公開などに利用させない」**という両者のバランスを図るため、このような方法で刑事記録を管理しています。

 

9 誓約書があれば、それだけで十分というわけではない

 

もっとも、誓約書を取得したからといって、弁護人の管理責任が被告人に移るわけではありません。

刑事訴訟法281条の3が管理責任を負わせているのは、あくまで弁護人です。したがって、誓約書があっても、交付の必要性が乏しい記録を一律に交付したり、特に秘密性の高い記録を何の検討もなく渡したりすることは適切ではありません。

誓約書は、弁護人による必要性判断、交付範囲の限定、具体的な説明、交付状況の記録、不要となった後の回収を補強するものと位置づけています。

 

まとめ

 

刑事記録を被告人に確認してもらうことは、十分な防御活動を行うために必要です。一方で、記録には、被害者、証人その他の関係者の重要な個人情報が含まれています。

したがって、弁護人の対応として適切なのは、被告人に記録を一切見せないことでも、依頼者であるという理由ですべての記録を無条件に渡すことでもありません。

弁護人が交付の必要性と範囲を判断し、目的外使用禁止と罰則を具体的に説明し、誓約書等によって指示内容を明確にしたうえで、交付後も管理状況を把握し、必要がなくなれば回収することが重要です。

当事務所では、被告人の防御権を十分に保障しながら、事件関係者の秘密・プライバシーと刑事記録の適正な管理を両立させるという観点から、個々の事件と記録の内容に応じて交付の可否及び方法を判断しています。


参考法令・文献・裁判例