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薬院法律事務所

刑事弁護

初犯の薬物所持・自己使用事件で私選弁護人に依頼すべき場合


2026年06月02日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、福岡市に住む20代男性です。

自己使用目的で違法薬物を所持していたとして、警察の捜査を受けています。薬物は自分で使うために持っていたもので、密売や譲渡ではありません。前科はありません。

インターネットで調べると、初犯で所持量が多くなければ、起訴されても執行猶予付き判決になることが多いようです。国選弁護人で十分であり、わざわざ私選弁護人をつける意味はないという意見も見ました。

このような事件で、私選弁護人に依頼する意味はあるのでしょうか。

A、一般論として、初犯で、自己使用目的の所持・使用であり、所持量が多くなく、密売・譲渡・営利目的もないという事件であれば、起訴されたとしても執行猶予付き判決が見込まれることは多いです。

その意味で、「刑務所に行かないためだけ」であれば、私選弁護人をつけなくてもよい事件はあります。

しかし、それだけで考えるのは危険です。

薬物事件で本当に重要なのは、今回の事件で執行猶予が付くかどうかだけではありません。今回の事件をきっかけに、薬物から離れる仕組みを作れるかどうかです。

初犯の薬物事件で執行猶予が付いた人の中には、「もう二度とやらない」と思いながら、また薬物に手を出してしまい、次の事件で実刑判決を受ける人がいます。

薬物から離れることは、本人の意思だけでは簡単ではありません。使用を誘う人間関係、SNSや入手経路、ストレス、孤立、睡眠障害、精神的不調、生活環境、家族との関係など、薬物使用につながった原因を整理し、具体的に取り除く必要があります。

そのためには、専門家の支援や家族の理解が必要です。

私選弁護人に依頼すべき場合とは、単に「執行猶予を取るため」ではなく、事件をきっかけに薬物から離れるための支援体制を作る必要がある場合です。

もっとも、刑事事件の処分の話しかしない私選弁護人であれば、依頼する意味は大きくありません。逆に、国選弁護人であっても、薬物依存症や再犯防止の問題に造詣が深く、本人と家族にきちんと向き合ってくれる弁護士であれば、そのまま任せてよい場合もあります。

大事なのは、「私選か国選か」という形式ではありません。

その弁護人が、今回の処分だけでなく、次の再犯を防ぐために何をしてくれるかです。

 

【解説】

1 初犯・少量の薬物所持・自己使用事件では、執行猶予が見込まれることが多い

大麻、覚醒剤、麻薬等の違法薬物事件では、所持、施用、使用、譲受けなどの罪が問題になります。

もっとも、薬物事件といっても内容はさまざまです。

営利目的での密売、譲渡、多量所持、組織的な関与、未成年者への譲渡、薬物使用下での運転や暴力事件などがある場合は、非常に重い処分が問題になります。

一方で、初犯で、自己使用目的の単純所持・自己使用であり、所持量が多くなく、営利性もないという事件では、起訴されたとしても執行猶予付き判決が見込まれることが多いです。

このような事件では、既に起訴されていて、事実関係にも争いがなく、国選弁護人がきちんと対応しているのであれば、あえて私選弁護人に切り替える必要がない場合もあります。

この点は率直にいうべきです。

私選弁護人をつければ必ず不起訴になる、必ず処分が劇的に軽くなる、というものではありません。

2 しかし、「執行猶予が付くから大丈夫」ではない

薬物事件で危険なのは、「初犯なら執行猶予が付くから大丈夫」と考えてしまうことです。

これは、刑事処分だけを見れば一応正しいことがあります。

しかし、人生全体で見ると、非常に危険な考え方です。

薬物事件では、初回の事件で執行猶予が付いたとしても、その後に再び薬物に手を出してしまう人がいます。

本人は、裁判の時点では本気で「もう二度とやりません」と言っていることがあります。家族も「今回のことで懲りただろう」と考えます。裁判官も「今回に限り社会内で更生する機会を与える」として執行猶予を付けます。

