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薬院法律事務所

刑事弁護

福岡県迷惑行為防止条例第6条第1項(卑わいな行為等の禁止)の解説・第4回盗撮行為(2)


2025年01月05日刑事弁護

下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。

以下では、福岡県迷惑行為防止条例(正式名称「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」)第6条3項について、これまでと同様に条文を区切りながら詳しく解説します。
前回(第6条2項)までは「公共の場所・公衆の目に触れる場所」でののぞき・盗撮等を禁止する規定でしたが、3項ではさらに「住居・便所・浴場・更衣室等の私的空間」でののぞき・撮影を規制する内容になっています。


条文該当部(第6条3項)の再掲

第六条
何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 他人の身体に直接触れ、又は衣服その他の身に着ける物(以下この条において「衣服等」という。)の上から触れること。
二 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。

2 何人も、公共の場所、公共の乗物その他の公衆の目に触れるような場所において、正当な理由がないのに、前項に規定する方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 通常衣服で隠されている他人の身体又は他人が着用している下着をのぞき見し、又は写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下この条において「写真機等」という。)を用いて撮影すること。
二 衣服等を透かして見ることができる機能を有する写真機等の当該機能を用いて、衣服等で隠されている他人の身体又は他人が着用している下着の映像を見、又は撮影をすること。
三 前二号に掲げる行為をする目的で写真機等を設置し、又は他人の身体に向けること。

3 何人も、正当な理由がないのに、第一項に規定する方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所で当該状態にある人の姿態をのぞき見し、又は写真機等を用いて撮影すること。
二 前号に掲げる行為をする目的で写真機等を設置し、又は他人の身体に向けること。


1.第6条3項本文の大枠

1.1 「3項本文:『何人も、正当な理由がないのに、第一項に規定する方法で…』」

  • 「何人も」
    • 1項・2項と同様、すべての人に適用される。
  • 「正当な理由がないのに」
    • 弁護士向けの実務文献等でもしばしば強調されるが、例えば医療行為や公務行為、監視カメラの設置(防犯目的で合理的な範囲内)など正当な業務上の必要があれば当たらない場合もある。
  • 「第一項に規定する方法で」
    • 1項冒頭の「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」を意味する。3項で扱うのは「住居・便所・浴場」等の私的空間でののぞき・撮影行為だが、そのやり方が1項にいう“羞恥・不安を与える態様”であることが要件。

1.2 「次に掲げる行為をしてはならない。」

  • 3項の規制行為が (一)(二) で列挙される。
  • 1項・2項が主に「公共の場所」「公衆の目に触れる場所」での卑わい行為を扱うのに対し、3項は「住居やトイレ、更衣室など私的空間」におけるのぞき・盗撮を禁止している。

2.第6条3項各号の解説

2.1 第6条3項1号

一 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所で当該状態にある人の姿態をのぞき見し、又は写真機等を用いて撮影すること。

(1) 「住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」

  • 住居
    • いわゆる自宅・部屋など。家庭内で衣服を脱いでいることが多い空間。
  • 便所・浴場・更衣室
    • 人が下着や裸になる可能性が極めて高い場所。プライバシー侵害の度合いが大きい。
  • 「その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」
    • 例:サウナ、医療機関の診察室、ホテルの客室など。
    • 要するに、“人が無防備に肌を露出する可能性がある私的空間”を広く包含する趣旨。

(2) 「当該状態にある人の姿態をのぞき見し、又は写真機等を用いて撮影すること。」

  • 「当該状態」
    • 衣服を脱いでいる等の“裸・半裸・下着姿”である状況。
  • 「のぞき見し」
    • 直接目で見る行為。たとえばドアの隙間やカーテンの隙間、仕切りを覗いて裸を見ようとするなど。
  • 「写真機等を用いて撮影すること」
    • カメラ・ビデオ・スマホなどで隠し撮り、いわゆる盗撮を行う行為。
  • 1項・2項より強く保護されているイメージ
    • 公共の場所よりも、こうした私的空間での撮影は被害者のプライバシー・羞恥をより深刻に侵害するため、厳しく取り締まる狙いがある。

2.2 第6条3項2号

二 前号に掲げる行為をする目的で写真機等を設置し、又は他人の身体に向けること。

(1) 「前号に掲げる行為をする目的」

  • 「住居・浴場・更衣室等で裸や下着姿をのぞき見・撮影する行為」をする目的。
  • 実際に撮影が完了していなくても、目的をもって準備(カメラ設置など)を行う段階で違法となる。

(2) 「写真機等を設置し、又は他人の身体に向けること」

  • 「設置」
    • トイレや風呂、更衣室の壁や天井などにカメラを仕込む。
  • 「他人の身体に向ける」
    • 物陰からカメラを差し向ける、ドアの隙間からカメラを構える、など。
  • つまり、「盗撮を行おうとする準備行為」自体も規制して早期に処罰する仕組み。「差向け」や「設置」は、過去の痴漢・盗撮実務でも重要なキーワードだったが、同条例でも明示的に取り締まる条文。

3.なぜ「3項」で私的空間の撮影が別規定になっているのか

3.1 私的空間でのプライバシー保護

  • 公共の場所以上に、住居や浴場などでは被害者の無防備さ・プライバシー侵害の程度が甚大
  • そこで条例上も明示的に別規定を設けて、のぞき・盗撮を禁止している。

