弁護士業務を通じて感じる、性被害の問題(性犯罪、犯罪被害者)
2024年02月16日
労働事件(一般民事)
弁護士業務をしていると、性被害にあった(性的なことで強い苦痛を受けた)女性と触れ合うことがあります。面談すると、ひどく心に傷を負っていると感じます(弁護士にはそう見せようとしないことも多いです)。相手の行為が「性犯罪」として裁かれるか、「セクハラ」として裁かれるか、あるいは女性の「自己責任」とされるか(これが凄くつらいのです)、あるいは逆に女性が「加害者」とされるか(上司から不倫の「相手方」とされる事例などです)…法的にどう評価されるかは別として、心身に不調をきたす。
もちろん、性被害以外でも、パワハラやモラハラといった心理的虐待でも同様の被害は生じ得ますし、暴行・傷害事件でも生じ得るので、性被害のみを特別視するものではないのですが…なんというか、一部の人は性被害をあまりにも軽く考えすぎではないかと思うことがあります。
確かに、女性が性被害について「嘘」をつくことはあります。しかし、そこには何らかの深い傷つきや、背後で操る存在がいることもあります(もちろん、サイコパス女性による「嘘」もあります。性被害者に「擬態」することで同情を集めたり、他者を支配しようとするタイプです。)。特に、「性交後に、女性を雑に扱う」男性は一定数いますが、これは凄く女性を傷つける行為だと自覚すべきです。これには「もう生殖行為は済んだので優しくする必要はない」という心理があるのかもしれません。あるいは、「もう自分のことを好きにさせたので、雑に扱う方がサンクコスト効果で奉仕させられる」と計算しているのかもしれません。それにより、虚偽を含む被害申告がなされたのではないかと思う事例を聞くこともありました。男性の行為の背後にある「女性を雑に扱っても女性が途切れないのは、魅力的な男の証明であり、男の中でのヒエラルキー上位者である」という、一部にある文化も変わっていった方がいいです。他人を傷つければ傷つけるほど偉いというのは苦痛を生む考え方です。
一方で、男をもっと処罰しやすいようにするべきだ、もっと長期間刑務所に入れるようにするべきだ、というのも少し違うと思っています。そもそも性被害が起こらないのが一番いいのです。
私は、性被害が起こらないようにするには、「他人の人格と人生を尊重しましょう(思いやりましょう)」という考えが広まることが一番大事なことだと考えています。私は、すべての人の人格と人生が尊重される世の中は、すべての人が生きやすい世の中であり、「苦痛」が生じにくい世の中だと思っています。
「すべての人」の中には加害者とされる人も入っています。もちろんこれは、被害者が加害者を尊重すべきということではありません。被害者は加害者に雑に扱われてきた人なのでそれを強いることは二重に傷つけることになります。周囲の更生支援に携わる人が心がけるべきことです。「人格と人生を尊重しなくてよい人」のカテゴリを作ると、誰がそのカテゴリに入れられるかで争い続けないといけなくなるのです。これは「被害」を増やさないためにも大事な視点です。
人格と人生を尊重されずにきた人は、自分の尊厳を守るために他人の人格を蹂躙する側になろうとすることがあります。いわゆる加害の連鎖です。性加害についても、当たり前のように愛されて育ち、若く美しい女性から好意を寄せられてきたエリートと、幼少期から虐待されてきて、皆から避けられてきた人とでは見る世界も違うし、女性への対応も違います。「優しさ」も、自分が与えられて、学習しないと身につかないのです。道義的に見ても、エリート層の子弟は当たり前のように恵まれた環境にいて、他人と違う「優遇」された暮らしを当然視しているのですが…もしエリート層の子弟が同じ環境にいたときに「自分だったらこうはならなかった」といえる人がどれだけいるのかな…と思いますし、仮にいえる人がいるのだとすれば、それは非常に傲慢で危うい人だろうと思っています。サイコパスの加害者以外の更生においては、「他人の人格と人生を蹂躙する側にならなければ蹂躙される」という、経験から培われた強い恐怖心を解いていくことが重要です。
※なお、サイコパスに「更生」はできません。罪悪感が存在しないので、そもそも「更生」という考え方が通用しないのです。行動を向社会的にすることで生きていくように「学習」してもらうしかないでしょう。
また、「性犯罪」とされない形の「性加害」も横行しています。ホストが若い女性を風俗に誘導するのは典型例です。母親が、息子の性欲を否定して「自分好みの男(理想の夫)」として振る舞うように求めるタイプの「性加害」もあります。ただ、ホストをする子にも背景があることもあり(純粋なサイコパスもいるでしょうが)…だれが「加害者」であり「悪人である」として、刑罰という「加害」で抑え込むやり方自体に限界があると思っています。現在の社会制度自体が「貧乏人を雑に扱う」ものになっていて、そこからくるひずみを「厳罰化」で無理やり縫い付けようとしている感じがあります。
私は、あくまで一般論ですが、被害者にとっても、実は「厳罰」だけでは救われないということは多いと考えています。そもそも「過去の自分に戻してほしい」が一番の望みで、加害者が刑務所に一生入ることになっても、それで救われたと感じられないことも多いのではないか、と考えています。私は、一般論としてですが、被害者の心の回復には、加害者の真摯な謝罪、実効性のある再発防止策、金銭的・心理的な補償、が大事なことだと考えています。謝罪を通じて「その人に落ち度がない」ことが確定される必要があります。そして、周囲が温かく敬意を持った対応をして、再び周囲が信じられるものであると感じられるようになってほしいと願っています。そして、抽象的な表現になりますが、最終的には、「被害者」であるということからも解放されて欲しい…とも考えています。周囲にカテゴライズされるものではなく、唯一無二の個人なのですから。
“自分を責める” “子どもをもちたいと感じない” -性被害の深刻な影響
性暴力被害者のための支援情報ハンドブック「一人じゃないよ」
各都道府県警察の性犯罪被害相談電話につながる全国共通番号「♯8103(ハートさん)」
※参考記事
弁護士業務を通じてみる、サイコパスについての雑感
セクシャル・ハラスメントと「強いられた同意」
いわゆる「性的同意」と「不同意わいせつ・性交」の関係について(犯罪被害者)
ハラスメント加害者が、被害者の「被害の自覚」を抑圧する手法について(「傍観者」の作成)
草柳和之「効果的なDV被害者支援のために : 被害者ファーストを探求する」家庭の法と裁判46号(2023年10月号)
令和5年刑法改正(性犯罪関係)に対する意見(不同意性交・不同意わいせつについて)
性加害をする人の心理についての仮説(不同意性交・不同意わいせつ・独身偽装)
DV事件が典型例ですが、そもそも「被害」という認識を持たせない手法も多用されています。こういう仕組みについて良く理解しておくことが大事です。