飲酒運転で事故を起こした場合、示談はどう進めるべきか
2026年06月26日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市内に住む40代の会社員です。
先日、飲酒後に車を運転してしまい、交通事故を起こしました。相手の車に追突し、相手の方は首や腰の痛みを訴えて病院に行っています。警察では酒気帯び運転と過失運転致傷の疑いで取調べを受けています。
事故を起こしたこと、飲酒して運転したことは本当に申し訳なく思っています。被害者の方に謝罪したいですし、できる限りの賠償をしたいです。
任意保険には入っています。保険会社には事故の連絡をしましたが、飲酒運転なので保険が使えないのではないかと不安です。
また、刑事処分がどうなるのかも心配です。被害者の方と示談できれば、罰金や裁判、免許取消、勤務先への影響が軽くなるのでしょうか。
飲酒運転で事故を起こした場合、被害者との示談はどう進めるべきでしょうか。自分で直接連絡して謝罪すべきでしょうか。
A、まず、任意保険に加入している場合は、原則として保険会社の担当者を通じて被害者対応・賠償対応を進めてください。
飲酒運転は重大な違法行為ですが、被害者救済の観点から、対人賠償保険や対物賠償保険については、飲酒運転事故でも保険金支払いの対象となることが一般的です。つまり、相手方のけが、車両損害、治療費、休業損害、慰謝料などについては、任意保険会社が対応できる場合があります。
一方で、飲酒運転をした運転者本人のけが、自分の車両損害、人身傷害保険、車両保険などについては、保険金が支払われないことがあります。実際の補償内容は、保険約款と契約内容を確認する必要があります。
被害者に謝罪したい気持ちは重要です。しかし、加害者本人が直接被害者へ連絡して、
「処罰を望まないと言ってほしい」
「示談してほしい」
「会社に知られたくない」
「免許取消を避けたい」
「診断書を出さないでほしい」
などと伝えることは避けるべきです。
被害者から見れば、飲酒運転で事故を起こした加害者から直接連絡が来ること自体が大きな負担になることがあります。場合によっては、圧力をかけられた、処罰感情を下げるよう求められたと受け取られる危険もあります。
任意保険が使える場合、治療費や慰謝料などの民事賠償は、まず保険会社の担当者を通じて進めるべきです。そのうえで、刑事事件として、謝罪文、被害者の処罰感情、宥恕文言、嘆願書などが必要になる場合には、弁護士が保険会社の対応状況を確認しながら、別途、刑事弁護の観点から被害者対応を検討します。
飲酒運転事故では、示談できればすべて解決するわけではありません。酒気帯び運転や酒酔い運転そのものが重大な犯罪であり、事故を伴う場合には刑事処分・免許処分・勤務先への影響も重くなります。
ただし、被害者への誠実な対応、任意保険による賠償、謝罪、再発防止策は、刑事処分や情状判断において重要な事情になります。
警察から取調べを受けている段階で、早めに交通犯罪に詳しい弁護士へ相談することをお勧めします。
【解説】
1 飲酒運転事故では、刑事・民事・行政の問題が同時に起きます
飲酒運転で事故を起こした場合、単なる交通事故では済みません。
次の問題が同時に発生します。
・酒気帯び運転又は酒酔い運転
・過失運転致傷又は危険運転致傷
・救護義務違反、いわゆるひき逃げの有無
・警察への報告義務違反の有無
・被害者への民事賠償
・任意保険対応
・運転免許の取消、停止
・勤務先への報告、懲戒処分
・報道リスク
・家族への影響
・アルコール問題への対応
つまり、示談だけを考えればよい事件ではありません。
しかし、被害者対応は非常に重要です。
飲酒運転をしたこと自体は消えませんが、事故後に被害者へどのように向き合ったか、賠償が進んでいるか、謝罪の意思があるか、再発防止策を取っているかは、刑事処分や情状に影響します。
2 まず警察・救急・保険会社への連絡が必要です
事故直後に最優先すべきことは、被害者の救護です。
負傷者がいる場合には救急車を呼び、安全な場所に移動し、二次事故を防ぐ必要があります。そして、警察へ事故を報告しなければなりません。
