佐賀県迷惑行為防止条例第3条(卑わいな行為等の禁止)の解説・第4回盗撮行為等(2)
2025年01月07日刑事弁護
下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。
以下では、佐賀県迷惑行為防止条例(以下「本条例」といいます)第3条第3項本文およびその各行為態様について、これまでの「条例解説のスタイル」を踏襲して詳説します。
1. 第3条(卑わいな行為の禁止)全体の位置づけ
本条例第3条は、公共の場所等における卑わい行為(痴漢行為・のぞき見・盗撮など)を規制する主要条文です。
- 第1項: 公共の場所等における身体的接触行為、卑わいな言動を対象
- 第2項: 公共の場所等や特定多数の者が使用する場所等における「のぞき見・盗撮」行為を対象
- 第3項: 住居、浴場、便所、更衣室など、人が通常衣服等を脱いでいる場所における「のぞき見・盗撮」行為を対象
第3項は、よりプライバシー保護の要請が強い「私的空間」での盗撮やのぞき見を禁止しており、とくに「裸や半裸になりやすい場所」における迷惑行為を取り締まるための条文といえます。
2. 第3条第3項本文
(第3条第3項本文)
「何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所に当該状態でいる人の姿態をのぞき見し、写真機等を使用して撮影し、又は当該姿態を撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。」
(1) 規制対象となる「場所」の範囲
- 住居: 個人の家、アパート、マンションの一室など。
- 浴場: 銭湯や温泉施設、サウナなど、不特定又は特定多数が利用する公衆浴場・旅館の大浴場等を含む。
- 便所: 駅や商業施設、会社内にあるトイレ等
- 更衣室: 水泳プールやスポーツジム、試着室など
- 「その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所」
- 病院の検査室や診療室など、下着を脱いでいる可能性のある場所もこれに含まれる場合があります。
- カプセルホテルの個室や宿泊施設の個室など、「一部あるいは全裸になりうる空間」も該当することがあり得ます。
本項は、上記のように私的空間に準ずる場所であって、一般的に人が「裸・半裸」になることが多い場所をカバーしており、公共の場所よりも一層厳格に保護される状況といえます。
(2) 「当該状態でいる人」とは
- 「衣服等の全部又は一部を着けない状態」でいる人。
- 例: 入浴中、用を足している最中、着替えの最中で下着や服を脱いでいる状態など。
- こうした「裸又は半裸」の状態は、非常にプライバシー度が高く、のぞき見や盗撮による被害が深刻化しやすいと言えます。
(3) 「正当な理由がないのに」とは
- 医療行為のための検査・介助、介護、保護者による幼児のお世話など、「社会生活上、正当とみられる行為」であれば違反になりません。
- 一方、「知人の家に勝手に侵入して盗撮する」「銭湯の脱衣所に隠しカメラを仕込む」「トイレ個室を外から覗き込む」といった行為は、正当理由が認められるはずもなく、本条違反となりうる典型例です。
3. 禁止される行為態様
第3項本文では、以下の行為が明示的に禁止されています。
- のぞき見
- 写真機等を使用して撮影
- 当該姿態を撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置
(1) のぞき見
- 「のぞき見」: 物陰や隙間、ドアの切れ目、盗撮用の小さな穴などから、人が裸または下着を着けていない状態を覗き込む行為。
- 入浴や排泄、更衣中の姿態を故意に目視しようとする行為が対象となります。
- この点は軽犯罪法1条23号との抵触が問題になります。
(2) 写真機等を使用して撮影
- 「写真機等」: スマートフォン、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の撮影機能がある機器全般(第3条第2項と同じ定義)。
- 裸や下着を着けていない身体を撮影する行為は、強い性的プライバシーの侵害をもたらすため、条例で厳しく禁止されています。
(3) 撮影目的で写真機等を向け、又は設置
- 実際に撮影が完了していなくても、「撮影しようとしてカメラを向ける」「隠しカメラを設置する」段階で違反が成立します。
- いわゆる「盗撮準備行為」の取り締まり規定であり、被害が顕在化する前に摘発する狙いも含まれています。
4. 典型事例
- 住居の窓を外から覗き込む
- 夜間に窓を外からこっそり覗いて、入浴や着替えをしている姿を確認しようとする。
- 浴場の脱衣所や浴室内での盗撮
- スマホカメラをタオルなどで隠しながら撮影する。ロッカー上に小型カメラを仕込み、着替えの様子を盗撮する。
- トイレ個室の上や下から覗き込む・撮影する
- パーティションの隙間から無断で撮影したり、隣の個室から手やカメラを差し込んで撮影するなど。
- 更衣室での隠しカメラ設置
