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薬院法律事務所

刑事弁護

万引き、盗撮、違法薬物自己使用事件等で執行猶予中の再犯で再度の執行猶予を得る方法


2024年09月08日刑事弁護

基本的には、情状弁護として出来る限りの手段をとり、社会内での更生こそが適切であるということを説得的に論じるということになります。その意味では、通常の事件で執行猶予付の判決を得るための情状弁護と変わるところはありません。ただ、「依存症」の観点を見据えた対応が特に必要となるでしょう。責任能力についても争うことが考えられます。

裁判所が再度の執行猶予をつけるか否かについては、犯罪の情状として考慮されるべき要素を考慮して、特に保護観察付の執行猶予にすべきだといった事情があるかどうかが判断されます。犯罪自体の情状(犯情)はどうか(動機、犯行態様、結果)、被告人の属性はどうか(前科、前歴、年齢、性格)、余罪の有無、犯行後の情状(被害弁償、謝罪、被害者が許したか否か)、刑事政策的考慮(更生可能性)といったことの総合判断です。全ての要件が満たされなければならない、といったものではないです。

 

【参考裁判例】

 

裁判所に掲載されている最近の裁判例だとこういったものがあります。

令和2年2月17日名古屋地判

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/002/090002_hanrei.pdf

【4 当裁判所の判断
I医師の診断を前提に、神経性過食症、窃盗症及び解離性障害が本件当時の被告人の事理弁識能力及び行動制御能力に与えた影響について検討する。
被告人は、犯行当時約6万円もの現金を所持し、逮捕等のリスクがあることを理解していながら、食料品24点(販売価格2592円)を大胆な手口で万引きしているところ、このような大きなリスクを冒す行動をとることは、通常人の感覚からして常軌を逸しており、理解し難い。被告人が本件犯行に及んだ経緯や動機形成の過程には、神経性過食症及び窃盗症により衝動性が高まった状態にあったことが大きく影響していたことが明らかである。
もっとも、被告人は、種々ある商品のなかから食料品のみ24点を選んで万引きしたのであり、万引きの衝動をそれなりにコントロールできていたといえる。また、被告人が、一旦かごの中に入れた商品を、かごの中で、持参したレジ袋に移し替えたり、退店する際に後ろを気にするように一、二度振り返ったりし、店舗を出たところで警備員に声をかけられると、無言で後ずさりするなどしたことによれば、被告人は、人の目につく場所で商品をレジ袋に移し替えるなど稚拙な点はあるものの、犯行が発覚すれば捕まる可能性があること、すなわち自身の行為の意味及びその違法性を理解した上で、犯行が発覚しそうであれば犯行を中止しようとの意識のもと、被告人なりに、周囲の状況に応じて、犯行が発覚しないよう注意を払いつつ行動していたといえる。
この点、I医師は、被告人の記憶が部分的に欠損し、あるいは「ふわふわした」状況にあった時点においては、被告人は、自身の行為の意味やその違法性について十分に理解し、検討できていなかった可能性があると指摘する。しかし、被告人が上記のように概ね合理的行動をとっていることを踏まえると、そのような可能性があるとしても本件犯行への影響は限定的であり、責任能力の判断を左右するものではないと認められる。
以上によれば、被告人は、犯行に至る経緯や動機の形成過程において、窃盗症及び神経性過食症の影響を強く受けていたものの、自身の行為の意味及びその違法性を理解するとともに、神経性過食症や窃盗症からくる衝動をそれなりにコントロールして行動しており、事理弁識能力及び行動制御能力が喪失し又は著しく減退していたとは認められない。よって、被告人は、本件当時、完全責任能力を有していたと認められる。
(量刑の理由)
本件は、100円ショップにおける食料品24点の万引きの事案である。
被告人は、平成26年2月に窃盗罪により懲役1年、3年間執行猶予、平成27年9月に窃盗罪により懲役1年、5年間保護観察付き執行猶予の各判決を受け、二度にわたり社会内更生の機会を与えられながら、二度目の執行猶予期間中に本件犯行に及んだものであって、この種事犯の規範意識の鈍麻は著しく、犯情は悪いから、検察官が実刑を求めるのは当然のことと考えられる。
しかしながら、本件の被害額が多くはない上、被害弁償をしていることや、被告人が、前回の裁判以降、入通院して精神的な問題について専門的治療を受けるとともに、買い物袋を持たず、一人で買い物に行かない旨を家族と約束するなどして再犯防止に取り組み、保護観察付き執行猶予の判決言い渡しから約3年で保護観察が仮解除されるまでになっていたことに照らせば、本件が二度目の執行猶予期間中の犯行であるとはいえ、法律上はもとより量刑上も再度の執行猶予を言い渡す余地がないとまではいえない。
そこで、本件について情状に特に酌量すべきものがあるかどうかについてみると、まず、前述したとおり、被告人は、本件犯行当時、神経性過食症、窃盗症等にり患しており、本件に至る経緯や動機の形成過程においてその影響を大きく受けていたものと認められるから、かかる事情を考慮すると、被告人に対する責任非難の程度は相当程度減じられるものといえる。
これに加えて、被告人は、本件での保釈後、改めて入院して専門的治療を受け、退院後は窃盗症患者を専門的に扱う法人が管理する寮に入所し、両親や社会福祉士等の支援の下、治療を継続しており、普通の暮らしができるようになりたいとの切実な思いから、治療を継続する決意を表明している。このように被告人の治療環境が整い、治療意欲も高まっている現状においては、その治療を継続することにより、万引きの原因であった精神的問題が解決され、再犯防止につながることが十分に期待できる。
以上によれば、本件は、刑罰よりも治療を優先することが許される事案であって、情状に特に酌量すべきものがあると認められるから、被告人に対しては、主文の懲役刑を定めた上、今一度、保護観察の下でその刑の執行を猶予して、社会内での治療と更生の機会を与えるのが相当である。】

