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薬院法律事務所

刑事弁護

報道発表を避けるために弁護人ができること


2026年06月01日器物損壊

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

Q、私は会社員です。先日、警察から刑事事件の被疑者として取調べを受けました。逮捕はされておらず、現在は在宅事件として捜査を受けています。

警察からは、今後また呼び出すと言われています。私は前科前歴もなく、仕事も家族もあります。もし実名で報道されれば、勤務先に知られ、家族にも大きな迷惑がかかります。インターネットに名前が残ると、転職や子どもの将来にも影響するのではないかと不安です。

弁護士に依頼すれば、警察の報道発表や実名報道を避けることはできるのでしょうか。

A、弁護士に依頼したからといって、警察の報道発表や実名報道を必ず止められるわけではありません。報道発表をするかどうか、実名で発表するかどうかは、最終的には警察側の判断です。

もっとも、弁護人ができることはあります。

特に重要なのは、逮捕を避けることです。逮捕事件の場合、警察が報道機関に発表する可能性が高くなります。一方、在宅事件で進んでいる場合には、事件の内容や被疑者の属性、捜査状況、被害者側の意向、社会的関心の有無などを踏まえて、報道発表するかどうか、実名にするか匿名にするかが個別に判断されることがあります。

そのため、報道発表を避けたい場合には、まず逮捕回避の弁護活動を行い、そのうえで、警察署長又は警察署の広報責任者宛てに、報道発表を控えてほしい、少なくとも実名での発表は控えてほしいという意見書を提出することが考えられます。

また、単に「報道しないでください」とお願いするだけでは不十分です。本件を報道発表する公益性が低いこと、実名発表による不利益が過大であること、被害者や関係者のプライバシーにも配慮が必要であること、再犯防止策や示談交渉などが進んでいることを、資料とともに具体的に示す必要があります。

 

【解説】

1 報道発表は、刑事処分とは別の重大な不利益です

刑事事件では、不起訴、罰金、執行猶予、無罪といった刑事処分の結果が重要です。

しかし、実際には、それだけではありません。

逮捕されたことや、被疑者として捜査を受けていることが報道されると、刑事処分の結果が出る前に、勤務先、取引先、学校、家族、近隣、インターネット上の不特定多数の人に知られてしまうことがあります。

しかも、後に不起訴になったとしても、「逮捕された人」「事件を起こした人」という情報だけがネット上に残り続けることがあります。検索結果、まとめサイト、SNS、匿名掲示板、ニュース記事の転載などによって、刑事処分そのものより重い社会的不利益を受けることもあります。

特に、会社員、公務員、医師、教員、士業、会社役員、学生、地域で知られた職業の方などの場合、実名報道は仕事・家族・社会生活に深刻な影響を与えます。

刑事弁護では、単に刑事処分を軽くするだけでなく、こうした社会生活上の不利益をできる限り抑えることも重要です。

2 報道発表を完全に止める権利があるわけではありません

まず前提として、被疑者側に「警察に報道発表を絶対にさせない権利」が明確に認められているわけではありません。

警察による報道発表は、事件の発生・検挙を社会に知らせるという公益的な側面を持っています。たとえば、連続事件、重大事件、社会的関心の高い事件、注意喚起が必要な事件、公共性の高い事件では、警察が報道発表をする必要性があると判断することがあります。

一方で、報道発表には、被疑者や家族、被害者、関係者の名誉・プライバシーを大きく侵害する側面もあります。特に、まだ有罪判決が確定していない被疑者段階で実名が公表されることは、その人の人生に回復困難な不利益を与えることがあります。

そのため、報道発表は、本来、公益性と不利益を比較衡量して判断されるべきものです。弁護人としては、この比較衡量の中に、被疑者側の事情をきちんと届けることになります。

