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薬院法律事務所

刑事弁護

福島県迷惑行為等防止条例第6条(卑わいな行為の禁止)の解説・痴漢・盗撮行為


2025年01月19日刑事弁護

下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。

以下では、福島県迷惑行為等防止条例の第6条(卑わいな行為の禁止)について、条文の構造や趣旨、具体的な禁止行為の範囲、他条との関係や実務上の注意点等を詳しく解説します。条例本文はすでに提示されているため、その内容を踏まえてより詳細かつ二倍ほどの分量で解説します。


1. 条文の趣旨・目的

第6条は、本条例における卑わいな行為を取り締まる中心的規定として位置づけられています。痴漢、のぞき見、盗撮など、性的な迷惑行為を広く規制対象とし、被害者の著しい羞恥心不安を防ぐことを目的とします。具体的には、福島県内で卑わいな行為による被害を抑止し、生活の平穏を守るために、行為態様を条文で列挙し、行為そのものだけでなく、準備的な動作(カメラを向ける等)も包含して禁止しています。

  1. 被害の深刻性
    • 痴漢や盗撮行為は被害者に強い精神的苦痛を与える上、性質的にも繰り返されやすいという特徴があります。
    • したがって、本条例では他の迷惑行為より厳格に規定し、罰則でも比較的重く設定されることが多いです。
  2. 刑法との補完関係
    • 卑わい行為は刑法の強制わいせつ罪等に該当する場合もありますが、条例違反として検挙できることで、より軽微なケースでも迅速・柔軟に対応可能です。
    • 条例は刑法の補完的役割を果たしつつ、社会秩序維持と被害者保護を目的とします。

2. 場所・対象の明確化

本条では、「公共の場所または公共の乗物」における行為を主な規制対象としますが、条文後段(2項~4項)では、住居や更衣室などプライバシー性が高い場所でも別途規制しています。この構成は他道府県の迷惑防止条例と同様に、卑わい行為の発生しやすい場面を網羅し、技術の進歩や行為態様の多様化に対処できるようにしたものです。

2.1 「公共の場所」「公共の乗物」とは

  • 公共の場所: 条例文で例示されている「道路、公園、駅、興行場、飲食店」等に加え、多数の者が自由に利用可能な施設全般を含みます。具体的には商業ビルのエレベーターホールやショッピングセンターの通路、駐車場なども該当する場合があります。
  • 公共の乗物: 汽車、電車、バス、船舶、航空機等が典型例です。特に満員電車内やバス車内での痴漢・盗撮行為が想定されます。

3. 第6条各項の具体的内容

3.1 第6条第1項

「何人も、公共の場所又は公共の乗物における他人に対し、みだりに、著しい羞恥心又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。」

  1. 着衣等の上から、又は直接他人の身体に触れること。
  2. 着衣等で覆われている他人の下着又は身体(以下「下着等」という。)をのぞき見し、又は撮影すること。
  3. その他卑わいな言動をすること。
  1. 「みだりに」
    • 正当な理由なく行われる場合に限定される。「みだりに」とは医療行為や緊急時の救護活動など正当性が認められる場面を除外し、悪質な目的で行われる行為を規制対象とします。
  2. 「著しい羞恥心又は不安を覚えさせるような行為」
    • 一般的な社会通念で「卑わいな行為」として認識されるかどうかが判断基準。
    • 被害者の主観的恐怖心だけでなく客観的状況も考慮されるが、被害者が女性・子ども等であれば特に強い羞恥心・不安感が生じやすい。
  3. (1) 着衣上や直接の身体への触れ(痴漢行為)
    • 最も典型的な痴漢行為として、衣服越しでも直接触っても罪になる。
    • 言い逃れできないよう「衣服の上から」や「直接触れる」両方を明確に規定。
  4. (2) 他人の下着や身体を「のぞき見」・「撮影」
    • スマホやカメラでスカート内や胸元を盗撮する行為、鏡等でのぞき込む行為等が該当。
    • 満員電車の中でバッグに隠したカメラでの撮影、エスカレーター下からのぞき見る行為などが典型例。
  5. (3) その他卑わいな言動
    • 上述の具体的行為以外でも、性的羞恥や不安を与える卑わいな言葉・しぐさが全般的に規制される。
    • 口に出して卑猥な言葉を投げかける、性的動画や画像を見せつける等の行為も該当。

