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薬院法律事務所

刑事弁護

強制採尿令状を提示されたので、「任意で提出する」と説明したのに無理やり強制採尿されたという相談(大麻、刑事弁護)


2026年01月24日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は福岡市に住む20代会社員です。繁華街で警察官から職務質問を受けて、大麻を持っていたことから現行犯逮捕されました。これは仕方ないのですが、警察から尿を出して欲しいと言われたことは断りました。大麻所持だけでなくて、大麻施用罪までつくと罪が重くなると思ったからです。ところが、警察官は「強制採尿令状」を持ってきて、病院まで連れて行こうとしたので、私は観念して「もう尿を出しますので勘弁してください。」とお願いしたのですが、無理やり病院まで連れていかれて、押さえつけられてカテーテルを入れられました。警察は令状が出ているし、医者がやっているから違法ではないというのですが、納得できません。

 

A、一般的には、捜査機関が強制採尿令状を取得した場合にも、任意提出の説得をするようになっています。また、文献を見ると、強制採尿令状の執行にあたっても、任意提出が可能であればそれによるべきとするものもあります。もっとも、強制採尿令状が出ている場合では任意提出が困難という裁判官の判断があるわけですから、口頭で「任意提出をする。」と言っていたとしても必ずしも強制採尿が許されないものではないでしょう。具体的な経緯が重要になりますので、詳しい弁護士に相談すべきだと思います。

 

【解説】

 

一般論として、強制採尿は、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続きを経てこれを行うことが許されるとされています(昭和55年10月23日最高裁第一小法廷決定最高裁判所刑事判例集34巻5号300頁)。

最判昭和55年10月23日

https://www.courts.go.jp/hanrei/50210/detail2/index.html

ここでポイントになるのは、同判例は「(4)同日夕刻鑑定受託者である医師Bは、強制採尿に着手するに先立ち、被告人に自然排尿の機会を与えたのち、同日午後七時ころ、同署医務室のベツド上において、数人の警察官に身体を押えつけられている被告人から、ゴム製導尿管(カテーテル)を尿道に挿入して約一〇〇CCの尿を採取した。」というものであり、最高裁も「ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。」としています。ここでは、強制採尿に先立ち必ず自然排尿の機会を与えることを必須とまでは書かれていませんが、捜査機関においては原則として自然排尿の機会を与えるのが実務です。
文献を見ると、任意提出の機会を与えなかった場合に違法となる場合があるとするものもありますが、私の把握する範囲では、強制採尿令状の執行段階で「尿の任意提出の機会を与えなかった」ことの適法性が争点となった裁判例は見当たりません。

 

【参考文献】

 

中山隆夫「強制採尿」

佐々木史郎ほか編『警察関係基本判例解説100(別冊判例タイムズNo.9)』(判例タイムズ社,1985年11月)125-129頁

【また、令状が発付された後も、その旨告知するなどして、改めて任意排尿の機会を与えるべきであり、これを怠り、直ちに令状を執行したような場合には、違法とされる余地も生じ得よう(もっとも、強制採尿が判例上認知されたことによって、徒に尿の提出を拒否する者は激減することが予測され、本決定は、捜査実務におけるそのようなプラクティスの定着を意図したものとの見方もできる。)】(128頁)

https://www.hanta.co.jp/books/3284/

 

藤永幸治編集代表『シリーズ捜査実務全書8 薬物犯罪(第2版)』(東京法令出版,2006年8月)126頁

【また、尿の提出を拒んでいても、捜索差押許可状の発付を知ると、任意の提出に応じる場合も多く、捜索差押許可状の発付を得た上で、最後の説得を試みることも、必要である。】(渡辺咲子)

https://www.tokyo-horei.co.jp/sousajitsumu8/

 

安冨潔「実務のための捜査手続法ノート(12)強制採尿・強制採決」(月刊警察305号37頁,2009年2月)

【(5)強制採尿令状の執行
強制採尿に当たっては,裁判官によって発せられた条件付捜索差押許可状によるが,令状の執行については,原則として令状発付の旨を告げて任意に提出するように説得してから行うべきである。
被疑者が説得に応じて任意に尿を提出した場合には,令状を執行することなく,領置手続をとることとなる。
ただ,令状が発付されている旨の告知又は当該令状を示されて,被疑者が尿を提出するに至った場合には,任意提出のようにもみえるが,実質的には,カテーテルを用いた強制採尿を避けたいからであって,意思を制圧された状態での尿の提出というべきで,令状による差押えと解される。】(41頁)

 

※私は、覚せい剤取締法違反事件で令状発付が違法であるという認定を得たことがあります(福岡地判令和2年12月21日最高裁判所刑事判例集76巻4号430頁)。国選弁護事件で、前例のない論点での違法収集証拠を主張し、強制採尿令状発付の違法が認定されました。一審は有罪判決でしたが、高裁では別の弁護人が就任して無罪判決となっています。最高裁では逆転有罪となっていますが、全ての審級で令状の発付が違法と認定されています。
最判令和4年4月28日

https://www.courts.go.jp/hanrei/91131/detail2/index.html

大麻所持・自己使用事件弁護要領

職務質問を受けて、警察署に連れて行かれた後、強制採尿をされたという相談(大麻、刑事弁護)

【解決事例】覚せい剤取締法違反(使用)で違法捜査の認定を獲得