飲酒していることが発覚するのを恐れて現場を離れたり、警察への通報を避けたりすると、酒気帯び運転だけでなく、救護義務違反、いわゆるひき逃げが問題になります。
事故後は、任意保険会社にも速やかに連絡してください。
このとき、飲酒していた事実を隠してはいけません。保険会社に正確な事故状況を伝え、対人賠償・対物賠償の担当者を確認します。
飲酒運転の場合でも、被害者の損害については任意保険会社が対応することがあります。むしろ、被害者保護のためには、早く保険会社につなぐことが重要です。
3 飲酒運転でも任意保険は使えるのか
飲酒運転で事故を起こすと、「保険は一切使えない」と思っている方がいます。
これは正確ではありません。
一般に、飲酒運転をした運転者本人のけがや自分の車の損害については、人身傷害保険、搭乗者傷害保険、車両保険などが免責となり、保険金が支払われないことがあります。
一方で、被害者のけがや相手車両の損害については、被害者救済の観点から、自賠責保険、対人賠償保険、対物賠償保険が支払い対象となることが一般的です。
つまり、飲酒運転だからといって、被害者に対する賠償がすべて自費になるとは限りません。
ただし、保険契約の内容、約款、事故状況によって判断が必要です。必ず保険会社に確認してください。
また、任意保険が使える場合には、被害者との賠償交渉は、原則として保険会社の担当者を通じて行うべきです。
4 任意保険がある場合は、担当者を通じて示談を進める
飲酒運転事故であっても、任意保険会社が対人・対物賠償の窓口になる場合には、被害者との民事上の示談交渉は、保険会社の担当者を通じて進めるのが原則です。
保険会社の担当者は、治療費、通院交通費、休業損害、慰謝料、車両修理費、代車費用、過失割合などについて、被害者又は被害者側保険会社と協議します。
加害者本人が、保険会社を通さずに直接被害者と示談をしてしまうと、次のような問題が起きることがあります。
・保険会社が示談内容を前提にできない
・保険金支払いに支障が出る
・被害者から追加請求を受ける
・後から症状が悪化した場合に対応できない
・過失割合や損害額で争いになる
・被害者に圧力をかけたと見られる
・刑事事件の情状として逆効果になる
特に事故直後に現金を渡して「これで終わりにしてください」と言うことは避けるべきです。
飲酒運転事故では、加害者本人が直接動くほど、被害者の不信感が強まることがあります。
民事賠償は保険会社の担当者を通じて進める。この役割分担が重要です。
5 刑事事件でいう「示談」と保険会社の示談は同じではありません
交通事故では、「示談」という言葉が二つの意味で使われます。
一つは、民事上の示談です。
これは、治療費、慰謝料、休業損害、車両修理費など、損害賠償額を決めるための示談です。任意保険が使える場合には、保険会社の担当者が主に進めます。
もう一つは、刑事事件上の被害者対応です。
これは、被害者への謝罪、被害弁償の状況、処罰感情、宥恕文言、嘆願書などを通じて、刑事処分や情状に反映させるための対応です。
保険会社が民事賠償を進めていても、刑事事件として必要な謝罪文や嘆願書まで対応してくれるとは限りません。
たとえば、被害者が、
「賠償は保険会社から受けるが、飲酒運転は許せない」
「刑事処分は厳しくしてほしい」
「謝罪がない」
「保険会社任せで本人の反省が見えない」
と感じることがあります。
そのため、刑事弁護では、保険会社の担当者と連携しながら、必要に応じて、弁護士から被害者へ謝罪の意向を伝えたり、謝罪文を送付したり、刑事処分に関する意向を確認したりします。
ただし、被害者が直接連絡を望まない場合には、その意思を尊重する必要があります。
6 被害者に直接連絡してよいか
飲酒運転事故を起こした方の中には、「とにかくすぐ謝罪に行きたい」と考える方がいます。
謝罪の気持ちは重要です。
しかし、被害者に直接連絡することにはリスクがあります。
特に、次のような言動は避けるべきです。
・突然、自宅や勤務先を訪問する
・何度も電話する
・家族を通じて連絡する
・職場関係者を使って連絡する
・「処罰を望まないと言ってほしい」と頼む
・「診断書を出さないでほしい」と頼む
