鹿児島県迷惑行為防止条例第2条2(卑わいな行為等の禁止)の解説・第1回痴漢・盗撮行為(1)
2025年01月10日刑事弁護
下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。
以下では、鹿児島県の「公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例」(以下「本条例」といいます)第2条の2第1項について、これまでの条例解説と同様のスタイルを踏襲し、詳細に解説します。
1. 第2条の2(卑わいな行為の禁止)の位置づけ
本条例第2条の2は、公衆の場で行われる痴漢行為やのぞき見・盗撮行為といった「卑わいな言動」を規制するための中心的条文です。具体的には、**人を「著しく羞恥させ、又は不安を覚えさせるような行為」**を禁止することによって、県民や滞在者が安心して公共の場を利用できる環境を維持することが目的とされています。
- 目的: 公衆の場における性的な迷惑行為(痴漢・のぞき・盗撮など)を防止し、県民および滞在者の生活の平穏を守る。
- 保護法益: 被害者の性的プライバシー、安心・安全な生活の環境。
2. 第2条の2第1項の条文
(第2条の2 第1項)
「何人も,正当な理由がないのに,公共の場所にいる者又は公共の乗物に乗っている者に対し,著しく羞恥させるような又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為その他の卑わいな言動をしてはならない。」(1) 衣服その他の身に着ける物(以下この項及び次項において「衣服等」という。)の上から又は直接身体に触れること。
(2) 衣服等で覆われている人の下着又は身体をのぞき見すること。
(3) 写真機その他の撮影する機能を有する機器(次項第2号において「写真機等」という。)を使用して,衣服等で覆われている人の下着又は身体の映像を記録し,又は記録しようとすること。
(1) 「公共の場所」「公共の乗物」
- 公共の場所: 道路、公園、広場、駅、興行場、飲食店など、不特定または多数が往来・利用する場所を広く含みます。
- 公共の乗物: 汽車、電車、バス、船舶、飛行機など、同じく不特定または多数の者が利用する乗り物全般。
- 迷惑防止条例において重要な要件であり、坂田正史「迷惑防止条例の罰則に関する問題について」判例タイムズ1433号(2017年4月号)21-43頁は「「公共の場所」該当性の判断は,施設ないし場所の類型的な属性ではなく,その種類,性質用途,行為当時の管理・利用の状況,構造,開放の程度を,特定の区画が問題となっている場合は,その区画部分について以上のような諸要素を実質的,個別的に考慮して,不特定かつ多数の人が自由に出人り又は利用が可能な状態にあるかどうかを検討しているといえよう。」とする。
- 施設が閉鎖中の場合が「公共の場所」にあたるかは重大な論点である。鹿児島県警察本部生活安全部「鹿児島県公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例逐条解説」(2017年6月)10頁においては、公共の乗り物について【タクシー,貸切りバス,貸切り列車,スクールバス,会社の送迎専用バス,自家用ヨット等は含まれない。】としている。
(2) 「著しく羞恥させるような又は不安を覚えさせるような方法」
- 被害者や周囲の人々が、性的不快感・恐怖感・侮辱感を強く抱く程度の行為であること。
- 客観的にみて卑わい性が高く、不安・羞恥をもたらす行為が規制対象となりやすいです。
(3) 「正当な理由がないのに」
- 社会通念上、やむを得ない理由(医療や介護など)がある場合を除き、卑わいな接触や撮影を行うことは許されません。
- 大半の痴漢・のぞき・盗撮は「正当な理由がない」行為として摘発され得るため、実務上は基本的に言い逃れが難しい規定となっています。
3. 第2条の2第1項 各号の解説
第1項では、禁止される典型行為を3号に分けて明示しています。
(1) 第1号:「衣服等の上から又は直接身体に触れること」
- いわゆる**「痴漢行為」**を典型的に想定。胸や臀部、太ももなど、相手に性的羞恥や恐怖を与えるような部位を故意に触る行為を含みます。
- 衣服の上からでも、直接肌への接触であっても、「卑わいな目的」であれば条例違反となる可能性が高い。
- 満員電車や店舗の混雑時に、被害者の身体に痴漢行為をするケースが典型例です。
(2) 第2号:「衣服等で覆われている人の下着又は身体をのぞき見すること」
- **「のぞき見」**行為を規制する条文。スカート内や胸元を覗き込んだり、鏡を使って隠された部分を見ようとする行為も含まれます。
- 公共の場所や公共の乗物で、被害者の下着や身体が通常見えない部分を覗き見る行為は、強い羞恥や不安を与えるとして条例違反となります。
(3) 第3号:「写真機等を使用して…映像を記録し,又は記録しようとすること」
- **「盗撮」**行為を規制する条文。スマートフォンやデジタルカメラなど、撮影機能を有する機器を用いて、衣服の下や人の身体を記録する行為が禁止されています。
- 実際に撮影が完了していなくても、撮影の目的でカメラを向けたり、操作を行ったりすれば条例違反になる可能性が高いです。
- 例えば電車内でスマートフォンをスカートの下に差し向ける行為などが典型例です。
4. 典型事例
- 痴漢行為(第1号)
- 満員電車で手を伸ばし、相手の身体を触る。
