営業職・配送職がひき逃げを疑われた場合、免許取消を避けるためにすべきこと
2026年06月08日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は営業職として働いており、毎日、自動車で取引先を回っています。
先日、私用で車を運転していたところ、自転車と軽く接触したような気がしました。しかし、相手はそのまま自転車で走って行ったように見えたため、大きな事故ではないと思い、その場を離れました。
ところが後日、警察から連絡があり、相手がけがをしているので、救護義務違反、いわゆる「ひき逃げ」の疑いがあると言われました。
私は仕事で免許が必須です。免許取消になれば営業の仕事ができなくなり、会社にも知られると思います。罰金も困りますが、それ以上に免許取消が怖いです。
このような場合、どう対応すればよいでしょうか。
A、営業職・配送職など、運転免許が仕事に不可欠な方がひき逃げを疑われた場合、まず考えるべきことは、免許取消処分を避けられないかということです。
救護義務違反、いわゆるひき逃げとして扱われると、運転免許の行政処分上、非常に重い点数が付けられます。軽傷事故であっても、救護義務違反として違反等登録されれば、免許取消処分の問題になります。
しかも、行政処分の意見の聴取通知が届いてから対応しようとしても、既に警察側で「ひき逃げ」として処理が進んでいることが多く、そこから覆すことは簡単ではありません。
そのため、ひき逃げを疑われた場合には、行政処分の段階を待つのではなく、警察・検察の刑事事件の段階から、救護義務違反に当たらないこと、少なくとも救護義務違反として違反等登録をすべきでないことを、資料と意見書で示す必要があります。
特に重要なのは、事故当時、運転者が人の負傷を認識していたかどうかです。
単に「何かと接触したかもしれない」というだけで、直ちに救護義務違反が成立するわけではありません。問題は、事故当時、又はその場を離れる時点で、「人が負傷したのではないか」と認識していたといえるかです。
したがって、営業職・配送職の方がひき逃げを疑われた場合には、早期に弁護士に相談し、刑事処分、行政処分、会社対応を一体として整理すべきです。
【解説】
1 営業職・配送職にとって、ひき逃げ事件の最大の問題は免許取消です
ひき逃げ事件では、刑事処分も重大です。
しかし、営業職、配送職、運送業、建設業、介護・訪問系の仕事、地方で車移動が必須の仕事などでは、刑事処分以上に深刻なのが運転免許の問題です。
免許が取り消されれば、仕事ができなくなることがあります。
営業先を回れない。
配送業務に就けない。
社用車を運転できない。
現場に向かえない。
会社に報告せざるを得ない。
配置転換、降格、退職勧奨、懲戒処分の問題が生じる。
このように、免許取消は生活に直結します。
そのため、ひき逃げを疑われた場合には、「罰金で済むかどうか」だけを見てはいけません。
免許取消を避けられるかを、最初から考える必要があります。
2 軽傷事故でも、救護義務違反とされれば免許取消の問題になります
交通事故で人にけがをさせた場合、運転者には、直ちに車両を停止し、負傷者を救護し、道路上の危険を防止し、警察官に報告する義務があります。
これを怠ったと判断されると、いわゆる「ひき逃げ」として扱われます。
注意すべきなのは、被害者のけがが軽傷でも、救護義務違反として処理されれば、免許取消処分の問題になるということです。
「相手は立っていた」
「自転車で帰っていった」
「大丈夫そうに見えた」
「後から捻挫と言われただけ」
「罰金なら払う」
という感覚では足りません。
軽い接触事故に見えても、相手が後日診断書を提出すれば人身事故になります。そして、警察が「事故を認識しながら救護・報告をしなかった」と判断すれば、救護義務違反として捜査される可能性があります。
営業職・配送職の方にとっては、ここが非常に危険です。
3 行政処分の段階からでは遅いことがあります
ひき逃げ事件でよくある誤解は、「刑事事件は罰金で終わらせて、免許のことは行政処分の意見の聴取で争えばよい」というものです。
しかし、これは危険です。
行政処分の意見の聴取通知が届く時点では、既に警察側で「救護義務違反」として違反等登録が進んでいることがあります。その段階で、初めて弁護士に依頼して「ひき逃げではありません」と主張しても、覆すことは簡単ではありません。
免許取消を避けたいのであれば、刑事弁護の段階から動くべきです。
具体的には、警察や検察官に対して、
・救護義務違反に当たらないこと
・事故又は負傷の認識がなかったこと
・事故態様から人の負傷を認識できなかったこと