しかし、薬物使用につながった原因が残っていれば、同じ生活に戻った後、再び薬物に近づくことがあります。

そして、執行猶予中に再犯した場合、次は非常に厳しくなります。再度の執行猶予が理論上あり得るとしても、薬物事件では現実的に難しい場合が多く、実刑判決を受ける可能性が高くなります。

つまり、初犯の薬物事件で本当に大事なのは、今回の裁判で刑務所に行かないことだけではありません。

次の事件を起こさないことです。

3 薬物から離れるには、意思だけでは足りない

薬物事件の本人は、取調べや裁判の場では「もう二度としません」と言います。

もちろん、その言葉自体が嘘とは限りません。多くの場合、本人は本当にそう思っています。

しかし、意思だけで薬物から離れられるのであれば、再犯は起きません。

薬物から離れるためには、使用に至った原因を具体的に見なければなりません。

たとえば、次のような事情です。

・薬物を使う友人関係がある
・SNSや通信アプリで入手先とつながっている
・売人や使用仲間から連絡が来る
・仕事や家庭のストレスが強い
・孤独感が強い
・睡眠障害や精神的不調がある
・アルコールやギャンブルなど別の依存傾向がある
・刺激や逃避を求める生活習慣がある
・違法薬物への危険認識が薄い
・「大麻くらいなら大丈夫」と軽く見ている
・家族が薬物依存症や再犯リスクを理解していない
・本人が困った時に相談できる相手がいない

これらの原因を見ないまま、「反省しています」「もうしません」と言っても、再犯防止策としては弱いです。

薬物使用に至ったつまずきの原因を取り除かなければ、同じような場面でまたつまずく可能性があります。

4 私選弁護人に依頼する意味は、再犯防止の設計にある

初犯の薬物所持・自己使用事件で私選弁護人に依頼する意味は、単に「執行猶予を取る」ことではありません。

本当に意味があるのは、再犯防止の設計です。

具体的には、次のような活動です。

1 事案の見極め

まず、本当に単純所持・自己使用の事件なのかを確認します。

所持量、所持態様、入手経路、通信履歴、金銭の流れ、同居人や友人との関係、共同所持の可能性、譲渡・譲受けの有無、違法捜査の有無などを確認します。

本人が「自分で使うためだった」と言っていても、捜査機関が違う見立てをしていることがあります。

2 違法捜査の有無の確認

職務質問、所持品検査、任意同行、採尿、家宅捜索、差押え、鑑定などに違法な点がないかを確認します。

薬物事件では、証拠の取得過程が重要です。

違法な手続がある場合には、不起訴や証拠排除を求める余地があります。もっとも、これは個別事件の証拠関係によるため、安易に「違法捜査で争える」と考えるべきではありません。

3 逮捕・勾留・報道発表への対応

在宅事件であれば、逮捕を避けるための対応が重要です。

逮捕されれば、仕事、学校、家族、勤務先への影響が大きくなります。報道発表のリスクも高まります。

弁護人が早期に関与することで、出頭への同行、家族の身元引受け、証拠隠滅のおそれがないことの説明、再犯防止策の提示などを行うことがあります。

4 本人の原因分析

薬物使用に至った原因を、本人と一緒に整理します。

単に「悪い友人に誘われたから」では足りません。

なぜその友人関係を切れなかったのか。
なぜ薬物に関心を持ったのか。
どのタイミングで使用したくなるのか。
使用前にどのような感情や状況があるのか。
再び誘われた時にどう断るのか。
SNSや通信アプリをどう整理するのか。
生活習慣をどう変えるのか。
家族にどこまで協力してもらうのか。

こうした点を具体的に整理します。

5 専門機関への接続

薬物から離れるには、弁護士だけでは足りません。

必要に応じて、精神科、心療内科、カウンセリング、依存症専門医療機関、精神保健福祉センター、保健所、麻薬取締部の再乱用防止支援、自助グループ、回復支援施設などにつなぐことを検討します。

