置き引き事件で警察から連絡が来た場合の対応
2026年06月22日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市内に住む30代の会社員です。
先日、駅の待合スペースで、ベンチの上に財布が置かれているのを見つけました。周りに持ち主らしい人はいませんでした。私は、つい出来心でその財布を持ち帰ってしまいました。
財布の中には現金、クレジットカード、免許証などが入っていました。現金には手をつけていませんが、怖くなってそのまま自宅に置いていました。
数日後、警察から電話がありました。「駅で財布を持ち去った件で話を聞きたい」「防犯カメラに映っている」「警察署に来てほしい」と言われました。
私は、盗むつもりだったと言われるのが怖いです。落とし物だと思った、後で届けようと思っていた、と説明したい気持ちもあります。ただ、すぐ届けなかったことは事実です。
このような場合、窃盗になるのでしょうか。それとも拾った物を届けなかったという扱いになるのでしょうか。警察にはどう対応すればよいでしょうか。
A、置き引き事件では、まず「窃盗罪」になるのか、「遺失物等横領罪」になるのかが問題になります。
一般に、他人の占有がある物を持ち去れば窃盗罪です。これに対して、持ち主の占有を離れた落とし物や忘れ物を自分の物にすれば、遺失物等横領罪が問題になります。
もっとも、駅、商業施設、飲食店、コンビニ、病院、公共施設などで、財布やバッグが置き忘れられていた場合には、単純な「落とし物」とは扱われず、窃盗罪として捜査されることがあります。
特に、
・持ち主が短時間その場を離れただけだった
・駅や店舗の管理下にある場所だった
・防犯カメラで持ち去り行為が記録されている
・財布、バッグ、スマートフォンなど貴重品である
・中身を確認している
・現金やカードを使用している
・自宅に持ち帰って長時間保管している
・警察から連絡が来るまで届け出ていない
という事情がある場合、警察は窃盗事件として捜査することが多いです。
警察から連絡が来た場合、無視してはいけません。無断で出頭しない、連絡を取らない、財布を捨てる、カードを処分する、現金を使う、家族や友人に預けるといった行動は、逮捕や証拠隠滅を疑われる原因になります。
まず、財布や中身が手元にある場合はそのまま保管し、使用せず、処分せず、弁護士に相談してください。
そして、取調べ前に、
・どこで見つけたのか
・周囲に持ち主らしい人がいたのか
・なぜ持ち帰ったのか
・中身を確認したのか
・現金やカードを使ったのか
・いつ届けようと思ったのか
・警察から連絡が来るまで何をしていたのか
・現在、財布や中身がどうなっているのか
を整理する必要があります。
初犯で、被害品が返還され、現金やカードの使用がなく、被害者への謝罪・被害弁償・示談ができれば、不起訴を目指せる可能性があります。
ただし、「落とし物だと思った」「後で届けるつもりだった」という説明だけで簡単に済む事件ではありません。早めに弁護士へ相談することをお勧めします。
【解説】
1 置き引きとは何か
一般に「置き引き」とは、他人が置き忘れたように見える財布、バッグ、スマートフォン、買い物袋、荷物などを持ち去る行為をいいます。
典型例としては、次のようなものがあります。
・駅のベンチに置かれた財布を持ち去る
・飲食店の椅子に掛けられたバッグを持ち去る
・コンビニのコピー機に置かれた財布を持ち去る
・商業施設のトイレに置き忘れられたバッグを持ち去る
・ATM付近に置かれた現金や財布を持ち去る
・病院や役所の待合室に置かれた荷物を持ち去る
・パチンコ店、ゲームセンター、ネットカフェで置かれた財布を持ち去る
本人としては、「落とし物を拾っただけ」「誰の物か分からなかった」と考えていることがあります。
しかし、法律上は、持ち去った物が「誰かの占有にある物」だったのか、「占有を離れた物」だったのかによって、窃盗罪と遺失物等横領罪のどちらが問題になるかが変わります。
2 窃盗罪と遺失物等横領罪の違い
