自転車の酒気帯び運転で自動車の運転免許が停止・取消になることはあるか
2026年06月12日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は会社員です。飲酒後に自転車に乗って帰宅していたところ、警察官に停止を求められ、呼気検査を受けました。その結果、自転車の酒気帯び運転で検挙されました。
警察官からは、自転車でも酒気帯び運転は犯罪になると言われました。
私は自動車の運転免許を持っています。仕事でも車を使います。自転車の事件なのに、自動車の運転免許が停止されたり、取り消されたりすることはあるのでしょうか。
A、自転車の酒気帯び運転であっても、自動車等の運転免許が停止されることはあります。
ただし、自動車で酒気帯び運転をした場合と同じように、直ちに違反点数が13点又は25点付いて、点数制度によって免許停止・免許取消になるという仕組みではありません。
自転車で交通違反をした場合、原則として自動車の運転免許の点数は付きません。
しかし、運転免許を持っている人が、自転車で酒気帯び運転などの悪質・危険な違反をした場合、公安委員会が「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある」と判断すれば、「危険性帯有者」として、6か月を超えない範囲で運転免許の停止処分を受けることがあります。
つまり、
・自転車の酒気帯び運転には、自動車の免許点数は付かない
・しかし、危険性帯有者として免許停止になることはある
・通常問題になりやすいのは、免許取消よりも6か月以内の免許停止である
・ただし、自動車での飲酒運転、重大事故、アルコール依存等の別事情がある場合には、取消を含む別の行政処分が問題になることがある
という整理になります。
したがって、「自転車だから自動車の免許には関係ない」と考えるのは危険です。
特に、営業職、配送職、公務員、教員、医療・介護職、地方で車通勤が必要な方など、自動車の運転免許が仕事や生活に不可欠な方は、刑事処分だけでなく、運転免許の行政処分も見据えて対応する必要があります。
【解説】
1 自転車の酒気帯び運転は犯罪です
令和6年11月1日施行の道路交通法改正により、自転車の酒気帯び運転について罰則が整備されました。
現在では、自転車であっても、酒気を帯びて運転すれば、道路交通法違反として刑事処分の対象になります。
「車ではなく自転車だから大丈夫」
「近所までだから大丈夫」
「少ししか飲んでいない」
「自転車なら免許がいらないから関係ない」
という考えは通用しません。
自転車も道路交通法上の車両です。酒気を帯びて運転することは禁止されています。
2 自転車の交通違反では、原則として免許の点数は付きません
まず大前提として、自転車の交通違反をした場合でも、自動車の運転免許の点数は原則として付きません。
自動車で酒気帯び運転をした場合には、呼気中アルコール濃度に応じて違反点数が付き、免許停止又は免許取消が問題になります。
しかし、自転車の酒気帯び運転については、自動車の酒気帯び運転と同じように、違反点数13点、25点が付くという扱いではありません。
そのため、「自転車の酒気帯び運転で直ちに点数が付いて免許取消になる」という説明は正確ではありません。
もっとも、ここで安心してはいけません。
点数が付かないことと、運転免許に影響がないことは違います。
3 危険性帯有者として免許停止になることがあります
自転車の交通違反であっても、自動車等の運転免許が停止されることがあります。
これは、点数制度による行政処分ではなく、いわゆる「危険性帯有者」としての行政処分です。
運転免許を持っている人が、自転車で酒気帯び運転などの悪質・危険な違反をした場合、公安委員会が、その人について「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある」と判断すれば、6か月を超えない範囲で運転免許を停止することがあります。
これは、自転車での行為であっても、その人の交通安全意識や飲酒時の判断能力に問題があり、自動車を運転させても危険を生じさせるおそれがあると評価される場合があるからです。
特に、次のような事情がある場合には、免許停止のリスクが高くなります。
・自転車の酒気帯び運転で検挙された
・呼気中アルコール濃度が高い
・蛇行運転、信号無視、事故など危険な運転態様がある
・歩行者、自転車、自動車との接触事故がある
・過去にも飲酒運転や交通違反歴がある
・警察官への対応が悪い
・飲酒後に自転車ならよいと軽く考えていた
・自動車の運転免許を持っている
・仕事や生活で自動車を日常的に運転している
4 実際に自転車の酒気帯び運転で免許停止処分がされています
