大分県迷惑行為防止条例第3条(卑わいな行為の禁止)の解説・痴漢・盗撮行為
2025年01月12日刑事弁護
下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。
以下では、大分県迷惑防止条例(以下「本条例」といいます)の第3条(卑わいな行為の禁止)を中心に、これまでの解説スタイルに準じた形で詳細かつ分量豊富に解説します。痴漢行為や盗撮行為、衣服を透かして見る行為など、公共空間を中心とした性犯罪的迷惑行為を幅広く取り締まる規定となっており、その構造や狙いを順を追って見ていきましょう。
1. 第3条(卑わいな行為の禁止)の全体像
(1) 条例全体における位置づけ
- 本条例は、正式名称を「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」とし、大分県内で行われるさまざまな迷惑行為を取り締まるためのルールを定めています。
- 第3条は、その中でも「卑わいな行為」に光をあて、公共の場所や公共の乗物、さらには私的空間でも多数が利用する場面や、人が衣服を脱ぐ可能性が高い空間までを広く対象とした条文です。
- 痴漢・盗撮といった性犯罪的迷惑行為が人々の生活の平穏を乱すおそれが高いと判断されるため、各自治体の迷惑防止条例でも同種の規定が整備されており、大分県でも第3条が重要な役割を果たしています。
(2) 保護法益
- 第3条が想定する行為は、人の身体に勝手に触れたり、衣服越しに隠された部分をのぞき・撮影したり、といった行為で、被害者に強い羞恥や不安感を与える可能性が非常に高いです。
- こうした性犯罪的行為を防止することにより、県民や訪問者等が公共空間を安心して利用できるようにするのが本条の主眼となります。
2. 第3条第1項
(第3条第1項)
「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次の各号に掲げる行為をしてはならない。」
(1) 規制対象となる場所
- 公共の場所: 道路、公園、広場、駅、桟橋、空港、興行場、飲食店など、不特定多数が自由に出入りできる場所。
- 公共の乗物: 汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機など、多くの人が利用し移動する乗り物。
本項は「公共空間」での迷惑行為を想定し、大分県民や訪問者が誰しも利用し得る場所での卑わい行為を包括的に取り締まります。
(2) 禁止行為(第1項各号)
- (1) 衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること
- いわゆる「痴漢行為」の典型例。満員電車やバスなどで他人の身体を押し付けたり、下半身や胸などを狙って触る行為が想定されます。
- 被害者が強い羞恥や抵抗感を覚えるような接触であれば、ここに該当する可能性が高いです。
- (2) 衣服等で覆われている人の下着若しくは身体(下着等)をのぞき見し、若しくは撮影し、又は…撮影する目的で写真機等を…向け、若しくは設置すること
- のぞき見・盗撮(カメラやスマホを用いた撮影)・盗撮準備行為の三つをカバー。
- スカート内をのぞく、下着を狙ってカメラを構えるなど、いずれも被害者のプライバシーを甚大に侵害する行為が該当。
- (3) 衣服等を透かして見ることができる写真機等を使用して、下着等の映像を見…又は撮影…または人に向け、若しくは設置すること
- **「透視撮影」**を想定した規定。赤外線フィルターや特殊レンズなどで衣服越しに身体を映し出す行為が社会問題化したことを受けて盛り込まれています。
- 普通のカメラ撮影にとどまらず、技術進歩に対応した規制となっているのが特徴。
- (4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること
- 接触や撮影だけでなく、公共の場での卑猥な言葉遣い・行為も幅広く規制。
- 周囲の公衆に対して性的嫌悪感を抱かせるような言動、露骨な性的パフォーマンスなどを想定。
(3) 「正当な理由がないのに」「人を著しく羞恥又は不安にさせるような方法で」
- 要件として「正当な理由のない」「著しく羞恥や不安を与えるような」性質が必要です。
- 医療行為や緊急救護といった社会通念上必要な場合は除外されますが、故意に行われる痴漢や盗撮は理由がないと判断され、条例違反となり得ます。
(4) 典型事例
- 満員電車で臀部・胸を触る痴漢行為
- 駅や繁華街でスカート内をスマホで盗撮する
- 赤外線カメラを用いて衣服越しに下着を透視する
- 卑猥な言葉を大声で叫び、通行人を困惑させる
3. 第3条第2項
(第3条第2項)
「何人も、集会場、事務所、教室、タクシーその他の不特定又は多数の者が利用するような場所又は乗物(公共の場所又は公共の乗物を除く。)において…前項第2号又は第3号に掲げる行為をしてはならない。」
(1) 規制対象の拡大
- 第1項が「公共の場所・乗物」限定だったのに対し、第2項は「公共の場所以外だが、不特定または多数が利用する空間・乗物」にも同様の規制を波及させています。
- 例:会社の事務所、学校の教室、タクシーなど、公共とは言い難いが、複数の者が日常的に利用する場所や乗物。
(2) 禁止行為