窃盗罪は、他人の財物を盗んだ場合に成立します。
窃盗罪の法定刑は、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
これに対して、遺失物等横領罪は、遺失物、漂流物、その他占有を離れた他人の物を横領した場合に成立します。
遺失物等横領罪の法定刑は、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料です。
両者の違いは、簡単にいえば、持ち去った時点で、その物がまだ誰かの支配下にあったといえるかどうかです。
たとえば、路上に落ちていた財布を拾って自分の物にした場合には、遺失物等横領罪が問題になりやすいです。
一方で、飲食店の席、駅構内、商業施設、ATM周辺、病院の待合室などに置かれた財布やバッグを持ち去った場合には、持ち主又は施設管理者の占有が残っているとして、窃盗罪と評価されることがあります。
「置き忘れていたから落とし物だ」と単純にはいえません。
3 駅や店内の忘れ物は窃盗になりやすい
置き引き事件で多い誤解は、「置き忘れられていた物だから、拾っただけだ」というものです。
しかし、駅や店内での置き忘れ品については、窃盗罪として扱われることがあります。
理由は、持ち主が一時的にその場を離れただけで、すぐ戻る可能性があることや、駅・店舗・施設の管理者が忘れ物を管理すべき立場にあることが多いからです。
たとえば、飲食店の椅子に掛けられたバッグ、駅のベンチに置かれた財布、ATM横に置かれた現金封筒、商業施設のトイレに置かれたポーチなどは、完全に誰の占有からも離れた物とは評価されにくい場合があります。
特に、防犯カメラで、持ち主が離れてから間もなく持ち去った様子が映っている場合、警察は「拾った」のではなく「盗んだ」と見ます。
したがって、警察から「置き引きの件で話を聞きたい」と連絡が来た場合には、窃盗事件として捜査されている可能性を前提に対応すべきです。
4 警察はなぜ本人を特定できるのか
置き引き事件では、「誰にも見られていないと思ったのに、なぜ警察から連絡が来たのか」と驚く方がいます。
しかし、現在は置き引き事件で本人が特定されることは珍しくありません。
典型的な特定経路は、次のようなものです。
・駅や店舗の防犯カメラ
・商業施設の出入口カメラ
・交通系ICカードの利用履歴
・駐車場の車両ナンバー
・店舗内の会員カード、ポイントカード
・電子決済、クレジットカード利用履歴
・スマートフォンの位置情報
・被害品の使用履歴
・フリマアプリや中古買取店への売却記録
・目撃者の供述
・同じ場所での余罪捜査
財布やスマートフォンを持ち去った後、すぐに中身を確認したり、別の場所で現金やカードを使ったりすると、その行動も記録されることがあります。
また、持ち去った物を中古買取店に売った場合、本人確認記録から発覚することがあります。
置き引き事件は、本人が思っているよりも証拠が残りやすい事件です。
5 警察から連絡が来た場合にしてはいけないこと
警察から連絡が来た場合、焦って不適切な対応をすると、事件が悪化します。
してはいけないことは、次のとおりです。
・警察からの電話を無視する
・出頭要請を無断で欠席する
・財布やバッグを捨てる
・中身を処分する
・現金を使う
・カードを折る、捨てる
・スマートフォンを初期化する
・家族や友人に預ける
・フリマアプリで売る
・被害者に直接連絡して口止めを頼む
・防犯カメラに映っていないと言い張る
・弁護士に事実を隠す
特に、警察から連絡が来た後に被害品を処分すると、証拠隠滅と見られる可能性があります。
また、現金やカードを使用していない場合には、その事実は非常に重要です。怖くなって財布ごと捨ててしまうと、返還や被害弁償が難しくなります。
財布や中身が手元にある場合には、そのまま保管し、弁護士に相談したうえで警察への提出方法を決めるべきです。
6 取調べ前に整理すべきこと
警察へ行く前に、事実関係を整理してください。
特に重要なのは、次の点です。
・日時
・場所
・持ち去った物
・周囲の状況