自転車の酒気帯び運転については、実際に、運転免許保有者に対して免許停止処分が行われています。
このことからも、「自転車だから自動車の免許には絶対に影響しない」という理解は誤りです。
自転車の酒気帯び運転は、刑事処分だけでなく、自動車等の運転免許の行政処分にもつながり得る事件です。
5 免許取消になることはあるのか
では、自転車の酒気帯び運転で、自動車の運転免許が取り消されることはあるのでしょうか。
通常、自転車の酒気帯び運転で中心的に問題になるのは、危険性帯有者としての6か月以内の免許停止です。
自動車の酒気帯び運転のように、違反点数25点が付いて免許取消になるという処理ではありません。
そのため、自転車の酒気帯び運転それ自体については、まず「免許停止になる可能性」を中心に考えるべきです。
もっとも、次のような別事情がある場合には、取消を含む別の行政処分が問題になることがあります。
・自動車でも飲酒運転をしている
・自動車運転に関する別の重大違反がある
・重大事故を起こしている
・アルコール依存症等により安全運転に支障があると判断される
・過去の行政処分歴や違反歴が重い
・他の道路交通法違反と併せて処分が問題になっている
したがって、「自転車酒気帯びなら絶対に取消はない」と断定するのではなく、通常は停止が中心だが、他の事情によっては別の処分が問題になり得る、と考えるべきです。
6 刑事処分と行政処分は別です
自転車の酒気帯び運転では、刑事処分と行政処分を分けて考える必要があります。
刑事処分とは、警察・検察・裁判所による処分です。
たとえば、
・不起訴
・略式起訴による罰金
・正式裁判
・拘禁刑、執行猶予
などが問題になります。
一方、行政処分とは、公安委員会による運転免許に関する処分です。
たとえば、
・免許停止
・免許取消
・危険性帯有者としての処分
・自転車運転者講習
などが問題になります。
刑事事件として罰金で終わったからといって、運転免許の行政処分が絶対にないとは限りません。
逆に、刑事処分が軽くても、行政処分として免許停止が問題になることがあります。
そのため、自転車の酒気帯び運転では、「罰金で終わるかどうか」だけを考えるのではなく、公安委員会による免許停止の可能性まで見ておく必要があります。
7 仕事で免許が必要な人は特に注意すべきです
自転車の酒気帯び運転による免許停止は、仕事に大きな影響を与えることがあります。
特に、次のような方は注意が必要です。
・営業職
・配送職
・運送業
・建設業
・介護・訪問系の仕事
・医療・福祉関係で訪問業務がある方
・地方で車通勤が必要な方
・公務員
・教員
・会社役員、自営業者
・社用車を運転する方
自転車での事件であっても、自動車の運転免許が停止されれば、業務に支障が出ます。
営業先を回れない。
配送業務ができない。
社用車を運転できない。
通勤できない。
職場に報告せざるを得ない。
配置転換、降格、懲戒処分の問題が生じる。
このような影響があり得ます。
「自転車だから軽い」と考えると、思わぬところで生活に影響が出ます。
8 公務員・教員の場合は、懲戒処分も問題になります
公務員・教員が自転車の酒気帯び運転で検挙された場合、刑事処分と運転免許だけでなく、懲戒処分も問題になります。
自動車ではなく自転車であっても、酒気帯び運転は道路交通法違反の犯罪です。
職場に発覚した場合、
・戒告
・減給
・停職
・免職
・昇任、異動への影響
・信用失墜
・報道発表
などが問題になることがあります。
また、自治体や職場の服務規程上、刑事事件や交通違反について報告義務が定められていることがあります。
職場に報告すべきかどうかは、自己判断で決めるべきではありません。
報告義務があるのに隠した場合、後から発覚したときに、酒気帯び運転そのものだけでなく、不誠実な対応や虚偽報告として処分が重くなる可能性があります。
一方で、事実関係や処分見通しが整理されていない段階で、不正確な説明をしてしまうことにもリスクがあります。
公務員・教員の場合には、弁護士と相談しながら、刑事処分、免許処分、懲戒処分、職場報告を一体として整理すべきです。
9 免許停止を避けるために何をすべきか
自転車の酒気帯び運転で自動車の運転免許停止が心配な場合には、早期に次の事情を整理する必要があります。
・呼気中アルコール濃度
・飲酒量
・飲酒終了時刻
・自転車を運転した時刻
・運転距離
・運転場所
・事故の有無
・蛇行、信号無視、ふらつき等の有無
・歩行者や車両への危険の有無
・警察官への対応
・前科前歴、交通違反歴
・自動車運転免許の必要性
・仕事や生活への影響
・再発防止策
・飲酒後に自転車を使わない具体的仕組み
