公務員の酒気帯び運転、懲戒免職と退職金不支給を避けたいという相談(刑事弁護、労働事件)
2024年11月10日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市に住む50代の公務員です。お酒を飲むことが好きなので、休日前の金曜日の夜は良く居酒屋で飲んでいるのですが、昨日は12時過ぎまで飲んで、その後家に帰って寝ました。翌日昼過ぎにショッピングセンターに家族と買い物に行くために自動車を運転したのですが、駐車場で歩行者とぶつかってしまい、駆けつけた警察官に呼気検査をされました。基準値の0.15mlを越えているということで、酒気帯び運転と過失運転致傷になるといわれています。こうなると、懲戒免職になって退職金不支給になるのではないかと焦っているのですが、どうにかならないでしょうか。
A、速やかに弁護士に依頼して、まずは刑事処分の回避ができないかを検討することです。近時は飲酒運転に対する処分が厳しくなっています。刑事処分の回避ができない場合には、最高裁判例を踏まえて人事権者と交渉することが必要になることも考えられます。
【解説】
良くある相談です。近時は酒気帯び運転に対する社会の視線は厳しくなっており、懲戒免職処分や退職手当支給不支給処分がなされる可能性も高まっています。こういった場合には、まず酒気帯び運転の刑事処分を回避できるか否かがもっとも重要であり、その上で、仮に回避できないのであれば懲戒処分の指針、裁判例を踏まえた人事権者との交渉が必要になります。刑事弁護事件、労働事件に詳しい弁護士に依頼する必要があるでしょう。
最判令和5年6月27日
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92170
- 判示事項
- 1 職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和元年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号の規定により一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分の適否に関する裁判所の審査
2 職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和元年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号の規定により公立学校教員を退職した者に対してされた一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分に係る県の教育委員会の判断が、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえないとされた事例
- 裁判要旨
- 1 裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一の立場に立って、処分をすべきであったかどうか又はどの程度支給しないこととすべきであったかについて判断し、その結果と実際にされた処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法であると判断すべきである。
退職手当支給制限処分:職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和元年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号の規定により一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分
2 酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受けて公立学校教員を退職した者が、職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和元年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号の規定により、県の教育委員会から、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分に係る上記教育委員会の判断は、上記の者が管理職ではなく、上記懲戒免職処分を除き懲戒処分歴がないこと、約30年間にわたって誠実に勤務してきており、反省の情を示していること等を勘案しても、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえない。
⑴ 上記酒気帯び運転の態様は、自家用車で酒席に赴き、長時間にわたって相当量の飲酒をした直後に、同自家用車を運転して帰宅しようとしたところ、運転開始から間もなく、過失により走行中の車両と衝突し、同車両に物的損害を生じさせる事故を起こすというものであった。
⑵ 上記の者が教諭として勤務していた高等学校は、上記酒気帯び運転の後、生徒やその保護者への説明のため、集会を開くなどの対応を余儀なくされた。
⑶ 上記教育委員会は、上記酒気帯び運転の前年、教職員による飲酒運転が相次いでいたことを受けて、複数回にわたり服務規律の確保を求める通知等を発出するなどし、飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていた。
(2につき、反対意見がある。)
懲戒処分の指針について
https://www.jinji.go.jp/seisaku/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html
4 飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係
(1) 飲酒運転
ア 酒酔い運転をした職員は、免職又は停職とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職とする。
イ 酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職又は停職(事故後の救護を怠る等の措置義務違反をした職員は、免職)とする。
ウ 飲酒運転をした職員に対し、車両若しくは酒類を提供し、若しくは飲酒をすすめた職員又は職員の飲酒を知りながら当該職員が運転する車両に同乗した職員は、飲酒運転をした職員に対する処分量定、当該飲酒運転への関与の程度等を考慮して、免職、停職、減給又は戒告とする。
【参考文献】
警察公論2024年12月号付録『警察実務重要裁判例令和6年版』216頁
【従来の公務員飲酒事案においては、停職処分とされた例や退職金の一部不支給に止められた処分も下級審では少なくなかったところ、本決定は、公立学校の教師という立場にあった被上告人に関する事例判断であるとはいえ、物損事故を起こしたに留まる地方公務員の懲戒免職・退職手当全額不支給処分の合法性を認めた結論において、最高裁判例として重要な意義を有する。
また、それとともに、本判決は、退職手当不支給割合の決定について、裁判官の自由裁量に委ねるのではなく、平素から職員の職務等の実情に精通している退職手当管理機関の裁量を尊重し、同機関の判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められない限りはその裁量が尊重されるべきという判断枠組を示した点でも注目に値する。従って、今後は、同種争訟は、退職手当管理機関の裁量逸脱の有無という点を巡って争われることとなろう。】