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薬院法律事務所

刑事弁護

長崎県迷惑行為防止条例第3条(卑わいな行為等の禁止)の解説・第1回痴漢・盗撮行為(1)


2025年01月09日刑事弁護

下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。

 

以下では、長崎県迷惑行為等防止条例(以下「本条例」といいます)第3条第1項について、これまでの「条例解説のスタイル」を踏襲しつつ、条文構造や規制対象、典型事例などを詳細に解説します。


1. 第3条(卑わいな行為の禁止)の位置づけ

本条例第3条は、公共の場所又は公共の乗物などで行われる「痴漢行為」「のぞき見」「卑わいな言動」等を取り締まる規定です。

  • 目的: 人を著しく羞恥させたり、不安を与えたりする性的な迷惑行為を防止し、県民や滞在者の平穏な生活を守る。
  • 保護法益: 被害者の性的プライバシーや安心して生活できる権利、公共の秩序・風紀の維持。

条文上、第3条全体では4つの段落構造があり、第1項が最も基本的な「公共の場所又は公共の乗物」における卑わい行為を規制します。


2. 第3条第1項本文の概要

(第3条第1項本文)
「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人に対し、みだりに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。」

(1) 「公共の場所又は公共の乗物」とは

  • 公共の場所
    • 道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場、飲食店など、一般に不特定又は多数の人が利用し、出入りする場所。
  • 公共の乗物
    • 汽車、電車、乗合バス、船舶、航空機など、不特定又は多数の乗客が利用する乗り物全般。

(2) 「みだりに」

  • 条例文で「みだりに」とは、「正当な理由がないのに」「社会通念上、許される範囲を逸脱して」行うことを意味します。
  • 医療行為や介助など、客観的に相当な理由がある場合を除き、故意に卑わい行為をする行為が対象となります。

(3) 「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」

  • 被害者や周囲の人に強い性的嫌悪感、恥辱感、恐怖心などを与える態様かどうか。
  • 客観的に見ても「性的プライバシーの侵害」といえる行為が規制対象です。

3. 第3条第1項各号の解説

第1項は、具体的に下記の3つの行為類型を禁止しています。

(1) 第3条第1項第1号

「衣服その他の身に着ける物(以下『衣服等』という。)の上から、又は直接人の身体に触れること。」

a. 内容・趣旨

  • いわゆる「痴漢行為」を典型的に想定。衣服の上からの接触でも、直接肌に触れる場合でも、人に著しい羞恥・不安を与える性的接触行為を禁止しています。

b. 典型事例

  1. 満員電車で他人の身体を故意に触る
    • 胸や下半身、太ももなどを狙って撫で回す・押し付ける行為。
  2. バスや飲食店などで隣席の人に対し性的なボディタッチを行う
    • 相手が拒んでいるにもかかわらず繰り返す場合など。

c. 注意点

  • 単なる偶然の接触や、外的不可抗力による一時的接触は規制対象になりにくいですが、明らかに故意が認められる状況(周囲の証言や被害者の感覚など)では本条が適用され得ます。
  • より強い暴行や脅迫を伴う悪質ケースは、刑法(不同意わいせつ罪等)の適用も検討されます。

(2) 第3条第1項第2号

「衣服等で覆われている人の下着又は身体をのぞき見し、又は撮影すること。」

a. 内容・趣旨

  • **「のぞき見」や「盗撮行為」**を取り締まる規定。下着や身体が通常は衣服で隠されている部分を意図的に覗き込んだり、撮影機器で記録する行為を禁止しています。

b. 典型事例

  1. スカート内盗撮
    • スマホや小型カメラを下方向に向けて、下着を写そうとする。
  2. 鏡などを使った覗き見
    • 階段やエスカレーターで、背後から角度をつけて下着を見ようとする。
  3. 胸元や服の隙間を撮影
    • 電車内で、相手が座っている状態の胸元を隠し撮りするなど。

c. 条文上のキーワード

  • 「のぞき見」と「撮影」は、ともに「みだりに」行うことが禁止されているため、撮影未遂(カメラを向ける)でも他項の規定(第3条第5項)と合わせて問題になる可能性があります。
  • 実際に撮影が完了していれば、第11条で規定される罰則(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金、常習で1年以下又は100万円以下)を適用されうる点に注意が必要です。

(3) 第3条第1項第3号

「前2号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。」

a. 内容・趣旨

  • 第1号が「身体接触行為」、第2号が「のぞき見・盗撮行為」を規定している一方、それらに該当しない幅広い卑わい言動を包括的に規制するのがこの号です。

b. 具体例

  1. 公共の場で露骨に卑猥な言葉を連呼する、性的脅迫をする
    • 周囲が強い不快感や恐怖を感じるような発言。
  2. 性行為を連想させるような過激なポーズを人前で繰り返す
    • 意図的に相手の羞恥心を煽るような動作やジェスチャー。
  3. 公共の場所で無断で性的パフォーマンスをする
    • “フラッシュ”行為(性器を見せつける等)を含む(ただし悪質性が高ければ公然わいせつ罪も考慮される)。

c. 留意点

  • 第1号・第2号以外でも、人を著しく羞恥・不安に陥れる性的行為であれば、**「卑わいな言動」**として条例違反となり得る。
  • 内容によっては刑法(公然わいせつ罪)も競合しうるため、どちらが適用されるかは捜査機関の判断次第です。

