佐賀県迷惑行為防止条例第3条(卑わいな行為等の禁止)の解説・第3回盗撮行為等(1)
2025年01月07日刑事弁護
下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。
以下では、佐賀県迷惑行為防止条例(以下「本条例」といいます)第3条第2項本文および同項各号について、これまでの「条例解説のスタイル」を踏襲して詳細に解説します。
1. 第3条(卑わいな行為の禁止)の目的と構成
本条例第3条は、公共の場所等における痴漢行為・盗撮行為など、いわゆる「卑わいな行為」を幅広く規制する規定です。とりわけ第2項では、のぞき見・盗撮行為にフォーカスして、禁止行為を列挙しています。
- 目的: 「県民及び滞在者等に著しく迷惑をかける行為」を防止し、平穏な生活を保持する(第1条)。
- 第3条の構成:
- 第1項 … 公共の場所等における接触行為や卑わいな言動(いわゆる痴漢・露骨な卑猥行為など)
- 第2項 … 公共の場所等や特定多数が使用する場所等でののぞき見・盗撮行為
- 第3項 … さらに、住居・浴場・更衣室などでのぞき見や盗撮行為を禁止
2. 第3条第2項本文
(第3条第2項本文)
「何人も、公共の場所等又は特定多数の者が使用する場所等(事業所、学校その他の特定かつ多数の者が使用する場所又は貸切バスその他の特定かつ多数の者が使用する乗物をいう。)において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。」
(1) 「公共の場所等又は特定多数の者が使用する場所等」とは
- 公共の場所等: 第3条第1項と同様、道路や公園、駅、公共の乗物(電車・バスなど)など、多数が利用する場所。
- 特定多数の者が使用する場所等: ここでは「事業所、学校、貸切バス」等が例示されています。
- つまり、不特定ではなくても「多数の人が利用する」空間を幅広く含むという点がポイント。
- 例: 会社のオフィスフロアや学校の校舎、社用バス・修学旅行バスなど。
- 佐賀県警察本部「佐賀県迷惑行為防止条例逐条解説」(2017年12月)8頁【「その他の特定かつ多数の者が使用する場所」とは、例示されたもののほか、例えば、集会場、パーティー会場、塾などの習い事教室、会員制商業施設等がこれに当たる。適用場所については、列挙した場所に限定しているものではなく、当該盗撮等が行われた時点において、その場所が特定かつ多数の者が使用できる状態にある場所であれば本項違反となる。なお、住居については、軽犯罪法第1条第23号の規定があるため、原則、除外される。】とあるが、軽犯罪法1条23号は下着等をのぞき見、撮影する行為を規制するものではないので、解説には疑問がある。2人暮らし以上の「住居」であれば要件に該当するのではないかと考えられる。もっとも、実務的には性的姿態等撮影罪で処罰されることが多く、本条例の適用が問題となる事例はレアケースになると思われる。
(2) 「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」とは
- 第3条第1項と同様の文言ですが、盗撮・のぞき見行為は、被害者に強い羞恥や恐怖心を抱かせる典型行為であるため、本項では特に「衣服等で覆われている箇所」に焦点を当てています。
- つまり、衣服などで通常隠されている下着や身体の部分を「許可なく見たり、撮影したりする行為」は、社会通念上、高い程度の恥辱感や不安感を生じさせるため、条例違反として明確に禁止されます。
3. 第2項各号の内容
第2項は、次の3号で構成されます。
- 第2項第1号
「衣服等で覆われている人の下着又は人の身体をのぞき見すること。」 - 第2項第2号
「衣服等で覆われている人の下着又は人の身体を写真機等を使用して撮影すること。」 - 第2項第3号
「衣服等で覆われている人の下着又は人の身体を撮影する目的で写真機等を向け、又は設置すること。」
以下、それぞれ詳しく解説します。
3.1. 第2項第1号「のぞき見行為」
「衣服等で覆われている人の下着又は人の身体をのぞき見すること。」
- 行為態様
- スカートやズボンの中を上から覗き込む、鏡を使って下着を見ようとする、机の下からこっそり覗き見るなど。
- 「下着」または「身体」が衣服等で覆われているにもかかわらず、それを無断で視認しようとする行為が対象。
- 社会通念上の「のぞき見」
