島根県迷惑行為防止条例第4条(卑わいな行為の禁止)の解説・痴漢・盗撮行為
2025年01月14日刑事弁護
下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。
以下では、島根県迷惑行為防止条例 第4条(卑わいな行為の禁止)について、これまでの条例解説と同様のスタイルで詳細かつ分量多めに説明します。本条は痴漢や盗撮、透かし撮りなど、性犯罪的要素を有する迷惑行為を多角的に規制し、県民や滞在者の安心・安全な生活を保持するための中核条文となっています。
1. 第4条(卑わいな行為の禁止)の位置づけと狙い
(1) 条例全体における目的
- 島根県迷惑行為防止条例(平成19年3月13日条例第41号)は、「公衆に著しく迷惑をかける行為」を防止し、県民及び滞在者の平穏な生活を保持することを目的としています(第1条)。
- その中でも第4条は、いわゆる卑わいな行為(痴漢・のぞき見・盗撮など)を幅広く取り締まる中心規定であり、被害者のプライバシー・性的自己決定権を守るための条文といえます。
(2) 保護法益
- 第4条が規制する行為は、被害者に対して強い羞恥や不安感を与える性質を持ち、公共の場所・乗物のみならず社会生活の様々な場面で起こりうるものです。
- 痴漢や盗撮行為が発生すると、被害者の心身に大きなダメージを与えるほか、公衆全体の安心を損ねることから、条例によって強く抑止し、早期摘発を可能にする意義があります。
2. 第4条第1項
(第4条第1項)
「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
(2) 人の下着又は身体(衣服等で覆われている部分に限る。)をのぞき見ること。
(3) 写真機等を使用して、人の下着等を撮影すること。
(4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。」
(1) 「公共の場所」及び「公共の乗物」
- 公共の場所: 道路、公園、広場、駅、空港、埠頭、興行場、飲食店等、不特定かつ多数の者が出入りできる空間。
- 公共の乗物: バス、電車、船舶、航空機など、多数の人が利用できる乗り物。
この項目では、こうした公共空間での卑わい行為を幅広く取り締まります。
(2) 禁止行為(第1項各号)
- (1) 衣服等の上から又は直接に人の身体に触れること
- いわゆる痴漢。満員電車やバス等で臀部・胸等を触るなど、被害者に大きな羞恥・不安を抱かせる行為が対象。
- (2) 下着や身体(衣服で覆われている部分)をのぞき見る行為
- のぞき見を規制。バッグに鏡を忍ばせてスカート内を覗く、床に置いた小型カメラで下着を狙うなど、多様な行為が該当。
- (3) 写真機等を使用して人の下着等を撮影する行為
- 盗撮を明確に規制。
- スマホやカメラでスカート内を撮影、あるいは盗撮用機器を使用して他人の下着等を撮る行為を厳しく禁止。
- (4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動
- 卑猥な言葉や性的侮辱的表現を公衆の面前で行うなど、「接触」や「撮影」以外の性的迷惑行為を包括的に取り締まる。
(3) 「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で」
- 行為が社会通念上「人に強い羞恥や恐怖感を与えるかどうか」が判断基準。
- 医療行為や介助など、やむを得ない場合には当てはまらないが、痴漢や盗撮が正当化される理由はほぼ存在しない。
(4) 典型事例
- 満員電車で臀部・胸を触る痴漢
- スカート内をのぞこうと鏡やスマホを差し向ける
- 盗撮カメラを使って下着を撮影
- 公衆での卑猥な言動(性的な言葉・ジェスチャー)
3. 第4条第2項
(第4条第2項)
「何人も、正当な理由がないのに、衣服等を透かして見ることのできる写真機等を使用して、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人の下着等を見、又は撮影してはならない。」
(1) 透かし撮りへの対応
- いわゆる**“透視”機能**を持つカメラやフィルター(赤外線フィルター等)を用いて衣服の下を透かし見る・撮影する行為を規制。
- 技術進歩に合わせた改正の一環として、多くの迷惑防止条例で盛り込まれています。
(2) 典型事例
- 赤外線モードのビデオカメラで衣服越しに下着を透視
- 高性能フィルターを使って身体を映し出す
(3) 意義
- 通常の盗撮を禁止するだけでなく、特殊な撮影手段でも被害を受ける可能性があるため、条例で明確に禁じることが被害者保護の観点で重要。