4. 罰則と適用上の注意

(1) 罰則(第11条)

  • 第3条に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(第11条第1項)。
  • 常習者の場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第11条第2項)。
  • 刑法や令和5年施行の「性的な姿態を撮影する行為等の処罰法」が適用されるほどではない軽微な事案でも、条例違反で前科が付く可能性があるため軽視は禁物です。

(2) 「適用上の注意」条文(第17条)

  • 本条例第17条により、条例適用にあたっては県民および滞在者の権利を不当に侵害しないよう留意し、目的を逸脱した運用・濫用があってはならないと明示されています。
  • つまり、実務上は、「行為者の故意」「被害者の状況」「周囲の客観的事情」などを総合し、本当に「卑わいな行為」と評価できるかどうか慎重に判断されるということです。

5. まとめ

  1. 第3条第1項は、「公共の場所又は公共の乗物」での性的迷惑行為に対する基本的な規制を定めた条文であり、(1)身体への直接接触、(2)のぞき・盗撮、(3)その他卑わいな言動の3類型を網羅的にカバーしています。
  2. いずれも「人を著しく羞恥させ、又は不安を覚えさせる方法」で行われることが要件であり、偶然や正当な理由による軽微な行為は処罰対象になりにくいものの、痴漢や盗撮が発覚すれば条例違反として厳しく取り締まられる可能性があります。
  3. 罰則としては最長6月の懲役、もしくは最高50万円の罰金(常習なら1年以下の懲役又は100万円以下)が定められており、条例違反でも前科が付くことは十分にあり得るため、決して軽視できない規定です。
  4. 刑法や新たな「性的姿態等撮影罪」等(国の法令)と比較して、より軽微な行為まで幅広く取り締まる趣旨があり、公衆に対して強い性的不安を与える迷惑行為を未然に抑止する役割を果たしているといえます。

以上が、長崎県迷惑行為等防止条例第3条第1項についての詳細な解説となります。公共空間での卑わい行為は広範に規制されているため、条例上も刑法上も深刻な法的リスクを伴う行為であることに留意が必要です。

 

長崎県迷惑行為等防止条例

https://www.police.pref.nagasaki.jp/police/wp-content/uploads/2015/03/5f1876455960385808e47e7f1ada773b1.pdf

(卑わいな行為の禁止)
第3条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人に対し、みだりに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接人の身体に触れること。
(2) 衣服等で覆われている人の下着又は身体をのぞき見し、又は撮影すること。
(3) 前2号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人に対し、みだりに、写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を使用して、衣服等を透かして見る方法により、衣服等で覆われている人の下着又は身体の映像を見、又は撮影してはならない。
3 何人も、みだりに、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいる場所に当該状態でいる人の姿態をのぞき見し、又は撮影してはならない。
4 何人も、みだりに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、教室、事務所、タクシーその他の不特定又は多数の者が出入りし、又は利用するような場所又は乗物(公共の場所又は公共の乗物を除く。)における衣服等で覆われている人の下着又は身体をのぞき見し、又は撮影してはならない。
5 何人も、第1項第2号又は前3項の撮影の目的で、人に写真機等を向け、又は設置してはならない。

 

【参考文献】※情報公開請求で取得した資料はマスキング有

 

長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課『長崎県迷惑行為防止条例の解説(全42頁)』(2011年11月)

長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「県法制班への説明結果について(全3頁)」(2011年6月20日)

長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「県法制班との最終調整会議について(全6頁)」(2011年7月14日)

長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「法制審議委員会開催結果について(全10頁)」(2011年7月26日)

長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課『長崎県迷惑行為防止条例の解説(全42頁)』(2017年1月)

長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「長崎県迷惑行為等防止条例の改正作業状況(全4頁)」(2018年2月26日)

長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「第1回改正「長崎県迷惑行為等防止条例」に係る長崎地方検察庁との協議結果について(全2頁)」(2018年3月13日)

長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課「第2回改正「長崎県迷惑行為等防止条例」に係る長崎地方検察庁との協議結果について(全7頁)」(2018年3月28日)

長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課『長崎県迷惑行為防止条例の解説(全75頁)』(2018年12月)

長崎県警察本部生活安全部生活安全企画課『長崎県迷惑行為防止条例の解説(全96頁)』(2021年4月)

長崎県迷惑行為防止条例第3条(卑わいな行為等の禁止)の解説・第2回盗撮行為(2)