3 最も重要なのは、逮捕を避けることです

報道発表を避けたい場合、最も重要なのは逮捕を避けることです。

逮捕事件の場合、警察が報道機関に対して発表する可能性が高くなります。特に、逮捕直後に氏名、年齢、職業、住所地、容疑内容が発表されると、新聞、テレビ、ネットニュースに掲載されるリスクが生じます。

一方、逮捕されずに在宅事件として進んでいる場合、報道発表されないこともあります。仮に発表される場合でも、匿名又は概要のみの発表にとどまる可能性もあります。

したがって、報道発表を避けるためには、まず逮捕の必要性がないことを警察・検察・裁判所に示すことが重要です。

具体的には、次のような事情を整理します。

・被疑者の氏名、住所、勤務先、家族関係が明らかであること
・逃亡のおそれがないこと
・証拠隠滅のおそれがないこと
・警察からの呼出しに応じていること
・取調べや証拠提出について、適切な方針を立てて対応していること
・身元引受人がいること
・被害者との接触をしない体制を作っていること
・スマートフォン、パソコン、関係資料など必要な証拠保全に協力できること
・示談交渉や被害回復を進めていること
・再犯防止策を講じていること

これらを、単なる口頭説明ではなく、意見書、身元引受書、誓約書、資料などの形で提出することがあります。

弁護士に依頼したから必ず逮捕が避けられるわけではありません。しかし、何もしない場合と比べて、逮捕の必要性がないことを具体的に示すことができます。

4 在宅事件でも、送検時に報道発表されることがあります

逮捕されていない在宅事件であれば、必ず報道されないというわけではありません。

在宅事件でも、書類送検のタイミングで報道発表されることがあります。特に、被疑者が公務員、教員、医師、士業、有名人、会社役員などである場合、事件の性質によっては報道対象になることがあります。

また、事件そのものが軽微であっても、職業や立場によって「社会的関心がある」と判断されることがあります。たとえば、公務員の盗撮、教員の児童生徒に関する事件、医療従事者の薬物事件、会社役員の業務上横領、交通関係職種の飲酒運転などでは、報道されるリスクが高くなります。

したがって、在宅事件だから安心というわけではありません。

在宅事件の場合でも、送検前の段階で、警察署の広報責任者宛てに、報道発表を控えてほしいという意見書を提出することが考えられます。

5 報道発表回避の意見書で何を書くか

報道発表回避の意見書では、単に「本人が困るので報道しないでください」と書くだけでは不十分です。

警察が報道発表を検討する際に考えると思われる要素を踏まえて、本件では公表の公益性が低く、実名発表による不利益が過大であることを具体的に示す必要があります。

たとえば、次のような事情です。

・逮捕されていない在宅事件であること
・逃亡や証拠隠滅のおそれがないこと
・重大事件ではないこと
・同種事件が連続しているわけではないこと
・社会への注意喚起として実名を出す必要が乏しいこと
・被害者や関係者のプライバシー保護の必要があること
・実名発表により、家族や子どもなど第三者にも重大な不利益が及ぶこと
・勤務先への影響が極めて大きいこと
・事件と職務との関連性が乏しいこと
・本人が反省し、再発防止策を講じていること
・示談、被害弁償、謝罪、治療、研修受講などが進んでいること
・刑事処分前の段階で実名が広く拡散されることは過大な社会的制裁になること
・匿名発表や概要のみの発表でも、必要な公益目的は達成できること

特に重要なのは、報道発表をしないことが「隠ぺい」ではなく、関係者の名誉・プライバシーと公益性のバランスから相当である、という形で説明することです。

警察を非難したり、報道機関を敵視したりする文章は逆効果です。警察には警察の広報上の職責があります。その職責を前提にしたうえで、本件では実名公表までは不要である、少なくとも匿名発表にとどめるべきである、と冷静に述べる必要があります。

6 意見書の宛先と提出時期

報道発表回避の意見書は、通常、担当警察署の警察署長、又は広報責任者宛てに提出することが考えられます。警察署では、副署長が広報対応に関与していることが多いとされています。

