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薬院法律事務所

企業法務

就業規則「懲戒解雇の時は退職金を支給しない」の落とし穴


2019年09月26日読書メモ

社労士さんや、企業経営者向けの就業規則豆知識です。
退職金について、「懲戒解雇の場合は支給しない」といった条項が良くあります。あれは、「懲戒解雇事由があるとき」としておくのが大事です。
退職後に横領などが発覚して、退職金を返してもらいたい、というときに大きな違いが出てきます。

★佐々木宗啓ほか編著『類型別労働関係訴訟の実務』(青林書院,2017年8月)390頁

【Q8退職金の支給後に不支給事由が判明した場合,退職金の返還を求めることが可能か。
(中略)
3退職金不支給条項の適用がない場合
以上の議論は,飽くまで労働者について退職金不支給条項に該当する事実が存在することが前提である。 したがって,例えば,退職金不支給条項が「懲戒解雇された者には退職金を支給しない。」 というものであり (実務上, よく見られる条項である。),労働者が懲戒解雇されることなく合意退職又は辞職をした後になって,懲戒解雇に相当する重大な非違行為が発覚したような場合, もはや雇用関係が終了しているので労働者を懲戒解雇することは不可能であり,退職金不支給条項に該当する事実(懲戒解雇の事実)が存在しない以上, たとえ懲戒解雇に値する事由が存在したとしても, 同条項の適用を主張することはできない
(東京地判昭57・11 .22労判397号速報カード7頁〔ジャパン・タンカーズ事件],大阪地判平21 ・ 3 ・30労判987号60頁〔ピアス事件〕等)。 したがって, そのような場合には,
使用者がいったん支払った退職金の返還を請求することは困難ということになる。 この点で,退職金不支給条項が「懲戒解雇されたとき」 (懲戒解雇により退職した場合に限定される) とされているのと 「懲戒解雇事由があるとき」 (懲戒解雇事由があれば,退職事由を問わない) とされているのとでは大きな違いが生じるということになろう。】