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薬院法律事務所

【重要論文】東京地裁判事 梶山太郎「勾留・保釈の運用―裁判の立場から―」刑事法ジャーナル52号(2017年6月)

2018年07月20日読書メモ

刑事法ジャーナル52号(2017年6月)東京地裁判事 梶山太郎「勾留・保釈の運用―裁判の立場から―」読書メモ。

非常に参考になる論文です。括弧内の文章は簡略化しています。

「10年単位で考えると勾留請求に対する裁判官の司法審査が厳しくなってきたことは指摘できる。個人的な感想としては、弁護人の種々の弁子活動の成果(身柄引受人の確保及び疎明資料の提出など)により、勾留するか否かの判断が変わった事例が増えているように感じている。
罪証隠滅の目的は、その後の検察官や裁判体の判断を誤らせることにあるのであるから、その判断の誤りに関わる事実は何かを確認するのが検討の出発点となる。当該犯罪の成否に関する事実 (構成要件該当事実、違法性・責任阻却自事由に該当する事実)はもちろん、起訴・不起訴あるいは略式命令請求か公判請求かの判断や、刑の量定に影響を及ぼす重要な情状事実も含まれるほか、これらの事実を推認させる間接事実や、これらの事実を証明する証拠の信用性に関する事実(補助事実)も含まれると解される。」

→まあ、ありとあらゆる事実が罪証隠滅の対象事実と捉えうるということです。

「重要なのは、検察官の立証構造である。被疑者に前科前歴がなく、関係者も少ない単純軽微な事案で、重くとも略式命令による罰金刑しか見込まれないときには、検察官が立証すべき情状事実の範囲や証拠の範囲も相対的に小さくなるが、殺人など公判請求が見込まれ、その経緯等の情状事実によって刑の量定が大きく異なってくるような事案の場合には、罪証隠滅の対象事実の範囲も相対的に大きくなることが多い。
また、検察官は、被疑者の弁解内容や供述態度を踏まえて公判における争点を想定することから、被疑者の供述内容・態度は、その事案の立証構造の検討において重要な意味をもつ。薬物事案の故意否認であれば、被疑者の弁解内容の信憑性の捜査や故意を推認させる間接事実の捜査がより多く必要になるが、電車内での痴漢事件で、被疑者が電車内で相手のすぐ近くにいたことは認めるが、痴漢行為のみ否認しているというのであれば、自白事件と比べてさほど捜査の内容は変わらず、罪証隠滅の範囲もさほど広がらないといえる場合が多い。このように、具体的な供述内容を基に裁判官は検討するのであって、単純に否認か自白かという形で被疑者の供述を捉えていない。」

→否認事件で勾留を争うときに特に注意すべき点だと思います。この視点からすると、完全黙秘については、軽微事案でも証拠隠滅の対象は広くなると判断される危険があると思います。

「罪証隠滅の方法・態様について、口裏合わせをするなどして新たな証拠を作り出す手法について、罪証隠滅という言葉から単純にイメージされる「既にあるものの滅失」ではないからか、弁護人からの提出書面では、この点を検討した形跡が見受けられないことも少なくない」

→私は一応書いていますけど、弁護人は知らないのではなく、積極的に書かないだけではないかと。

「罪証隠滅の余地について、捜査機関に押収されている証拠の隠滅は事実上不可能であるし、防犯カメラやLINE、SNSでのやり取り等に明らかに反する口裏合わせも、想定できなくはないが、実効性に乏しい。公務執行妨害での警察官に働きかける可能性や実効性はかなり低いと言って良いし、被疑者と被害者に面識がない飲食店の喧嘩や電車内の痴漢では、働きかけの可能性は否定されないが、現実的可能性は高くないといえる」

→この指摘は弁護人から提出する意見書で使いやすそうです。

「罪証隠滅の意図(主観的可能性)について、重くても略式命令しか予想されない自白事件では、被疑者があえて罪証隠滅行為に出る可能性は低いといえる場合もあろう。しかし、DV事件やストーカー事件などは主観的可能性が高いとされることもあり得る。経緯も含めて全て自白している場合であれば罪証隠滅の主観的可能性は低いといえる場合が少なくない。示談も成立していればなおさらである。否認している場合も、具体的な供述内容を他の証拠と対照しつつ検討し、それが罪証隠滅の意図に結びつくのか裁判官は慎重に判断している」

「勾留の必要性について、実務上勾留請求却下は勾留の必要性がないことを理由とするものが最も多い。示談の状況や被疑者の生活状況については、捜査機関が把握していない場合もあることから、弁護人がその事情を記載した意見書を提出し、疎明資料も添付すると有用なことがある。被疑者の誓約書や家族の身柄引受書の提出が重要な判断資料となることもある」

→誓約書や身柄引受書は当然添付するものですが、重要とされています。

「保釈の場合も重要になるのは、罪証隠滅のおそれと逃亡のおそれ。保釈請求の段階では、勾留の段階と比べて相対的に罪証隠滅のおそれが小さくなっていると判断される事案が少なくない。弁護人としても、手続の進行段階やそれに応じた検察官の立証構造を的確に把握した上で、罪証隠滅の対象事実や態様、客観的、主観的可能性について具体的に指摘すると効果的である。なお、実務上弁護人の求めにより裁判官との面接が行われることがあるが、特段の事項がなければ必ずしも行う必要はない。必要があれば裁判官から連絡する(法43条3項)。」

→罪証隠滅の対象となりえる事実、それをどのようにすれば証拠隠滅できるのかまず考えて、それがありえない、ということを指摘するようにしています。

「逃亡のおそれについては、実刑か執行猶予かがまず重要。さらに被告人を監督できる身柄引受人がいるかどうかが重要。さらに、被告人の家族の状況、幼児を養育しているとか、被告人が働かなければ家族が生活できないとか、被告人が安定した職業についており勤務を継続できるとか、比較的重い病気があり生活の現状を変えることが余り考えられないといった状況も逃亡のおそれを否定する方向に働く。弁護人はこれらの諸状況を具体的な事実関係を指摘しながら主張し、かつ、それを裏付ける的確な資料を提出すると効果的である」

「身柄引受人がいる場合、同時に疎明資料として引受人の身分関係書類(住民票や運転免許証等)の提出があると、より身柄引き受けの確実性が疎明されるといえる。また、引受人と被告人との関係の深さや、被告人の監督への意欲の深さを示すような内容の引受人の陳述書も、疎明資料として有用な場合がある」

「逃亡の主観的意図の有無という観点で、被告人の供述内容も重要な考慮要素になる。実刑が見込まれる事案であっても、被告人が公訴事実を認めた上で、実刑になることも理解し、その覚悟と更生への意欲を示した上で、なぜ、どういうことを行いたいから保釈を求めるのかを明らかにしている場合などには、逃亡のおそれはさほど大きくないと判断されることもあろう。弁護人から被告人の陳述書を提出することも場合によっては効果的である」

全体的に、勾留請求や保釈請求に対して、具体的にどういう資料を集めて提出すべきか、ということを示した内容でした。

刑事弁護ビギナーズとかを見てやっていれば、ある程度クリアしていると思いますが、供述内容によって細かく罪証隠滅の対象事実を見ていくこととか、勾留の必要性がないことを示す事実を弁護人から提出することの重要性などが参考になりました。

身柄引受書については、私は以前から免許証などを必ず添付していましたが、実際効果的なようです。弁護人がきちんと本人と面談したことも示せますし、有用でしょう。あと、「~したと聞きました」ときちんと事件内容を知っていることも書かせています。

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