提出時期としては、遅すぎてはいけません。

逮捕事件では、逮捕直後に発表される可能性があります。そのため、逮捕されてから弁護士を探すのでは、報道発表に間に合わないことがあります。

在宅事件でも、送検直前になってから意見書を出そうとしても、既に内部で発表方針が固まっている可能性があります。できれば、警察での取調べが始まった段階、又は送検が見込まれる段階で、早めに弁護士に相談することが重要です。

事件によっては、弁護士が担当捜査官と連絡を取り、送検時期や広報判断の有無について確認しながら対応することもあります。ただし、警察が事前に報道発表の有無を約束してくれるわけではありません。

7 自首・出頭が報道回避につながることがあります

事件が発覚していない段階、又はまだ被疑者が特定されていない段階では、自首や弁護士同行での出頭を検討することがあります。

自首には、発覚していなかった事件が発覚するという重大なデメリットがあります。そのため、常に自首すべきというわけではありません。

しかし、特定される可能性が高い事件では、逃げ続けて逮捕されるよりも、弁護士と相談したうえで自ら出頭し、身元引受人、誓約書、証拠保全、被害者対応の方針を示した方が、逮捕回避・報道発表回避につながることがあります。

特に、盗撮、痴漢、横領、薬物、交通事故後の離脱、児童買春・青少年条例違反などでは、証拠関係や発覚可能性を慎重に見極める必要があります。

自首は人生に関わる重大な判断です。道徳的に「自首すべき」と単純に決めるのではなく、発覚可能性、逮捕可能性、報道可能性、被害者対応、職場への影響、家族への影響を総合的に検討して判断すべきです。

8 黙秘権と報道回避は、緊張関係に立つことがあります

刑事事件では、黙秘権は重要な権利です。争いのある事件や、警察の見立てに問題がある事件では、安易に供述することで不利な調書が作られる危険があります。

一方で、現実の捜査実務では、取調べへの対応や出頭状況が、逮捕の必要性の判断に影響することがあります。報道発表回避を強く重視する場合、逮捕を避けるために、どのような範囲で取調べに応じるか、どのような供述方針を取るかが難しい問題になります。

ここで大事なのは、報道を避けたいからといって、事実と違う内容を供述してはいけないということです。逆に、黙秘すれば絶対に安全というわけでもありません。

弁護人は、事件の証拠関係、争点、逮捕リスク、報道リスクを踏まえて、依頼者に選択肢を説明しなければなりません。

黙秘権を行使するのか。
一部について供述するのか。
上申書で説明するのか。
証拠を提出するのか。
出頭には応じるが調書作成は慎重にするのか。

この判断は、事件ごとに異なります。

9 被害者対応・示談交渉も報道リスクに影響します

被害者がいる事件では、被害者対応も重要です。

被害者が強く処罰感情を持っている場合、警察や検察に厳しい処分を求めることがあります。また、事件によっては、被害者側や関係者からマスコミ、SNS、勤務先などに情報が流れることもあります。

そのため、弁護人としては、被害者に対する謝罪、被害弁償、示談交渉、接触禁止、再発防止策の提示などを適切に行う必要があります。

もっとも、報道を避けたいからといって、被害者に口止めを求めるような対応は不適切です。被害者の感情を逆なでし、かえって事態を悪化させる可能性があります。

被害者対応では、被害者の尊厳と安全を前提にしつつ、被疑者側の生活への過大な不利益も避けるという、慎重な対応が必要です。

10 報道機関への対応

報道機関から取材が来た場合、本人や家族が慌てて対応することは避けるべきです。

報道機関に対して不用意な説明をすると、その一部だけが切り取られて記事にされることがあります。また、感情的な反論や、被害者を責めるような発言は、かえって報道を大きくする危険があります。

取材が来た場合には、まず弁護人に相談してください。

事案によっては、「現在捜査中であり、弁護人を通じて適切に対応しています」「関係者のプライバシーに関わるため、現時点でのコメントは差し控えます」といった形で、必要最小限の対応にとどめることがあります。

