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薬院法律事務所

刑事弁護

駐車場での事故、「危険性帯有」で免許が停止されそうという相談(道路交通法違反)


2024年11月19日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、福岡市内に住む30代の会社員です。先日、飲酒運転をして、駐車場内で壁にぶつかる自損事故を起こしてしまいました。壁は壊れていません。救急車を呼ばれて病院に運ばれたのですが、酒気帯びの検査はなされませんでした。入院中に警察官が病院にきて事情聴取をされたのですが、酒気帯び運転については立件しないということで終わりました。ところが、公安委員会から「危険性帯有」で免許を停止するので聴聞をするという通知がきました。聞き慣れないことばでとまどっています。

A、道路交通法103条1項8号に定められた制度です。「前各号に掲げるもののほか、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき。」に免許の停止がなされることがあり、実際に駐車場内での酒気帯び運転で免許が停止されることがあります。免許の停止が死活問題の職業の人は、聴聞でそのことをしっかり主張していくことが必要でしょう。

 

【解説】

点数制度によらない行政処分としては、重大違反唆し等若しくは道路外致死傷又は自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある状態(いわゆる危険性帯有)を理由とするものと一定の病気、身体障害、アルコール・薬物中毒等を理由とするものがあります。相談事例は前者のパターンです。

道路交通法103条1項8号、道路交通法施行令38条5項2号ハと、警察庁交通局長「令和6年8月1日 丙運発第15号 モデル審査基準等の改定について(通知)」を確認すると、相談事例においては、対象者には「イ」の(ア)~(ケ)までに該当する事由がないことから、(コ)の該当性が問題となると考えられます。そこで、本件では①条項(コ)の該当性が認められるか否か、②道路交通法103条1項8号の「免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき。」にあたるかという二段階の判断が必要になります。これは個別具体的な判断になりますが、考慮要素の解説は運転免許研究会『点数制度の実務[9訂版]』(啓正社,2020年12月)がもっとも詳細です。

なお、自転車の危険運転により危険性帯有が認定され、免許が停止された事例も存在するそうです(後掲参考文献参照)。包括的条項ですので、危険性帯有による免許停止の通知が来たときは、道路交通法に詳しい弁護士に相談すべきでしょう。

 

※道路交通法

(免許の取消し、停止等)
第百三条 免許(仮免許を除く。以下第百六条までにおいて同じ。)を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、その者が当該各号のいずれかに該当することとなつた時におけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。ただし、第五号に該当する者が第百二条の二の規定の適用を受ける者であるときは、当該処分は、その者が同条に規定する講習を受けないで同条の期間を経過した後でなければ、することができない。
八 前各号に掲げるもののほか、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき。

https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105#Mp-Ch_6-Se_6

 

※道路交通法施行令

(免許の取消し又は停止及び免許の欠格期間の指定の基準)
第三十八条 免許を受けた者が法第百三条第一項第一号又は第一号の二に該当することとなつた場合についての同項の政令で定める基準は、次に掲げるとおりとする。

5免許を受けた者が法第百三条第一項第五号から第八号までのいずれかに該当することとなつた場合についての同項の政令で定める基準は、次に掲げるとおりとする。
二次のいずれかに該当するときは、免許の効力を停止するものとする。
ハ 法第百三条第一項第八号に該当することとなつたとき。

https://laws.e-gov.go.jp/law/335CO0000000270/

 

※警察庁交通局長「令和6年8月1日 丙運発第15号 モデル審査基準等の改定について(通知)」

21頁

【(コ) 前各号に掲げる場合のほか、その者が自動車等を運転することが道路における交通の危険を生じさせるおそれがあると認められる行為をしたときは、30日以上の期間】

https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/menkyo/menkyo20240801_15.pdf

【参考文献】

運転免許研究会『点数制度の実務[9訂版]』(啓正社,2020年12月)

211-212頁
【危険性帯有に係る行政処分は、危険性帯有の認定を十分検討して行う必要がある。
その者の危険性を認定するためには、まず、運転者としての心理的不適格性すなわち、法秩序無視の心理的傾向の推認できる外形的事由を明らかにしなければならない。すなわち、危険性帯有として問擬される理由となった行為が、自動車等を運転することが道路における交通の危険を生じさせる理由を明らかにすることが重要である。