・少なくとも救護義務違反として違反等登録すべきではないこと
・過失運転致傷、報告義務違反等と救護義務違反を区別すべきこと
を、資料に基づいて意見書で示す必要があります。
刑事事件の処理が、免許の行政処分に大きな影響を与えることがあります。
4 救護義務違反で一番重要なのは「負傷の認識」です
救護義務違反は、単に事故現場を離れたから成立するものではありません。
重要なのは、運転者が、交通事故により人が負傷したことを認識していたかどうかです。
もちろん、確定的に「相手はけがをしている」と分かっていた場合だけではありません。「人が負傷したかもしれない」と未必的に認識していた場合にも、救護義務違反が問題になります。
もっとも、これは微妙な問題です。
「何か音がした」
「接触したかもしれない」
「相手が近くにいた」
「今から考えると事故だったのかもしれない」
というだけで、直ちに救護義務違反の故意があるとは限りません。
問題は、事故当時の具体的状況から、運転者が人の負傷を認識していたといえるかです。
たとえば、
・歩行者や自転車と明らかに接触したか
・相手方が転倒したか
・相手方が痛がったか
・大きな衝突音や衝撃があったか
・車体に明らかな損傷があったか
・ミラーで倒れている人を見たか
・相手方から声をかけられたか
・周囲の人から事故だと言われたか
・その場で停車、確認、引返しをしたか
・相手方がそのまま立ち去ったか
・交通状況、明るさ、天候、視認可能性はどうだったか
といった事情を丁寧に見る必要があります。
5 「相手が大丈夫と言った」だけでは安全ではありません
交通事故後、相手方が「大丈夫です」と言って立ち去ることがあります。
しかし、それだけで救護義務がなくなるとは限りません。
事故直後は興奮して痛みを感じにくいことがあります。自転車や歩行者の場合、後から痛みが出て、病院で診断書が出ることもあります。
そのため、運転者としては、相手方が「大丈夫」と言っても、事故態様や相手の様子によっては、警察への報告、救急車の手配、連絡先の確認などをすべき場合があります。
特に、
・相手が転倒した
・車両と身体が接触した
・自転車が倒れた
・相手が高齢者、子どもである
・相手が痛みを訴えた
・車両損傷がある
・夜間や雨天で状況が分かりにくい
という場合には、「大丈夫と言われたから帰った」という説明だけでは不十分になることがあります。
6 まず集めるべき資料
ひき逃げを疑われた場合、早期に資料を集める必要があります。
事故から時間が経つと、防犯カメラ映像やドライブレコーダー映像が消えることがあります。現場状況も変わります。記憶も曖昧になります。
特に、次の資料が重要です。
・ドライブレコーダー映像
・車両の損傷写真
・事故現場の写真
・道路幅、見通し、標識、信号、照明状況
・事故当時の天候、時間帯、交通量
・被害者の動き
・相手方車両又は自転車の損傷状況
・事故直後の会話内容
・警察、保険会社、会社への連絡履歴
・事故後に現場へ戻ったかどうか
・任意保険会社とのやり取り
・診断書、治療状況
・示談交渉や被害弁償の状況
・運転免許が仕事に必要であることを示す資料
・勤務内容、担当業務、営業・配送の実態が分かる資料
営業職・配送職の場合には、免許取消が仕事に与える影響も資料化する必要があります。
単に「仕事で困る」と言うだけではなく、
・毎日どの程度運転しているか
・担当エリア
・配送件数、営業件数
・社用車利用の有無
・公共交通機関で代替できるか
・免許がない場合に配置転換が可能か
・会社の就業規則や車両管理規程
・家族の生活への影響
などを整理します。
7 供述調書では、抽象的な表現に注意する
警察の取調べでは、事故当時の認識について詳しく聞かれます。
ここで、不正確な供述調書が作られると、後で免許取消回避が難しくなることがあります。
たとえば、
「事故を起こしたと思いました」
「相手にけがをさせたかもしれないと思いました」
「怖くなって逃げました」
という記載が調書に入ると、救護義務違反の故意を認めたように読まれる可能性があります。
もちろん、それが真実なら、そのように述べるしかありません。
しかし、実際には、
・何か音がしたが、何の音か分からなかった
・人と接触したとは思わなかった
・ミラーを見たが転倒者は見えなかった
・相手方がそのまま走行していった
・安全な場所まで移動して確認した
・後から警察に聞いて初めて負傷を知った
という事情がある場合には、それを具体的に説明すべきです。
「今考えると事故だったのかもしれない」という後からの推測と、「当時、自分が何を認識していたか」は分けなければなりません。