3.2 第6条第2項

「何人も、公共の場所又は公共の乗物における他人に対し、みだりに、写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を使用して着衣で覆われている他人の身体を透視する方法により、裸体の映像を見、又は裸体を撮影してはならない。」

  1. 透視行為の禁止
    • 一般的な盗撮に加え、赤外線カメラや特殊フィルターを使って衣服の下を透かして見るなどの技術的盗撮手段を規制。
    • ここでいう「裸体」とは下着や衣服に覆われていない部分を、機器の使用で可視化する行為を含む。「一部を含む」としているため、全裸でなくても一部透視でも違反となる。
  2. 「写真機等」による透視
    • 「写真機等」とはスマートフォン・タブレット・ビデオカメラ等を広く含む。
    • レンズや赤外線機能を備えたフィルター等が該当し、いわゆる「透視カメラ」の使用が念頭にある。
  3. 行為態様
    • 「裸体の映像を見」⇒実際に画面越し等で確認する
    • 「裸体を撮影」⇒静止画や動画で保存する
    • どちらも「みだりに」正当な理由無く行われれば違反。

3.3 第6条第3項

「何人も、みだりに、住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所において、当該状態でいる他人の姿をのぞき見し、若しくは撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。」

  1. プライバシー性の高い場所での行為
    • 住居(部屋内部含む)、浴場(温泉・銭湯等)、更衣室、トイレなど、身体を隠さないシーンがある空間でののぞき見・撮影が最も悪質な行為とされる。
    • プライバシー権の観点からも強く保護が必要と判断し、条例で禁止。
  2. のぞき見・撮影・写真機等の差し向け・設置
    • 実際に撮影が成功しなくても、「撮影目的でカメラを向ける」だけで違反になる。
    • 行為未遂準備行為でも処罰が可能なため、現行犯逮捕や摘発がしやすいようになっている。
    • 「のぞき見」も規制していますが、のぞき見まで規制を及ぼした理由は情報公開で入手した資料からも判然としません。福島県警察本部生活安全企画課「福島県迷惑行為等防止条例の一部改正検討資料(全11頁)」(作成日不明)3頁では
    • 【1 改正の理由
      スマートフォンの普及や撮影機器の小型化により下着等の「盗撮」事案は年々増加傾向にある。また、SNS等の普及により、個人が撮影した写真や動画を容易にインターネット上に公開できる時代となっており、個人のプライバシーを著しく侵害する「盗撮」に対する世論は厳しいものとなっている。
      「盗撮」事案の取締りについては、全国的に「公共の場所(乗物)」における事案を対象とするのが一般的であったが、学校内等の公共の場所とみなすことができない場所における盗撮事案の増加により、規制対象とする範囲を拡大する都道府県が増加している。
      本県の規制対象は、「公共の場所(乗物)」における行為のみであるが、全国的にはすでに7割超の都道府県においてトイレや更衣室等の「通常衣服を着けない状態でいるような場所」における行為を規制対象としている他、事務所や教室等の「特定多数の者が利用するような場所」における行為を規制する都道府県も増加傾向にある】とあり、のぞき見を上乗せ規制することになった理由は不明です。
    • 私的空間での「のぞき見」を条例で規制できるかは一つの論点です。

軽犯罪法違反事件の弁護要領・第23回 軽犯罪法1条23号(軽犯罪法、刑事弁護)

【判例時報賞応募論文】「性的盗撮規制の最前線-軽犯罪法の窃視罪と,迷惑防止条例の相克-」(2019年2月)