行政処分を争う場合には、単に「仕事で困る」と言うだけでは不十分です。
重要なのは、本当に自動車等を運転することが著しく道路交通の危険を生じさせるおそれがあるといえるのか、危険性帯有者として処分する必要があるのかを、具体的な事情に基づいて検討することです。
たとえば、
・事故は発生していない
・危険な運転態様ではなかった
・過去の交通違反歴がない
・自動車では飲酒運転をしたことがない
・今回の行為を重く受け止めている
・飲酒後は自転車を含めて一切運転しない仕組みを作った
・家族や第三者が再発防止に関与する
・必要に応じて飲酒習慣を見直している
・自動車免許停止が仕事や生活に重大な影響を与える
といった事情を整理します。
もっとも、これらの事情があれば必ず免許停止を避けられるというものではありません。
しかし、何も準備せずに手続を迎えるよりも、事実関係と再発防止策を整理して意見を述べることが重要です。
10 再発防止策が重要です
自転車の酒気帯び運転では、再発防止策が非常に重要です。
「自動車ではなく自転車だから大丈夫だと思った」という認識がある場合、その認識を改める必要があります。
飲酒後は、自動車だけでなく、自転車にも乗ってはいけません。
再発防止策としては、次のようなものがあります。
・飲酒する日は自転車で出かけない
・自転車で出かけた日は飲酒しない
・飲酒後は徒歩、タクシー、公共交通機関を使う
・飲酒前に帰宅手段を決めておく
・自転車の鍵を家族に預ける
・飲酒予定がある日は自転車を職場や駅に置いていかない
・飲酒量と時間を記録する
・翌朝まで酒が残る可能性を理解する
・必要に応じてアルコールチェッカーを使う
・家族や同居人に再発防止策を共有する
・飲酒習慣に問題がある場合は医療機関や相談機関につながる
再発防止策は、抽象的な反省ではなく、実際に同じことが起きない仕組みにする必要があります。
11 してはいけないこと
自転車の酒気帯び運転で検挙された場合、次のことは避けてください。
・警察に嘘をつく
・飲酒量や飲酒時間を偽る
・誰かと口裏合わせをする
・自転車を押していただけだったと虚偽説明をする
・供述調書を読まずに署名押印する
・職場に虚偽報告をする
・行政処分の通知を無視する
・「自転車だから免許には関係ない」と放置する
・再発防止策を作らない
・飲酒後に自転車を使う生活を続ける
特に、「自転車の事件だから大丈夫」と思って放置すると、刑事処分、免許停止、職場発覚の対応が後手に回ります。
12 弁護士に相談すべきタイミング
次の場合には、早めに弁護士へ相談してください。
・自転車の酒気帯び運転で検挙された
・自動車の運転免許を持っている
・仕事で免許が必要である
・営業職、配送職、公務員、教員である
・警察から勤務先を聞かれた
・職場に報告すべきか迷っている
・事故や接触がある
・呼気濃度が高い
・過去に交通違反歴や飲酒運転歴がある
・行政処分の通知が届いた
・免許停止を避けたい
・不起訴や罰金回避を目指したい
・再発防止策をどう作ればよいか分からない
自転車の酒気帯び運転は、まだ新しい処罰類型です。今後、刑事処分や行政処分の運用が積み重なっていく分野です。
だからこそ、早期に相談し、刑事処分と運転免許の行政処分の双方を見据えて対応する必要があります。
まとめ
自転車の酒気帯び運転で、自動車の運転免許が停止・取消になることはあるか。
結論として、自動車等の運転免許が停止されることはあります。
ただし、自動車の酒気帯び運転と同じように、直ちに点数が付いて免許停止・取消になるという仕組みではありません。
自転車の交通違反では、原則として自動車の運転免許の点数は付きません。
しかし、運転免許を持っている人が、自転車で酒気帯び運転などの悪質・危険な違反をした場合、公安委員会が危険性帯有者と判断すれば、6か月を超えない範囲で免許停止処分を受けることがあります。
通常中心になるのは免許取消ではなく免許停止です。
もっとも、自動車での飲酒運転、重大事故、アルコール依存等の別事情がある場合には、取消を含む別の行政処分が問題になることがあります。
したがって、
・自転車だから免許には関係ない
・点数が付かないから行政処分はない
・罰金で終わればすべて終わり
・仕事で必要だから免許停止はされない
と考えるのは危険です。
自転車の酒気帯び運転で検挙された場合には、刑事処分だけでなく、自動車の運転免許への影響、職場への報告、懲戒処分、再発防止策まで含めて対応する必要があります。
自動車の運転免許が仕事や生活に必要な方は、できるだけ早く、交通犯罪と運転免許の行政処分に詳しい弁護士へ相談してください。
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