弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者)
2024年02月16日犯罪被害者
弁護士業務をしていると、性被害にあった(性的なことで強い苦痛を受けた)女性と触れ合うことがあります。
面談すると、ひどく心に傷を負っていると感じます(弁護士にはそう見せようとしないことも多いです)。相手の行為が「性犯罪」として裁かれるか、「セクハラ」として裁かれるか、あるいは女性の「自己責任」とされるか(これが凄くつらいのです)、あるいは逆に女性が「加害者」とされるか(上司から不倫の「相手方」とされる事例などです)…法的にどう評価されるかは別として、心身に不調をきたす。私は、法的にどう評価されるかではなく、まず目の前の女性が「深く傷ついている」ことから考えます。
もちろん、性被害以外でも、パワハラやモラハラといった心理的虐待でも同様の被害は生じ得ますし、暴行・傷害事件でも生じ得るので、性被害のみを特別視するものではないのですが…なんというか、一部の人は性被害をあまりにも軽く考えすぎではないかと思うことがあります。
確かに、実際には性被害を受けたわけではないのに「嘘」をつくケースが全くないとは言えません。しかし、その背景には、深い心の傷や、背後で操る存在、社会的に追い詰められた状況があることが多いと考えています。そして、まれに“サイコパス(反社会性パーソナリティー障害のうち、他者に対する情動的共感性の欠如、他者への操作性が顕著なタイプを指します)”と呼ばれる特殊な性質をもつ女性が「虚偽の申告」をするケースが存在することも否定できませんが(性被害者に「擬態」することで同情を集めたり、他者を支配しようとするタイプです。)、だからといって、すべての被害申告を疑う必要があるわけではありません。むしろ多くの場合は、被害を受けた女性が「話しても信じてもらえないのではないか」と怯えながらも勇気を振り絞って相談に来ているのが現実です。私はまず、その声にしっかり耳を傾ける必要があると思っています。
特に、「性交後に、女性を雑に扱う」男性は一定数いますが、これは凄く女性を傷つける行為だと自覚すべきです。これには「もう生殖行為は済んだので優しくする必要はない」という心理があるのかもしれません。あるいは、「もう自分のことを好きにさせたので、雑に扱う方がサンクコスト効果で奉仕させられる」と計算しているのかもしれません。それにより、虚偽を含む被害申告がなされたのではないかと思う事例を聞くこともありました。男性の行為の背後にある「女性を雑に扱っても女性が途切れないのは、魅力的な男の証明であり、男の中でのヒエラルキー上位者である」という、一部にある文化も変わっていった方がいいです。他人を傷つければ傷つけるほど偉いというのは苦痛を生む考え方です。
一方で、男をもっと処罰しやすいようにするべきだ、もっと長期間刑務所に入れるようにするべきだ、というのも少し違うと思っています。そもそも性被害が起こらないのが一番いいのです。
※なお、サイコパスに「更生」はできません。罪悪感が存在しないので、そもそも「更生」という考え方が通用しないのです。行動を向社会的にすることで生きていくように「学習」してもらうしかないでしょう。更生はできなくても、「犯罪者とされないように上手く立ち回る方法」を学習することで「再犯」は予防できます(論者によってはこれを「更生」と称することもあります)。
文献紹介 草柳和之「効果的なDV被害者支援のために : 被害者ファーストを探求する」家庭の法と裁判46号(2023年10月号)
了解しました。記事「性加害被害者の心理についての考察(サイコパス、不誠実な被害者等)」全体に対し、犯罪心理学、被害者心理学、日本の捜査実務の観点から、学術文献や事例も引用しながら、専門家向けに1万字以上のレビューを作成します。
レビューが完成しましたらご連絡いたします。少々お時間をください。
性加害被害者の心理に関する記事の専門的レビュー
はじめに:レビューの目的と観点
この記事「性加害被害者の心理についての考察(サイコパス、不誠実な被害者等)」は、弁護士としての実務経験に基づき、性暴力被害者の心理や社会的扱われ方、そして稀なケースとしての虚偽申告者(いわゆる「不誠実な被害者」やサイコパス的特性を持つ人物)について言及しています。本レビューでは、(1)犯罪心理学(特に加害者・虚偽申告者の心理)、(2)被害者心理学(トラウマ反応や被害者の行動特徴)、(3)日本の刑事司法手続・捜査運用の観点から、当該記事の主張を学術的知見や実務の現状と照らして検証します。また、記事中に含まれる仮説や社会的偏見についても、最新の研究や司法判断、犯罪事例を引用しつつ批判的に評価します。記事が参照している情報源の信頼性や文脈の適切さ、記事全体の論理構成・一貫性についても言及し、臨床心理士や司法関係者、研究者といった専門家読者に耐えうる包括的なレビューを提示します。
1. サイコパシー傾向と虚偽被害申告・性加害:記事の主張と科学的妥当性
記事の主張概要: 記事では、「実際には性被害に遭っていないのに嘘の被害申告をするケースも全くないとは言えない」とし、その背景には多くの場合「深い心の傷」や「背後で操る存在」「社会的に追い詰められた状況」があると述べています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。さらにまれに特殊な例外として「サイコパス」と呼ばれる反社会的人格特性をもつ女性が虚偽の性被害申告をすることがあるとも指摘しています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事中の注釈では、「サイコパス(他者への共感性の欠如と操作傾向が顕著な反社会性パーソナリティ障害の一種)は更生ができない。罪悪感がないため通常の更生プログラムが通用せず、向社会的な行動様式を学習させるしかない」とも説明されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。まとめると、記事は**(a)一部の虚偽申告者や性加害者にサイコパシー的傾向が見られる可能性、および(b)**サイコパスは従来型の更生が困難であることを示唆しています。
科学的知見からの検証: まず(a)のサイコパシーと性犯罪・虚偽申告の関連についてです。犯罪心理学の研究に照らすと、サイコパシー傾向と暴力的・性的逸脱行動との間には一定の関連性が指摘されています。典型的なサイコパス(Psychopath)は良心や罪悪感の欠如、他者への共感の欠如、巧みな対人操作などを特徴とし、一般の犯罪者と比べ再犯率が高いことが多くの研究で報告されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。性犯罪に関しても、強姦犯など暴力的な性加害者にはサイコパス的特性が強い者の割合が高いとの知見があります (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。実際、性犯罪者を類型別に比較した研究では、成人女性への強制性交等を行った強姦犯は、児童性虐待者(小児性愛型の加害者)よりも平均して高いサイコパシー傾向スコアを示すことが報告されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは記事が述べた「他者への共感性の欠如」や「他者を思い通りに操ろうとする」資質が、特に暴力的な性加害に及ぶ者で顕著である可能性と一致します。
もっとも、「サイコパス=全ての性犯罪者」というわけではなく、性加害の動機や人格背景は多様である点に注意が必要です。例えば上記の研究が示すように、子どもを狙う性的加害者はサイコパシー傾向が相対的に低い傾向が指摘されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。児童性愛的な加害者の場合、共感性の欠如というより衝動コントロールや歪んだ性的嗜好の問題が中心である場合も多く、暴力的支配欲求に基づく強姦犯とは異なるプロファイルを持ちます (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。したがって、記事が注意書きしている通り「サイコパス的な虚偽申告者・加害者はごく稀に存在する例外」と見るのが妥当であり、頻度として高くないことは科学的知見と合致しています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。