本人が集団プログラムに抵抗を持つ場合には、個別相談やマンツーマン支援を検討することもあります。

大事なのは、本人が実際に続けられる支援を選ぶことです。

「裁判のために一度だけ行きました」という形だけの支援では不十分です。裁判後も継続できる支援体制が必要です。

6 家族への説明と協力体制の構築

薬物事件では、家族の関与も重要です。

ただし、家族が本人を監視すればよいという単純な話ではありません。

家族が薬物依存症や再犯リスクを理解していないと、本人を責めすぎたり、逆に過度にかばったりして、かえって再発防止が難しくなることがあります。

家族には、

・薬物依存は意思の弱さだけの問題ではないこと
・本人を甘やかすことと支えることは違うこと
・本人の交友関係や生活環境の変化が必要であること
・再使用の兆候に気づく必要があること
・家族自身も相談先を持つべきこと
・本人が再使用した場合にどう対応するかを決めておくこと

を理解してもらう必要があります。

弁護人は、家族面談を通じて、本人を責めるだけではなく、現実に再犯を防ぐための関わり方を一緒に考えます。

5 私選弁護人をつけるべき場合

初犯の薬物所持・自己使用事件で、私選弁護人への依頼を特に検討すべきなのは、次のような場合です。

1 起訴前の事件

起訴前であれば、不起訴や逮捕回避のために動ける余地があります。

職務質問や所持品検査、採尿、捜索差押えに問題がないかを確認する必要があります。また、在宅事件で進めるための意見書、身元引受け、再犯防止策の提示が有効な場合もあります。

起訴されてからでは、できることが減ります。

2 逮捕・勾留されている場合

身柄事件では、本人は外部の専門機関につながることができません。家族とも自由に連絡できません。

弁護人が、家族と連絡を取り、保釈や準抗告を検討し、釈放後の生活環境を整え、薬物から離れるための支援先を確保する必要があります。

3 薬物使用歴が長い場合

初犯であっても、薬物使用歴が長い場合は注意が必要です。

今回たまたま初めて検挙されただけで、実際には長期間使用していたという場合には、依存や生活習慣の問題が深いことがあります。

この場合、「初犯だから大丈夫」と見るのは危険です。

4 本人が薬物を軽く見ている場合

「大麻くらい大丈夫」
「海外では合法の国もある」
「覚醒剤とは違う」
「自分は依存していない」
「いつでもやめられる」

こうした発言がある場合には、再犯リスクを軽く見ている可能性があります。

このような場合には、刑事処分よりも、本人の認識を変えることが重要です。

5 家族がどう関わればよいか分からない場合

薬物事件では、家族が混乱します。

怒ればよいのか、監視すればよいのか、治療に連れて行けばよいのか、本人を信じればよいのか、分からなくなります。

家族の理解と関与を整理する必要がある場合には、薬物事件と再犯防止に詳しい弁護人をつける意味があります。

6 仕事、学校、資格、報道への影響が大きい場合

薬物事件は、勤務先、学校、資格、家族関係、報道に大きな影響を与えることがあります。

会社員、公務員、医療関係者、教員、士業、学生、経営者、芸能・スポーツ関係者などでは、刑事処分だけでなく、社会生活への波及を考える必要があります。

7 国選弁護人が処分の話しかしない場合

国選弁護人がついていても、本人や家族が不安を感じることがあります。

特に、

・「初犯だから執行猶予で終わります」とだけ言う
・薬物依存症や再犯防止の話をしない
・専門機関への接続を検討しない
・家族面談をしない
・入手経路や交友関係の遮断を具体的に考えない
・保釈後の生活計画を立てない
・本人の話を十分に聞かない

という場合には、私選弁護人への相談を検討してよいでしょう。

6 逆に、私選弁護人に切り替えなくてもよい場合

一方で、国選弁護人がついている場合に、必ず私選弁護人に切り替えるべきとはいえません。

国選弁護人であっても、

・薬物事件の証拠関係をきちんと確認している
・違法捜査の有無を検討している
・本人の話を丁寧に聞いている
・家族と連絡を取っている
・依存症や再犯防止の問題を理解している
・専門機関への接続を検討している
・保釈後、判決後の生活を考えている
・裁判で具体的な再犯防止策を主張する準備をしている