・持ち主らしい人がいたか
・施設職員や警備員に届けようとしたか
・なぜその場で届けなかったのか
・中身を確認したか
・現金、カード、スマートフォンを使用したか
・被害品をどこに保管しているか
・警察から連絡が来るまでの行動
・被害者に返す意思があるか
・同種前科、前歴、余罪の有無
ここで注意すべきなのは、「言い訳を考える」ということではありません。
実際に盗むつもりで持ち去ったのであれば、嘘をつくべきではありません。
一方で、警察官の誘導に流されて、事実よりも悪い内容を認める必要もありません。
たとえば、「最初から盗むつもりだった」という認識だったのか、「拾ったが、その後届けずに自分の物にしようと思った」のか、「自分の物と間違えた」のか、「酔っていて記憶が曖昧なのか」によって、法的評価や情状は変わります。
取調べでは、当時の認識を正確に説明する必要があります。
7 「後で届けるつもりだった」は通用するのか
置き引き事件でよくある説明が、「後で届けるつもりだった」というものです。
本当に、警察署や交番、施設の忘れ物窓口に届けるつもりだったのであれば、その事情は主張すべきです。
しかし、現実には、次のような事情があると、「後で届けるつもりだった」という説明は信用されにくくなります。
・財布の中身を確認している
・現金を抜いている
・カードを使っている
・スマートフォンを初期化している
・被害品を隠している
・何日も届け出ていない
・警察から連絡が来るまで放置している
・家族に見つからない場所に保管している
・被害品の一部だけを捨てている
・被害者や施設に連絡していない
一方で、
・現金やカードを使っていない
・財布や中身がそのまま残っている
・警察から連絡が来る前に届け出ようとしていた事情がある
・施設に戻ろうとしていた
・持ち主が分からず困っていた
・体調不良や混乱があった
・家族や弁護士に相談していた
という事情があれば、情状として意味を持つことがあります。
ただし、「後で届けるつもりだった」という説明だけで解決するわけではありません。客観的な行動と一致しているかが重要です。
8 現金やカードを使っている場合は重くなります
置き引きした財布から現金を抜いた場合、処分は重くなりやすいです。
また、クレジットカード、キャッシュカード、電子マネー、交通系ICカード、スマートフォン決済などを使用した場合には、置き引きだけでは済まなくなることがあります。
たとえば、
・クレジットカードで買い物をした
・キャッシュカードで現金を引き出そうとした
・交通系ICカードを使った
・スマートフォンを初期化して売却した
・身分証を悪用した
・ポイントカードを使った
といった場合、窃盗に加えて、詐欺等の別の犯罪が問題になることがあります。
この場合、単純な置き引き事件よりも、逮捕、起訴、正式裁判のリスクが上がります。
警察に対しても、何を使ったのか、使っていないのかを正確に整理する必要があります。
9 逮捕される可能性はあるのか
警察から電話で呼び出された場合、「警察署に行ったらそのまま逮捕されるのではないか」と不安になる方がいます。
置き引き事件でも、逮捕される可能性はあります。
特に、次のような事情がある場合には注意が必要です。
・警察からの呼出しを無視している
・住所や勤務先が不安定
・被害品を処分している
・証拠隠滅の疑いがある
・防犯カメラ上、明らかに犯行態様が悪質
・現金やカードを使用している
・同種前科、前歴がある
・余罪が多数疑われている
・被害額が大きい
・否認内容が証拠と大きく矛盾している
・共犯者がいる
・身元引受人がいない
一方で、初犯で、住所・勤務先が安定しており、警察の呼出しに応じ、被害品を保管し、返還・弁償の意思を示している場合には、在宅事件として進む可能性もあります。
逮捕を避けるためには、警察からの連絡を無視せず、証拠隠滅と疑われる行動をせず、必要に応じて弁護士から在宅捜査で足りることを説明してもらうことが重要です。
10 被害弁償と示談
置き引き事件では、被害者への対応が重要です。
