文献紹介 「東京地裁労働部と東京三弁護士会の協議会」〈第15回〉労働判例2018年4月15日号
2018年07月20日労働事件(企業法務)
労働判例2018年4月15日号。
「東京地裁労働部と東京三弁護士会の協議会」〈第15回〉が面白かったです。
「解雇訴訟の審理について。長期化している。①解雇理由の主張が五月雨式になる、②専門職労働者の解雇について解雇理由の理解に専門的知見が必要になる、③残業代やパワハラ等が併せて主張されている、④精神疾患ではカルテの提出が、外国人事件では翻訳が必要、メールが大量、⑤労働者が精神疾患でコミュニケーションが取りにくい、⑥和解協議の長期化。裁判所の考える対策は、使用者側が1回目の実質答弁で解雇理由を全て主張してもらうこと」
これに対して伊東良徳弁護士は使用者側は当然出せるはずなので出すべきというコメントで,安西愈弁護士からは能力不足で解雇する事例というのは使用者が我慢に我慢を重ねての事例なので、どこまで会社が配転等をしてれば裁判所が認める良いのかさじ加減がわからず解雇理由が長くなるといったことを述べています。
「残業代請求事件について、補正依頼書のチェックリストを作っている。初動重視型ツール。これを意識してもらいたい。長期化する事例はタコグラフなどで労働時間と休憩時間が争われる。特定の月を抽出するサンプリング方式、一部労働者について算出するチャンピオン方式など。「きょうとソフト」は利用したことがないが審理の迅速化に役立つかも。」
東弁の岩出誠弁護士のコメントとして、サンプリング方式を3人につき検証したところ、原告側で膨大な時間と労力をかけて検証しても、得るものは少ないことが分かった。時効が5年となれば現在のような精密な審理方式は無理になるのでは、とされています。
また、タイムカードやPCのログインログアウト時間について、これが滞留時間等を示すに過ぎず、実際に何をしていたのか労働者に主張立証が求められる運用が定着してきたとのことです。工場労働者の場合は少ないですが、事務系労働者の場合には労働者側から、積極的に社内滞留だけでなく、具体的な労働要件、業務関連性のような要素の主張・立証が必要とされていると感じる、と指摘しています。これに対して西村判事が「具体的な勤務状況とか、日々のルーティンがどういうふうになっているかとか、そういうことを考えながら事実認定をやっていくんだろうと。そういう意味では、労働の実態というところも、当然、裁判所としては意識して判断しておるつもりでございます。」と回答しています。私が労働者側でやる場合、具体的に一日のルーティンを主張するのは当然にやってきましたが、昔はタイムカードがあればそれで良い、という感じもあったのかもしれません。
「精神疾患等を理由とする損害賠償請求事件について。労災認定手続きで業務起因性が肯定されたからといってただちに相当因果関係や安全配慮義務違反が認められるものではない。なので、労災認定の結果を待って手続を進めるということはない。労働者側は安全配慮義務違反の内容を提訴段階で十分に特定すること。電子メールを弾劾証拠として使わずに早期に一括提出すること。セクハラ・パワハラはある程度事実の認定が出来ないと立証責任に基づいて少額の解決金にとどまらざるを得ない。」
石井妙子弁護士から、安全配慮義務違反については、結果があるんだから義務違反があるんだけといわんばかりの主張が目立つとか、診断書は全然信用できないのでカルテが必要だとか、労災認定がされると責任ありというところから和解の話がスタートされるとか、長時間労働があると働かせていて責任はないという主張自体が無理だろうといわんばかりの対応がされるとか、時間把握していないこと自体に過失があるんだろうといわれておかしい、といった不満が述べられています。裁判例でも労災認定はされても、そんなに長時間ではないから責任なしという例もあるので、先入観なしで判断していただきたいという要望でした。逆に言えば、東京地裁の運用はそういったものということかもしりません。
他にも色々と記載はありましたが、とりあえず興味深かったところだけメモです。
https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/rodohanrei/d20180415.html