という場合には、そのまま任せてよいこともあります。

私選弁護人であればよい、国選弁護人ではだめ、という単純な話ではありません。

重要なのは、弁護人の肩書きではなく、何をしてくれるかです。

7 処分の話しかしない私選弁護人には注意する

私選弁護人をつける場合にも、注意が必要です。

薬物事件で、「初犯なので執行猶予です」「裁判は一回で終わります」「反省文を書いて家族に情状証人になってもらいましょう」という話しかしないのであれば、私選弁護人をつける意味は限られます。

もちろん、刑事処分の見通しを説明することは必要です。

しかし、それだけでは薬物事件の弁護として不十分です。

本当に必要なのは、

・なぜ薬物を使ったのか
・どの人間関係を切るのか
・SNSや通信アプリをどう整理するのか
・どの専門機関に相談するのか
・家族は何を理解すべきか
・再使用したくなった時に誰へ連絡するのか
・裁判後も続く支援は何か
・本人が孤立しない仕組みはあるか
・仕事や生活をどう立て直すか

という話です。

ここをしないのであれば、私選弁護人をつけても、結局「執行猶予を取って終わり」になってしまいます。

そして、それが再犯につながることがあります。

8 薬物事件の弁護人を選ぶときに確認すべきこと

薬物事件で弁護人を選ぶ場合には、次のような点を確認するとよいでしょう。

・この事件で不起訴を目指す余地があるか
・違法捜査の有無をどう確認するか
・逮捕・勾留を避けるために何をするか
・保釈をどう考えるか
・薬物依存症や再犯防止についてどのような知識があるか
・専門医療機関や相談機関、自助グループ等への接続を検討してくれるか
・家族面談をしてくれるか
・本人の入手経路や交友関係の遮断について一緒に考えてくれるか
・裁判後も続けられる再犯防止策を考えてくれるか
・単なる反省文ではなく、具体的な原因分析をしてくれるか
・勤務先、学校、資格、報道への影響も見てくれるか

こうした質問に具体的に答えられない弁護士であれば、薬物事件の再犯防止まで見据えた弁護としては不安があります。

9 弁護人ができることと、できないこと

弁護人は、本人の代わりに薬物をやめることはできません。

本人が本気で薬物から離れる意思を持たなければ、どれだけ弁護人が動いても限界があります。

また、弁護人は医師やカウンセラーではありません。薬物依存症そのものを治療することはできません。

しかし、弁護人には、刑事事件をきっかけに、本人と家族を適切な支援につなぐ役割があります。

刑事事件は、本人にとって人生の危機です。

しかし、その危機を、生活を見直す機会にできる場合があります。

逮捕、起訴、裁判、執行猶予という手続だけで終わらせるのではなく、薬物から離れるための具体的な支援につなげることが、薬物事件の弁護では重要です。

まとめ

初犯の薬物所持・自己使用事件では、所持量が多くなく、営利性もない場合、起訴されても執行猶予付き判決が見込まれることが多いです。

そのため、「国選弁護人で十分」「私選弁護人はいらない」という意見にも、一理あります。

しかし、薬物事件で本当に重要なのは、今回刑務所に行くかどうかだけではありません。

薬物から離れられるかどうかです。

初犯で執行猶予が付いたにもかかわらず、薬物使用につながった原因を放置した結果、再犯し、次の事件で実刑判決を受ける人がいます。

そうならないためには、

・薬物使用に至った原因を整理すること
・入手経路と使用仲間を断つこと
・SNSや通信アプリを整理すること
・専門機関につながること
・家族が薬物依存症と再犯リスクを理解すること
・裁判後も続く支援体制を作ること
・本人が孤立しない仕組みを作ること

が必要です。

私選弁護人に依頼する意味は、ここにあります。

ただし、刑事処分の話しかしない私選弁護人であれば、依頼する意味は大きくありません。逆に、国選弁護人であっても、薬物依存症や再犯防止に詳しく、本人と家族にきちんと向き合ってくれる弁護士であれば、そのまま任せてよい場合もあります。

大事なのは、私選か国選かではありません。

今回の事件を、薬物から離れるための本当の転機にできる弁護人かどうかです。

初犯の薬物所持・自己使用事件で不安がある方は、早めに弁護士に相談してください。

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