供述調書に署名押印する前には、必ず内容をよく確認してください。不正確な点があれば、訂正を求めるべきです。
8 嘘をついてはいけない
ひき逃げを疑われた場合、絶対にしてはいけないことは嘘をつくことです。
・本当は接触に気づいていたのに、全く気づかなかったと言う
・本当は停車して確認したのに、停車していないと言う
・ドライブレコーダー映像を消す
・車両の損傷を修理して隠す
・同乗者と口裏合わせをする
・被害者に直接連絡して口止めを求める
・会社や保険会社に虚偽説明をする
こうした対応は、かえって逮捕、勾留、起訴、免許取消、会社処分のリスクを高めます。
弁護士に相談する場合にも、不利な事情を隠してはいけません。
弁護士は、不利な事情も含めて、どう説明するか、どこを争うか、どこを認めるかを考えるためにいます。不利な事情を隠したままでは、適切な弁護方針を立てられません。
9 会社への報告は慎重に判断する
営業職・配送職の場合、会社に知られたくないという相談も多いです。
私用中の事故であれば、直ちに会社へ全てを報告すべきかは事案によります。
一方で、次の場合には、会社への報告を避けることは難しくなります。
・社用車での事故
・勤務中又は業務中の事故
・会社の任意保険を使う必要がある
・就業規則や車両管理規程上、報告義務がある
・免許停止又は取消により業務運転ができなくなる
・行政処分の意見の聴取通知が届いた
・警察や報道により会社発覚の可能性が高い
免許取消処分を受けることになれば、免許が必須の仕事では、最終的には会社に伝えざるを得ません。
免許を失ったのに、会社に黙って運転業務を続けることはできません。無免許運転は新たな犯罪ですし、会社にも重大な損害を与える可能性があります。
したがって、会社対応については、弁護士と相談しながら、
・報告義務の有無
・報告時期
・報告先
・説明内容
・免許取消回避に向けた対応状況
・業務への影響
・配置転換や一時的な運転業務停止の可能性
を整理する必要があります。
10 行政処分の意見の聴取通知が届いたら、すぐに相談する
行政処分の意見の聴取通知が届いた場合、すぐに弁護士へ相談すべきです。
意見の聴取は、免許停止90日以上又は免許取消処分に該当する場合に、本人が意見を述べ、有利な証拠を提出できる手続です。
しかし、ひき逃げ事件では、その段階から初めて動いても遅いことがあります。
意見の聴取では、
・救護義務違反としての登録が本当に適切か
・事故態様
・負傷認識の有無
・被害者対応
・刑事処分の状況
・仕事で免許が必要な事情
・生活への影響
・反省と再発防止策
を資料とともに説明します。
もっとも、意見の聴取は、何でも自由に救済される手続ではありません。既に登録された違反内容を覆すには、相応の資料と法的主張が必要です。
だからこそ、意見の聴取通知が来る前、警察段階から対応することが重要です。
11 弁護士に相談すべきタイミング
営業職・配送職の方がひき逃げを疑われた場合、次の段階では早急に弁護士へ相談してください。
・警察から「ひき逃げ」と言われた
・後日、警察から呼び出しを受けた
・相手が診断書を出したと聞いた
・事故当時、接触や負傷の認識が曖昧である
・ドライブレコーダー映像がある
・供述調書に署名してよいか分からない
・免許取消が不安である
・仕事で免許が必須である
・会社に知られたくない
・社用車又は業務中の事故である
・保険会社から連絡が来た
・行政処分の意見の聴取通知が届いた
・検察庁から呼び出しを受けた
早期に相談することで、刑事処分、行政処分、会社対応を一体として設計できます。
まとめ
営業職・配送職がひき逃げを疑われた場合、最初に考えるべきことは、免許取消を避けられないかということです。
救護義務違反として扱われると、軽傷事故であっても、免許取消処分の問題になります。仕事で免許が必要な方にとって、免許取消は生活に直結します。
重要なのは、行政処分の段階を待たないことです。
刑事弁護の段階から、
・事故又は負傷の認識があったのか
・救護義務違反に当たるのか
・違反等登録をすべき事案なのか
・過失運転致傷、報告義務違反、救護義務違反をどう区別するか
・ドライブレコーダーや車両損傷などの客観資料は何を示しているか
・被害者対応はどう進めるか
・会社への報告はいつ、どのように行うか
・免許取消が仕事に与える影響をどう資料化するか
を整理する必要があります。
「罰金で済めばよい」と考えてはいけません。
営業職・配送職にとっては、罰金よりも免許取消の方が重大な場合があります。
ひき逃げを疑われた場合には、できるだけ早く、交通犯罪と運転免許の行政処分に詳しい弁護士へ相談してください。