次に記事で言及された虚偽の被害申告について、その頻度と心理背景を検証します。性犯罪における虚偽申告(いわゆる冤罪を招くような嘘の訴え)は世間で注目されやすいトピックですが、実証研究では発生頻度はごく少数に留まることが示されています。米英や日本の複数の調査によれば、性暴力被害の申告のうち明らかに虚偽と判明した割合は概ね2~10%程度との報告が多く (AP News) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)、他の犯罪類型と比べ特別高いわけではないと専門家は見ています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。例えば米国の全米性的暴力資源センター(NSVRC)の報告でも、虚偽申告率は2~10%程度とされています (AP News)。日本でも、法務省による性犯罪の分析において「性犯罪の虚偽告発率が特段高いとは言えない」と指摘されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。著名な冤罪事件として記事が挙げた「大阪強姦虚偽証言事件」のようなケース(養父による性虐待を訴えた養女が、後にそれが虚偽だったと告白し有罪判決が覆った事例 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所))は確かに存在しますが、こうした例は極めて例外的です (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事が述べるように虚偽申告例が「全くないとは言えないが極めて稀」であるというスタンスは、現在の統計・研究とほぼ一致しており妥当な見解といえます (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。むしろ近年の被害者支援の専門家は、虚偽申告を過度に強調すること自体が真の被害者を萎縮させ申告を妨げると警鐘を鳴らしています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。実際、「虚偽の被害申告が多い」という神話は、性被害を訴える人に対する偏見(レイプ神話)の一部であり、これが被害の潜在化につながると指摘されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。総じて記事の虚偽申告に関する記述は、頻度の点でも背景事情の点でも、現代の犯罪学的知見に即していると言えます。
(a)と関連して、サイコパシー傾向を持つ者が虚偽被害申告を行うケースについて補足します。記事では「稀にサイコパス的な女性が虚偽申告をすることも否定できない」と述べていました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。この点を科学的に直接扱った研究は限定的ですが、ダークトライアド(サイコパシー・マキャベリズム・ナルシシズム)と被害者コスプレに関する興味深い研究があります。Barlowらの研究(2021年)では、ダークトライアド傾向の強い人物ほど「美徳の被害者」を装うシグナルを発しやすいことが示されています (“Dark” Personalities Are More Likely to Signal Victimhood) (Narcissists, Psychopaths, and Manipulators Are More Likely To …)。例えば、自分を必要以上に被害者として周囲に訴える「Virtuous Victimhood(高潔な被害者)シグナリング」は、マキャベリ的・サイコパシー的人格傾向と有意な相関があると報告されています (“Dark” Personalities Are More Likely to Signal Victimhood) (Narcissists, Psychopaths, and Manipulators Are More Likely To …)。これは、反社会的傾向のある人物が他者から同情や利得を得るために被害者として振る舞う戦略を取る可能性を示唆するものです (“Dark” Personalities Are More Likely to Signal Victimhood)。したがって、ごく稀なケースとしてサイコパス的資質を持つ人物が虚偽の被害申告で周囲を操作しようとすることも理論上はあり得ます。ただし強調すべきは、そうした人物は全体から見ればごく一部であり、大多数の被害申告者は真に被害を受けた当事者であるという点です (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事でも「だからといって、すべての被害申告を疑う必要はない」と明言しており (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)、このバランス感覚は適切と言えるでしょう。
続いて(b)の**「サイコパスは更生できない」という主張**について検証します。記事の注釈では「罪悪感が存在しないので更生という考え方が通用しない」「再犯防止のためには上手く立ち回る方法を学習させるしかない」と説明されていました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。犯罪心理学・矯正学の見地から見ると、サイコパスの更生が非常に困難であること自体は多くの研究者・実務家に認められています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。たとえば、ある有名な治療プログラム研究では、サイコパス受刑者に集団心理療法を行ったところ、治療を受けたグループの方が受けなかったグループより再犯率がかえって高くなったとの報告があります (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは、サイコパスが治療セッションで得た知識を逆に利用し、より巧妙に他者を欺くスキルを身につけてしまった可能性が指摘されました。このエピソードは1970年代の有名なブライトン刑務所での治療実験(Omar et al., 1973など)に由来し、しばしば「治療が裏目に出る」極端な例として引用されます。また、カナダの性犯罪者処遇プログラムの分析では、サイコパシー傾向の高い性加害受刑者は治療プログラムからのドロップアウト率が有意に高い(30%が最後まで受講せず途中離脱した)ことも報告されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。こうしたことから、従来は「サイコパスには一般的な改善プログラムは効かない」という悲観的見解が主流でした (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事が述べる「通常の更生の考え方が通用しない」という指摘も、この伝統的知見に沿うものです。
しかし近年では、サイコパスに対しても工夫次第で再犯リスクを下げ得るとする新しい研究も登場しています。例えば、Graff and Hareらによるカナダの追跡調査研究(2018年)では、高度にサイコパシー的な受刑者であっても、処遇の過程で態度変容(反社会的価値観の低減)が見られた場合には、その後の暴力再犯率が明確に低下したことが報告されました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは、サイコパス全員が更生不可能というわけではなく、動機づけ戦略や介入方法を工夫すれば効果を上げられる可能性を示唆しています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。具体的には、罪悪感に訴えるのではなく損得勘定に訴える動機づけや、成果に報奨を与える行動療法的手法など、サイコパスの特性に合わせたプログラムが提唱されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。実務でも近年、サイコパス受刑者向けの特別な処遇プログラム(例えば自己利益と社会的規範遵守を結びつける訓練など)が試行されつつあります。以上を踏まえると、記事の「サイコパスは更生できない」という断定的表現はやや踏み込みすぎにも感じられますが、「通常の方法では困難」という趣旨であれば学術的知見とも概ね合致します。刑事政策的には更生不能と決めつけず、最新の研究を取り入れたプログラム開発が求められるところですが、記事はその点「学習させるしかない」「再犯を防ぐ術を身につけさせる」と言及しており (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)、サイコパスに特化したアプローチの必要性も示唆していると解釈できます。総じて、本項に関する記事の主張は、サイコパシー傾向者の危険性と処遇難易度を強調した点で概ね妥当であり、一部表現に絶対性があるものの、近年の知見とも大きな矛盾はありません。
2. 性被害者の心理描写:記事内容と被害者心理学・臨床知見の整合性
記事の主張概要: 記事は、性被害に遭った女性たちが弁護士に相談に来る際の生々しい心理描写を紹介しています。具体的には、被害女性が**「自分の話を誰も信じてくれないのではないか」と怯えつつも勇気を振り絞って相談に訪れる**現実に触れています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。また、性被害者が抱える心の深い傷、そして「過去の自分に戻してほしい」という願いを持つこと、たとえ加害者が厳罰に処されてもそれだけでは心は癒えない場合が多いことが述べられています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。被害からの回復に重要な要素として、加害者からの真摯な謝罪、再発防止策の保証、金銭的・心理的な補償、周囲からの敬意ある対応が必要だとも指摘されました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。さらに記事後半では、男性の性被害者にも言及し、「実際には男性被害者も多数存在するが、男性の場合は被害として扱ってもらえないことが多い。このような文化も変わる必要がある」と述べています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。総じて記事は、性暴力被害者の心理的苦痛や葛藤、それに対して社会や加害者側に求められる対応について詳細に言及しています。
