性的姿態等撮影罪の解説・第3回不同意わいせつ等盗撮(第二条第1項2号)
2025年01月03日刑事弁護
下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆部分は赤字にしています。
以下では、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」第二条第1項2号の条文について、これまでの解説スタイルに倣い、条文を区切りごとに読み解いていきます。なお、第1項本文や第1号（イ・ロ）については既に解説済みという前提で、本稿では2号を中心に説明します。
条文抜粋
（性的姿態等撮影）
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、
三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等（以下「性的姿態等」という。）のうち、
人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの
（以下「対象性的姿態等」という。）を撮影する行為
イ …（略）
ロ …（略）
二 刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、
同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ
又はその状態にあることに乗じて、
人の対象性的姿態等を撮影する行為
三 …（略）
四 …（略）
２ 前項の罪の未遂は、罰する。
３ 前二項の規定は、刑法第百七十六条及び第百七十九条第一項の規定の適用を妨げない。
１．「第1項2号」の大枠
- 「第2号」は、“刑法176条1項各号に掲げる行為・事由などを利用し、被写体が実質的に拒否できない状態で撮影する行為” を処罰対象にしています。
- すでに第1号（イ・ロ）では「盗撮」的な場面を想定しましたが、2号は、被写体の“拒否が困難”な心理・身体状態に陥れて（あるいはその状態に乗じて）撮影を行うケースを特に罰するものです。
「刑法第176条1項各号に掲げる行為又は事由」
- 旧「強制わいせつ」罪でいうところの**“暴行・脅迫”や“アルコール・薬物影響下”“眠り”“心神喪失”** などの要件を指すイメージです（令和5年改正前の176条参照）。
- 改正後の法体系では、「不同意わいせつ」や「不同意性交等」に相当するような被害者の拒絶が困難な状態をつくりだす行為・事由が列挙されています。
２．第1項2号本文の区切り解説
条文を引用・区切りに分け、意味を見ていきます。
二 刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、
同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ
又はその状態にあることに乗じて、
人の対象性的姿態等を撮影する行為
(1) 「刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、」
- **「刑法176条1項各号」は令和5年改正で「不同意わいせつ」罪などとして整理されましたが、要は被害者が“拒絶できない状況”**を生み出す暴行・脅迫・薬物・意識不明等を指します。
- 例：
- 暴行・脅迫
- アルコールや薬物の影響
- 眠っている
- 虐待、恐怖を起こさせる行為 …等
- 例：
- ここに**「その他これらに類する行為又は事由」**とあるため、改正後の「同意しない意思を形成できない状態」を広く捉えています。
- つまり、被害者が拒絶できないような心理的・身体的状況にあることを指す。
(2) 「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ、又はその状態にあることに乗じて、」
- 「同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態」
- 被害者が「やめて」と言えない、あるいは言っても通用しない・抵抗不可能、といった精神的・身体的な無力化状態を意味。
- 行為者が、たとえば暴行・脅迫や薬物投与によってそうした状態を“させる”ケースもあれば、被害者が「もともと飲酒により意識もうろうとしていた／眠っていた／深刻な障害があり抵抗できない」など、「既にそういう状態にある」場合にも適用されます。
- “乗じて”
- “同意が不可能な状態を利用して撮影する”ということ。
- 被写体の「撮られたくない」という同意しない意思を実質的に封じ、あるいはそもそも形成や表明ができないまま、性的姿態を撮影するので、法益侵害が大きいといえます。
(3) 「人の対象性的姿態等を撮影する行為」
- **「対象性的姿態等」**の定義は第1号本文で述べたとおり、
- 「性的姿態等のうち、人が通常衣服を着けている場所で不特定多数の目に触れることを自ら露出しているもの」を除いた、いわば“真の盗撮対象”。
- 具体的には、イ号の性器・肛門・胸部・下着や、ロ号のわいせつ行為・性交中の姿態をひそかに撮影する場合を指します。
- 2号の場合、その被写体が**“同意しない意思を表明できない”**状態という追加要件が加わるため、さらに処罰の正当性が高いとされます。
３．なぜ2号が設定されているのか
- 1号は「一般的な盗撮行為」（被写体が撮影を知らずに隠された下着や性交中の姿などを盗撮される）を扱いますが、被写体が一応“通常の意識状態”にある可能性が高い。
- 2号は「被写体が意識や身体の抵抗力を奪われた状態」を利用して撮影する行為を、特に悪質な盗撮として処罰するもの。
- たとえば、被害者に無断で酒や薬物を盛って意識をもうろうとさせ、その間に下着や身体を撮影する、などが典型例。
- 実務上は、性的暴行事件でしばしば見られるような、“眠らせた上で、性的行為をする”、さらにその行為を撮影する—という形も想定されます。ここで2号が適用されることで、撮影行為自体を独立に処罰できるわけです（行為者が性行為だけでなく、証拠を残そうと撮影する場合など）。
４．実務上のポイント
- 「刑法176条第1項各号」の内容
- 改正法で「不同意わいせつ」の要件が列挙されました。具体的には、「暴行・脅迫」「アルコール・薬物」「心神の障害」「眠っている」「驚愕」「依存的関係」など多数のパターンがあります。
- 2号の撮影では、これらの手口・状況を利用して被害者が拒否できない、あるいは抵抗を著しく困難にする状態に乗じているかどうかが争点となる。
- 被害者の意思能力
- 被害者が撮影に“同意できたか”が問題になることがありますが、既に合意能力や拒絶能力を奪われている段階だと2号が適用される余地が高い。
- 逆に被害者が十分に意識があり、撮影を容認しているなら処罰されない（第1項冒頭の“正当な理由がない”と絡む可能性は別途考慮が必要）。
- 迷惑防止条例との比較
- 従来、アルコールの影響で被害者が抵抗できない状態を利用しての下着盗撮は、都道府県の迷惑防止条例違反（あるいは強制わいせつ罪など）で対処してきました。
- 本法律2号の規定により、「刑法176条要件該当状態」を利用した撮影は高い法定刑（3年以下の拘禁刑・300万円以下の罰金）で対応可能に。
- 事案の悪質性に応じて、条例ではなく本法2号が適用されるシーンが増えるだろうと予想されます。
