性的姿態等撮影罪の解説・第1回下着盗撮(第二条第1項1号イ)

2025年01月03日刑事弁護

下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆部分は赤字にしています。

以下では、性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律（いわゆる「性的姿態等撮影罪」を定める法律）第二条のうち、第1項1号イの条文部分を中心に、これまでの条文解説スタイルに倣って区切りごとに解説いたします。

条文該当部

（性的姿態等撮影）
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。

一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等（以下「性的姿態等」という。）のうち、
    人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら
    自ら露出し又はとっているものを除いたもの（以下「対象性的姿態等」という。）を
    撮影する行為

   イ 人の性的な部位（性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。）
     又は
     人が身に着けている下着（通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。）
     のうち
     現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分

（以下、ロ・二・三・四号は省略）

１．第２条第１項本文の大きな構造

「次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は…処罰される」 という大枠で、性的姿態等撮影罪の対象を規定しています。
第1号～第4号の4つの類型があり、ここでは**「第1号」のさらに「イ」**を主に取り上げます。

「第1号」の冒頭部分

一　正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等（以下「性的姿態等」という。）のうち、
人が通常衣服を着けている場所において
不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら
自ら露出し又はとっているものを除いたもの
（以下「対象性的姿態等」という。）を
撮影する行為

ここに、撮影罪の基本要件が示されています。

「正当な理由がないのに」
- 刑罰法令上の構成要件でしばしば見られる文言です。写真家として正式にモデルから許可を得ている等、正当な業務に基づく撮影は該当しない旨を示す。「正当な理由」か否かは個別事案で判断されます。
- 浅沼雄介ほか「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律について(1)」法曹時報76巻2号(2024年2月号)23-122頁54頁【（イ）本号の「正当な理由」の有無については、
  〇撮影行為者と撮影対象者の関係
  〇撮影行為に至る経緯、撮影の目的
  〇対象性的姿態等の内容
  〇撮影方法などの態様
  等を総合して判断することとなり、例えば、
  〇親が、子供の成長の記録として、寝ている子供の上半身裸の姿
  を撮影する場合
  〇医師が、救急搬送された意識不明の患者の上半身裸の姿を医療準則にのっとって撮影する場合（注12）（注13)等については、「正当な理由」があると考えられる。】
「ひそかに」
- 「盗撮目的」を強く想定。被写体の同意なしに、かつ被写体が気づかないようにする撮影。
「次に掲げる姿態等（以下『性的姿態等』という。）のうち…を撮影する行為」
- 後段のイ、ロで「性的姿態等」の具体的定義が示されます。イ号は“人の性的な部位やそれを覆う下着”等を撮影する行為を対象。

「人が通常衣服を着けている場所において…自ら露出し又はとっているものを除いたもの」

ここが大きな除外規定になっています。
- 意味：
  1. 本来、下着等で隠されるはずの性的部位を、意図的に「服を着ている場所」で「不特定多数の目に触れることを認識しながら、自分から露出している」ケースは、本罪の適用外。
  2. たとえば、いわゆるストリーキング（路上で全裸になる等）をしている人を撮影しただけなら、ここでは処罰しない方向です（別途、公然わいせつ罪等の論点はあるが、この性的姿態等撮影罪の対象外という意味）。

「（以下『対象性的姿態等』という。）」

法令上、**「性的姿態等」という大きな概念がまずあって、そのなかでさらに「対象」となるもの（除外されないもの）を「対象性的姿態等」**と定義しています。
ざっくり言えば、「本条で処罰したい“真の盗撮対象”」のことを、**『対象性的姿態等』**と呼んでいるわけです。

２．第1項1号イの区切り解説

次に、イ号本文を詳しく見ます。

イ
 人の性的な部位
 （性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。）
 又は
 人が身に着けている下着
 （通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。）
 のうち
 現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分

2.1 「イ　人の性的な部位…又は人が身に着けている下着…のうち…」

ここでは、**撮影の対象となる具体的な“性的姿態等”**が定義されます。

(1) 「人の性的な部位（性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。）」

**「性的な部位」**の定義を明示しています。
- 性器、肛門、それらの周辺部：いわゆる陰部や肛門周囲の肌等。
- 臀部(でん部)：おしり。
- 胸部
- 橋爪隆「性犯罪に対する処罰規定の改正等について(3・完)」警察学論集77巻11号(2024年11月号)102-135頁107頁【「性的な部位」か否かは、上記の定義に基づいて形式的に判断されることになるから、撮影対象者の年齢や性別を問わないと解される。したがって、乳幼児の臂部や胸部、また、年齢にかかわらず男性一般の胸部なども「性的な部位」に含まれる。】
これらをひそかに撮影する行為が典型的な盗撮とされ、処罰の範囲に入る。

