岐阜県迷惑行為防止条例第3条(卑わいな行為の禁止)の解説・痴漢・盗撮行為
2025年01月17日刑事弁護
下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。
以下では、岐阜県迷惑行為防止条例の第3条「卑わいな行為の禁止」について、これまでのスタイルを踏襲しつつ、その構造や趣旨、具体的な行為態様などを分かりやすく解説します。
1.規定の趣旨
本条は、いわゆる「痴漢」や「のぞき」「盗撮」等、人に著しい羞恥または不安を与える卑わい行為を禁止・処罰するための規定です。
- 公共の場所・乗物における身体への触れや衣服等の上からの接触
- 下着や身体ののぞき見、撮影目的のカメラ設置等
- 場所をさらに区別し、学校や事務所、タクシーなどのケースも追加で規制
- 住居や浴場、更衣室など、衣服を着けない状態でいる場面での盗撮やのぞき
が具体的に禁止されています。
ここでいう「卑わいな行為」とは、人の性的羞恥心を害し、または性的プライバシーを侵害するような行為を想定しており、社会通念上、不当に性的欲求を満たそうとする行為を排除するのが本条の目的です。
2.第1項の解説(公共の場所・乗物における卑わい行為)
(1) 前提
「正当な理由がないのに、公共の場所にいる者又は公共の乗物に乗つている者に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。」
- 「正当な理由」がなく、公共の場面で、他人に羞恥・不安を与える性的迷惑行為を禁止しています。
(2) 第1号「衣服等を介して人の身体に触れる」
「衣服その他の身に着ける物の上から、又は直接人の身体に触れること。」
- いわゆる痴漢行為を典型例として想定。
- 衣服の上からの軽度な接触であっても、性的意図があれば適用され得ます。
(3) 第2号「下着・身体をのぞき見る行為」
「通常衣服等で覆われている人の下着又は身体を、のぞき見ること。」
- “スカートの中を覗く行為”など、行為者が恣意的にかがんだり、鏡などを使用したりして、他人の下着等を覗く行為が典型例。
- 衣服下に隠された身体や下着を覗き見るだけでなく、視線の向け方が明らかに卑わい目的であれば該当します。
(4) 第3号「撮影目的で写真機等を設置・向ける行為」
「通常衣服等で覆われている人の下着等の映像を見、又は記録する目的で、写真機等を設置し、又は…向けること。」
- 実際に撮影が完了していなくとも、撮影目的でカメラを仕掛ける・スマートフォンを差し向けるなどの準備行為が該当。
- “盗撮未遂”でも十分処罰対象となる点が特徴です。
(5) 第4号「卑わいな言動」
「前三号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。」
- 痴漢・のぞき・盗撮に限らず、公共の場で卑わいな言葉を投げかけたり、性的羞恥を与える発言等を行う行為を広く規制。
- 喫煙所や駅構内などで、性的発言を押し付けることも該当し得ます。
3.第2項の解説(学校、事務所、タクシー等での卑わい行為)
(1) 基本的な構造
「学校、事務所その他の不特定若しくは多数の者が利用し…(中略)…にいる者(前項に規定する者を除く。)に対し、…」
- 公共の場所や公共の乗物には該当しないが、不特定又は多数が集まり、あるいは出入りする場所(例:学校、事務所、タクシー等)での卑わい行為も規制対象です。
- “公共の場所”等と重なる場合は第1項が優先し、それ以外の場所にいる人に対する卑わい行為をカバーするのが第2項の意義。
(2) 第2項各号
- 拒まれたにもかかわらず、身体に触れる行為
- 単に“触る”だけでなく、被害者が明らかに拒否しているにもかかわらず触れる場合を想定。
- 「公共の場所」以外での痴漢行為を規制しているのが岐阜県迷惑行為防止条例の特色で、導入にあたってはかなりの議論がなされています。
- 岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(全52頁)」(2019年7月23日)「準公共空間における痴漢行為の規制」「他県が準公共空間での痴漢の規制を見送った理由、そして、岐阜県が追加に踏み切った理由(クリアした理由)」
- 【【岐阜県が追加する理由】
・公共の場所と認められない準公共空間(飲食店従業員スベース・病院の病室・宴会場)においても、痴漢被害は発生しており、県民から県警にその相談が寄せられていることから、県民の安全で平穏な生活を保持する上で必要性、妥当性が認められる
・当県が男女共同参画社会づくりを推進していく上で、雇用の場等における痴漢行為、いわゆるセクハラは、優越的な地位にある者が、その力を利用して立場の弱い者に対して行われる場合が多く、被害者が重大な精神的苦痛を受ける、あってはならないものであることから、準公共空間における痴漢行為を規制することでその予防と絶無を図ることができる - 規制の濫用の可能性については、条文中に「正当な理由なく」、「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で」という条件を付けることで、人命救助、医療行為等を規制の対象から除外しており、その運用については逐条解説でも厳格に示していく予定である。
立証上の問題について、準公共空間における身体への接触行為は、知人間である場合が多く、同じ行為であっても被迷惑者と行為者との人間関係や、被迷惑者が行為者に抱く感肩によって犯罪として訴えられるか否かが分かれることとなる。 - 承諾の有無を要件とする案