- 2号と他号との併合
- 被害者が撮影されるだけでなく、その前後に実際の性的暴行（不同意わいせつや性交等）に及んだ場合、本法2号と刑法上の性的自由犯が重なる可能性があります。併合罪などの観点で刑が加重されることもあり得ます。
- また、第1号の盗撮（普通の盗撮）と第2号の“拒否困難状態を利用した盗撮”が混在する場合も考えられ、捜査や弁護実務で擬律判断に注意が必要です。
５．まとめ
- 「第2号」は、被害者が“撮影に対して同意しない意思を形成・表明できない状態”であることを利用した撮影を処罰対象としています。
- 具体的には、刑法176条各号類型（暴行・脅迫・薬物・眠り・虐待など）により被害者が実質的に抵抗不能or拒否不能に陥っている間に、性的姿態等をひそかに撮影する行為が該当。
- 従来の迷惑防止条例や強制わいせつ罪等でも部分的に処理していた事案ですが、本法で「撮影行為」自体を独立の犯罪として、厳罰を科すことが可能になりました。
- 弁護実務としては、**「被害者が拒否できない状態」**がどの程度立証されるか、また撮影態様や同意の有無・勘違いがなかったか等の争点が重要になるでしょう。
このように、第二条第１項２号は「被害者の拒否困難な状態を利用した盗撮」を取り締まる条文として、1号の単純盗撮よりもさらに悪質な態様を念頭に置き、法定刑3年以下・罰金300万円以下という重い処罰で臨む仕組みを整備しているといえます。
性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000067
（性的姿態等撮影）
第二条次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等（以下「性的姿態等」という。）のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの（以下「対象性的姿態等」という。）を撮影する行為
イ人の性的な部位（性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。）又は人が身に着けている下着（通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。）のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロイに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等（刑法（明治四十年法律第四十五号）第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。）がされている間における人の姿態
二刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
三行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
四正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
２前項の罪の未遂は、罰する。
３前二項の規定は、刑法第百七十六条及び第百七十九条第一項の規定の適用を妨げない。
法務省 性犯罪関係の法改正等 Ｑ＆Ａ 令和５年７月
https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html
【参考文献】
法務省「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案」逐条説明（2023年2月）
浅沼雄介「「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要」法律のひろば76巻7号(2023年10月号)
https://shop.gyosei.jp/products/detail/11718
法令解説資料総覧「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」法令解説資料総覧 No.501 2023年10月号 4-14頁
https://www.fujisan.co.jp/product/1281680199/b/2447558/
梶 美紗「「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要(2)」捜査研究2023年11月号(878号)
https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/202311/
嘉門優「性的姿態の撮影罪等の新設」刑事法ジャーナル78号(2023年11月号)49-57頁
橋本広大「性的姿態画像の没収・消去」刑事法ジャーナル78号(2023年11月号)58-65頁
https://www.seibundoh.co.jp/pub/products/view/14721
警察公論2024年1月号付録論文2024 422～423頁「性的姿態等撮影処罰法の趣旨及び要点」
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3890
浅沼雄介「「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」」警察学論集2024年1月号（77巻1号）
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3894
富山侑美「盗撮行為における迷惑防止条例と性的姿態撮影等処罰法との関係について 最決平成20年11月10日刑集62巻10号2853頁、最決令和4年12月5日裁時1805号7頁を素材として」(上智法學論集 67 (1・2・3), 99-128, 2024-01-20)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050580914958254592
島本元気「「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要(その２)」警察公論2024年2月号
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3893
浅沼雄介ほか「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律について(1)」法曹時報76巻2号(2024年2月号)
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000021780-i32577289
川崎友巳「性的姿態等撮影罪の検討」法律時報2024年10月号(1208号)30-35頁
佐藤拓磨「性的姿態等画像没収・消去制度」法律時報2024年10月号(1208号)36-41頁
https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/9355.html
橋爪隆「性犯罪に対する処罰規定の改正等について(3・完)」警察学論集77巻11号(2024年11月号)102-135頁
https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3945