ひき逃げ事件(救護義務違反)で、運転免許取消処分を回避できないかという相談(交通事故、刑事弁護)
2024年08月29日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、先日狭い道を運転している時に、ドアミラーを歩行者にぶつけてしまいました。咄嗟にまずいと思ったのですが、そのまま走り去ってしまい、30分後に警察に電話をかけたところ、既に被害者から警察に連絡が行っているということでした。歩行者は打撲で全治一週間の診断書を出しているということで、私の事件はひき逃げ事件になると言われました。インターネットを見ると免許が取り消しになるとあるのですが、困ります。なんとかならないでしょうか。
A、過失運転致傷罪・道路交通法違反事件が、嫌疑不十分不起訴となれば、行政処分も回避できる可能性はあります。詳しい弁護士に依頼すべきです。
【解説】
救護義務違反の点数は35点ですので、確実に3年間以上の免許取消処分となります。
そのため、この免許取消処分を回避できないかという深刻な悩みがあります。その場合、まず目指すことは刑事処分を嫌疑不十分不起訴とすることです。
※警視庁 点数計算の原則
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/menkyo/torishimari/gyosei/seido/gyosei16.html
【点数計算は、減点方式ではなく、累積方式をとっています。
点数には交通違反と交通事故のひき逃げなどにつける基礎点数と、交通事故のあて逃げを起こした場合などに一定の点数をプラスする付加点数とがあります。
(注記)平成21年6月1日の道路交通法改正により、交通事故のひき逃げは「基礎点数35点」となりました。
まず、交通違反につける基礎点数は、それぞれの交通違反につけられている点数を累積します。交通事故を起こした時は、事故の種別と責任の程度及び負傷の程度に応じて付加点数が2点から20点までプラスされます。
また、交通事故を起こし救護措置を怠った場合、いわゆるひき逃げの場合は、更にプラスして基礎点数35点、物件事故を起こし措置を怠った場合、いわゆるあて逃げの場合は、5点がプラスされます。
これらすべての点数を合計して、運転者の最後の交通違反等の日を起算日として、過去3年間の累積点によって計算します。】
もっとも、刑事処分が嫌疑不十分不起訴となった場合でも、公安委員会から「救護義務違反」として免許取消処分がある可能性があります。
私は、処分を回避するためには、警察に対しても「ひき逃げ」にあたらないことの意見書を出して、ひき逃げとしての「違反等登録」の対象にならないようにしておくことが大事だと考えています。あまり意識されていないのですが、手続の流れとして、警察署等が認知した交通違反等については、その登録等に必要な関係書類を都道府県警察本部の行政処分担当課が審査のうえ違反等登録を行います。公安委員会の告知・聴聞はその後の手続です(道路交通研究会「交通警察の基礎知識196 行政処分の迅速かつ確実な執行について」月刊交通2019年2月号(611号)82頁)。従って、警察段階で「違反等登録」を回避できれば、免許取消処分の手続まで進まないのです。違反等登録票の作成は通常迅速になされていますが、ひき逃げ事件等の特殊な案件は除かれています(那須修『実務Q&A 交通警察250問』(東京法令出版,2021年9月)277頁)。
末尾の解決事例では、あらかじめ警察署に対しても意見書を出して牽制していたことが効いたのか、ひき逃げ事件として送検されたものの、行政処分はなされずに終わりました。
運転免許取消処分取消請求事件
水戸地判令和4年11月10日D1-Law.com判例体系〔28310159〕
【(5) 刑事処分の内容
原告は、令和2年5月21日に検察庁での取調べを受けた後、同月28日に過失運転致傷罪で略式起訴され、道路交通違反(救護義務違反)について不起訴とされている。不起訴の理由は、必ずしも明らかではないが、嫌疑があるにもかかわらず不起訴とする事由は見当たらず、本件検面調書の内容に照らしても救護義務違反の嫌疑が十分ではないことによるものと推認される。それにもかかわらず、処分行政庁は、その前日の同月27日にひき逃げとの違反行為を認定した上で、本件取消処分及び本件指定処分を行っている。