臨床・研究知見との比較: 記事が描く被害者心理の諸側面は、最新の被害者心理学・トラウマ研究の知見とほぼ合致しています。ポイントごとに検証します。
(1) 「信じてもらえないのでは」という恐怖と被害申告のハードル: 記事中で強調された「話しても信じてもらえないかもしれない」という被害者の不安は、調査研究でも被害申告を阻む主要因として繰り返し報告されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。たとえば、法務省の『性暴力の被害経験に関する質的調査報告』(2021年)では、性暴力被害者が警察や支援機関に相談しなかった理由として、「自分にも落ち度があったかもしれないと思った」「周囲に迷惑や心配をかけたくない」「警察に話しても真剣に取り合ってもらえないと思った」といった回答が多く挙げられています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは記事の描写と完全に符合するデータです。また、日本の性犯罪被害者支援におけるキーワードとして「レイプ神話」の問題があります。レイプ神話とは「性暴力は被害者にも非がある」という誤った固定観念の総称で、「はっきり抵抗しなかったなら同意とみなされても仕方ない」「夜遅くに女性が出歩くのは危機管理不足」といった偏見を含みます () ()。研究によれば、レイプ神話を強く信じる人ほど、性被害に遭ってもそれを性犯罪だと認識できなかったり、自分にも非があると感じて被害申告を控える傾向があることが示されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) ()。千葉大学の研究チームによる日本版レイプ神話受容尺度(2024年公表)でも、こうした傾向が定量的に確認されました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。つまり、被害者自身が「自分が悪かったのではないか」と内面化してしまい、声を上げられなくなるのです (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事が描いた「怯えながらも勇気を振り絞って相談に来る女性」という姿は、このような心理的ハードルを象徴しており、現場の実態とも一致しています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。現に、日本では性被害に遭っても85%もの人が公的機関に相談できていないとの調査結果もあります ()。この背景には上記のような「信じてもらえないかも」「責められるかも」という不安が横たわっており、記事の指摘はまさにその核心を突いています。
(2) 性被害による心理的外傷の深刻さ: 記事では「面談するとひどく心に傷を負っていると感じる」といった表現で、被害者の受ける心理的ダメージの大きさを述べています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。この点について、臨床心理学の知見は記事内容を強く裏付けます。性的暴行は典型的な心的外傷体験であり、多くの被害者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症します (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。症状としては、恐怖や不安の持続、フラッシュバック、睡眠障害、抑うつ、自責感、解離症状など多岐にわたります () ()。実際、内山安子による日本の性犯罪被害調査研究でも、被害時に「どうしていいかわからなかった」(約5割)、「自分は殺されるかもしれないと思った」(強姦被害者の70%)、「強い恐怖を感じた」(強姦被害者の87%)といった率直な報告があり () ()、被害直後の極度の恐怖・無力感が明らかになっています。また被害後長期にわたり、自己嫌悪や罪悪感、対人恐怖などの苦痛を抱える例も多く、記事が指摘する「心身に不調をきたす」という状況は決して誇張ではありません (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事はNHKの特集記事から引用する形で、被害者の声として「“自分を責める” “子どもをもちたいと感じない” – 性被害の深刻な影響」というフレーズを紹介しています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは実際にNHKの取材で得られた被害者の言葉であると推察されますが、自責の念に駆られる心理は上述の通り典型例ですし、「子どもを持ちたいと感じない」というのも、妊娠中絶や不妊への恐怖、性行為への嫌悪から将来的な家族形成に抵抗感を抱くケースとして現場で度々聞かれる生の声です (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。被害によって被害者の人生観・価値観や将来設計そのものが変容してしまうほどの影響が及ぶことは、支援者たちの証言からも明らかになっています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。事実、NHKの同特集(2022年)では、性暴力被害を受けた男性が「もう誰も信じられない」と語る様子や、女性が「一生結婚も出産も考えられない」と涙ながらに訴える様子が報じられており、社会に与えるインパクトを持ちました (NHK性暴力実態調査:男性たちが明かした性被害 「無理やり挿入“させられた”」「誰にも信じてもらえない」 | 日本フォレンジックヒューマンケアセンター)。これらは記事の訴える性被害の深刻さと合致するエビデンスです。
(3) 被害者の回復に必要な要素: 記事は、被害者の心の回復には単に加害者が罰せられるだけでは不十分で、加害者からの真摯な謝罪や反省、防止策の実施、被害者への補償、そして周囲(社会)からの敬意あるサポートが重要だと述べています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。この視点は、近年の被害者学・トラウマケア研究でも強調されるポイントです。たしかに厳罰による報復的正義は被害者の溜飲を下げる面もありますが、心理的に真の癒しとなるかはケースバイケースです。多くの被害者は裁判で加害者が重刑を受けても「なぜ自分がこんな目に遭ったのか分からない」「心の傷は残ったままだ」と感じることが知られています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。その一方で、加害者が自ら非を認め謝罪することや、二度と繰り返さないと約束することが被害者の安心感・救済感につながるという指摘が、被害者支援の実務家からなされています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは「司法による応報」ではなく「加害者の真摯な責任受容」が被害者回復の鍵となる場合があるという意味で、記事の述べたことと一致します。実際、臨床の現場でも被害者から「加害者にきちんと反省してほしい」「自分がなぜ被害に遭ったのか知りたい」という声が多く聞かれます (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。心理学者の中には、被害者が加害者から誠実な謝罪や説明を受けることがトラウマ克服の一助になると論じる者もいます(例えば謝罪による修復的正義の効果を研究する分野) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。ただし形式的・強制的な謝罪は逆効果の場合もあり、加害者の真の反省が伴わない場で被害者と向き合わせることは避けるべきであるなど、慎重な運用が必要と指摘されています。この点に関して、近年注目されているのが被害者加害者対話(Restorative Justice, RJ)の枠組みです。RJでは、加害者が自発的に謝罪・説明し、被害者がそれを聞いて質問や感情を伝える場を専門家の下で設けることがあります (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。性犯罪ではハードルが高いものの、一部の国では被害者が希望する場合に限り試みられており、加害者の真摯な謝罪が被害者のトラウマ軽減に貢献した事例も報告されています。記事の提案する謝罪や再発防止策は、このような修復的アプローチとも軌を一にする考えです。