承諾の有無で犯罪か否かを分けようとすると、夫婦間や恋人間であれば身体への接触行為は容認される場合が多いが、その承諾については書面はもとより、口頭でも明示していることは少なく、相互の雰囲気や流れで身体接触に至るため、「承諾なく」などと条件を付すのは現実的ではない。
拒否していることを要件とする案について
条文中に「拒否したにも関わらず」との条件を付し、被迷惑者が拒否した後に、身体に接触した場合に違反とする案
拒否の方法にもよるが、違反の線引きがしやすいという反面、結局拒否できないような弱い立場の者は救えないのではとの疑問も残る
ただし、警察に寄せられた相談の多くは、複数回、長期間にわたって迷惑行為を受けて相談しているため、いずれかの段階で拒否していれば違反が問える可能性がある】 - 岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(全10頁)」(2019年8月1日)2頁
- 【【必要性】
立法事実となる準公共空間での痴漢は実際に発生しており、公共の場所での痴漢と同様に被害者は重大な精神的苦痛を受けるにも関わらず、場所的要件が無いために行為者に対する刑事処分が望めない状況である。
しかし、準公共空間は、管理者がいるコミュニティの場であることが多く、他県では「コミュニティで解決すべき」等の意見により、規制を見送っているが、当県では、コミュニティで解決すべき問題でも解決できずに警察に相談が寄せられた事実もあり、痴漢も盗撮と同様に公共の場所では犯罪行為であり、被害者の精神的苦痛を考えれば、準公共空間の痴漢行為の規制は必要と考える。
【人権への配慮】 - 準公共空間は閉鎖された空間である場合もあり、1対1の場合など相手を陥れる可能性も考えらえるが、それは公共の場所の痴漢冤罪も同様であり、不当に人権侵害しないように配慮し、客観的証拠等の捜査に努めなければならない。
準公共空間における、特に知人間同士の身体接触は、公共の場所での痴漢行為と異なり、相互の人間関係により、身体接触の容認の範囲が異なることから、捜査の段階で、どういった人間関係であったのか、特に、条文に「拒まれたにも関わらず」という条件を付していることから、被害者が拒んだ状況等を踏まえて慎重に捜査を進めることとし人権への不当な侵害とならないようにする。
【公益性の充足】
現在、社会全体で女性の働きやすい職場、女性が輝く職場づくりに全力を挙げて取り組んでいるところであるが、職場での痴漢行為を規制することで女性の被害者を無くすのみでなく、女性の離職率の抑制良好な職場環境の醸成、その結果による、安全で安心して暮らせるまちづくりの推進等も期待でき、その成果は計り知れず、準公共空間の痴漢行為規制は、懸念される人権侵害と比較しても公益性が十分に認められる。】 - 岐阜県警察本部生活安全部生活環境課「迷惑行為防止条例の一部改正について(法務省刑事局との協議結果)(全5頁)」(2019年11月18日)によれば、痴漢行為の規制を準公共空間に拡大することについて、法務省刑事局の了解を得られたとのことである(早川検事)。
- 通常衣服等で覆われている下着等を見る行為
- 第1項の公共の場所・乗物の場合と同様、のぞき行為が該当。
- 撮影目的のカメラ設置・向ける行為
- 例えば学校や事務所内、タクシー車内などで下着等を撮影しようとする行為が該当。
4.第3項の解説(衣服等を透かす機器による卑わい行為)
「衣服等を透かして見る方法により…の映像を見、又は記録する目的で、衣服等を透かして見ることができる写真機等を設置し、又は人に向けてはならない。」
- 特殊な赤外線カメラ等、透視機能を利用して衣服を透かして見る・撮影するケースを想定。
- 技術進歩に伴い、こうした行為が深刻化しているため、未遂段階でも規制される点が重要です。
5.第4項の解説(衣服を着けない状態でいる者に対する卑わい行為)
(1) 趣旨
「住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる者に対し…」
- 公共の場所等よりもさらにプライバシー性が高い空間・場面を対象に、盗撮やのぞきを規制するものです。
- “更衣室、トイレ、温泉など”で衣服を外している場合は性的羞恥が深刻で、より強い保護が必要と考えられています。
(2) 第4項各号
- 人の姿態を見る行為
- “人の裸をのぞく行為”の典型例。
- 壁や仕切り穴から覗く、カメラレンズを差し込む等が該当。
- 住居など私的空間での「のぞき見」を条例で規制できるかは一つの論点です。私が参考文献に掲げた改正資料を見る限りでは、この点については問題意識はないようでした。
- 撮影目的で写真機等を設置・向ける行為
- 実際に撮影せずとも、カメラを仕掛けたり、スマホを向けたりする行為だけで処罰対象。
6.共通ポイント
- 「正当な理由がないのに」
- 本条の卑わい行為はいずれも、社会通念上、正当とは認められない目的でなされる場合に限ります。医療行為など、やむを得ない場合は通常「正当な理由」に該当します。
- 「著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」
- 単に意図せずぶつかったなどの行為は適用外となる可能性もありますが、行為の態様や目的、被害者の状況等に照らして、犯意が明らかである場合が対象となります。
- 未遂でも規制
- 撮影機器を「設置する」「向ける」など、撮影が完了していなくとも規制対象になる点が強調されています。
- 特に第3項や第4項で「見、又は記録する目的で…」と明記されている通り、行為を完遂しなくても違反となることに注意が必要です。
7.違反時の処罰
第13条(罰則)第1項・第2項などにより、卑わい行為が処罰されますが、具体的には以下のようになります。
- 第1項第1号