- エスカレーターや階段で背後から押し付けるように触れる。
- のぞき行為(第2号)
- 鏡を使って相手の下着や身体を映そうとする。
- 階段下やエスカレーター下からスカート内をのぞき見。
- 盗撮行為(第3号)
- スマートフォンを使い、他人のスカート下を録画する。
- バッグに隠した小型カメラで、公共の場で周囲の人の胸元や下着を隠し撮りする。
5. 違反の成立要件・罰則
(1) 成立要件
- **「公共の場所又は公共の乗物」**における行為であること。
- 「著しく羞恥または不安」を覚えさせる態様であること。
- 行為者に「卑わいな行為を行う意思(故意)」があること。
(2) 罰則
- 条例違反(第2条から第4条までを含む)に対する罰則は、第6条で定められています。
- 初犯:6月以下の懲役または50万円以下の罰金(もしくは拘留)
- 常習:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 条例違反であっても有罪判決が確定すれば前科が付くため、決して軽視できない規定です。
6. 今後の実務上のポイント
- 刑法や新たな国法(性的姿態等撮影罪)との関係
- 悪質性や被害状況によっては、刑法の不同意わいせつ罪や「性的姿態等撮影罪」(令和5年施行)で立件される可能性もあります。
- 軽微な事案や“準備行為”においては、条例での検挙が中心となるケースも想定されます。
- 防犯対策と事案の発覚
- 多くの盗撮行為がスマートフォン等で行われることから、迷惑行為の現場では周囲の目撃、防犯カメラ映像などにより発覚・告発される事例が増えています。
- 現在はSNSやネット上の投稿等から発覚するケースもあるため、条例違反の取り締まりはより積極的に行われています。
- 常習犯への厳罰化
- 第6条にあるように「常習」規定が存在するため、繰り返し同種行為を行った場合には刑罰が加重されます。実務でも、前歴・前科があると厳しく扱われる傾向があります。
7. まとめ
- 第2条の2第1項は、公衆の場所・乗物において、人の身体や下着を触る・のぞき見・盗撮する行為など、「卑わいな行為」を明確に禁止し、被害者の性的自由・プライバシーを保護する規定です。
- 「正当な理由」なく他者の身体を触る行為や下着・身体を撮影する行為が該当し、被害者に大きな精神的苦痛をもたらすとして、罰則付きで厳しく取り締まられます。
- 国の刑法や「性的姿態等撮影罪」と同様、迷惑防止条例も性的迷惑行為に対して強い抑止力をもち、初犯であっても罰金・拘留、常習であれば懲役刑も視野に入るため、決して軽い違反とは言えません。
- 鹿児島県民や滞在者の生活の平穏を守るため、痴漢・盗撮・のぞき行為を広範に規制する本条例は、日々の生活においても非常に重要な意味を持っているといえるでしょう。
以上が、第2条の2第1項の詳細な解説となります。条例が定める規制対象や罰則内容を踏まえ、公共空間における性犯罪や迷惑行為を未然に防止する狙いがあることがご理解いただけるかと思います。
公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例
https://g-reiki.pref.kagoshima.jp/pref.kagoshima2/reiki_honbun/q701RG00001002.html
(卑わいな行為の禁止)
第2条の2 何人も,正当な理由がないのに,公共の場所にいる者又は公共の乗物に乗っている者に対し,著しく羞恥させるような又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為その他の卑わいな言動をしてはならない。
(1) 衣服その他の身に着ける物(以下この項及び次項において「衣服等」という。)の上から又は直接身体に触れること。
(2) 衣服等で覆われている人の下着又は身体をのぞき見すること。
(3) 写真機その他の撮影する機能を有する機器(次項第2号において「写真機等」という。)を使用して,衣服等で覆われている人の下着又は身体の映像を記録し,又は記録しようとすること。
2 何人も,正当な理由がないのに,公衆浴場,公衆便所,公衆が利用することができる更衣室その他の人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所において当該状態でいる者に対し,著しく羞恥させるような又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 人の下着又は身体をのぞき見すること。
(2) 写真機等を使用して,人の下着又は身体の映像を記録し,又は記録しようとすること。
3 何人も,正当な理由がないのに,集会場,事務所,教室その他の特定かつ多数の者が利用するような場所にいる者に対し,第1項第3号に掲げる行為をしてはならない。
(平29条例18・追加)
【参考文献】※情報公開請求で取得した資料はマスキング有
鹿児島県警察本部生活安全部生活安全企画課「公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例の一部改正に係る担当検事との協議結果について(報告)(全6頁)」(2016年5月17日)
★鹿児島県警察本部生活安全部「鹿児島県公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例逐条解説」(2017年6月)