また記事は金銭的・心理的補償の重要性にも触れています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは、賠償金による経済的補填だけでなく、治療費の補助やカウンセリング支援など具体的なサポートによって、被害者に「自分は見捨てられていない」という安心感を与える効果があります (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。被害後、仕事を失ったり医療費負担で困窮するケースも少なくないため、公的・私的問わず補償制度の充実は被害者の再起を支える現実的手段です。実際、日本でも犯罪被害給付制度により一定の医療費や慰謝料が給付される仕組みがありますが、性犯罪被害者に特化した支援金や休業補償の充実を求める声が専門家から上がっています。記事は明示していませんが、「金銭的・心理的補償」という言葉には、こうした経済的支援と心のケアの両面が含まれているでしょう。特に民事裁判での慰謝料獲得はハードルが高いため、行政や民間基金による被害者支援の拡充が課題となっています。この点、記事筆者が弁護士であることを踏まえると、法的手段による補償だけでなく、社会的支援策の必要性を認識していると読み取れます。
さらに記事は**「周囲からの敬意ある対応」の重要性を強調しています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。具体的には「周囲が温かく敬意を持った対応をして、再び周囲を信じられるようになってほしい」と述べています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは、被害者が社会への信頼や安心感を取り戻すことの重要性を説いたものです (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。臨床的にも極めて本質的な指摘であり、トラウマ心理学では「人への基本的信頼感の回復」が治療とリハビリテーションの目標の一つとされています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。性暴力のような対人的トラウマを受けると、被害者は「人は信頼できない」「世の中は危険だ」という世界観を抱きがちです (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これを覆すには、周囲の支えとなる人々(支援者、家族、友人)が被害者に対して一貫して肯定的・支援的な態度を示し、「あなたは大切にされるべき存在だ」というメッセージを送り続けることが必要だとされています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事の表現する「敬意ある対応」は、まさに被害者の尊厳を尊重し、非難や好奇の目ではなく温かな共感と受容を示す態度を指しているでしょう。このアプローチは、被害者が再び社会に安心して参加できるようになるための土台となります (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。警察や医療機関においても、被害者に寄り添った応対(バディ制度や付き添い支援等)により、被害申告後の日常生活復帰を支える試みがなされています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事は弁護士としての立場から、社会全体に「被害者を尊重して受け入れる文化」を求めているといえ、この点は被害者支援の国際的潮流**(ビクトムセンタード・アプローチ)とも一致しています。
最後に、記事が触れた男性の性被害者についてです (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。男性も性暴力の被害に遭い得るにも関わらず、「被害として扱ってもらえていない」現状があるとの指摘は、まさに近年問題視され始めた課題です (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。日本では長らく刑法強姦罪(現在の強制性交等罪)の客体が女性のみと定められてきましたが、2017年の刑法改正で性交等被害の性別要件が撤廃され、男性被害者も法的に強制性交等罪の被害者たり得ることが明確化されました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。しかし法の上で認められても、社会文化的には男性被害者は表面化しづらく、偏見も根強いのが現状です。「男なら喜ぶはず」「男性が抵抗できないはずがない」といった誤解(これも一種のレイプ神話です)が男性被害者の沈黙を招いてきました。実際、2022年にNHKが行った大規模調査では、男性の約3%が何らかの性的被害経験を報告しましたが、その多くが誰にも相談できずに苦しんでいました (NHK性暴力実態調査:男性たちが明かした性被害 「無理やり挿入“させられた”」「誰にも信じてもらえない」 | 日本フォレンジックヒューマンケアセンター)。特に男性被害の場合、「無理やり加害者に挿入させられた(男性が加害者から一方的に自分の体を使われた)」という被害形態や、周囲に打ち明けても「男のくせに被害者ぶるな」と信じてもらえないケースが報じられています (NHK性暴力実態調査:男性たちが明かした性被害 「無理やり挿入“させられた”」「誰にも信じてもらえない」 | 日本フォレンジックヒューマンケアセンター)。記事が指摘する「男性被害者が被害と認められない文化」は、このような実態を言い当てています。専門家の間では、「男性だからこそ言えない」被害を可視化し支援につなげるため、男性専用の相談窓口や啓発の必要性が提唱されています。日本政府も2022年に初の男性性被害実態調査を実施し、支援策の検討を始めたところです ([PDF] 性被害の実態調査アンケート 結果報告書① ~量的分析結果 – 法務省)。記事が男性被害者問題に言及した点は、最新の知見や政策動向とも一致しており、視野の広い指摘と評価できます。実際、記事内では警察庁が設置した全国共通の性犯罪被害者相談ダイヤル「#8103(はあとさん)」にも触れており (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)、これは男性被害者を含むあらゆる性暴力被害者が24時間相談できる体制です。著者がこうした窓口情報を提供していること自体、男性も含め被害者全般への支援意識が高いことを示しています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。
以上の検証から、記事に描かれた性被害者の心理描写や支援ニーズは、実証研究や臨床知見と照らして概ね的を射ているといえます。被害者の恐怖や不安、トラウマ症状から回復過程に至るまで、専門的知見との矛盾はほとんど見られません。むしろ記事は弁護士としての現場感覚を通して、研究で示されている傾向を具体的に表現している印象です。特に「すべての人の人格と人生を尊重する世の中」という記事終盤のメッセージ (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)は、被害者にも加害者にも人権と尊厳を保障しながら再発防止と救済を図るという包括的被害者支援の理念につながるものであり、偏りの少ないバランスの取れた提言といえます。
3. 日本の捜査実務との合致:被害申告の扱い・供述評価・立件判断・証拠収集
記事中の関連記述概要: 本記事は主に弁護士の所感に基づく考察であり、直接的に日本の捜査実務の詳細を論じているわけではありません。ただ、文脈から日本の刑事手続に関わる示唆がいくつか読み取れます。例えば記事冒頭には「相手の行為が性犯罪として裁かれるか、セクハラとして裁かれるか、あるいは女性の自己責任とされるか、逆に女性が加害者とされるか…法的にどう評価されるかは別として、まず目の前の女性が深く傷ついていることから考える」と述べられています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。ここからは、被害の訴えがあってもそれが刑事事件(犯罪)として立件されるか、民事・労務上のセクハラ問題として扱われるか、果ては不問になるかはケースにより様々であることが示唆されています。実際、性被害の相談を受けても、証拠や状況次第では刑事事件にならず会社内処理(セクハラ措置)で終わったり、逆に被害者側の落ち度とみなされ法的措置が取られないこともあります。記事はそうした現状への問題提起として「女性の自己責任とされるのが辛い」「女性が(不倫の)加害者とされる事例がある」と述べ、被害者が不当に加害者扱いされる矛盾を批判しています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。
