長崎県迷惑行為防止条例第3条(卑わいな行為等の禁止)の解説・第2回盗撮行為(2)
2025年01月09日刑事弁護
下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。
以下では、前回に続き、長崎県迷惑行為等防止条例(以下「本条例」といいます)第3条(卑わいな行為の禁止)の第2項から第5項までを、これまでの「条例解説のスタイル」を踏襲しながら詳細に解説します。
1. 第3条全体の構造
まず、条例第3条は「卑わいな行為の禁止」を大きく4つの段落(第1項~第4項)と、第5項での“撮影目的のカメラ向け・設置の禁止”という構成をとっています。
- 第1項: 公共の場所・公共の乗物での痴漢行為やのぞき見、卑わいな言動の禁止
- 第2項: 衣服を透かして見る方法による卑わい行為の禁止(主に“透視カメラ”などの特殊機器への対応)
- 第3項: 住居や浴場など、人が衣服を着けない状態でいる場所におけるのぞき見・撮影行為の禁止
- 第4項: 教室や事務所、タクシー等、公共の場所以外の多数利用施設でののぞき見・撮影行為の禁止
- 第5項: 第1項第2号や第2~第4項の「撮影」行為を目的とした機器の向け・設置の禁止
今回は、第2項~第5項について解説します。
2. 第3条第2項
(第3条第2項)
「何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人に対し、みだりに、写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下『写真機等』という。)を使用して、衣服等を透かして見る方法により、衣服等で覆われている人の下着又は身体の映像を見、又は撮影してはならない。」
(1) 規制対象となる「行為」
- 「公共の場所にいる人」や「公共の乗物に乗っている人」が対象。
- いわゆる特殊な撮影機能(赤外線カメラや透視レンズ等)を用いて、「衣服を透かす」形で下着や身体部分を視認・撮影する行為を規制しています。
a. 「衣服等を透かして見る方法」とは
- 赤外線機能、特殊フィルター、透視機能付きビデオカメラなど、普通の目視や通常のカメラでは見えない部分を機器上の効果で可視化・映し出す方法を指します。
- 一般的な盗撮行為(第1項第2号)よりもさらに高度な技術や特別な撮影手段を使うケースを想定した規定です。
b. 「見、又は撮影してはならない」
- 単に画面越しに“下着や身体部分”を映像として見るだけでも違反となり得ます。
- 実際に録画・写真保存しなくても、機器のモニターで透視映像を見た時点で条例違反の可能性があるので注意が必要です。
(2) 「みだりに」行うことが禁止
- 通常、こうした透視機能を医療行為や科学研究目的で使うことは考えにくいですが、仮に正当な理由があれば違反にはなりません。
- しかし実務上、「衣服を透かして見ること」に“正当な理由”があるケースはほぼなく、実際にはほぼ全てが迷惑行為として処罰対象になるとみてよいでしょう。
(3) 典型事例
- 満員電車で赤外線カメラアプリを使い、他人の下着を画面に映し出す
- 公園や商業施設で特殊レンズを使用し、通行人の身体を透かして確認する
- 周囲に気付かれないように、透視映像を動画撮影する
3. 第3条第3項
(第3条第3項)
「何人も、みだりに、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所に当該状態でいる人の姿態をのぞき見し、又は撮影してはならない。」
(1) 対象となる「場所」
- 住居: 個人宅、マンション・アパートの居室など私的空間。
- 浴場: 温泉、銭湯、サウナ等、不特定多数が利用していても、そこでは衣服を脱ぐのが通常。
- 便所: 公衆トイレや私人宅のトイレなど。
- 更衣室: スポーツジム、プールの更衣スペース、試着室など。
- その他人が通常衣服等を脱いでいる状態でいる場所
- たとえば宿泊施設の部屋、病院の検査室など、下着や服を一時的に脱ぎやすい空間も含まれます。
(2) 禁止される行為
- のぞき見
- 隙間や鍵穴、窓、ドアなどから人の裸・半裸の状態を覗き込む行為。
- 撮影
- スマホやカメラで、入浴・着替え中の姿を撮影する行為。
- 動画でも静止画でも違反となります。
(3) なぜ公共の場所とは別に規定されるか
- 住居や浴場といった場所は、プライバシー度合いが非常に高い。被害者への精神的苦痛も大きいので、条例で明示的に厳しく規制しています。
- 同様の行為は刑法(住居侵入罪)などとの関係もあり得ますが、迷惑防止条例でものぞき見・撮影行為自体を処罰し、被害拡大を防ぐ狙いがあります。
(4) 典型事例
- 自宅の窓を外から覗き込んで入浴中の姿を見ようとする
- 銭湯やサウナ、更衣室に隠しカメラを設置して盗撮
- トイレの上や下からスマホを差し入れて撮影
この条項が有効かはひとつの論点です。
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「県法制班との最終調整会議について(全6頁)」(2011年7月14日)
長崎県迷惑行為等防止条例の一部を改正する条例(案)の審査内容について
【(3)第3条第3項