- 第3条違反:「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」
- 第2項
- もし写真機等で映像を記録した場合など、さらに1年以下の懲役又は100万円以下の罰金の重い罰が科される。
- ただし「前項第一号の罪を犯した者が…写真機等を使用して被写体の映像を記録したものであるとき」と条件付けがあります。
- もし写真機等で映像を記録した場合など、さらに1年以下の懲役又は100万円以下の罰金の重い罰が科される。
- 常習の場合
- 第7項・第8項で常習の場合の加重が規定されています。
- 映像記録を含む悪質な卑わい行為を繰り返したときは、最大で2年以下の懲役又は100万円以下の罰金になるなど厳しく処罰されます。
8.まとめ
- 全体構造
- 第3条は、公共の場所・乗物での“痴漢・のぞき・盗撮”などをまず規制(第1項)。
- 学校・事務所・タクシー等でも、拒否されたにもかかわらず身体に触れる行為やのぞき撮影行為を規制(第2項・第3項)。
- 住居、浴場、更衣室、便所等“私的空間”での盗撮・のぞきまでカバー(第4項)。
- 規制対象行為
- 人の身体への触れや卑わいな言葉かけ・行為
- 下着等をのぞく行為、カメラを向ける・設置する行為
- 衣服を透かして撮影する行為
- 衣服を身に着けない状態でいる人の姿態をのぞき見る・撮影する行為
- 処罰
- 原則として「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(第13条第1項)
- 実際に映像を記録した場合はより重い処罰(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金:第13条第2項)
- 常習の場合はさらに加重(第13条第7項~第10項)。
以上のように、第3条は岐阜県迷惑行為防止条例の中核をなす規定の一つであり、性犯罪的迷惑行為(痴漢や盗撮)を広く包括的に取り締まる仕組みとして整備されています。「正当な理由なく」「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせる」という要件を満たすと判断されれば、実際に撮影・触れたか否かを問わず違反になり得る点に要注意といえます。
岐阜県迷惑行為防止条例
https://www.pref.gifu.lg.jp/site/police/25487.html
【参考文献】※一部マスキングあり
岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「岐阜県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例(逐条解説)」(2017年3月)※第3条関連のみ
岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(全52頁)」(2019年7月23日)
岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(全10頁)」(2019年8月1日)
岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(全13頁)」(2019年8月19日)
岐阜県警察本部生活安全部生活環境課長「「岐阜県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例」の改正に伴う審査依頼について(全44頁)」(2019年9月2日)
岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(全10頁)」(2019年9月19日)
岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(全1頁)」(2019年9月26日)
岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(全12頁)」(2019年10月3日)
岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「迷惑行為防止条例改正業務随時メモ(全1頁)」(2019年10月10日)
岐阜県警察本部生活安全部生活安全総務課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(全3頁)」(2019年10月21日)
岐阜県警察本部生活安全部生活環境課「迷惑行為防止条例改正業務随時メモ(全1頁)」(2019年11月1日)
岐阜県警察本部生活安全部生活環境課「迷惑行為防止条例改正業務随時メモ(全4頁)」(2019年11月11日)
岐阜県警察本部生活安全部生活環境課「迷惑行為防止条例の一部改正について(法務省刑事局との協議結果)(全5頁)」(2019年11月18日)
岐阜県警察本部生活安全部生活環境課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(全5頁)」(2019年11月19日)
岐阜地方検察庁検事正矢澤健三郎「岐阜県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例の一部改正案に対する意見について(回答)(全1頁)」(2019年11月21日)
岐阜県警察本部生活安全部生活環境課「迷惑行為防止条例改正業務随時報告(検察庁罰則審査完了、警察庁への参考連絡)(全1頁)」(2019年11月22日)
岐阜県警察本部生活安全部生活安全課「「岐阜県迷惑行為防止条例」逐条解説(全102頁)」(2020年4月1日)