・「免許がなくなると困る」と訴える
・「会社に知られたくない」と言う
・その場で現金を渡す
・示談書に署名を求める
被害者からすると、飲酒運転で事故を起こした加害者から直接連絡を受けること自体が苦痛である場合があります。
謝罪をする場合は、保険会社の担当者又は弁護士を通じて、被害者が謝罪を受ける意向があるかを確認してから行うべきです。
謝罪文を作成する場合にも、「刑を軽くしてほしい」「免許取消を避けたい」という自分側の事情を前面に出すのではなく、被害者のけが、生活への影響、不安、迷惑に向き合う内容にする必要があります。
7 示談のタイミング
人身事故の民事上の示談は、通常、治療が終わった後、又は症状固定後に行われます。
なぜなら、治療中は、治療費、通院期間、休業損害、後遺障害の有無、慰謝料額が確定しないからです。
飲酒運転事故でも、この点は同じです。
ただし、刑事事件では、検察官が起訴・不起訴を判断する時期や、裁判の時期が、民事上の最終示談より先に来ることがあります。
そのため、刑事弁護では、
・任意保険会社が治療費を対応していること
・被害者への連絡窓口ができていること
・加害者本人が謝罪の意思を示していること
・必要に応じて謝罪文を送っていること
・一定の内金や見舞金を支払うかどうか
・被害者の処罰感情を確認できるか
・治療終了後に誠実に示談する予定であること
を検察官に説明することがあります。
つまり、民事上の最終示談がまだ成立していなくても、被害者対応が進んでいることを刑事事件で示す必要があります。
8 見舞金・謝罪金を払うべきか
飲酒運転事故では、任意保険で治療費や慰謝料が支払われる場合でも、加害者本人から見舞金や謝罪金を支払うべきかが問題になることがあります。
これは事案によります。
被害者が重傷である、生活への影響が大きい、飲酒運転への怒りが強い、刑事事件で情状を示す必要がある場合には、保険とは別に見舞金を検討することがあります。
しかし、保険会社に無断で金銭を支払うと、後の示談や保険金支払いの整理が複雑になることがあります。
また、金銭を支払う際の名目、領収書、示談書、清算条項、刑事処分に関する文言をどうするかも重要です。
したがって、見舞金や謝罪金を支払う場合には、必ず事前に保険会社の担当者と弁護士に相談してください。
本人が独断で現金を持って謝罪に行くことは避けるべきです。
9 示談できれば不起訴になるのか
飲酒運転事故では、示談できれば必ず不起訴になるわけではありません。
ここが、通常の軽傷交通事故や軽微な過失事故と大きく違う点です。
飲酒運転は、それ自体が強い社会的非難を受ける行為です。事故を起こしていなくても、酒気帯び運転や酒酔い運転は刑事処分の対象になります。
事故を伴う場合には、過失運転致傷、場合によっては危険運転致傷も問題になります。
そのため、被害者と示談できたとしても、酒気帯び運転について略式起訴され罰金となる可能性はあります。事故態様や負傷程度によっては、正式裁判になる可能性もあります。
もっとも、示談や被害者対応が無意味ということではありません。
被害者への賠償が進んでいること、謝罪がされていること、処罰感情が一定程度和らいでいることは、刑事処分の判断において重要な事情です。
また、正式裁判になった場合でも、量刑上の重要な情状になります。
10 被害者が処罰を強く求めている場合
飲酒運転事故では、被害者が強い処罰感情を持つことがあります。
これは当然です。
被害者からすれば、偶然の不注意による事故ではなく、飲酒して運転しなければ起きなかった事故だと感じるからです。
被害者が処罰を強く求めている場合でも、加害者側がすべきことは、被害者の怒りを否定することではありません。
「そこまで怒らなくてもよい」
「けがは軽い」
「保険で払う」
「こちらも社会的制裁を受けている」
という態度は逆効果です。
弁護活動では、
・飲酒運転をしたこと自体の重大性を認める
・被害者の治療と生活への影響に向き合う
・保険会社を通じて誠実に賠償する
・謝罪文を作成する
・再発防止策を具体的に示す
・アルコール問題に取り組む
・必要に応じて家族や勤務先の監督体制を整える
ことが重要です。