一方で、明らかな誤報や、本人を容易に特定できる過剰な報道がある場合には、訂正申入れ、削除申入れ、追加報道の抑制要請などを検討することもあります。

11 報道発表を避けにくい事件

すべての事件で報道発表回避を目指せるわけではありません。

次のような事件では、報道発表を避けることが難しい場合があります。

・殺人、強盗、放火、不同意性交等の重大事件
・被害者が多数いる事件
・組織的犯罪、特殊詐欺、薬物密売など社会的影響が大きい事件
・職務に関連する公務員犯罪
・教員、医師、士業など職業倫理との関係が強い事件
・被疑者が著名人、有名企業役員、政治家などで社会的関心が高い事件
・同種事件が連続しており、注意喚起の必要が高い事件
・逃走、証拠隠滅、否認内容などから社会的関心が高まっている事件

このような場合には、完全な報道回避ではなく、実名発表を避ける、職業や住所の記載を限定してもらう、被害者を特定させない、家族に波及しない形にする、といった目標設定が現実的な場合もあります。

12 弁護人がしてはいけないこと

報道発表を避けたいからといって、何をしてもよいわけではありません。

弁護人がしてはいけないこととして、次のようなものがあります。

・警察に不当な圧力をかけること
・被害者に口止めを求めること
・虚偽の事実を伝えること
・証拠隠滅に関与すること
・報道機関を威嚇すること
・本人に不利な虚偽供述をさせること
・依頼者の希望を確認せずに独断で動くこと

報道発表回避の弁護活動は、隠ぺい工作ではありません。

本来公表する必要がない事件について、名誉・プライバシー・社会生活への過大な不利益を避けるために、正面から意見を述べる活動です。だからこそ、文書で、実名で、冷静に、正当な理由を示して行う必要があります。

13 弁護士に相談すべきタイミング

報道発表を避けたい場合、弁護士に相談すべきタイミングはできるだけ早い方がよいです。

特に、次の場合には早急な相談が必要です。

・警察から呼出しを受けた
・逮捕されるのではないかと不安がある
・職場や学校に知られると重大な不利益がある
・公務員、教員、医師、士業、会社役員など社会的信用が重要な職業である
・被害者対応や示談交渉が必要である
・送検が近いと言われている
・警察官から職業や勤務先を詳しく聞かれた
・報道機関から取材が来た
・家族に知られたくないが、事件対応は必要である
・自首すべきか迷っている

逮捕後では、報道発表に間に合わないことがあります。送検後では、広報判断に関与しにくくなることがあります。

報道発表を避けたいのであれば、警察対応の初期段階から、刑事弁護に詳しい弁護士に相談してください。

まとめ

報道発表や実名報道は、刑事事件の当事者にとって非常に大きな不利益です。

不起訴になればすべて元に戻る、というものではありません。実名報道によって、仕事、家族、学校、取引先、地域社会、インターネット上の評価に深刻な影響が出ることがあります。

弁護人にできることは、主に次のとおりです。

・逮捕を避けるための意見書や資料を提出する
・在宅事件として進めるための環境を整える
・警察署長又は広報責任者宛てに報道発表回避の意見書を提出する
・公益性が低く、実名発表による不利益が過大であることを具体的に示す
・被害者対応、示談交渉、再発防止策を進める
・自首や出頭の是非を検討する
・報道機関からの取材対応を整理する
・刑事処分だけでなく、社会生活への影響まで見据えて対応する

もちろん、弁護士が動けば必ず報道を止められるわけではありません。警察や報道機関の判断を完全にコントロールすることはできません。

しかし、何もしなければ、報道発表の判断に被疑者側の事情が十分に反映されないまま進んでしまうことがあります。

刑事事件で本当に守るべきものは、処分結果だけではありません。仕事、家族、生活、名誉、将来も含まれます。

報道発表や実名報道が不安な方は、できるだけ早く弁護士に相談してください。

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