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薬院法律事務所

刑事弁護

奈良県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例第12条(卑わいな行為の禁止)の解説・痴漢・盗撮行為


2025年01月15日刑事弁護

下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。

 

以下では、奈良県迷惑行為防止条例 第12条(卑わいな行為の禁止)を中心に、これまでの解説スタイルを踏襲しながら詳細かつ分量多めに説明します。痴漢やのぞき見、盗撮といった性犯罪的な迷惑行為をどのように規制し、県内の安全と平穏を守っているのか、条文の構造を順を追って見ていきましょう。


1. 第12条(卑わいな行為の禁止)の位置づけと目的

(1) 条例全体における意義

  • 本条例(昭和39年4月1日条例第5号)は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等」を防止し、県民及び滞在者の平穏な生活を保持することを目的としています(第1条)。
  • その中でも第12条は、痴漢行為(身体接触)やのぞき見・盗撮行為卑わいな言動など、性犯罪的な迷惑行為を明示的かつ重点的に規制する重要規定です。

(2) 保護法益

  • 第12条が想定する行為はいずれも被害者に強い羞恥や不安、嫌悪感を与えるものであり、公共の場や日常生活上の様々な場面で発生し得る点が問題です。
  • より軽微な痴漢・盗撮行為や未遂段階についても、本条例によっていち早く摘発し、被害拡大を防ぐという意義があります。

2. 第12条第1項

(第12条第1項)
「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人を著しくしゆう恥させ、又は他人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で、みだりに次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 他人の胸部、臀部、下腹部、大腿部等の身体に触れる行為(着衣の上からでも直接でも可)であって卑わいなもの
二 着衣等を脱いだ状態の他人や下着・胸部等をのぞき見し、又は写真機等で映像を記録する行為であって卑わいなもの
三 前二号に掲げるもののほか、卑わいな言動」

※ 条文上は詳細に規定がありますが、要旨をまとめて解説します。

(1) 規制対象の場所

  • 公共の場所又は公共の乗物
    • 道路、公園、広場、駅、観光施設、飲食店、公衆便所など「不特定・多数が出入りする場所」
    • 電車、乗合自動車、船舶など「不特定・多数が利用する乗物」
  • これらの空間では多くの人が行き交うため、痴漢や盗撮の被害が発生しやすく、条例が強く規制する理由となっています。

(2) 禁止行為(第1項各号)

  1. (一) 他人の胸部、臀部、下腹部、大腿部等に触れる痴漢行為
    • 「着衣の上からでも直接でも可」と明示されており、満員電車やバスなどでの痴漢行為が典型例。
    • 被害者に強い羞恥・恐怖心を与えるため、厳重に禁止される。
  2. (二) 他人の下着や身体をのぞき見・記録する行為(卑わいなもの)
    • 下着や胸部等をのぞき込む、スマホやカメラ等で撮影・録画する(盗撮)行為を規制。
    • この中には「衣服を脱いだ状態での姿態」の覗き見・撮影も含まれ、公共空間におけるのぞき見・盗撮の典型ケースが対象。
  3. (三) 前2号以外の卑わいな言動
    • 直接接触や撮影行為に限らず、周囲に強い性的嫌悪感を与えるような言動を包括的に規制。
    • たとえば、公衆の面前でわいせつな言葉を叫ぶ、卑猥なパフォーマンスを行うなど。

(3) 「他人を著しくしゆう恥させ、又は他人に不安・嫌悪を覚えさせるような方法で」

  • いずれの行為も、被害者の側から見て著しい羞恥や恐怖、嫌悪感をもたらすかどうかが重要。
  • 医療行為や正当業務に伴う接触等であれば、行為が正当化される可能性がありますが、痴漢や盗撮は「正当な理由」を有しないことが明白。

(4) 典型事例

  • 電車やバスなどで他人の臀部・胸を触る痴漢行為
  • 床に置いたスマホや鏡を使ったスカート内盗撮
  • 公共空間での卑猥な言葉・ジェスチャー

3. 第12条第2項

(第12条第2項)
「何人も、みだりに卑わいな行為であって次の各号に掲げるものをしてはならない…(1)公共の場所及び公共の乗物以外の場所から透視する方法で盗撮…(2)写真機等を使用して、住居、浴場、更衣室、便所その他の人が着衣等の全部又は一部を着けない状態でいる場所で他人の姿態を録画する…」