  1. 「みだりに」
    • 医療行為や適法な防犯目的など正当な理由がある場合を除く。例えば自宅内で防犯カメラを設置すること自体は問題にならないが、他人の姿を盗撮目的で設置するのは違法となる。

3.4 第6条第4項

「何人も、みだりに、集会場、事務所、教室、貸切バスその他特定かつ多数の者が利用するような場所(公共の場所を除く。)又は乗物(公共の乗物を除く。)において、下着等を撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。」

  1. 準公共的空間でも同様に規制
    • 集会場、事務所、教室、貸切バスなどは「公共」ほど不特定多数が利用するわけではないが、依然として多くの人が利用し得る場所・乗物といえる。
    • ここでは、公共の場所や公共の乗物に該当しないが、多数人の出入りがある特定空間での盗撮や下着撮影行為を規制。
  2. 撮影等の意図だけでも禁止
    • 「写真機等を向け、若しくは設置」という文言からも、撮影未遂やカメラ設置などの行為が対象。
    • これにより、たとえば企業の事務所内やクラブ活動中の貸切バス内での盗撮を未然に取り締まれる。
  3. 「みだりに」
    • 正当な理由がない場合のみ対象。イベント記録や防犯カメラなど正当性が認められる場合は除外される可能性。

4. 他条との関連・罰則

  1. 他条との比較
    • 第2条が「粗暴な行為(ぐれん隊行為等)」、第3~5条が「金品の不当要求」「入場券等の不当な売買」「不当な客引行為」などを規制している。
    • 第6条はそれらとは異なり、性的羞恥や嫌悪を引き起こす卑わい行為を包括的に規制する。
  2. 罰則規定
    • 第11条第2項により「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科される。
    • 更に常習の場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(第11条第5項)が科され、罰則が重くなる。
    • カメラ設置やのぞき見が現行犯で発覚しやすい点を踏まえ、警察による取り締まりや捜査においては条例違反が早期検挙の根拠となり得る。

5. 行為態様と具体例

  1. 痴漢・密着行為
    • (1)「着衣等の上から身体に触れる」ケースが典型。
    • 満員電車で他人の下半身を押し付け、手で触れるなどが想定される。
  2. 下着ののぞき・撮影
    • (2)「のぞき見」「撮影」いわゆるスカート内のスマホ撮影など。
    • キャバクラやクラブなど特定人数が出入りする場所でも撮影行為は第4項で違反となり得る。
  3. 透視カメラや特殊レンズ
    • (2)項後段の「透視機器」に相当。赤外線や特殊フィルターを用いて身体や下着を見ようとする行為が該当。
  4. 住居・浴場・更衣室での盗撮
    • (3)の住居、浴場等のプライバシー性が高い場所に隠しカメラを仕掛けたり、直接のぞき見する行為が取り締まられる。
  5. 準公共空間(集会場・貸切バス)での盗撮
    • (4)の学校や事務所、貸切バスでの下着撮影が該当。イベント合宿や社員旅行時に、貸切バスで隠し撮りするケース等が想定。

6. 「みだりに」と正当事由の判断

  • 条文各所に「みだりに」という文言があり、正当な理由がない場合の行為を指す。
    • 医療行為(例えば救急処置で衣服を切る等)
    • 建物管理上の必要性(防犯カメラ設置)
    • 芸術・ファッション関連での撮影(本人合意がある場合)
  • これらの場合、「卑わい行為」の要件を満たさない可能性がある。あくまで正当な目的や合意が無い、悪質な目的の場合のみ条例違反となる。

7. 行政・警察実務上の意義

  1. 迅速な抑止・警告
    • 第6条違反を発見すれば、警察官は現行犯逮捕等で取り締まることが可能。
    • 痴漢や盗撮の抑止に寄与し、被害拡大を防ぐ効果が期待。
  2. 常習性への対応
    • 条例では常習犯に対して罰則を重く設定している(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。
    • 再犯率が高い性質を踏まえ、抑制効果の向上を図っている。
  3. 社会啓発
    • 条例を周知することで、県民に「痴漢や盗撮が条例違反」という認識を与え、犯罪防止意識を高める。