被害品がそのまま返還できる場合には、まず返還が重要です。
財布、カード、身分証、スマートフォンなどは、現金額だけでなく、再発行の手間、個人情報流出の不安、精神的負担が問題になります。
被害弁償では、次のようなものが問題になることがあります。
・現金
・財布やバッグの価格
・スマートフォン、イヤホン等の価格
・カード再発行費用
・身分証再発行費用
・交通費
・被害者の時間的負担
・精神的苦痛への慰謝料的な金額
・示談金
被害者が処罰を望んでいる場合、単に被害額を支払うだけでは足りないことがあります。
示談書を作成し、可能であれば「処罰を望まない」という宥恕文言をいただくことが、不起訴を目指すうえで重要になります。
もっとも、被害者に直接連絡して、
「警察に言わないでほしい」
「被害届を取り下げてほしい」
「処罰を望まないと言ってほしい」
と求めることは避けるべきです。
被害者に圧力をかけたと受け取られるおそれがあります。
警察が被害者の連絡先を教えてくれないことも多いため、示談交渉は弁護士を通じて行うことが適切です。
11 不起訴を目指すために必要なこと
置き引き事件では、初犯で、被害が比較的軽く、被害回復ができていれば、不起訴を目指せる可能性があります。
不起訴を目指すためには、次の事情を整理します。
・前科前歴がないこと
・被害品が返還されていること
・現金やカードを使用していないこと
・被害弁償が済んでいること
・示談が成立していること
・被害者が処罰を望んでいないこと
・犯行が計画的ではないこと
・常習性がないこと
・本人が事実を認めて反省していること
・再発防止策があること
・家族や第三者の監督があること
・仕事や生活への影響が大きいこと
・精神的な問題やストレスが背景にある場合には、必要な相談先につながっていること
検察官は、犯罪の軽重だけでなく、犯罪後の情況も見ます。
そのため、警察から連絡が来た後に、被害品を返す、謝罪文を書く、被害弁償をする、示談交渉をする、再発防止策を作るといった対応が重要になります。
単に「反省しています」と言うだけでは足りません。
反省を具体的な行動で示す必要があります。
12 職場や家族に知られるのか
置き引き事件で、会社員、公務員、医療職、士業、学生の方が特に心配するのが、勤務先や学校に知られるかどうかです。
警察が必ず勤務先に連絡するわけではありません。
しかし、次のような場合には、勤務先や学校に知られる可能性があります。
・逮捕される
・勾留される
・実名報道される
・警察が身元確認のため職場へ連絡する
・勤務中や通勤中の事件である
・被害場所が勤務先や学校の近くである
・被害者が職場や学校関係者である
・取調べや検察庁出頭で欠勤が必要になる
・公務員や資格職で報告義務がある
・職場の物や同僚の物を持ち去った事件である
在宅事件として進み、不起訴となれば、勤務先に知られずに終わることもあります。
しかし、隠すために警察を無視したり、虚偽の欠勤理由を重ねたりすると、かえって不利益が大きくなります。
職場への報告義務があるかどうか、どの段階で何を説明するかは、職種や就業規則によって異なります。早めに弁護士に相談してください。
13 弁護士ができること
置き引き事件で弁護士ができることは、単に「警察に謝りましょう」と助言することだけではありません。
具体的には、次のような対応を行います。
・警察出頭前の相談
・事実関係の整理
・窃盗罪か遺失物等横領罪かの検討
・取調べ対応の助言
・供述調書作成時の注意点の説明
・被害品の提出、返還方法の調整
・被害者への謝罪文作成
・被害弁償、示談交渉
・示談書、宥恕文言の作成
・逮捕回避のための意見書作成
・検察官への不起訴意見書提出
・職場や学校への説明方針の検討
・再発防止策の作成
置き引き事件は、早い段階で対応すれば、不起訴を目指せることがあります。
一方で、現金やカードの使用、被害品の処分、警察からの呼出し無視、不自然な否認があると、処分が重くなりやすいです。
警察から連絡が来た段階で相談することが重要です。