危険性帯有の認定に当たっての留意事項は、次のとおりである。
ア 危険性帯有として問擬される理由となった行為の実態、
○危険性帯有者自身の行為、加担行為の別
○加担された者が実行した行為の内容、その違法性、危険性
○それらの行為により惹起した事実とその危険性、損害の程度、社会的反響、波及性等を明らかにしておくこと。
イ 危険性帯有者の免許、行政処分の前歴違反歴等の経歴などを明らかにしておくこと。
ウ 危険性帯有者の前科、職業、年齢、学歴、経歴、家族関係、非行歴、暴力団等加入の有無等を明らかにしておくこと。
エ 危険性帯有者の行為又は危険性帯有者が加担して他人が実行し た行為が、刑事(反則)事件として成立したか否か、また、処罰の有無とその種類、程度等刑事(反則)事件としての評価を明らかにしておくこと。
オ その他、その者が運転者としての心理的不適格性を認定し得る資料を明らかにしておくこと。】

 

山本聡「行政処分の現状と当面の課題」(月刊交通2021年5月号(640号))4-15頁

14頁

【(イ) 危険性帯有(危険性帯有者)
危険性帯有については、年々増加傾向にあり、特に処分対象者に運転行為がない「下命容認」、「麻薬等の使用」、「犯人隠避」等の処分も増加傾向にある。
このような状況の中、タクシー業者の運行管理者による速度超過の下命容認事件につき、処分認定の前提となる危険性帯有者の該当性が争われ「……当該免許を受けた者自身が自動車を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある(危険性帯有者に該当する)と推認できるものではない」(大阪高裁:令和元年7月10日)として敗訴した事案が発生している。
危険性帯有の処分は、その者が危険性帯有者に該当していることが必要である。つまり、運転者として違反行為をすることについての規範意識や心理的適性を欠くことが推認できる事由があることが重要であり、これを十分審査し、登録及び処分量定の判断をしなければならない。】

 

那須修『実務Q&A 交通警察250問』(東京法令出版,2021年9月)266頁

【また、危険性帯有の内容は極めて多岐にわたっており、通達で明記されていない場合、例えば、自転車の危険な運転によって交通事故を誘発したような事案において、当該自転車運転者について、免許の効力が停止されたようなこともあります。】

 

【参考裁判例】

大阪高裁令和元年7月10日判例タイムズ1471号24頁

【(3)同25頁16行目から26頁3行目までを「ところで,被控訴人の容認行為は,本件会社の事業上の利益を目的とし,かつ,タクシー乗務員に係る違反行為に関するものである。しかし,被控訴人が自ら自動車を運転するのは通勤その他の私的な場合であり,本件会社の事業上の利益とも,タクシー乗務員の違反行為とも無関係である。そうであるならば,被控訴人が上記容認行為をしても,このことによって,被控訴人の私的な運転についてまで,速度超過その他の違反行為をすることについての規範意識や心理的適性を具体的に欠いていると推認するのには無理がある。ちなみに,被控訴人の処分歴は,本件処分から約2か月後の携帯電話使用等(保持)1件,20年以上前の速度超過2件,約10年前の駐車禁止違反2件である。このうち,携帯電話使用等は本件処分後の事情に過ぎず,被控訴人が容認していた違反行為(速度超過)とは質的に異なる。他は,いずれも相当古い違反歴であって,被控訴人自身が,本件処分当時,速度超過その他の違反行為をすることについての規範意識や心理的適性を欠くことを窺わせる事情に当たるものではない。」に改める。】

【(1)控訴理由について
ア 控訴人は,法75条は,使用者等の容認行為自体を道路交通における危険な行為として禁止しているから,容認行為をした者は道路交通の場における遵法意識が欠如しており,その危険性において当該違法行為を行ったことに変わらないものであって,容認行為自体に道路交通における危険性が包含されているものと認められると主張する。しかし,使用者等が容認行為をしても,そのことによって使用者自身の自動車の運転についてまで,規範意識や心理的適性を具体的に欠いているとまで推認できないことは,原判決を補正の上引用して説示したとおりである。控訴人の上記主張は採用できない。】