公衆が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所に、当該状態でいる人に対するのぞき見又は撮影を規制しようとするものである。第2項と同様に、「のぞき見」については、軽犯罪法1条23号に類似した規定があり、「法律の範囲内で条例を制定することができる」(憲法第94条)、「法窄に違反しない限りにおいて、条例を制定すること」地方自治法第14条第1項)が問題となる。このことについては、最高裁昭和50年9月10日判決(癒島市公安条例事件)において、「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない」という基準が示されているので、この基準に沿って検討する。
ア趣旨・目的(保護法益)
軽犯罪法第1条第23号が、プライバシーを侵害する抽象的危険性のある行為を禁止し、あわせて性に関する風紀の維持向上を図ることを目的としているのに対し、条例(案)第3条第3項は、公衆力環I用することができる揚所において、人に対してなされる卑わいな行為憲規制することによって、個人の意思及び行動の自由を保護し、善良な風俗環境を保持するものである。よって、条例(案)が軽犯罪法と別の自的に基づく規律を意園するものであり、その適用によって軽犯罪法の規定の意図する目的を阻害することにはならないと者える。
イ内容及び効果(対象)
軽犯罪法第1条第23号が、のぞき見た場所に人がいない場合や、個人の住居等においても犯罪を構成するのに対し、条例(案)は、公衆が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる人がいる場所において(場所の限定)、当該状態でいる人がいる場合(保護対象の限定)に限定されている。
よって、軽犯罪法と条例(案)の間には趣旨、目的、内容及び効果とも矛盾抵触がないので、条例(案)は、法令に違反していないと考える。】
4. 第3条第4項
(第3条第4項)
「何人も、みだりに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、教室、事務所、タクシーその他の不特定又は多数の者が出入りし、又は利用するような場所又は乗物(公共の場所又は公共の乗物を除く。)における衣服等で覆われている人の下着又は身体をのぞき見し、又は撮影してはならない。」
(1) 適用される「場所又は乗物」
- 公共の場所・公共の乗物を除くが、それらとは別に**「不特定又は多数の者が出入り・利用する場所又は乗物」**を対象としています。
- 例:
- 教室: 学校や塾、カルチャーセンターの教室
- 事務所: 一般企業のオフィス、業務用フロア
- タクシー: 公共交通機関に準じるが、条例上は公共の乗物には含めず、別途規定している
- その他、不特定の者が利用する施設(劇場・会議室・スポーツジムの部屋など)
- 例:
(2) 禁止される行為
- 「衣服等で覆われている人の下着又は身体をのぞき見し、又は撮影する」
- 第1項では「公共の場所・公共の乗物」での禁止。
- 第4項は、それ以外の“準公共空間”とも言える場所や乗物における「のぞき見・撮影」を対象とする。
a. なぜこの規定が必要か
- 職場や学校のような場所も、一見「私的空間」に近いですが、実際には多数が利用するセミパブリックな場。
- “公共”に厳密に該当しないとしても、そこで人を性的に撮影すれば被害は深刻であり、条例で規制する必要があります。
(3) 典型事例
- 会社のオフィスで同僚の下着を盗撮
- デスク下にスマホや小型カメラを仕込んで撮影する。
- 教室でクラスメイトのスカート内を覗き撮り
- タクシー車内でドライバーが乗客を盗撮、または乗客が他の乗客の下着を撮影
5. 第3条第5項
(第3条第5項)
「何人も、第1項第2号又は前3項の撮影の目的で、人に写真機等を向け、又は設置してはならない。」
(1) 規制対象となる「行為」
- 「撮影の目的」で写真機等を向けたり設置したりすること自体を禁止
- 実際に撮影ボタンを押さなくても、カメラを向ける・設置の段階で違反が成立し得ます。
(2) なぜ「未遂段階」まで禁止するのか
- 多くの盗撮事件では、隠しカメラをあらかじめ仕込む、あるいはスマホを明らかに不自然な角度に向けるなど、準備行為が発覚の契機になることが多い。
- もし「実際に撮影しなければ罰しない」とすると被害が顕在化しない限り摘発困難となるため、条例は準備行為の段階から取り締まる仕組みを整えている。
(3) 適用範囲
- 「第1項第2号」:公共の場所・乗物で下着や身体をのぞき・撮影する行為
- 「前3項」:第2項・第3項・第4項で規定される透視カメラ撮影や住居・更衣室・教室等でののぞき・撮影行為
- これらの**「撮影」**を目的として「写真機等を向ける」「設置する」行為全般が禁止対象。
6. 罰則・まとめ
(1) 罰則規定(第11条等)
- 第3条違反の罰則: 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(常習は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。
- 特に「撮影行為」が行われた場合はより重くなるかというと、本条例では一律「第3条違反」として扱いますが、常習性があると上限刑が引き上がるため、実務上の量刑も重くなりやすいです。
(2) 実務上の留意点
- 刑法や令和5年に施行された「性的な姿態等撮影罪」(通称「盗撮処罰法」)との関係:
- 悪質性が高い場合、迷惑防止条例ではなく刑法が適用される、あるいは国の新法でより重く処罰されることがある。