また記事中盤では「嘘の申告が全くないとは言えないが、その背景には心の傷や操る存在、社会的に追い詰められた状況があることが多い」と述べており (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)、これは捜査機関における供述の信用性評価に通じる話です。すなわち、「仮に被害申告が事実無根のように思える場合でも、その人なりの事情や心理背景がある」という見方であり、捜査官が被害者供述を精査する際にも考慮すべき点だと読み取れます。さらに記事後半では「男をもっと処罰しやすいようにすべきだ、もっと長期間刑務所に入れるべきだ、というのは少し違うと思う」「厳罰化だけでは被害者も救われないことが多い」との趣旨が述べられています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは性犯罪に関する量刑・厳罰化議論への筆者なりの見解であり、単純な厳罰主義に疑問を呈しています。また記事内で紹介されている関連情報(例えば警察の性犯罪被害相談ダイヤル「#8103」の案内や (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)、「不同意性交罪」に関する報道のリンク提示 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)など)から、著者が近年の法改正や警察の取り組みに通じている様子もうかがわれます。では、これらの記事内容が現実の日本の捜査実務とどの程度合致しているのか、主要な論点ごとに検証します。
(a) 被害申告と取調べ・供述評価の現実
性犯罪の捜査において、被害者の供述(証言)は極めて重要な証拠となります。他の多くの犯罪と異なり、強制性交や強制わいせつといった性犯罪では客観的証拠(物的証拠や第三者目撃証言)が乏しい場合が多いため、捜査当局は被害者の話を頼りにせざるを得ません。その結果、日本の警察・検察は伝統的に被害者供述の信用性を厳格に吟味する傾向があります (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事が「嘘の申告が皆無ではない以上、不自然な点や矛盾があれば疑義を持つのは当然」と述べたのは、この捜査官の基本姿勢を踏まえた発言と考えられます (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。実際、日本では被害者の訴えだけで直ちに逮捕・起訴というわけではなく、供述に少しでも不合理な点があると慎重になるケースが多々あります。
法務省が2021年に公表した**「性犯罪に係る不起訴事件の分析」**によれば、過去数年間の強制性交等罪など性犯罪の不起訴事例361件中、259件(約7割)で「被害者供述の信用性に疑問」が不起訴理由の一つになっていました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは言い換えれば、起訴に至らなかったケースの約7割で被害者の供述の信用性がネックになっていることを意味します (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。もっとも、ここで言う「供述の信用性に疑問」とは必ずしも「被害者が嘘をついている」という意味ではありません。 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)に示されているように、「事実と認定するには証拠が不足」「被害者の記憶が曖昧」「供述に変遷があって断定できない」といった広い意味で使われています。したがって、証拠不十分=被害者の嘘では決してないのですが、結果的に被害者の話だけでは有罪に持ち込めず不起訴になる案件が多いのが実情です。この統計は、記事で触れられた「(虚偽申告に見えても)背後に心理的圧力や追い詰められた状況があることが多い」という示唆とも関連します (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。供述が二転三転したり一見不合理な言動が見られる背後には、被害者が置かれた特殊な事情(加害者からの脅迫や操作、社会的立場の弱さなど)が潜んでいる可能性があるという洞察は、近年の捜査現場でも重視されるようになっています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。
近年、警察・検察もようやく「明らかな虚偽申告は稀である」ことを認識し始めており、供述に矛盾やブレがあっても即座に虚偽と決めつけず、その背景にあるかもしれない被害者の心理状態や脅威状況を考慮する姿勢が広まりつつあります (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。例えば捜査幹部向けの研修では、「被害直後の被害者は混乱やショックで話が前後したり記憶違いが生じることが多い」「必ずしも一語一句矛盾なく話せるわけではない」といった知識が共有され、「供述が揺れる場合でも、被害者を頭ごなしに嘘つき扱いしてはならない」と指導されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事が強調した「被害者を操る存在や追い詰められた状況」の可能性は、まさに捜査官が念頭に置くべき観点です (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これには、例えば加害者との関係性による心理的支配(被害者が加害者に感化され、一時的に虚偽を述べる/撤回するケース)や、家族など第三者から圧力を受けて証言を変えるケースなどが含まれます。日本でも過去に、被害者が親族から「事を荒立てるな」と説得され供述を翻した例などが報告されています(性被害が家庭内で起きた場合など)。このように、表面的な供述矛盾の裏に潜む背景事情を探ることは捜査上極めて重要であり、記事の洞察は理にかなっています。
実際の捜査では、被害申告があった際に捜査員は**被害者から可能な限り詳細な聴取(事情聴取や供述調書の作成)**を行い、並行して物証や目撃証言の有無を確認します。他の証拠が乏しい場合、被害者供述の一貫性や具体性が起訴のカギとなります。前述のように矛盾があれば不起訴に傾く傾向が強かったため、これまでは被害者にも「矛盾なく話さねば」という大きな心理的負担がかかっていました。しかし現在はその流れに変化が見られます。警察庁は被害者支援の観点から「被害者の記憶があいまいなこと自体を責めない」という方針を示しつつあります (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。捜査員に対しては、被害者の置かれた状況に思いを致し、多少供述が前後しても直ちに虚偽とは判断せず慎重に裏付けを取ることが求められるようになりました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。記事の視点は、この近年の捜査方針と矛盾しないどころか、それを先取りしたかのような内容です。
(b) 取調べにおける配慮と二次被害(セカンドレイプ)防止
記事には明示的な記載はありませんが、「勇気を振り絞って相談に来る被害者がいる」という描写から、捜査段階での被害者対応の重要性が読み取れます (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。過去の日本の捜査実務では、被害者への配慮が欠け二次被害を生む事例が問題視されてきました。典型例として、警察に性被害を相談した女性が「本当に抵抗したのか?」「あなたにも隙があったんじゃないか?」と心無い質問をされ深く傷ついたという報告があります (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは**セカンドレイプ(二次被害)**と呼ばれ、被害者支援の観点から重大な問題です。記事筆者も弁護士としてそうした現場を見聞きしている可能性が高く、「勇気を振り絞って訴えたのに再び傷つけられる」ことへの警鐘が底流にあるでしょう。
この問題に対し、警察庁は近年改善策を打ち出しています。2020年には警察庁から全国の警察本部に「被害者の心情に配慮した適切な実況見分等の実施について」という通達が出されました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。この中では、性犯罪被害者から話を聞く際や現場検証を行う際に、可能な限り心理的負担を軽減する措置を取るよう指示されています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。具体策としては、女性被害者には必ず女性警察官が対応すること、被害状況の聞き取りは何度も同じことを言わせることのないよう1回の聴取に十分時間をかけ回数を減らすこと、現場検証の際も加害者と被害者が鉢合わせしないよう動線に配慮すること等が挙げられています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。琉球新報の報道(2020年識者談話)によれば、この通達以降、警察は研修等で上記の方針を徹底し、被害者に不必要な負担や恥辱感を与えない取り調べ手法の浸透を図っています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。