8. 留意点・まとめ

  1. 他法との重なり
    • 刑法上の強制わいせつ罪や住居侵入罪と重なる場合もあり、重大事案は刑法適用が検討される。
    • 条例違反としても直ちに処罰されうるため、ケースによっては併合罪や法定刑がより重い刑法犯罪を優先することがある。
  2. 被害者保護の観点
    • 第6条は被害者の身体的・精神的被害を軽減するための規定。
    • 特に公共交通機関での痴漢や、職場・学校等での撮影行為など、被害者が泣き寝入りしやすい場面を重点的にカバーする。
  3. 技術の進歩への対応
    • 近年の高性能カメラ・透視機器等の普及に伴い、盗撮の手段が多様化。
    • 本条は撮影「目的」で機器を差し向けるだけでも違反となる点で、先進的対策を示している。

9. 最終的評価

  • 福島県迷惑行為等防止条例 第6条は、痴漢・盗撮等の卑わい行為に対する包括的な取り締まりを定める重要条文。
  • 公共の場所・公共の乗物のみならず、住居・浴場・更衣室・学校等、性被害が起こりやすい多様な場面でののぞき見・撮影・透視機器使用等を幅広く禁止。
  • 行為準備段階(カメラを向ける・設置する)も処罰されうるため、被害防止に貢献している。
  • 「みだりに」の文言により、正当な理由のない悪質な行為が違反となり、罰則として6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(常習で1年以下又は100万円以下)が科されるため、強い抑止効果が期待される。

以上のように、第6条は性的迷惑行為から県民を守る目的で、様々な態様の卑わい行為をカバーし、高い取り締まり効果を持つ規定として機能しています。

 

下着盗撮事件弁護要領(性的姿態等撮影罪・迷惑防止条例)

不同意わいせつ罪と、痴漢(迷惑行為防止条例違反)との分水嶺(痴漢、刑事弁護)

性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺

福島県迷惑行為等防止条例

https://www.police.pref.fukushima.jp/03.tetuduki/-jyouhoukoukai/reiki_int/reiki_honbun/u244RG00000514.html

(卑わいな行為の禁止)

第6条 何人も、公共の場所又は公共の乗物における他人に対し、みだりに、著しい羞恥心又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。

(1) 着衣等の上から、又は直接他人の身体に触れること。

(2) 着衣等で覆われている他人の下着又は身体(以下「下着等」という。)をのぞき見し、又は撮影すること。

(3) その他卑わいな言動をすること。

2 何人も、公共の場所又は公共の乗物における他人に対し、みだりに、写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を使用して着衣で覆われている他人の身体を透視する方法により、裸体(その一部を含む。以下この項において同じ。)の映像を見、又は裸体を撮影してはならない。

3 何人も、みだりに、住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所において、当該状態でいる他人の姿をのぞき見し、若しくは撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。

4 何人も、みだりに、集会場、事務所、教室、貸切バスその他特定かつ多数の者が利用するような場所(公共の場所を除く。)又は乗物(公共の乗物を除く。)において、下着等を撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向け、若しくは設置してはならない。

 

【参考文献】※情報公開請求で入手した資料はマスキング有り

 

福島県警察本部生活安全企画課「福島県迷惑行為等防止条例の一部改正検討資料(全11頁)」(作成日不明)

福島県警察本部長警視監松本裕之「福島県迷惑行為等防止条例の一部改正に関する検討依頼について(全4頁※抜粋)」(2017年3月13日)

福島地方検察庁検事正小林健司「罰則の定めのある条例の制定に関する検討について(回答)(全1頁)」(2017年3月24日)

福島県警察本部「福島県迷惑行為等防止条例の解説(平成29年改訂版)(全126頁)」(2017年7月)