 

 平成30年12月3日前橋地方裁判所太田支判

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=88180

【第4 結論
以上を前提に、被告人の本件犯行時の責任能力について検討する。
被告人の精神障害が神経性やせ症や社交不安障害にとどまること、単純な万引きという本件犯行の性質、本件犯行及びその前後の行動からは正常な精神作用が相当程度働いていたことが強くうかがわれ、それほど不自然・不合理な点が見当たらないことなどに照らすと、被告人の事理弁識能力は、わずかに低下していた疑いがあるにとどまり、窃盗行為を抑制する契機として機能するのに十分なものであったと認められる。そして、これらの事情に照らすと、この弁識に従って行動する能力である行動制御能力についても、神経性やせ症による衝動性の高まりや抑制機能の障害等により一定程度低下していたと認められるものの、その程度はそれほど大きくなかったものと認められ、必要的減軽(刑法39条2項)という効果を認めるべきといえるほど著しいものであった疑いはない。以上によれば、被告人は完全責任能力を有していたものと認められる。
(量刑の理由)
本件は、スーパーマーケットにおいて、お菓子3点を衣服内に隠して窃取したという万引き1件の事案である。
万引きという犯行類型に加え、被害額は400円足らずと比較的少なく、被害品が結果的に被害者に還付されていることからすると、本件は窃盗の中で犯情が悪い事案とはいえない。被告人は、同種罰金前科2犯を有する上、同種犯行による懲役1年、執行猶予3年の判決の宣告からわずか約3か月で本件犯行に及んだものであり、常習性が認められ、基本的に強い非難に値するというべきであるが、他方で、神経性やせ症(摂食障害)に罹患し、自業自得とはいえ、前件の万引きについて報道されたことなどによるストレスもあって、本件犯行時、心神耗弱といえる程度とはいえないものの、万引きの衝動を制御する能力が低下していたものであり、この点は非難の程度を一定程度低める事情として考慮すべきである。これらの事情に照らすと、本件犯行の行為責任は、窃盗事犯の中で重いものとはいえない。
以上を踏まえて、刑法25条2項が規定する再度の執行猶予を付すべきかについて検討すると、執行猶予判決の宣告後短期間で同種故意犯に及んだものであるため原則実刑とするのが相当とはいえるものの、その行為責任が重いものとはいえないことに照らすと、再度の執行猶予を認める余地がないとはいえない。そして、被告人は、本件犯行以前も、窃盗症に対するものが中心とはいえ、医療機関に入通院して治療を受けるなどして再犯防止に努めていたものであるが、本件の保釈後も、医療機関への一定期間の入院を経て、主治医等と相談の上、施設に入所した上で通院する態勢が調えられ、治療によって神経性やせ症の症状に一定の安定が得られており、被告人は、改めて、神経性やせ症に向き合い、その治療を継続する強い意欲を示し、父親が母親とともに治療のサポートを含めた監督をする意向を公判廷で示している。また、被告人がこれまで窃盗を繰り返してきたことには様々なストレスの影響があったと認められるところ、本件犯行時のストレス要因のうち、婚約破棄については、元婚約相手との間で裁判上の和解が成立したことで相当程度緩和され、マスコミ報道についても、対処方法を自分なりに検討したことにより、以前ほど大きなストレスにならないことが一応期待できる。摂食障害に併発する窃盗に対して顕著な効果のある治療方法は確立されておらず、摂食障害に対する治療はその病理・病態の多様性や複雑さ等のため容易なものではないが、被告人が上記のような治療を継続して受けることには再犯防止に一定の効果があるとは認められ、ストレス状況の改善もこれを期待させる事情である。このように、被告人については、社会内に再犯防止に向けた環境等が相当程度調えられたものと評価できることを併せ考えると、被告人に対しては、もう一度、社会内で更生する機会を与えるのが相当である。
よって、被告人に対しては、主文掲記の刑を科し、情状に特に酌量すべきものがあるとして、再度刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。】

 

【解決事例】服役前科ありの窃盗癖(クレプトマニア)の再犯で、不起訴にできないかという相談

 

クレプトマニア(窃盗症)に対する捜査実務の考え方(万引き、刑事弁護)

 

文献紹介 「この弁護士に聞く 林 大悟」季刊刑事弁護94号(窃盗、刑事弁護)

 