※ 条文上は2号に分けて規定されているが、整理すると以下のように解説できます。

(1) 公共空間「外」からの透かし撮り

  • 第2項第1号が想定するのは、公共の場所や乗物以外の空間(たとえば自宅の窓やビルの上階など)から、赤外線フィルター等を使い「透視」して公共空間にいる他人の下着や身体を盗撮する行為。
  • ここでは公共空間にいる被害者への撮影が行われるが、撮影者自身が公共空間外(私有地等)にいて行うため、別途明文化している。

(2) 住居・浴場・更衣室など私的空間での撮影

  • 第2号では、私的空間である「住居、浴場、更衣室、便所」等において衣服を着けずにいる人を撮影する行為を規制。
  • 被害者が裸・半裸になっている状況は重大なプライバシー侵害となるため、特に厳しく禁止される。
  • 平成20年の改正で私的空間での盗撮行為を規制した、もっとも先駆的な県です。

奈良県警察本部生活環境課「「迷惑防止条例」逐条解説(全75頁)」(2016年5月)68-69頁

【(1) 軽犯罪法との関係
軽犯罪法第1条第2 3号(窃視の罪)は、正当な理由なく人の住居、浴場、更衣室等人が通常衣服を着けないでいるような場所をひそかにのぞき見ることを禁止し
て人の個人的秘密を侵害する抽象的危険性がある行為を規制し、性犯罪の未然防止を図ろうとするものである。
一方、本条は、個人の意思及び行動の自由を保護することにより、人の性的尊厳と平穏な生活を侵害する悪質かつ卑劣な行為等を防止し、もって県民等の生活の平穏と善良な風俗環境を保持すること目的として、
〇公共の場所又は公共の乗物における他人の全裸若しくは半裸の姿態又は他人の下着若しくは身体ののぞき見及び盗撮行為
〇公共の場所及び公共の乗物以外から行われる公共の場所にいる他人又は公共の乗物に乗っている他人に対する下着若しくは身体の透視及び盗撮(透視画像の記録に限る。)行為
〇住居、浴場、更衣室等人が着衣等の全部又は一部を着けないでいるような場所(公共の場所及び公共の乗物を除く。)における全裸、半裸、下着姿等の他人の姿態の盗撮行為
を規制している。
すなわち、保護法益において、軽犯罪法第1条第2 3号が、個人的法益を保護しているのに対し、本条第1項第2号及び第2項の盗撮行為(透視映像の記録を含む。)は、一旦記録された下着等の映像が、インターネット等により、回収不能な程度に頒布され、県民等の平穏な生活や善良な風俗環境が害されるという危険性が具体化することから、個人的法益の侵害を超えた社会的法益を保護している。
また、構成要件においても、本条第2項第2号は「当該状態でいる他人の姿態」とした「人」に対する事実上の侵害行為であるのに対し、軽犯罪法は「正当な理由なく人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所」とした「場所」に対する侵害行為であって、現に人が着衣等を着けているかどうかはもちろんのこと、現に人がいるかどうかは問わないことから、現実的に結果がなくても既遂となる。よって、本条は、軽犯罪法と法条においても、保護法益及び構成要件が異なっており別罪となる。
したがって、公衆浴場や公衆便所等をひそかにのぞき見し、その映像を写真機等に記録した場合や人の住居、浴場その他の人が着衣等を着けない状態でいるような場所において、当該状態でいる他人の姿態の映像を記録した場合は、軽犯罪法第1条第2 3号との両罪が成立し、その関係は観念的競合となる。
例えば、次の場合が該当する。
① 公衆便所内にいる他人の下着姿や下腹部を写真機等を介して、のぞき見た場合(住居侵入、建造物侵入に該当しない場合)
※ 本条第1項第2号と軽犯罪法第1条第23号の両罪が成立し、その関係は観念的競合となる。
② 写真機等を使用して、自宅から公衆浴場の脱衣場にいる他人の着衣を透視する方法により下腹部を見た場合(住居侵入、建造物侵入に該当しない場合)
※ 本条第2項第1号と軽犯罪法第1条第2 3号の両罪が成立し、その関係は観念的競合となる。
③ 屋外から一般家庭の部屋又は風呂場内にいる他人の下着姿又は裸体を撮影した場合(住居侵入、建造物侵入に該当しない場合)
※本条第2項第2号と軽犯罪法第1条第2 3号の両罪が成立し、その関係は観念的競合となる。
④ 屋外から一般家庭の浴場にいる他人の裸体を盗撮しようとしたが、現に人がいなかった場合(住居侵入、建造物侵入に該当しない場合)
※ 軽犯罪法第1条第2 3号のみが成立することになる。】