(2) 「又は、人が身に着けている下着（通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。）」

**“下着”**の定義を、さらに限定的に記述。
- 「通常衣服で覆われており」→ たとえばブラジャー、パンティ、ブリーフなど。
- 「性的な部位を覆うのに用いられるもの」→ いわゆる胴体を覆う肌着やアンダーシャツでも、胸部や臀部、股間など“性的な部位”を覆っている部分を指す。
ここでのポイントは「通常衣服」の内側にある下着を、本人の意に反して撮影することが処罰対象となる点。
橋爪隆「性犯罪に対する処罰規定の改正等について(3・完)」警察学論集77巻11号(2024年11月号)102-135頁111頁【もっとも、性的部位を間接に覆っている部分も本号イの「下着」に含まれるため、下着を重ね履きしている場合には、重ねて履いている下着もこれに含まれる。そのため、下着の上に重ねて履いているものについては、性的部位を間接的に覆うものと評価され、「下着」に当たるものもあれば、性的な部位を覆うために用いているとは評価できず、「下着」に含まれないものも存在することになる。スパッツについても、たとえばジムでのトレーニングやウオーキングの際に着用するようなものもあれば、丈が短くショーツと異ならないような形状のものもあるため、商品名によって一律に判断をすることもできない。
このため、「下着」該当性の判断が微妙になる場合がありうることは否定できないが､いずれにしても、その形状､外観､一般的な利用形態などに基づいて､個別に判断するしかないだろう。】

(3) 「のうち、現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分」

“性的な部位”を実際に覆っている部分かどうかが重要。
- たとえばパンティの“お腹側”など、必ずしも“性的部位”に該当しない部分を撮影するだけでは本罪に当たらない可能性がある。
- ただし、境界は解釈によってグレーゾーンもあり、警察・検察の運用や裁判所の判断で左右されることもある。
“直接”覆っている・“間接”に覆っているという文言から、二重構造の下着（下着の下にもう1枚ある、等）や、タンポンやシリコンのパッドがあっても、最終的に“性的な部位を隠している部分”と認定されれば該当するという意味合いといえます。

３．なぜ「イ号」が設定されているのか

本条第1項1号は、盗撮の典型対象として
- イ … 陰部や胸部、下着
- ロ … 性交中やわいせつ行為中の姿態
  に分けています。
イ号の方が、**最も一般的な“下着盗撮”**等を想定しています。
胸部（特に女性のバスト）や陰部、臀部は、まさに「盗撮行為」の主たる標的とされやすく、迷惑防止条例（各都道府県）での規制とも重なりますが、本法律ではより重い法定刑で守り、また未遂まで処罰できるようにしたのが特徴。

４．実務上のポイント

**「ひそかに」**という文言
- 1号は「正当な理由なく、ひそかに…撮影」を要する。被写体の了承や、開かれた場で公然とされている撮影は除外される。
- ただし、たとえば被写体が表面上は承諾していても、実は誤認や強制がある場合は別の号(第2号や第3号)での処罰が成立し得る。
- 浅沼雄介ほか「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律について(1)」法曹時報76巻2号(2024年2月号)23-122頁54頁【（ア）本号の「ひそかに」とは、撮影対象者に対象性的姿態等を撮影することを知られないような態様で、という意味である。
  仮に、撮影対象者が、外形的な撮影行為自体は認識していても、対象性的姿態等を撮影されることを認識できないような態様で撮影行為が行われた場合や、撮影対象者以外の周囲の者が認識できても、撮影対象者が対象性的姿態等を撮影されることを認識できないような態様で撮影行為が行われた場合は、いずれも、「ひそかに」に該当し得る。】
「性的な部位」「下着」の範囲
- 実際の捜査で論点になるのは、「どこまでが性的な部位か」、「下着のどの部分を撮影したか」。
他法との競合
- 従来は迷惑行為防止条例違反や軽犯罪法などで対応していた行為が、本法律の制定により（法定刑がより重い）性的姿態等撮影罪として立件される場合が増えると想定される。
- 同じ事案でも、法令選択や捜査機関・検察官の判断によりどの罪になるか変わる可能性があるので、弁護実務では擬律判断が非常に重要。
未遂罪の存在
- 本条第2項で「未遂は罰する」と規定している。
- カメラを差し向けたが露光不足や遮蔽物等で実際には映っていなかった…などでも未遂が成立し得る。
- 迷惑防止条例では、条例によっては「未遂まで処罰する」か否かの規定が異なるが、本法律は明示的に未遂も対象。
- 法務省「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案」逐条説明（2023年2月）6頁【本項は、結果として撮影に至らなかった行為の中には、例えば、撮影する目的で撮影機器をスカートの下に差し向けてシャッターを押したが、露光不足で撮影に失敗した場合など、法益侵害の危険性を創出するものも含まれ得ることから、性的姿態等撮影罪の未遂犯を処罰することとするものである。】浅沼雄介ほか「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律について(1)」法曹時報76巻2号(2024年2月号)23頁58-59頁
  【3 第2項
  本項は、本条第1項各号に掲げる撮影行為をしようとしたものの、結果として撮影に至らなかった行為の中には、法益侵害の危険性を創出するものも含まれ得ることから、未遂犯を処罰するものである。
  どの時点で実行の着手が認められるかについては、個別の事案ごとに、具体的な事実関係に碁づいて判断されるべき事柄であるが、例えば、
  