3.2 実際の迷惑防止条例改正の経緯

  • 多くの都道府県迷惑防止条例では、従来から「公共の場での盗撮」を規制していたが、近年の改正により**私的空間(トイレ・更衣室・住居など)**での盗撮も広く規制対象に追加するケースが増えた。
  • 福岡県でも、こうした場所での盗撮被害が社会問題化していたため、3項のように「住居・便所等」を明示している。

4.他法令との関係

  • 「性的姿態等撮影罪」(2023年施行)との重なり
    • 「住居や浴場での盗撮」は、より法定刑の重い「性的姿態等撮影罪」でも処罰されうる。
  • 軽犯罪法(1条23号など)
    • 単なるのぞき・つきまとい行為を規制するが、迷惑防止条例の方が包括的かつ罰則も高いケースが多い。
  • 住居侵入罪(刑法130条)との併合
    • 住居に無断で侵入→盗撮を行った場合は住居侵入罪も成立する可能性。
  • 現在は、条例や他法に加え**「性的姿態等撮影罪」**が強化されたため、警察・検察は事案に応じていずれを適用するか判断する。条例の方が準備行為を早期に処罰しやすいなどの違いがある。

5.まとめ

  1. 第6条3項は「住居・便所・浴場・更衣室等の私的空間」でののぞき見・盗撮・カメラ設置を禁止。
  2. 私的空間は被害者が衣服を脱ぐことが前提の場所で、被害者の羞恥やプライバシーがより深刻に侵害されるため、公共の場所とは別の条文(3項)で厳しく規制している。
  3. 実際には、(1) 住居や更衣室内への無断侵入等で刑法犯が併合される場合や、(2) 「性的姿態等撮影罪」が適用される場合もあるため、条文競合・法令競合が起こり得る。
  4. ただし、迷惑防止条例は「設置・差向け」の段階でも処罰可能な点に特徴があり、かつ「準備行為を早期規制」する役割を果たしている。

以上が、福岡県迷惑防止条例 第6条3項(卑わいな行為等の禁止)に関する詳細解説です。これにより、公共の場だけでなく、私的空間(住居や更衣室、トイレ等)でののぞき・盗撮も広く取り締まれるよう設計されています。

 

福岡県迷惑行為防止条例(昭和39年福岡県条例第68号)

https://www.police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/4139/1/meibo.pdf?20190620183453

 

【参考文献】※情報公開で入手した資料は一部マスキング有

 

福岡県警察本部生活保安課「迷惑行為防止条例の改正に関する福岡地方検察庁との協議(事務レベル)について(全28頁)」(2014年6月)

福岡県警察本部生活保安課「福岡地方検察庁に対する協議結果(第2回目)について(全3頁)」(2014年7月2日)

福岡県警察本部生活保安課「福岡地方検察庁に対する協議結果(第1回目)について(全3頁)」(2014年6月20日)

福岡県警察本部生活保安課「福岡県迷惑行為防止条例改正案に係る福岡地方検察庁意見(回答)について(全3頁)」(2014年10月15日)

福岡県警察本部生活保安課「福岡県迷惑行為防止条例の一部改正に係る検察庁協議について(全34頁)」(2014年9月11日)

福岡県警察本部生活保安課「福岡県迷惑行為防止条例の一部を改正する条例(案)に関する協議実施結果について(全23頁)」(2014年9月4日)

福岡県警察本部生活保安課「福岡県迷惑行為防止条例の一部を改正する条例(案)に関する協議実施結果について(全5頁)」(2014年10月9日)

福岡県警察本部生活保安課「知事部局法務班提出資料(全4頁)」(2014年9月5日)

福岡県警察本部生活保安課「条例の適用に関する検察庁協議について(全25頁)」(2014年8月14日)

福岡県警察本部生活保安課「検察庁協議について(全7頁)」(2014年9月5日)

福岡県警察本部生活保安課「検察庁協議について(全5頁)」(2014年9月10日)

福岡県警察本部生活保安課「検察庁意見に係る条例案文修正の会議(全6頁)」(2014年10月9日)

福岡県警察本部生活保安課「10月10日検察庁送付資料(全5頁)」(2014年10月10日)

福岡県警察本部『生安部報特別号 福岡県迷惑行為防止条例一部改正特集号』(福岡県警察本部,2015年5月)

福岡県警察本部「検察庁との協議結果について(報告)(全21頁)」(2018年7月19日)

福岡県警察本部「検察庁との協議(2回目)結果について(報告)(全63頁)」(2018年8月28日)

福岡県警察本部「福岡地方検察庁に対する協議書の作成について(伺い)(全72頁)」(2018年10月25日)

福岡県警察本部「検察庁との協議(3回目)結果について(報告)(全6頁)」(2018年12月5日)

福岡県警察本部「福岡地方検察庁に対する協議書の作成について(伺い)(全73頁)」(2018年12月20日)

福岡県警察本部「検察庁との協議(4回目)結果について(報告)(全6頁)」(2019年1月4日)

福岡県警察本部「福岡地方検察庁に対する再協議書の作成について(伺い)(全12頁)」(2019年1月8日)

福岡地方検察庁検事正堀嗣亜貴「罰則の定めのある条例の制定について(回答)(全1頁)」(2019年1月11日)

福岡県警察本部『生安部報特別号 福岡県迷惑行為防止条例逐条解説』(福岡県警察本部,2019年5月)

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