- 第1項の「第2号又は第3号」に相当する行為、すなわちのぞき・盗撮行為や透視撮影行為、およびそれらの準備行為を規制対象としています。
- 接触行為や卑猥な言動(第1号、第4号)は対象外である点に注目(ただし、別の規定で取り締まられる可能性はある)。
(3) 典型事例
- 会社事務所で同僚の下着を撮影しようとスマホを向ける
- 塾の教室で他の生徒のスカート内を透かし撮り
- タクシー車内で乗客の膝や太ももをのぞき見し、カメラを向ける
4. 第3条第3項
(第3条第3項)
「何人も、正当な理由がないのに…人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる人の姿態をのぞき見し、若しくは撮影し、又は…写真機等を向け、若しくは設置してはならない。」
(1) 「衣服を着けない状態でいる場所」とは
- 住居、浴場、便所、更衣室など、人が服を脱ぐ可能性が高い空間。
- 公共ではないがプライバシー性の強い場所でののぞき・盗撮を取り締まるために設定された条項です。
(2) 禁止される行為
- 「正当な理由」がなければ、裸や半裸の人を覗き見る、撮影する、カメラを向ける等の行為を行えません。
- 私的空間に近いが、多数が利用することも考えられる場面での行為を想定。
- 「のぞき見」の規制が憲法上許容されるかは一つの論点です。
- 大分地方検察庁検事志水崇通「罰則の定め等のある「大分県迷惑行為防止条例」の一部改正に係る協議について(審査結果)(全3頁)」(2017年11月14日)
- 【(2) 法律との抵触について
本罰則につき,これと同一の罰則を定めた法律はないため,法律との抵触は生じないと思料される。
なお,法律である軽犯罪法第1条第23号は,「正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」と定め,かかる行為を規制しているが,同号は,人の個人的秘密を侵害する抽象的危険性のある行為を規制し,ひいては国民の性的風紀を維持とすることを目的とするのものである上,同号は,場所に着目して規制するものであり,仮に人が居なくとも,かかる場所をひそかにのぞき見る行為自体を規制するものである。他方,本条例第3条第3項は,県民の平穏な生活の保持を目的とするものである上,通常衣服等の全部又は.一部を着けない状態でいる人の姿態ののぞき見・盗撮行為を規制するという人に着目して規制するものである。このように,両者は,目的・趣旨,保護法益,規制対象等を異にするものである上,軽犯罪法がかかる行為の規制を許容しない趣旨であるとはいえないことから,軽犯罪法との抵触も生じないと思料される。】
(3) 典型事例
- 住居の窓を外から覗き込む
- 更衣室の隙間から着替え中の人を撮影
- 家庭用トイレに小型カメラを仕込み、入室者を盗撮
5. 第3条第4項
(第3条第4項)
「何人も、公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室…にいる人に対し、みだりに、次に掲げる行為をしてはならない。」
(1) 公衆用の施設における行為
- 公衆浴場や公衆便所、さらに公衆が使用可能な更衣室など、「より不特定の人が利用し衣服を脱ぐ可能性のある場所」における撮影・のぞき・卑猥行為を規制。
- 同じ「衣服を脱ぐ」空間でも、第3項は住居等の私的空間を対象にし、第4項は公衆が自由に利用できる空間(例:銭湯、駅のトイレ、スポーツジムの更衣室など)を念頭に置いています。
(2) 禁止行為
- 姿態をのぞき見し、又は撮影すること
- 他人が裸もしくは半裸でいる状態を意図的に覗き見る、写真や動画として記録する行為。
- 例えば銭湯や公共プールの更衣室での盗撮が典型。
- 写真機等を向け、又は設置すること(準備行為)
- 実際に撮影まで至らずとも、撮影目的でカメラを構える段階でアウト。
- 前2号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること
- 公衆浴場での性的な言動や行為が禁止対象に。
- 銭湯などでわいせつな言動を公然と行うことで、他の利用者に羞恥や不快感を与えるケースを想定。
(3) 典型事例
- 温泉・銭湯の脱衣所に小型カメラを設置し、利用者を盗撮
- 駅や商業施設の公衆トイレ上部から覗き込む
- スポーツジムのロッカールームで卑猥な言葉をかけ、周囲を困惑させる
6. 全体的な構造の意義
- 第3条は、「公共の場所」(第1項)から「私的空間だが多数利用」(第2項)、さらに「衣服を脱ぐ可能性がある場所」(第3項・第4項)まで網羅的にカバーし、痴漢・のぞき・盗撮・卑わい行為を場所ごとに厳しく規制しています。
- 特に「写真機等を向ける段階」でも違反が成立し得るため、未遂段階でも摘発可能となり、被害を未然に防ぐ狙いが明確です。
- 最近問題となっている「透視撮影」への対応も第1項や第2項などで盛り込まれており、技術進歩による新種の迷惑行為にも対処できるようになっています。
7. 違反に対する罰則
- 第3条に違反した者については、第11条で「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」を科する可能性があり、常習の場合「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に加重されます。