  〇スカートで隠された下着を撮影する目的で撮影機器をスカートの下に差し向けてシャッターを押したが、たまたまの露光不足で性的姿態の影像として記録されなかった場合
  など、対象性的姿態等（同項第4号については性的姿態等）の影像が記録される現実的危険性を有する行為が開始されたときは、実行の着手と認められ、未遂罪が成立し得ると考えられる。
  具体的な事実関係によっては、
  〇スカートで隠された下着を撮影する目的で、スカートの下に撮影機器を差し入れた時点
  で、実行の着手が認められる場合もあり得ると考えられる。】
  
  具体的な事実関係を踏まえて「対象性的姿態等（同項第4号については性的姿態等）の影像が記録される現実的危険性を有する行為が開始された」といえるかですが、ここはまだ解釈が固まっていません。

５．まとめ

第1項1号イの核心：
- 「正当な理由なく、ひそかに」「人の性的な部位（性器・肛門・周辺・臀部・胸部）や、それを覆う下着」を撮影する行為は、**“対象性的姿態等”**として撮影罪の対象になる。
- 撮影による侵害は大きく、盗撮被害は深刻なプライバシー侵害・精神的苦痛を伴うため、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金という重い罰則が科される。
迷惑防止条例との比較：
- 条例違反より法定刑が大幅に重い。未遂も処罰される点に注意。
- 条例時代は「数十万円の罰金」で処理されていた行為も、今後は本法で懲役が科される可能性があるため、より厳しく取り締まられることになる。

以上が、性的姿態等撮影罪（第2条第1項1号イ）に関する条文の区切り解説です。

「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」は新しい法律であり、未だ解釈が十分に固まっていません。今後、主に参考される文献としては、上掲浅沼論文と、橋爪論文と思われますが、刑法学者による論文が後掲参考文献記載のとおり複数出されています。刑事弁護人としての活動、あるいは犯罪被害者代理人としての活動をするにあたっては、これらの論文を分析の上で、事実関係を正確に把握する必要があるでしょう。性的姿態等撮影罪が成立しない場合でも、迷惑防止条例違反が成立するという可能性も存在します。両者は併存すると考えられますので、「盗撮」について正確な擬律判断を行うためには、両者についてその内容を深く理解しておくことが必要になります。

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律

https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000067

（性的姿態等撮影）
第二条次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等（以下「性的姿態等」という。）のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの（以下「対象性的姿態等」という。）を撮影する行為
イ人の性的な部位（性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。）又は人が身に着けている下着（通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。）のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロイに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等（刑法（明治四十年法律第四十五号）第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。）がされている間における人の姿態
二刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
三行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
四正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
２前項の罪の未遂は、罰する。
３前二項の規定は、刑法第百七十六条及び第百七十九条第一項の規定の適用を妨げない。

法務省　性犯罪関係の法改正等　Ｑ＆Ａ　令和５年７月

https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html

【参考文献】

法務省「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案」逐条説明（2023年2月）

浅沼雄介「「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要」法律のひろば76巻7号(2023年10月号)

https://shop.gyosei.jp/products/detail/11718

法令解説資料総覧「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」法令解説資料総覧 No.501 2023年10月号 4-14頁

https://www.fujisan.co.jp/product/1281680199/b/2447558/

梶美紗「「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」の概要(2)」捜査研究2023年11月号(878号)

https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/202311/

嘉門優「性的姿態の撮影罪等の新設」刑事法ジャーナル78号(2023年11月号)49-57頁

橋本広大「性的姿態画像の没収・消去」刑事法ジャーナル78号(2023年11月号)58-65頁