(3) 典型事例

  • 家のベランダから隣の公園にいる人を透視カメラで盗撮
  • 更衣室で隠しカメラを仕掛け、着替え中を記録
  • 銭湯の脱衣所で密かに録画

4. 全体的な特徴

  1. **公共空間(第1項)だけでなく、半公共的空間や住居等の私的空間(第2項・2号)**における卑わい行為まで幅広くカバー。
  2. 痴漢(接触)・のぞき見・盗撮(準備含む)・透かし撮り・卑猥言動など、多様な手口を包括的に規制。
  3. 撮影行為(盗撮)の準備段階も検挙対象となり、未然摘発が可能(例:カメラの差し向け・設置など)。
  4. 衣服を脱ぐ可能性がある場所における撮影、あるいは公共空間外から公共空間を透かし撮影する行為など、より細かいシチュエーションにも対応している。

※このchatGPTの4.3の解説は誤りで、奈良県迷惑防止条例は「差し向け・設置行為」を規制していません。

奈良県警察本部生活環境課「「迷惑防止条例」逐条解説(全75頁)」(2016年5月)67頁

【(1 7) 「映像を記録する」とは、写真機等を使用して、被写体をフィルム又は電磁的記録媒体に記録することをいう。
すなわち、カメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ等を使用して、被写体の映像をフィルム、ビデオテープ、ハードディスク、メモリ等に記録することであり、
0 フィルム、ビデオテープ等が入っていない場合
0 未だ映像が記録されていない場合
0 カメラ等の故障により、撮影不能の場合
は、該当しない。】


5. 罰則

  • 第13条によれば、「第12条の規定(卑わいな行為)に違反した者」は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処し、常習の場合には「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処せられる(第13条第1項、第5項などの規定)。
  • さらに、のぞき見や盗撮など行為の内容によっては「条例違反」のみならず、刑法や「性的姿態等撮影罪」(令和5年施行)も適用される可能性があります。ただし、条例により軽微な事案や未遂段階などで対応できるメリットが大きい。

6. まとめ

  1. 奈良県迷惑行為防止条例 第12条は、公共空間における痴漢・のぞき見・盗撮・卑猥言動のみならず、半公共空間や私的空間(住居・浴場・更衣室等)での撮影行為まで、性犯罪的迷惑行為を多角的に規制する中心規定。
  2. 第1項では、身体接触や卑猥な言動、下着ののぞき見・撮影などを「公共の場所又は公共の乗物」で禁止し、第2項では「公共空間以外からの透視盗撮」や「住居・浴場等の私的空間での裸撮影」を明示的に取り締まるなど、多岐にわたるシチュエーションに対応。
  3. 近年問題化している透かし撮影(赤外線フィルター等)にも対応しており、テクノロジー進歩による新たな盗撮手口を防ぐ仕組みとなっている。
  4. 撮影準備行為も摘発対象となり、被害が拡大する前に警察が対処できる意義が大きい。
  5. 罰則では6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(常習で1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)など比較的厳しく、本条例違反でも前科が付く可能性があるため、社会的影響は重大。

こうして第12条は、**痴漢行為(身体接触)・のぞき・盗撮・透かし撮りなどの“卑わいな行為”**をあらゆる空間で取り締まることにより、被害を未然に防止し、奈良県内の公共の安全と住民のプライバシーを強力に保護する機能を担っています。

※奈良県においては、「子どもを犯罪の被害から守る条例」も存在し、同条例と本条例は規制範囲が重複する場面があります。この点について、奈良県警察本部生活環境課「「迷惑防止条例」逐条解説(全75頁)」(2016年5月)69-70頁では、次の通り解説しています。