被害者が許してくれない場合でも、誠実な対応を積み重ねることに意味があります。
11 再発防止策も示談と同じくらい重要です
飲酒運転事故では、被害者対応だけでなく、再発防止策が非常に重要です。
特に、検察官や裁判所は、「もう二度と飲酒運転をしない」と言うだけでは納得しません。
具体的には、次のような対応が考えられます。
・自動車を処分する
・運転免許の取消後も無免許運転をしない仕組みを作る
・飲酒する場所へ車で行かない
・飲酒時は家族、タクシー、代行運転を使うルールを作る
・飲酒予定がある日は車の鍵を家族に預ける
・アルコールチェッカーを導入する
・飲酒量を記録する
・断酒又は節酒の外来を受診する
・アルコール依存症の相談機関につながる
・家族に監督してもらう
・職場にも必要な範囲で再発防止策を示す
・飲酒運転の被害に関する講習や資料を確認する
飲酒運転事故では、単なる反省文よりも、具体的な生活上の仕組みが重要です。
12 勤務先への影響
会社員、公務員、教員、医療職、運転業務従事者、会社役員などが飲酒運転事故を起こした場合、勤務先への影響も大きな問題です。
特に、公務員や教員の場合、飲酒運転は懲戒処分の対象として重く扱われます。会社員でも、就業規則上の懲戒処分、配置転換、退職勧奨、運転業務からの外れなどが問題になることがあります。
勤務先にどう報告するかは、事案によって異なります。
公用車、社用車、勤務中、通勤中の事故であれば、早期報告が必要になることが多いです。
一方、完全な私用中の事故でも、逮捕、報道、免許取消、出勤への影響がある場合には、報告を避けられないことがあります。
勤務先への報告内容を考える際にも、被害者対応、任意保険対応、刑事処分の見通し、再発防止策を整理しておくことが重要です。
13 弁護士ができること
飲酒運転事故で弁護士ができることは、単に警察対応を助言することだけではありません。
具体的には、次のような対応を行います。
・警察取調べへの対応助言
・酒気帯び、酒酔い、危険運転の成否の検討
・呼気検査手続、数値、飲酒状況の確認
・事故態様の整理
・救護義務違反の有無の検討
・任意保険会社との連携
・被害者への謝罪方法の検討
・謝罪文の作成助言
・見舞金、謝罪金の要否の検討
・被害者の処罰感情の確認
・検察官への意見書作成
・正式裁判になった場合の情状弁護
・免許取消処分への対応
・勤務先報告の方針検討
・再発防止策の作成
・アルコール問題への対応
任意保険がある場合には、弁護士が民事賠償のすべてを直接行うとは限りません。むしろ、治療費、慰謝料、車両損害などの民事賠償は、保険会社の担当者に進めてもらうのが基本です。
そのうえで、弁護士は、刑事事件として必要な被害者対応、謝罪、情状資料、再発防止策を整えます。
まとめ
飲酒運転で事故を起こした場合、示談は非常に重要です。
しかし、示談は、加害者本人が直接被害者に連絡して進めればよいものではありません。
任意保険に加入している場合には、原則として、被害者への民事賠償は保険会社の担当者を通じて進めてください。飲酒運転事故でも、被害者救済の観点から、対人賠償保険や対物賠償保険が使えることが一般的です。
一方で、運転者本人のけがや自分の車両損害については、保険金が支払われないことがあります。保険会社に正確に事故状況を伝え、補償内容を確認する必要があります。
刑事事件としては、保険会社の示談交渉とは別に、謝罪文、被害者の処罰感情、宥恕文言、再発防止策などが重要になります。
飲酒運転事故では、示談できても必ず不起訴になるわけではありません。しかし、被害者への誠実な対応と具体的な再発防止策は、刑事処分や情状判断において重要です。
薬院法律事務所では、飲酒運転事故について、警察対応、被害者対応、任意保険会社との連携、検察官への意見書作成、正式裁判での情状弁護、免許取消処分、勤務先対応を踏まえた相談を受けています。
「飲酒運転で事故を起こしてしまった」
「被害者にどう謝罪すればよいか分からない」
「任意保険が使えるのか不安」
「示談を刑事処分に反映させたい」
「会社や家族にどう説明すればよいか分からない」
「免許取消や懲戒処分が心配」
という場合には、早めにご相談ください。