- 条例違反と侮れない点は、有罪となれば前科が付くという社会的影響が大きいところです。
- 刑法や「性的姿態等撮影罪」(令和5年施行)などが適用されるほどでない軽微な事案でも、この条例を根拠に摘発しやすくなっているのが大きな特徴といえます。
8. まとめと考察
- 大分県迷惑防止条例 第3条: 公共空間や公共の乗物での痴漢・のぞき・盗撮だけでなく、半公共的空間や衣服を脱ぐ場面がある場所における卑わい行為を包括的に規制する中心規定。
- 場所区分:
- 第1項: 「公共の場所・公共の乗物」での接触行為・のぞき撮影・卑猥言動など
- 第2項: 「教室・事務所・タクシーなど特定多数が利用する非公共空間」での盗撮等
- 第3項~第4項: 衣服を脱ぐ可能性が高い場所(住居や浴場、更衣室等)でののぞき・撮影行為を厳しく禁止
- 規定の狙い:
- 被害者が感じる身体的羞恥感や不安感を軽減し、公共空間を含むさまざまな場を安心して利用できるようにする。
- 近年は「透視撮影」や「撮影準備行為」も盛り込み、技術進歩に対応して改正されてきた。
- 条例違反と罰則:
- 第3条違反は、第11条により6月以下の懲役または50万円以下の罰金が基本だが、常習の場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金に加重。
- 条例違反であっても刑事事件化し、前科が付く可能性がある。
総じて、本条は「公共の場所や公共の乗物」をはじめ、「特定多数が利用する空間」や「衣服を脱ぐ可能性がある場所」での卑わいな行為を網羅的に取り締まる大分県独自の迷惑防止策と位置づけられます。国の刑法や新たな「性的姿態等撮影罪」ではカバーしきれない軽微・未遂段階の行為も取り締まることで、県民や訪問者の安心・安全を確保しようという条例本来の目的が発揮されているといえます。
大分県迷惑行為防止条例
https://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/2024987.pdf
(卑わいな行為の禁止)
第3条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接人の身体に触れること。
(2) 衣服等で覆われている人の下着若しくは身体(以下この号及び次号において「下着等」という。)をのぞき見し、若しくは撮影し、又は下着等を撮影する目的で写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を下着等に向け、若しくは設置すること(次号に規定する方法により行われる場合を除く。)。
(3) 衣服等を透かして見ることができる写真機等を使用して、下着等の映像を見、若しくは撮影し、又は下着等を撮影する目的で写真機等を人に向け、若しくは設置すること。
(4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、集会場、事務所、教室、タクシーその他の不特定又は多数の者が利用するような場所又は乗物(公共の場所又は公共の乗物を除く。)において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、前項第2号又は第3号に掲げる行為をしてはならない。
3 何人も、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所に当該状態でいる人の姿態をのぞき見し、若しくは撮影し、又は当該状態でいる人の姿態を撮影する目的で写真機等を人に向け、若しくは設置してはならない。
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https://www.pref.oita.jp/site/keisatu/ooitakennmeiwakubousijyoureitoha.html
1 改正の背景(平成30年6月1日施行)
近年、スマートフォンの急速な普及や写真機等の小型・高性能化、あるいは、住民意識の変化や情報通信技術の進化等に伴い、子ども・女性に対する盗撮等の卑わいな行為が増加するとともに悪質・巧妙化し、あるいは、県民が迷惑と考える嫌がらせ行為の形態が多様化するなど、旧条例では十分に対処できない状況になっていました。
また、県民意見の募集結果、県民の盗撮行為に対する不安の声や未然防止に向けた規制強化・厳罰化を求める声は強く、併せてSNS利用の嫌がらせ行為等、新たな迷惑行為に対しても規制を求める声が寄せられました。
こうした悪質な迷惑行為を未然に防止し、県民生活の安全と平穏を保持するため、今回、条例の一部改正を行ったものです。
【参考文献】※情報公開で入手した資料は一部マスキング有
執筆者不明「大分県迷惑行為防止条例の一部を改正する条例(案)の法的問題点」(時期不明)
大分地方検察庁検事志水崇通「罰則の定め等のある「大分県迷惑行為防止条例」の一部改正に係る協議について(審査結果)(全3頁)」(2017年11月14日)
大分地方検察庁検事正佐野仁志「罰則の定めのある条例の一部改正について(協議回答)(全1頁)」(2017年12月14日)
大分県警察本部生活安全企画課「大分県迷惑防止条例【解説】(全56頁)」(2018年4月)