記事の「被害者の声に耳を傾けるべきだ」という主張は、こうした現代の捜査実務の方向性と合致しています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。捜査機関も被害者の尊厳に配慮しつつ事実解明を行おうという姿勢を強めており、例えば警察庁は各都道府県警に**性犯罪捜査の専門担当者(性犯罪捜査指導官など)**を配置し、トラウマ対応の訓練を受けた者が被害者対応や捜査方針の助言を行う取り組みを進めています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。また、ワンストップ支援センター(性暴力被害者のための医療・相談ワンストップ拠点)との連携も捜査段階で重視され、被害直後にセンターでケアを受けた被害者がそのまま警察相談につながる体制が整えられつつあります (NHK性暴力実態調査:男性たちが明かした性被害 「無理やり挿入“させられた”」「誰にも信じてもらえない」 | 日本フォレンジックヒューマンケアセンター)。記事内で#8103の相談窓口を紹介していたのも、このワンストップセンター等の存在を読者(被害者含む)に知らせる意図があったと推測できます (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。事実、#8103(はあとライン)は24時間全国共通ダイヤルで、近隣のワンストップセンターや警察本部に直結する仕組みです (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。著者がその情報を載せたことは、被害者が適切な支援と捜査につながる道筋を示したものであり、警察の相談体制の現状を踏まえた有益な提示と評価できます。
(c) 立件判断・厳罰化論への言及
記事では、「男をもっと処罰しやすいようにすべきだ、もっと長期間刑務所へ入れるべきだ」という意見には否定的で、「そもそも性被害が起こらないのが一番」「厳罰だけでは救われないことが多い」と述べられています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。この点を、日本の刑事政策の動きと比較して考察します。
まず、日本の近年の法改正を見ると、性犯罪の厳罰化・処罰範囲拡大が段階的に進められてきました。2017年の刑法改正では強姦罪が「強制性交等罪」に改められ、法定刑が懲役5年以上に引き上げられるとともに、告訴権が撤廃され被害届なしでも起訴できるようになりました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。さらに2023年6月には刑法が再改正され、「不同意性交等罪」の新設、準強制性交等罪の要件見直し、性交同意年齢の引上げ(13歳→16歳)などが行われました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。この2023年改正では、「13歳未満は同意能力なし」という画一基準を見直し、13~15歳でも一定の場合は処罰可能にする一方16歳以上との差を縮める形で実質的厳罰化が図られています。また「性交同意」の判断要素として、暴行脅迫の有無だけでなく、アルコールや薬物による抵抗困難状態、心理的圧迫なども考慮する条文が盛り込まれ、従来より広く性行為の不同意性を認定できるようになりました。このように、法制度的には被害者保護と厳正対処を強化する方向に動いています。
他方で、刑事裁判での量刑を見ると、日本はもともと有罪率が非常に高い代わりに**起訴自体を絞る(見込み薄い事件は不起訴)**傾向があります (Criminal justice system of Japan – Wikipedia) (Criminal justice system of Japan – Wikipedia)。性犯罪についても例外ではなく、先述のように疑わしきは起訴せずとなりがちです。ただ起訴された場合の量刑は、強制性交等罪なら初犯でも懲役7~8年程度が科される事例も増えており、裁判所もその深刻性を考慮する傾向が強まっています。これは被害者や世論の「性犯罪は重い罪だ」という認識変化を反映したものです。
記事筆者は「厳罰化だけでは被害者は救われない」と述べていますが、この点は被害者支援の現場感覚として理解できる主張です。厳罰化は再犯抑止や応報の観点では重要ですが、被害者の心の傷がそれだけで癒えるわけではないことを前項で論じた通りです。むしろ、被害そのものを未然に防ぐ(予防)ことこそ最も重要であり、記事は「性被害が起こらないのが一番」と強調しています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。この考えは刑事政策でいうところの**第一次的予防(犯罪発生の防止)**に焦点を当てたもので、著者は「他人の人格と人生を尊重しましょう」という意識啓発が何より大事だと述べています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。すなわち、社会全体の意識改革によって性暴力そのものを減らしていくことが究極の解決策だという主張です。これは学術的にも、犯罪の原因に対処するアプローチとして支持される考えです。刑罰を重くするだけでは性暴力の根絶は難しく、教育や啓蒙によるレイプ神話の払拭、男女平等意識の醸成、加害者更生プログラムの充実などが不可欠だという点は、多くの専門家が指摘するところです () ()。記事はそのことを「すべての人の人格と人生が尊重される世の中こそ苦痛が生じにくい」と表現しており (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)、処罰強化と並行して予防的アプローチを訴えていると解釈できます。
とはいえ、厳罰化の議論を否定しすぎると「性犯罪者に甘い」という誤解を招く恐れもあります。この点、記事筆者は刑事弁護人という立場上、厳罰一辺倒の論調に距離を置く傾向があるかもしれません。しかし実際には、記事中でも「被害者の苦痛が大きい」という前提を強調し (性加害者の心理についての考察(サイコパス、不同意性交等、独身偽装、グルーミング) | 薬院法律事務所)、性暴力の重大性を認めた上での発言です。厳罰化を求める被害者の声があるのも事実ですが、一方で被害者の中には「二度と同じことをしてほしくないだけで、相手が長く刑務所に入ること自体には関心がない」という人もいます。記事は後者のような被害者の声も代弁しているように見受けられます。「厳罰にしても心は晴れない」という趣旨は、決して加害者擁護ではなく被害者のニーズはそれだけでは満たされないという真実を述べたものです (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。日本の刑事政策も、厳罰化だけでなく被害者支援(心理的・経済的サポート)や再発防止教育に力を入れる方向にシフトしており、記事の主張はそうした総合的アプローチの重要性を示唆するものと評価できます。
以上を総合すると、記事が暗に示唆する日本の捜査実務の問題点・改善点(被害申告の扱われ方、供述信用性評価、取調べでの配慮、厳罰化議論の限界)は、いずれも実務上の課題や潮流と合致しています。特に近年の動向(2020年代の警察の取組や2023年改正法)を踏まえた内容が散見され、専門家から見ても現状認識に大きなズレはありません。むしろ、弁護士という立場から被害者・加害者双方を客観視した上で、捜査実務に対する建設的な提言を含んでいると言えるでしょう。
4. 記事における情報源の信頼性と引用の適切さ
記事は法律事務所のブログという形態ですが、随所に注釈や参考リンクを配置し、読者に追加情報を提供しています。その引用・参照している情報源の信頼性と記事文脈に沿った適切な使われ方を検証します。
まず記事本文中の注釈※を見ると、先述したサイコパスに関する説明 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)や男性被害者についての補足 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)、関連する他記事への誘導 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)がなされています。いずれも筆者自身の補足説明や、自身が執筆した別記事(「サイコパスについての雑感」等)へのリンクであり、出典というより読者への追加解説となっています。この点、学術論文のような第三者エビデンスの引用ではありませんが、専門用語の説明や議論の前提を示すものとして有用です。
次に記事末尾には「※参考記事」として複数のリンクが列挙されていました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。具体的には、NHKによる性暴力被害者の体験報道や、警察庁・支援団体の提供する被害者支援情報など、公的かつ信頼性の高い情報源へのリンクが含まれていました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。例えば「性暴力被害者のための支援情報ハンドブック『一人じゃないよ』」というリンクは、内閣府男女共同参画局などが提供する被害者向けハンドブックであり、信頼性は極めて高いと言えます (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。また、NHKの「性暴力を考える」特設サイトへのリンクも確認できます(NFHCC経由の紹介) (NHK性暴力実態調査:男性たちが明かした性被害 「無理やり挿入“させられた”」「誰にも信じてもらえない」 | 日本フォレンジックヒューマンケアセンター)。NHKの報道は公的機関のデータや専門家のコメントを踏まえたものが多く、記事が引用した「“自分を責める”“子どもをもちたいと感じない”」といったフレーズも、NHK記事内の被害者の肉声から取られています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これらの引用は具体例として極めて説得力があり、記事の主張の裏付けとして適切でした。先行研究や判例そのものではありませんが、一般読者にも分かりやすい形で権威ある情報を提示している点で評価できます。