- 貸切バスの車内トイレや更衣室に小型カメラを貼り付け、乗客・利用者の下着や身体を録画する。
5. 刑法その他法律との関係
- 刑法上の住居侵入罪・建造物侵入罪、わいせつ目的侵入罪などとの競合があり得ます。
- また、2023年(令和5年)に施行された「性的姿態等撮影処罰法(盗撮処罰法)」でも、こうした場所での撮影行為が対象となり、より重い法定刑で罰せられる場合があります。
- 事案の悪質性が高ければ、条例を適用するよりも刑法や盗撮処罰法で立件されるケースも多いと考えられます。
6. 罰則・処罰
- 第11条により、第3条違反は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科される可能性があります。
- ただし、常習の場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に加重(第11条第2項)。
- 刑法や盗撮処罰法に比べると法定刑は低めですが、条例違反の有罪判決でも前科が付くため、社会的影響は軽視できません。
7. まとめ
- 第3条第3項は、人が通常衣服等を脱いでいるような場所(住居、浴場、便所、更衣室など)での「のぞき見」「盗撮」「撮影準備行為」を全面的に禁止する規定です。
- 公共の場所等での行為を規制する第1項・第2項よりも、さらにプライバシーや身体の自由を重視した条文であり、被害者の性的プライバシー侵害を未然に防ぐ目的があります。
- 条例違反であっても罰則は厳しく、常習性があれば加重処罰となります。また、状況によっては刑法や盗撮処罰法が適用される場合も少なくありません。
- 「盗撮準備行為」も包含するため、実際の被害が生じる前に摘発しうる点が特徴です。これによって、性的プライバシーをめぐる深刻な被害を抑止することが期待されています。
以上が第3条第3項の詳細解説となります。人が衣服を脱ぐ場面は極めてプライバシー性が高く、当該空間でののぞき見・盗撮行為は被害者に重大な精神的苦痛を与えるため、厳重な規制が敷かれている点が本項の大きな特徴です。
佐賀県迷惑行為防止条例
https://sy.pref.saga.lg.jp/kenseijoho/jorei/reiki_int/reiki_honbun/q201RG00001111.html
(卑わいな行為の禁止)
第3条 何人も、公共の場所等において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から又は直接人の身体に触れること。
(2) 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、公共の場所等又は特定多数の者が使用する場所等(事業所、学校その他の特定かつ多数の者が使用する場所又は貸切バスその他の特定かつ多数の者が使用する乗物をいう。)において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服等で覆われている人の下着又は人の身体をのぞき見すること。
(2) 衣服等で覆われている人の下着又は人の身体を写真機、ビデオカメラ、撮影機能を有する携帯電話機その他の機器(以下「写真機等」という。)を使用して撮影すること。
(3) 衣服等で覆われている人の下着又は人の身体を撮影する目的で写真機等を向け、又は設置すること。
3 何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所に当該状態でいる人の姿態をのぞき見し、写真機等を使用して撮影し、又は当該姿態を撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。
(平22条例24・追加、平25条例50・平29条例32・令5条例29・一部改正)
【参考文献】※情報公開で入手した資料は一部マスキング有
佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第1回)(全3頁)」(2017年4月7日)
佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第2回)(全3頁)」(2017年4月17日)
佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第3回)(全9頁)」(2017年4月25日)
佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第4回)(全13頁)」(2017年5月26日)
佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第5回)(全22頁)」(2017年6月29日)
佐賀県警察本部長「条例改正に関する協議について(全17頁)」(2017年6月29日)
佐賀地方検察庁検事正「罰則規定に関する協議について(回答)(全1頁)」(2017年7月31日)
佐賀県警察本部「佐賀県迷惑行為防止条例逐条解説」(2017年12月)