- しかし、**比較的軽微な行為や“準備行為”**は条例による摘発が中心となることも多い。
- 被害者が気付かないうちに行われるケースが大半なので、防犯カメラ映像や周囲の目撃、あるいは後日スマホ等を調べて発覚する場合もある。
(3) 本条第2項~第5項の趣旨
- 第2項: 高度な透視撮影への対応。
- 第3項: 私的空間(住居・浴場・更衣室など)でののぞき・盗撮を明示的に禁止。
- 第4項: 「公共」とは言い難いが多数が利用する空間(教室・事務所・タクシー等)でののぞき・盗撮を規制。
- 第5項: これらの撮影行為に向けた“準備行為”(カメラ向け・設置)自体を禁止。
7. 総合まとめ
- 第2項~第4項は、公共空間以外であっても人が多く利用する場所や私的空間での「のぞき見・盗撮」行為を幅広く規制しており、地域住民や滞在者の「性的プライバシー・平穏な生活」を守るための取り締まりを強化する意図がうかがえます。
- 第5項では、実際に撮影される前の**“準備行為”**の段階から規制することにより、被害拡大を未然に防止する効果をねらっています。
- 第1項と同様、処罰されれば前科が付く可能性があるうえ、常習的に行えば法定刑も上がるため、決して軽視できない条例規定といえます。
以上が、長崎県迷惑行為等防止条例第3条第2項~第5項に関する詳細な解説です。条例全体としては、公共空間から私的空間、さらにはカメラ設置行為に至るまで、幅広い態様の卑わい行為を取り締まり、県民・滞在者の安全と安心を確保しようとする仕組みが整えられています。
長崎県迷惑行為等防止条例
(卑わいな行為の禁止)
第3条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人に対し、みだりに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接人の身体に触れること。
(2) 衣服等で覆われている人の下着又は身体をのぞき見し、又は撮影すること。
(3) 前2号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人に対し、みだりに、写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を使用して、衣服等を透かして見る方法により、衣服等で覆われている人の下着又は身体の映像を見、又は撮影してはならない。
3 何人も、みだりに、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所に当該状態でいる人の姿態をのぞき見し、又は撮影してはならない。
4 何人も、みだりに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、教室、事務所、タクシーその他の不特定又は多数の者が出入りし、又は利用するような場所又は乗物(公共の場所又は公共の乗物を除く。)における衣服等で覆われている人の下着又は身体をのぞき見し、又は撮影してはならない。
5 何人も、第1項第2号又は前3項の撮影の目的で、人に写真機等を向け、又は設置してはならない。
【参考文献】※情報公開請求で取得した資料はマスキング有
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課『長崎県迷惑行為防止条例の解説(全42頁)』(2011年11月)
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「県法制班への説明結果について(全3頁)」(2011年6月20日)
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「県法制班との最終調整会議について(全6頁)」(2011年7月14日)
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「法制審議委員会開催結果について(全10頁)」(2011年7月26日)
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課『長崎県迷惑行為防止条例の解説(全42頁)』(2017年1月)
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「長崎県迷惑行為等防止条例の改正作業状況(全4頁)」(2018年2月26日)
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「第1回改正「長崎県迷惑行為等防止条例」に係る長崎地方検察庁との協議結果について(全2頁)」(2018年3月13日)
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「第2回改正「長崎県迷惑行為等防止条例」に係る長崎地方検察庁との協議結果について(全7頁)」(2018年3月28日)
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課『長崎県迷惑行為防止条例の解説(全75頁)』(2018年12月)
長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課『長崎県迷惑行為防止条例の解説(全96頁)』(2021年4月)