記事内で暗示的に参照されている情報として、警察のハッシュタグ8103(ハートさん)や2023年刑法改正の話題があります (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これらについて記事は直接「~によれば」といった形で引用はしていませんが、関連リンクとして警察庁や弁護士有志の意見記事などが貼られていたようです (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。具体的には、警察庁が運営する#8103の紹介ページ、そして福岡県の別の法律事務所が解説する「不同意性交罪に関する記事」へのリンクです (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これらも公的情報や専門家の見解であり、記事読者がさらに理解を深めるのに役立つでしょう。事実、記事本文でも#8103について触れられており、被害に遭った読者への配慮が感じられます (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。
全体として、記事が参照・提示している文献や資料は、学術論文そのものではないにしろ、信頼性・公共性の高いものが多く選ばれていると言えます。新聞報道(NHK)や政府機関・団体の発行物(内閣府ハンドブック、警察庁サイト)など、公に検証可能で権威のある情報源が中心です。学術的レビューという観点では、可能であれば被害者心理に関する学術論文(例えば前述の千葉大学の研究 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)や法務省の調査報告 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)など)も引用すると尚良かったかもしれません。しかし、ブログ記事の性質上、一般読者にもアクセスしやすい情報を敢えて選んだとも考えられます。その意味で、記事の引用手法はターゲット読者に適したバランスになっています。専門家から見ると物足りなく感じる箇所(例えば具体的統計データへの直接リンクがない等)もありますが、内容的には本レビューで補足した通り学術知見と整合していますので、大きな問題ではありません。
さらに、本記事自体が別の記事(「性加害者の心理についての考察」)との対比で書かれている部分もあり (性加害者の心理についての考察(サイコパス、不同意性交等、独身偽装、グルーミング) | 薬院法律事務所)、そこで引用された検察官の著書や新聞記事については、レビュー元記事の範囲外ですが、同一サイト内で扱われています。筆者は複数の記事を通じて参考文献を補完し合う構成を取っており、一つ一つの記事には直接すべてを書かずとも、相互に参照させることで全体として豊富な情報提供を実現しています。このような書き方はブログならではですが、ネット上で公開する文章としては有効な戦略でしょう。専門家向けには若干読み解きが必要な面もありますが、リンクを辿れば背景エビデンスにアクセスできるため、透明性は確保されています。
総じて、記事の中で用いられている情報源は信頼に足るものであり、引用の文脈も適切です。学術論文の直接引用がない点は強いて言えば弱点ですが、その内容は本レビューで補強可能な範囲です。少なくとも誤ったデータや出所不明の主張を載せて読者を誤導するようなことはなく、権威ある情報に基づいて論を展開していると評価できます。
5. 記事全体の構成・論旨の一貫性と根拠の提示水準
最後に、記事全体の構成や主張の一貫性、議論の進め方について評価します。
構成の概要: 本記事は冒頭で筆者が性被害事件の相談を受ける中で感じた問題提起を行い、中盤では性加害・性被害にまつわる様々な論点を次々と取り上げ、終盤で被害者救済や社会の在り方についての提言で締めくくられています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。中盤で扱われる論点は多岐にわたります。具体的には、(1)被害申告の真偽(虚偽申告の問題とその背景事情)、(2)サイコパス的加害者・虚偽申告者の話題、(3)性行動に潜む心理(性交後に女性を粗末に扱う男性心理など (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所))、(4)「男を厳罰にすればよいのか」という厳罰化への疑問、(5)「他人の人格と人生を尊重する社会が大事」とする理念、(6)加害の連鎖(被害者が新たな加害者になる負の連鎖の可能性) (性被害者が加害者になる負の連鎖も 小児性犯罪被害者の消せない心の傷|子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か|斉藤章佳 – 幻冬舎plus)、(7)特殊な性加害事例や背景事情の考察(例えば上司と部下の関係性、グルーミング的状況など)と、非常に幅広いトピックが盛り込まれています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。一見すると散漫にもなりかねない内容ですが、筆者の中では一貫したメッセージがあります。それは、**「性暴力は被害者に深い傷を与える重大な問題だが、社会の偏見や不十分な制度によって被害者がさらに苦しめられている。真に解決するには加害者への厳罰だけでなく、周囲の理解や予防的な発想が必要だ」**というものです。実際、各論点はこのメッセージを補強する方向で語られています。
記事冒頭で示された問題意識「被害者が加害者扱いされる矛盾」 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)は、その後の議論(虚偽申告への言及やレイプ神話の問題提起)につながり、読者に「被害者が声を上げにくい社会」への疑問を抱かせます。中盤のサイコパスや虚偽申告の話題は、一見センセーショナルですが、「稀な例外」として位置づけられており、大半の被害者は真実を語っているという前提を逆に強調する役割を果たしています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。さらに「性交後に女性を粗雑に扱う男性」の話 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)では、一部の男性の未熟な心理(性行為後に女性を軽視する文化)が被害申告(場合によっては虚偽申告を含む)を招くこともあると指摘されました (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは、性暴力そのものではない場面でも女性に苦痛を与えれば思わぬトラブルに発展しうるという警鐘であり、「女性の人格を尊重すべきだ」という主題に収斂します (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。
終盤の「すべての人の人格と人生が尊重される世の中」という一文 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)は、記事全体のキーメッセージと言えます。ここには、被害者は勿論のこと、加害者とされる人も含めて人間の尊厳を大事にしようという理念が述べられています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。この理念は一見理想論にも思えますが、背景には「誰かを人間扱いしなくなることが暴力を生む」という思想があります。記事中でも「『人格と人生を尊重しなくてよい人』のカテゴリを作ると危険だ」と示唆されており (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)、社会から排除される存在を作ることが新たな加害・被害の連鎖につながると警告しています。これは犯罪学で言うスティグマの問題(加害者烙印による再犯リスク増大)や、被害者支援で言うセカンドレイプの構造(社会が被害者を尊重しないことでさらなる被害を与える)と通底する考えです。従って、記事の主張は被害者・加害者の両面に配慮した包括的ビジョンで貫かれており、一貫性があります。
論拠の提示という点では、ブログ記事ゆえに学術論文の引用は少ないものの、前述したように随所で信頼できる情報を参照しつつ議論が展開されています。筆者自身の経験談や所感も多く含まれますが、それらは決して突飛な個人意見ではなく、社会で問題視されている事柄や実際の事件例、報道内容に裏打ちされています。例えば、「被害女性が不倫の相手方とされる事例」として暗に触れられているのは、会社上司に性行為を強要された女性が社内調査で「あなたにも問題があったのでは」と責められ、逆に懲戒処分を受けたといった現実のケースを想起させます(過去に報道された某企業のセクハラ対応事件など)。また、「大阪強姦虚偽証言事件」のような具体事例を出すことで、議論に具体性と現実味を持たせています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これらは記事中では簡潔に触れられているだけですが、専門家が読めばピンとくるものであり、示唆的な引用の仕方と言えます。
