警察の「不審者情報」と、迷惑防止条例違反での被害届提出の有無(痴漢、刑事弁護)
2023年08月20日刑事弁護
弁護士ドットコム頻出の相談として、自分の行為が迷惑行為防止条例の「卑わいな言動」になっていないか、被害届が出されていないかというものがあります。その判断のために、警察の公開する不審者情報を見ていることもあるようです。
この問題については、まず「卑わいな言動」として立件されうる内容かを、条文や前例、近時の取り締まり傾向を踏まえて検討しないといけません。これは具体的ケースを詳しく聞かないといけませんので、ネット相談での判断は困難です。ポイントは、まず外観的行為から判断するということです。
清水康平「実務刑事判例評釈[case299] 大阪高判令元.8.8迷惑防止条例違反の罪の構成要件該当性」(警察公論2020年3月号85頁)がこの問題について詳しいです。
そして、不審者情報に掲載されていないということから、被害届が出ていないと判断することはできません。そもそも、通報があった場合でも、すべて載せられるわけではないです。地域ごとにそれぞれ運用があると思いますので、一概にいうことはできませんが、警察署は広報をする際に戦略的に個別具体的に判断しています。不審者情報を載せることで捜査に支障が生じる可能性があるといった場合は当然載せないでしょうし、関係者の同意が得られないという理由で配信しないということもありえます。
載せない典型的なケースとして考えられるのは、現在捜査中で、不審者をよう撃捜査で捕まえようとしている場合があります。よう撃捜査とは、犯罪を起こしそうな場所にはりこんで現行犯で捕まえる手法です。同種案件が続発している場合などが考えられます。不審者情報がでると警戒して別の地域でやるかもしれませんので。
以下の記述は愛知県のぱとねっとあいちに関する記述ですか、他の県警でもそれぞれ具体的に判断しているはずです。
要するに、不審者情報に掲載されているかどうかということは、捜査上重視されているかどうかを判断する基準にはなりません。
KOSUZO AICHI 2019年2月号 平成31年度愛知SAセレクト 105頁
【性犯罪事案のうち、強制性交等罪、強制わいせつ罪等については、個々の事件は配信しないが、同一手口、同一犯人と思われる事件が多発した場合には、本部主管課と内容を協議し、広報課から情報を配信することが可能である。
また、痴漢については、不審者情報により個人を特定されない内容で配信することが可能である。なお、例えば「児童が胸を触られた」等の場合は「児童が体を触られた」 と記載して配信するなど、配信文は直接的な表現は避けるように留意する。さらに、事案の性質、内容に鑑みて、関係者等の同意を得ることが必要と判断される場合には、同意を得た上で配信する。】
いずれにしても、この種の問題はいくら考えても想像の域を出ないことが多いです。弁護士の面談相談を受けて検討すべきでしょう。