- 直接的に目を近づけて確認するだけでなく、鏡やスマートフォン画面を反射・転写する方法で下着を見ようとする行為も含まれる可能性があります。
- 遠方から双眼鏡等で見る行為なども「のぞき見」に含まれると解される余地があります。
- 佐賀県警察本部「佐賀県迷惑行為防止条例逐条解説」(2017年12月)8頁【(8) 「のぞき見する」とは、こっそり見ることをいう。風が吹いて、たまたま女性のスカート内が見えてしまう場合等、何の作為もしないのに自然に見えてしまったような場合は、のぞき見することには当たらない。】
- 「著しく羞恥」「不安を覚えさせる方法」
- たとえ故意に「見よう」とするだけの行為でも、被害者側からすれば極めて性的プライバシーを侵害される行為であるため、条例違反の成立要件を満たしやすいです。
3.2. 第2項第2号「盗撮行為(撮影)」
「衣服等で覆われている人の下着又は人の身体を写真機等を使用して撮影すること。」
- 撮影機器の例示: 「写真機、ビデオカメラ、撮影機能を有する携帯電話機その他の機器(以下『写真機等』という。)」
- スマートフォンやデジタルカメラ、アクションカメラ、ペン型カメラなど様々な機器が該当。
- 撮影の対象: 衣服等で通常隠されている下着や身体(例: 太もも、胸元、下腹部など)。
- 成立要件
- 被写体が「衣服等で覆われている部分」であること。
- 無断かつ卑わいな目的で撮影し、被害者に羞恥や不安を与えるような態様であること。
- 「無音カメラアプリ」を使用してスカート内を撮影する行為など、典型的ないわゆる「盗撮」がこれに該当します。
- 実務上の注意: 動画撮影も含まれますし、「被害者が気付いていないうちに」行われるケースが多いため、防犯カメラや周囲の目撃証言などで摘発される場合が多く見られます。
3.3. 第2項第3号「盗撮準備行為(カメラを向ける・設置する)」
「衣服等で覆われている人の下着又は人の身体を撮影する目的で写真機等を向け、又は設置すること。」
- 撮影行為の未遂段階も規制
- 実際に撮影ボタンを押さなくても、「撮影しようとしてカメラを人の身体や下着に向ける」「カメラを足元に設置する」などの行為自体が禁止されています。
- 「撮影する目的」という主観的要件
- カメラを向けただけでは違反とならない場合があるものの、行為の状況から「下着や身体を隠し撮りする目的が明らか」と判断されれば本号に該当します。
- 例えば、誰かのスカート下方向にスマホレンズを固定している状況など、客観的にも撮影目的が推測される場合が典型的です。
- 佐賀県警察本部「佐賀県迷惑行為防止条例逐条解説」(2017年12月)8頁【(13) 「向け」とは、下着等が撮影できる方向や位置に撮影可能な写真機等を向ける行為をいい、その行為が客観的に盗撮を前提として行われていることが必要である。例えば、盗撮目的で写真機等をスカート下に差し入れる行為をいう。】
- 悪質性の高さ
- 実際の撮影が行われなくても、被害者や周囲にとっては十分に不安や羞恥を与える行為であり、本条例では「未遂段階」も含めて規制する仕組みを採用しています。
4. 実務上の留意点
(1) 「場所」の幅広さ
- 本項目では「公共の場所等」に限らず、「事業所」「学校」「貸切バス」など多数が利用する場所が適用範囲に含まれます。
- したがって、会社のオフィスで同僚を盗撮する、学校でクラスメイトの下着をのぞき撮りする、合宿バスで隣の席の友人を隠し撮りする等も対象になります。
(2) 「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」の立証
- 被害者が気づいていない場合でも、客観的に見て「下着や身体を見せたくない部分を撮影(あるいはのぞき見)している」と認められれば条例違反が成立する可能性が高いです。
- 実際の現場では、防犯カメラ映像・周囲の目撃証言・行為者の所有機器のデータ解析などで立証される場合があります。
(3) 刑法や「性的姿態等撮影処罰法」との関係
- 令和5年に「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(通称「盗撮処罰法」)が施行されました。
- 同法が適用されるときは、条例ではなく国の法律で処罰される場合があります。
- ただし、行為態様によっては本条例での立件が選択される場合もあり、条例と新法は相互に補完し合う関係と考えられます。
(4) 罰則