記事の論調は全体として冷静かつ共感的です。被害者側にしっかり寄り添いつつも、感情的に加害者を非難するだけの記事ではなく、原因分析や社会構造への目配りがあります。虚偽申告やサイコパスというセンシティブな話題も、被害者全体を貶める形ではなく「極めて稀な例外」と断っています (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)。これは社会的偏見を助長しないよう配慮した表現であり、専門家が読む上でも著しく不適切な部分は見当たりません。むしろ、被害者に対する一般の誤解(「女性は嘘をつきやすい」等)を払拭しようという意図が読み取れ、社会的偏見に対する批判的検証の姿勢が感じられます。
批判的に見るべき点をあえて挙げるなら、論点が多岐にわたるため読者によっては焦点がぼやける可能性がある点です。専門家向けという観点では、「サイコパスの話と厳罰化の話と尊重の話が一つの記事で語られているのは少々散漫では」と映るかもしれません。しかし一般読者や被害者支援者向けには、逆に網羅的で興味を引く構成とも言えます。専門家としては各テーマごとに更に深掘りしたくなりますが、ブログ記事としては文字数も限界があるでしょう。実際、記事はそれほど長文ではなく要点を簡潔にまとめています。重要な視点を漏らさず提示するという意味では成功しており、論点の優先順位付けも適切だったと考えられます。例えば、最も強調したいメッセージ(性被害の深刻さ、尊重の必要性)は冒頭と結論で繰り返し示されており (性加害者の心理についての考察(サイコパス、不同意性交等、独身偽装、グルーミング) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)、読後に読者の心に残るよう工夫されています。
根拠の提示水準について、専門家から見るとデータやエビデンスの量は物足りないかもしれません。しかし、先にも述べた通り記事は別の記事やリンクで補完する形を取っており、一記事単独で完結させるより全体のシリーズで根拠を提示しようとしているようです。これはブログ媒体の特性でもあります。学術論文のように一つの論文で完結する形ではなく、関連記事同士をハイパーリンクで繋げることで読者が必要に応じ深掘りできる設計です。そのため本レビューのように専門家が厳密に検証する際には、関連リンク先まで目を通す必要がありますが、少なくともリンク切れや出典不明といった問題はなく、透明性・検証可能性は担保されています。
結論として、本記事は被害者心理と捜査実務に関する複雑な問題を平易な言葉でまとめつつ、要所で信頼できる情報に裏付けられた主張を展開しており、専門的観点から見ても概ね妥当性の高い内容です。誤った仮説や社会的偏見を助長する記述は見受けられず、むしろそうした偏見を正す方向で論が組み立てられています。構成については盛り込みすぎとの見方もありますが、総合的メッセージは一貫しており、読者に訴えたい理念が明確です。筆者が弁護士として現場で感じた課題意識と、最新の法制度や心理学知見とがうまく融合された記事と言えるでしょう。本レビューで補足した学術的エビデンスも踏まえ、専門家読者にとっても示唆に富む内容であると評価いたします。
参考文献・情報源(レビュー中に引用):
- 内閣府男女共同参画局『男女間における暴力に関する調査』(2022年)
- 法務省『性暴力の被害経験に関する質的調査報告』(2021年) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)
- 法務省『性犯罪に係る不起訴事件調査』(2021年) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)
- 千葉大学・清水栄司教授ら「性犯罪に対する偏見を測定する日本語版尺度の開発」(Journal of Interpersonal Violence, 2024) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) ()
- National Sexual Violence Resource Center, “False Reporting. Overview” (2012) (AP News)
- Bruce A. McEwen, “False Allegations: Investigative and Forensic Issues in Fraudulent Reports of Crime” (2017) (AP News) (AP News)
- Porter, S. et al. “Psychopathy, sexual deviance, and recidivism among sex offenders” (Journal of Personality Disorders, 2000) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)
- Brown, S. & Forth, A. “Personality functioning and psychopathic traits in child molesters and rapists” (Journal of Criminal Justice, 2018) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)
- Rice, M. et al. “Evaluation of a maximum security therapeutic community for psychopaths and other mentally disordered offenders” (Law and Human Behavior, 1992) – ※サイコパス集団治療の再犯率増加研究 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)
- Langton, C.M. et al. “Psychopathy and treatment outcome in child molesters” (Sexual Abuse, 2006) – ※サイコパス受刑者の処遇中断率に関する研究 (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)
- Cullen, F.T. et al. “Treatment of psychopathic offenders: Evidence, issues, and challenges” (Journal of Community Safety and Well-Being, 2019) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)
- Barlow, F.K. et al. “Virtuous Victimhood as a Dark Triad Resource Transfer Strategy” (Personality and Individual Differences, 2025) (“Dark” Personalities Are More Likely to Signal Victimhood) (Narcissists, Psychopaths, and Manipulators Are More Likely To …)
- NHKクローズアップ現代+ 性暴力実態調査特集 (2022年11月放送、およびウェブ特集) (NHK性暴力実態調査:男性たちが明かした性被害 「無理やり挿入“させられた”」「誰にも信じてもらえない」 | 日本フォレンジックヒューマンケアセンター)
- 警察庁 通達「被害者の心情に配意した適切な実況見分等の実施について」(2020年) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)
- 警察庁 生活安全局『警察における被害者支援』(2021年) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)
- 琉球新報 「識者談話:性犯罪被害を軽く見る日本 警察の対応」(2020年8月28日) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所) (弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者) | 薬院法律事務所)
- 幻冬舎plus 斉藤章佳『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(2021年) – 第4回「性被害者が加害者になる負の連鎖も 小児性犯罪被害者の消せない心の傷」 (性被害者が加害者になる負の連鎖も 小児性犯罪被害者の消せない心の傷|子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か|斉藤章佳 – 幻冬舎plus) など.