道路交通法上の行政処分と刑事処分は、目的や手続を異にするものであり、相互に独立した処分であるとの点は、被告の述べるとおりであり、刑事処分と異なる認定に基づいて処分を行ったことが直ちに行政処分の違法を導くものではない。しかし、本件訴訟においても、本件取消処分及び本件指定処分を行うに当たり処分行政庁独自の資料が認定に用いられたとの主張はなく、基本的には刑事記録のみにより処分をされている上、処分行政庁は、刑事処分と極めて近接した日に処分を行っており、行政処分と刑事処分とは全く同様の事情に基づき判断がされているといえる。それにもかかわらず、刑事処分において不起訴とされた救護義務違反を認定して、全く逆の事実認定に基づき行政処分を行うことは、一般市民の立場から見れば強い違和感を覚えることといえる。そして、そのような違和感を伴う不一致が生じることにつき、行政処分と刑事処分の目的の違いという抽象的な理由以外に何らの説明はされていない。少なくとも、行政処分の事実認定が適切なものであるかとの観点においては、刑事処分での認定の結果を勘案することまで禁止されることではなく、同時期にほぼ同一の資料に基づき判断がされた刑事処分で不起訴とされたことは、行政処分の事実認定について疑問を差し挟む事情とはなるということができる。
(6) まとめ
以上によれば、原告の本人尋問の結果や取調べの際の供述から、原告が本件事故時に被害者に本件車両を衝突させたとの認識を有したことを認めるのは困難であるし、被告主張の客観的事情も原告が上記の認識を有したことを認めるには足りないものといわざるを得ない上、原告が本件車両を被害者に衝突させたとの認識を有したことに疑問を差し挟む事情も存する。また、刑事処分の内容からも原告が本件車両を被害者に衝突させたとの認識を有していたと認めることには疑問が残るといわざるを得ず、これらを総合すると、原告が本件事故当時に本件車両を被害者に衝突させたとの認識を有したとは認められないというべきである。
3 本件取消処分取消訴訟の帰趨
そうすると、原告は、救護義務違反の前提となる認識を欠いており、救護義務違反は認められないから、同義務違反があったことを理由として基礎点数35点を付し、累積点数が46点として法103条2項4号の規定に基づいてされた本件取消処分は、違法な処分であり取消しを免れない。】
「点数制度による行政処分事務に関する事務処理要領」の改正について
平 成 3 0 年 1 0 月 3 0 日 警 察 庁 交 通 局 長
https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/menkyo/menkyo20181030_062.pdf
※2025/1/7 chatGPT o1 proで検証してもらいました。
以下の文章は、
「ひき逃げ事件(救護義務違反)で,運転免許取消処分(基礎点数35点)を回避できないか。逮捕や送検をされても“救護義務違反”と認定されないように警察段階で意見書等を提出し,『違反等登録』がされないよう働きかける余地がある。もっとも刑事処分と行政処分は独立しているため,不起訴となっても免許取消がなされる可能性は残る。しかし,適切な弁護活動で“ひき逃げに当たらない”と認められれば,免許取消処分を回避できる場合もある」
といった趣旨の内容を含んでいます。この記述は,実際の道交法運用や近時の判例・警察実務の取り扱いと大筋で合致しており,概ね正しいといえます。以下に検討ポイントを示します。
1. ひき逃げ(救護義務違反)による免許取消処分の仕組み
(1)基礎点数35点の付加
- 道路交通法上,交通事故を起こした運転者には「救護義務」があり,これを怠った場合,通称「ひき逃げ」として一律35点が付加されます。
- 35点の累積は免許取消(3年間再取得不可を含む)対象となり,極めて重い行政処分です。
(2)「救護義務違反」の要件
