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薬院法律事務所

刑事弁護

軽傷ひき逃げ事件、免許取消回避のためには、いつの時点で弁護士に依頼すべきかという相談


2026年02月18日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は、東京都で会社を経営しているものです。先日、住宅街を運転しているときに自転車と軽く接触したのですが、自転車の運転者がそのまま立ち去ったので何事もなかったということで立ち去りました。ところが、後日警察から連絡があり、自転車の運転者が実は捻挫をしていたということでひき逃げだと言われました。通報しなかったことは反省していますが、保険でちゃんと弁償をしており、自転車の運転者からも処罰は望まないといわれています。気になるのは刑事罰より免許取消の方で、罰金は払ってもいいのですが、免許取消は困ります。弁護士費用を節約したいので、行政処分対応だけ弁護士に依頼することを考えていますが、どうでしょうか。

A、行政処分段階で依頼をしても、免許取消という結果を覆すことは困難です。刑事弁護の段階から依頼をして、「違反等登録」をされることを防ぐことが大事です。

 

【解説】

 

私は軽傷ひき逃げ事件の刑事弁護を受任することが多いですが、刑事罰よりも行政処分(免許取消 )を気にされている方が多いです。しかし、行政処分段階で対応しようとした場合には、既に警察が一度「ひき逃げ」と認定していることから、意見の聴取手続きでは覆せない可能性が高いです。私は、刑事弁護の段階での依頼をお勧めしています。

あまり意識されていないのですが、手続の流れとして、警察署等が認知した交通違反等については、その登録等に必要な関係書類を都道府県警察本部の行政処分担当課が審査のうえ違反等登録を行います。公安委員会の告知・聴聞はその後の手続です(道路交通研究会「交通警察の基礎知識196 行政処分の迅速かつ確実な執行について」月刊交通2019年2月号(611号)82頁)。
従って、警察段階で「違反等登録」を回避できれば、免許取消処分の手続まで進まないのです。違反等登録票の作成は通常迅速になされていますが、ひき逃げ事件等の特殊な案件は除かれています(那須修『実務Q&A 交通警察250問』(東京法令出版,2021年9月)277頁)。重大事故であれば迅速に仮停止がなされますが、軽傷事故の場合は、私の取扱い経験上、違反等登録は遅めになります。また、刑事処分について、嫌疑不十分不起訴を獲得することは、運転免許取消処分を回避することにも繋がります。刑事処分の対応も不可欠です。

 

※道路交通法

(意見の聴取)
第百四条 公安委員会は、第百三条第一項第五号の規定により免許を取り消し、若しくは免許の効力を九十日(公安委員会が九十日を超えない範囲内においてこれと異なる期間を定めたときは、その期間。次条第一項において同じ。)以上停止しようとするとき、第百三条第二項第一号から第四号までのいずれかの規定により免許を取り消そうとするとき、又は同条第三項(同条第五項において準用する場合を含む。)の処分移送通知書(同条第一項第五号又は第二項第一号から第四号までのいずれかに係るものに限る。)の送付を受けたときは、公開による意見の聴取を行わなければならない。この場合において、公安委員会は、意見の聴取の期日の一週間前までに、当該処分に係る者に対し、処分をしようとする理由並びに意見の聴取の期日及び場所を通知し、かつ、意見の聴取の期日及び場所を公示しなければならない。
2 意見の聴取に際しては、当該処分に係る者又はその代理人は、当該事案について意見を述べ、かつ、有利な証拠を提出することができる。
3 意見の聴取を行う場合において、必要があると認めるときは、公安委員会は、道路交通に関する事項に関し専門的知識を有する参考人又は当該事案の関係人の出頭を求め、これらの者からその意見又は事情を聴くことができる。
4 公安委員会は、当該処分に係る者又はその代理人が正当な理由がなくて出頭しないとき、又は当該処分に係る者の所在が不明であるため第一項の通知をすることができず、かつ、同項後段の規定による公示をした日から三十日を経過してもその者の所在が判明しないときは、同項の規定にかかわらず、意見の聴取を行わないで第百三条第一項若しくは第四項の規定による免許の取消し若しくは効力の停止(同条第一項第五号に係るものに限る。)又は同条第二項若しくは第四項の規定による免許の取消し(同条第二項第一号から第四号までのいずれかに係るものに限る。)をすることができる。
5 前各項に定めるもののほか、意見の聴取の実施について必要な事項は、政令で定める。

https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105#Mp-Ch_6-Se_6-At_104

 

交通犯罪弁護要領(救護義務・報告義務違反の例)

 

【参考文献】

 

高山俊吉「交通事件の弁護活動」日本弁護士連合会『令和5年度研修版現代法律実務の諸問題』(第一法規,2024年8月)497-522頁

【道路交通法一○四条には、意見の聴取や聴聞など、そのような行政処分に対する弁明を聞く場面で、当事者や代理人や補佐人などは、その当事者に有利な証拠を提出することができる。また、専門家の知見を必要とすると判断するときには、そのような人に判断を求めたり、そのような人自身を意見聴取の場などに同道することも認められるというようなことが書いてあります。しかし、そこでそのような審理が相応の期間をかけて行われたという事例を、私は聞いたことがありません。まず、ほとんどの事例で、本人を呼び出して弁明を聞いたその日に、結論が出されます。一時間半、二時間ぐらい後にはもう判決が出る。そして、判決理由はいっさい発表されないのです。…一○四条の二項三号という条項を、ご覧いただきたい。これが全く機能していません。「全く」という言葉を、私はあえて使いますが、これは大変重大なことだと思います】(518頁)

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