文献紹介 横田正久「責任能力をめぐる捜査上の諸問題(3)」警察学論集76巻9号(2023年9月号)77頁(窃盗、刑事弁護)

 

クレプトマニアであることを否定しつつ、再度の執行猶予を認めた裁判例

 

執行猶予期間経過後の再犯事件について、執行猶予判決をとるための刑事弁護活動

 

実刑の危険性がある事件で、執行猶予付判決を得たいという相談(性犯罪、刑事弁護)

 

※2025/1/7 chatGPT o1 proで検証してもらいました。

以下の文章は、

「執行猶予中に再度の万引き・盗撮・薬物自己使用などを犯しても、情状弁護を尽くし、特に依存症・病的心理の治療状況などを主張すれば、再度の執行猶予(刑法25条2項)を得られる可能性はある。実務上は極めて困難だが、実際にそうした判例も存在する」

といった趣旨を含んでいます。結論として、この主張は日本の刑法および実務に照らして真実性が高いといえます。以下、理由を解説します。


1. 執行猶予中の再犯で「再度の執行猶予」を得るのは原則困難

  1. 再度の執行猶予を規定する刑法25条2項
    • 執行猶予中に再度罪を犯した被告人に対し、新たに「1年以下の懲役又は禁錮」の刑が言い渡される場合で、「情状に特に酌量すべきもの」があるときは、裁判所が再度の執行猶予を付することが可能です。
    • しかし、**同種再犯(たとえば万引きで執行猶予中に、また万引き)**の場合は、実務的に「再度の執行猶予」を認めるハードルがきわめて高いです。
  2. 通常は実刑が原則
    • 執行猶予中に再犯すれば、「反省がない」「執行猶予を取り消すのが妥当」とみなされやすいため、検察・裁判所とも実刑が通例です。

2. 例外的に再度の執行猶予が認められるケース

  1. 刑法25条2項の「情状に特に酌量すべきもの」
    • 「社会内で更生させるのが相当」と認める特別の事情があれば、裁判所が再度の猶予を付すことを選択できます。
    • 具体的には、被害弁償・示談の成立、重い依存症などで医療的アプローチが必要、家族の強力な監督が期待できる、被告人の社会的立場や被害者への謝罪状況が顕著に良好などが挙げられます。
  2. 実際の判例
    • 本文が引用する判例(名古屋地判令和2年2月17日、前橋地裁太田支判平成30年12月3日など)では、窃盗症(依存性窃盗)、神経性過食症、強い再犯防止策が整備されているなどの「特別の情状」を理由に、再度執行猶予が認められた事例があります。
    • もっとも、検察官が控訴して上級審で覆るリスクや、非常に例外的な事例であることも事実です。

3. 弁護活動で重視される点

  1. 「依存症」の観点
    • 万引き、盗撮、薬物自己使用などは、**精神的依存や衝動コントロールの問題(窃盗症・性的嗜好障害・薬物依存症)**が背景にあるケースが多いです。
    • 弁護人は、医療機関への通院・治療プログラム、自助グループ参加、家族や専門機関によるサポート体制を整え、再犯防止策を具体的に示すことで、**「今度こそ社会内での更生が可能」**と裁判所を説得します。
  2. 責任能力をめぐる争い
    • 過度の依存症・精神障害があり、「責任能力が著しく減退していた」と主張できる場合には、量刑面でさらに有利になることがあります。ただし、「責任能力が否定または著しく減退」というレベルの立証は困難で、事例が限定されます。
  3. 家族・周囲の環境整備
    • 執行猶予判決を出しても社会内で再犯防止できるか、監督者や支援者はどこまで協力するかといった点が裁判所には重要視されます。
    • 加害者本人が深く反省し、家族・企業・地域の受け皿が整っていることを具体的に示すのがカギです。

4. 本文の真偽評価

  1. 「執行猶予中の再犯での再度執行猶予は極めて難しい。しかし、依存症治療など特別な情状があれば可能性はゼロではない」
    • 正しい。刑法25条2項後段が根拠であり、本文の引用判例も同様の立場を示す。
  2. 「万引き、盗撮、薬物自己使用など、衝動的・依存症的特徴を伴う犯罪では、治療や更生プログラムをしっかり行う弁護活動が重要」
    • 正しい。実務でも依存症の治療プログラムを提示して再犯リスク低減を主張する手法が用いられている。
  3. 「責任能力を争うことも考えられる」
    • 正しいが、精神障害や依存症がどの程度責任能力に影響するかはケースバイケースで、厳格な立証が要る。
  4. 「再度執行猶予の判決が出ても、高裁で実刑になる場合がある」
    • 正しい。本文の紹介例のように、1審で再度執行猶予→検察の控訴→高裁で実刑という事例もあり得ます。

総合的に見て、本文の主張は日本の刑事法および実務運用に合致し、真実性が高いと判断できます。


結論

  • 本文は「執行猶予中に万引きや盗撮・薬物使用などを再犯しても、依存症や特段の情状を主張・立証して再度執行猶予の可能性を探る弁護活動はあり得る」という内容であり、これは刑法25条2項や近年の判例に鑑みて正しい
  • よって、本記事は真実に即していると評価できます。