- 第11条により、第3条に違反した者は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処される可能性があります。
- 常習の場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(第11条第2項)となり、刑が加重されます。
- さらに、行為が悪質で被害が重大な場合には、刑法や盗撮処罰法でより重く処罰されるケースもあり得ます。
5. まとめ
- 第3条第2項は、公共の場所等だけでなく、特定多数が使用する場所等においても「のぞき見」「盗撮」「盗撮目的でのカメラの向け・設置」を禁止する規定です。
- 「衣服等で覆われている下着や身体」を対象としているため、いわゆるスカート内盗撮や、袖口・胸元からののぞき見など、プライバシー侵害行為を幅広くカバーします。
- 第2項第3号により「盗撮準備行為」自体も取り締まられる点が特徴的であり、被害者を含む周囲の人々に与える不安や羞恥を未然に防止するという狙いがあります。
- 国の法律(刑法、公然わいせつ罪など)や2023年施行の盗撮処罰法との適用関係は、事案の具体的悪質性や捜査当局の判断次第となりますが、いずれにせよ条例違反となった場合も処罰は厳しく、前科も付くため、軽視できない規定と言えます。
以上が第3条第2項本文および各号についての詳説です。条例の射程は想像以上に広く、公共的空間や多数が集まる場所でののぞき見・盗撮行為が厳しく取り締まられていることに留意しなければなりません。
佐賀県迷惑行為防止条例
https://sy.pref.saga.lg.jp/kenseijoho/jorei/reiki_int/reiki_honbun/q201RG00001111.html
(卑わいな行為の禁止)
第3条 何人も、公共の場所等において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から又は直接人の身体に触れること。
(2) 前号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、公共の場所等又は特定多数の者が使用する場所等(事業所、学校その他の特定かつ多数の者が使用する場所又は貸切バスその他の特定かつ多数の者が使用する乗物をいう。)において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服等で覆われている人の下着又は人の身体をのぞき見すること。
(2) 衣服等で覆われている人の下着又は人の身体を写真機、ビデオカメラ、撮影機能を有する携帯電話機その他の機器(以下「写真機等」という。)を使用して撮影すること。
(3) 衣服等で覆われている人の下着又は人の身体を撮影する目的で写真機等を向け、又は設置すること。
3 何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所に当該状態でいる人の姿態をのぞき見し、写真機等を使用して撮影し、又は当該姿態を撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。
(平22条例24・追加、平25条例50・平29条例32・令5条例29・一部改正)
【参考文献】※情報公開で入手した資料は一部マスキング有
佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第1回)(全3頁)」(2017年4月7日)
佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第2回)(全3頁)」(2017年4月17日)
佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第3回)(全9頁)」(2017年4月25日)
佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第4回)(全13頁)」(2017年5月26日)
佐賀県警察本部生活安全企画課企画指導係「条例改正に伴う佐賀地方検察庁との打合せについて(第5回)(全22頁)」(2017年6月29日)
佐賀県警察本部長「条例改正に関する協議について(全17頁)」(2017年6月29日)
佐賀地方検察庁検事正「罰則規定に関する協議について(回答)(全1頁)」(2017年7月31日)
佐賀県警察本部「佐賀県迷惑行為防止条例逐条解説」(2017年12月)