【(2) 子どもを犯罪の被害から守る条例との関係
子どもを犯罪の被害から守る条例第12条第1号は、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由なく保護監督者が直ちに危害を排除できない状態にある子ども(1 3歳に満たない者)に対し、言い掛かりをつけ、すごみ、又は卑わいな事項を告げることを禁止して、子どもの生命又は身体に危害を及ぼす犯罪の被害を未然に防止し、もって子どもの安全を確保するものである。
一方、本条第1項第3号に規定する「前二号に掲げるもののほか、卑わいな言動」は、個人の意思及び行動の自由を保護することにより、人の性的尊厳と平穏な生活を侵害する悪質かつ卑劣な行為等を防止し、もって県民等の生活の平穏と善良な風俗環境を保持することを目的とし他人を著しくしゅう恥させ、又は不安若しくは嫌 悪を覚えさせるような方法により、本条第1項第1号及び第2号以外の卑わいな言動を禁止している。
すなわち、保護法益において、子どもを犯罪の被害から守る条例第12条第1号は、個人的法益を保護しているのに対し、本条第1項第3号に規定する「前二号に掲げるもののほか、卑わいな言動」は、公共の場所又は公共の乗物において、他人を著しくしゅう恥させ、又は不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で行われる卑わいな言動により、県民等の平穏な生活と善良な風俗環境が害されることを防止するという社会的法益を保護するためのものである。
また、構成要件においても、子どもを犯罪の被害から守る条例は、客体を「保護監督者が直ちに危害を排除できない状態にある子ども」とし、卑わいな事項を告げる方法も限定していないのに対し、本条例は、客体を「他人(自己以外の者)」とし、卑わいな言葉を告げる方法も「他人を著しくしゅう恥させ、又は不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法」と限定している。
よって、本条は、子どもを犯罪の被害から守る条例とは、法条においても、保護法益及び構成要件が異なっており別罪となる。
したがって、公共の場所又は公共の乗物において、保護監督者を伴わない1 3歳未満の者に対し、普通人が著しくしゅう恥し、又は不安若しくは嫌悪を覚えるような方法で卑わいな事項を告げる、例えば「耳元で卑わいな事項を告げる」「体をなめ回すように見ながら、卑わいな事項を告げる」「繰り返して卑わいな事項を告げる」等の行為が行われた場合、子どもを犯罪の被害から守る条例第12条第1号と本条第1項第3号の両罪が成立し、その関係は観念的競合となる。
しかし、保護監督者を伴わない13歳未満の者に対し、作為なしに単にすれ違いざまに一回だけ、卑わいな事項を告げた場合など通常人が著しくしゅう恥し、又は不安若しくは嫌悪を覚えるような方法を伴わないときは、子どもを犯罪の被害から守る条例第12条第1号のみが成立することになる。】

https://www.police.pref.nara.jp/0000000836.html

不同意わいせつ罪と、痴漢(迷惑行為防止条例違反)との分水嶺(痴漢、刑事弁護)

性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺

下着盗撮事件弁護要領(性的姿態等撮影罪・迷惑防止条例)

奈良県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例

https://krk401.legal-square.com/HAS-Shohin/jsp/SVDocumentView

(卑わいな行為の禁止)
第十二条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人を著しくしゆう恥させ、又は他人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で、みだりに次の各号に掲げる行為をしてはならない。

一 他人の胸部、臀でん部、下腹部、大腿たい部等(以下「胸部等」という。)の身体に触れる行為(着衣その他の身に着ける物(以下「着衣等」という。)の上から触れる行為を含む。)であつて卑わいなもの

二 着衣等の全部若しくは一部を着けないでいる他人の姿態若しくは着衣で覆われている他人の下着若しくは胸部等の身体をのぞき見し、又は写真機等を使用して、その映像を記録する行為であつて卑わいなもの

三 前二号に掲げるもののほか、卑わいな言動

2 何人も、みだりに卑わいな行為であつて次の各号に掲げるものをしてはならない。

一 公共の場所及び公共の乗物以外の場所から、写真機等を使用して、透視する方法により、公共の場所にいる他人若しくは公共の乗物に乗つている他人の下着若しくは胸部等の身体を見、又はその映像を記録すること。

二 写真機等を使用して、住居、浴場、更衣室、便所その他の人が着衣等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所(公共の場所及び公共の乗物を除く。)に当該状態でいる他人の姿態の映像を記録すること。

(平一二条例七・追加、平二〇条例三八・一部改正)

 

【参考文献】

 

奈良県警察本部生活環境課「「迷惑防止条例」逐条解説(全75頁)」(2016年5月)※マスキングなし