- 一般に「ひき逃げ」とは,「事故で人を死傷させたにもかかわらず,救護措置(救急車の手配等)や事故報告(警察への届出)を怠る」行為を指します。
- ただし,運転者が**「事故を起こした認識がなかった」などの主張が成り立つ場合,すなわち事故発生を認識していなかった(故意・過失がない)**といった理由で,救護義務違反が成立しない可能性も否定できません。
2. 刑事処分と行政処分の独立
(1)刑事処分(過失運転致傷罪など)と行政処分(免許取消)
- 道路交通法違反の事案では,刑事事件として検察へ送致(ひき逃げの場合は過失運転致傷+救護義務違反など)される一方,行政処分として基礎点数が付加され,免許取消につながる流れが並行して進行します。
- これらは法的には独立しており,たとえ刑事事件が不起訴・無罪でも,行政処分が下される可能性は残る点が重要です。
(2)とはいえ「刑事処分の結果」が参考にされることも
- 実務的には,警察・公安委員会が同じ証拠を元に認定している場合が多く,**刑事で「救護義務違反は証拠不十分」**などの判断が下されると,行政側の認定にも影響する可能性はあります。
- 近時の水戸地判令和4年11月10日のように,「刑事で不起訴になったのに一方的に救護義務違反を認定して免許取消にするのは不合理」とし,取消処分を違法とした事例も存在します。
3. 「警察段階で違反等登録されないようにする」戦略
(1)違反等登録票の作成
- 交通違反等を警察が認知した場合,違反事実を「違反等登録票」に登録し,これが基礎となって行政処分手続に進みます。
- ひき逃げなどの重大事故は,通常迅速に登録されるとされますが,事案によっては「特殊案件」として詳しい検討が行われることがあります。
(2)意見書の提出
- 本文が言及しているように,警察段階で「救護義務違反ではない」と意見書を出しておくことで,違反等登録そのものを抑止し,免許取消処分へ進まないよう働きかける方法があり得ます。
- もちろん,必ず認められるわけではなく,事故状況・証拠次第ですが,実務上,警察・検察が**「事故の認識や故意・過失がはっきりしない」**と判断すれば,救護義務違反(ひき逃げ)を認定しないケースがあるのも事実です。
4. 結論:本文の真偽
- 「ひき逃げ(救護義務違反)は35点で確実に免許取消」
- 法律上正しい(警視庁等公的機関の資料と合致)。
- 「刑事事件が“不起訴”になれば免許取消を回避できる可能性がある」
- これは完全にイコールではないが,実務上,不起訴や嫌疑不十分の認定がなされれば,警察・公安委員会が救護義務違反を認定しない結果,免許取消を回避できる可能性が高まるのは正しい。
- 「警察に対して『ひき逃げではない』と意見書を出し,違反等登録自体を阻止する戦略がある」
- 実務上あり得るし,本文で引用されている水戸地判令和4年11月10日のように,刑事で救護義務違反が認定されなかったのに行政処分を下した事例が取り消された判例もある。
- 「それでもなお,行政処分と刑事処分は独立しているので,不起訴でも取消の可能性は残る」
- 本文もそのように説明しており,これは正確。
したがって,本文の要旨:『ひき逃げ事件で免許取消を回避するには,まず“救護義務違反ではない”と認定されるよう刑事弁護を充実させ,警察への意見書提出などで「違反等登録」を阻止するなどの対応がある』という説明は,法律および実務の運用に照らして概ね正しいといえます。
5. 注意点
- 実際に救護義務違反をしていれば回避は困難
仮に救護義務違反が明確に認められる場合,意見書提出しても処分回避は厳しい。 - 事案ごとの事実認定が最重要
「事故当時に被害を認識していなかった」「現場が暗くて人に当たったとは思わなかった」などの主張が通るかどうかは証拠状況次第。 - 行政処分取消訴訟という道も
もし免許取消処分を受けても,不服申し立てや処分取消訴訟で争う余地がある。ただし時間とコストがかかり,勝てる見込みは事案次第。
まとめ
- 本文の指摘内容(救護義務違反の点数35点・免許取消処分の回避戦略・意見書提出など)は,現行制度の理解と実務上の対処法として正しい。
- 従って,本記事の説明は真実性が高く,根拠ある内容だと評価できます。