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薬院法律事務所

刑事弁護

ノンアルコールビールと間違えてビールを飲み、酒気帯び運転になったという相談(酒気帯び、刑事弁護)


2024年09月16日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は福岡市内で雑貨店を経営する50代男性です。先日、友人と居酒屋で食事をしました。私は車で来ていたのでノンアルコールビールを注文していたのですが、途中で間違えて通常のビールを飲んでいたようです。検問で止められて酒気帯びといわれたのですが、私は飲酒運転するつもりはありませんでした。お店にもノンアルコールビールを注文した履歴は残っているので、処罰や行政処分を免れないでしょうか。

A、ノンアルコールビールを飲んでいたつもりであったとしても「酔っている」という認識があれば酒気帯び運転は成立します。もっとも、具体的な事情を明らかにしていけば、処罰については、嫌疑不十分ということで回避できる可能性があります。ただし、行政処分については「故意」が不要なため、軽減も難しいと思います。

 

【解説】

 

酒気帯び運転の主観的要件は、酒気を帯びていることを認識していたこと、そして、車両等を運転していることを認識していたことです。なので、酒気帯びの認識がなければ(これは、窃取した飲料が酒であったという認識がないとイコールではないです)、そもそも犯罪は成立しません。酒気帯びの認識は、アルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、アルコール保有量の数値まで認識している必要はありません。

とはいえ、呼気1リットル中に0.3ミリグラム以上のアルコールが保有されている状態であっても、それに気づかなかったとして無罪とされている裁判例も存在するようです(城祐一郎「鑑識・鑑定をめぐる諸問題について~科学と法律の狭間において~(上)」警察学論集70巻12号102頁)城祐一郎『Q&A実例交通事件捜査における現場の疑問〔第2版〕』(立花書房,2017年10月)14頁には、呼気からは1リットルにつき0.39ミリグラムのアルコールが検知された事例につき、第一審と高裁との結論が分かれた事例が紹介されています(平成27年11月6日那覇地裁判決(無罪)及び同28年8月16日福岡高裁判決(有罪)(いずれも公刊物未登載))。

こういった事案の場合は、後掲参考文献のとおり、捜査機関としては「犯意」があることの自白を取得しようとしてきますので、弁護人の助力も得て、しっかりと主張を伝えていくことが大事になります。

 

最判昭和52年3月16日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51832

判示事項
道路交通法一一九条一項七号の二に規定する酒気帯び運転の罪の故意

裁判要旨
道路交通法一一九条一項七号の二に規定する酒気帯び運転の罪の故意が成立するためには、行為者において、アルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、同法施行令四四条の三所定のアルコール保有量の数値まで認識している必要はない。

 

【参考文献】

 

幕田英雄「第6節 酒酔い運転・酒気帯び運転」藤永幸治編集代表『シリーズ捜査実務全書14 交通犯罪(4訂版)』(東京法令出版,2008年4月)251-267頁

253-254頁

【被疑者(運転者)の取調べに当たっては、運転時において、酒気がまだ身体内に残っていたことの認識、又は酒気が残っていたことをうかがわせる具体的状況の認識(乗車時に足下がふらつく感じがしたこと、気分が大きくなったこと、周りがよく見えなくなり運転が困難だったことなど)について供述を得て、これを供述調書化しておくことが重要である。】

https://ci.nii.ac.jp/ncid/BA87079987

 

木村昇一編著『交通事故・事件,交通違反供述調書記載例集〈第6版〉』(立花書房,2021年7月)411頁

【アルコールが体に残っていることの自覚症状についても,例えば,思考の鈍磨,ろれつの回り方,視野の狭まり方,千鳥足のようなふらつき方,自分の酒臭の感じ方,悪酔いによる嘔吐感,口数が多くなるなどのテンションの上り方などを録取すると供述の信用性が高まるので,できるだけ具体的な自覚症状を聴取して録取されたい。】

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3834

 

【参考記事】

 

前夜の酒が残ったまま、朝の「酒気帯び運転」で事故ーーなぜ「無罪判決」が出たのか?

https://www.bengo4.com/c_1009/c_1468/n_3942/

 

「実例捜査セミナー 酒気帯び運転の認識が問題となった事例」前東京地方検察庁検事 村上佐予ほか 捜査研究2017年5月号

酒気帯び運転で酒気帯びの「故意」がないということで嫌疑不十分不起訴になったが、免許取消を回避できないかという相談

酒気帯び運転、行政処分の軽減は可能かという相談(刑事弁護、道路交通法違反)