4. 第4条第3項
(第4条第3項)
「何人も、正当な理由がないのに、写真機等を使用して、住居、浴場、更衣室、便所その他の人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所における当該状態の人の姿態を撮影してはならない。」
(1) 衣服を脱ぐ可能性が高い場所への規制
- 住居、浴場、更衣室、便所など、人が裸・半裸になりやすい場所での「撮影」行為を禁止。
- 衣服を脱いだ状態を撮影される被害は深刻度が高いため、条例で特に厳しく取り締まります。
(2) 禁止される行為
- 撮影および撮影目的での写真機等の使用。
- のぞき見が含まれるかどうかは条例次第ですが、本条文は主に「撮影」を中心に規制。
- “正当な理由がないのに”という要件で、一般的に正当化できない性目的の撮影行為が対象となる。
- 住居など私的空間での「のぞき見」を条例で規制できるかは一つの論点です。島根県はあえて外しています。
- 島根県警察本部生活安全部「島根県迷惑行為防止条例の解説~平成30年4月1日施行~(全87頁)」(2018年3月)31頁
- 【(2) 軽犯罪法第1条第23号(窃視の罪)との関係
軽犯罪法は、正当な理由なく、人の住居、浴場、更衣室、便所、その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見る行為を規制しており、同法における「のぞき見る」には、目視する場合はもちろん、写真機等を用いて撮影する場合も含むと解されている。窃視の罪が「場所」をのぞき見る行為を禁止しているのに対して、本条第3項は、「人」を撮影する行為を禁止しているため客体が異なり、窃視の罪は当該場所に人がいなくても違反が成立する。また、本条第3項において、人の裸体等を「見る」行為は対象となっていない。本条第3項と窃視の罪は、観念的競合の関係にある。】
(3) 典型事例
- 更衣室で隠しカメラを仕掛ける
- トイレの上からスマホを差し入れて撮る
- 浴場の脱衣所で他人の裸を撮影
5. 第4条第4項
(第4条第4項)
「何人も、正当な理由がないのに、写真機等を使用して、集会場、事務所、教室、タクシーその他の不特定又は多数の者が利用するような場所又は乗物(公共の場所又は公共の乗物を除く。)において、人の下着等を撮影してはならない。」
(1) 半公共空間・乗物での撮影行為
- 公共の場所・乗物以外でも、不特定または多数が利用する場所・乗物(学校、事務所、タクシー、貸切バス等)における「下着撮影行為」を取り締まる。
- 公共空間の規制だけではカバーしきれない半公共的空間でも被害が起こり得るため、条例が追補規定を設けています。
(2) 典型事例
- 会社の事務所で同僚の下着を盗撮
- 学習塾の教室で周りの受講生を撮影しようとスマホを差し向ける
- タクシー車内で乗客・運転手の身体を無断撮影
6. 第4条第5項
(第4条第5項)
「何人も、第1項第3号又は前3項の規定による撮影の目的で写真機等を人に向け、又は設置してはならない。」
(1) 撮影“準備行為”の規制
- 第1項第3号、あるいは第2項~第4項で禁止される撮影の目的を持って、カメラを人に向けたり設置するだけでも条例違反としています。
- “撮影未遂”の段階で捜査機関が摘発可能という点が極めて重要。
(2) 意義
- 実際に撮影が完了する前に検挙できれば、被害者のプライバシー侵害を未然に防ぐことができ、悪質行為を拡大させない抑止力となります。
7. 総合評価
- 公共空間から半公共空間、そして私的空間まで、被害者が下着を見られたり身体を撮られたりする危険がある状況を多層的に取り締まる。
- 撮影準備行為も違反とすることで、未然摘発の可能性を高め、被害拡大を防ぐ。
- 透かし撮りへの明示的な規制もあり、技術の進歩による新たな盗撮手口に対して対応済み。
- 「正当な理由がないのに、人を著しく羞恥・不安にさせる方法で」という構成要件により、故意の痴漢・盗撮を明確に捕捉。
8. 罰則
- 第14条に罰則が定められ、第4条の違反行為に対しては「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」を科す。常習の場合は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」。
- さらに、「第4条第1項第3号又は前3項に違反して撮影した者」は第13条の対象となり、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(常習で2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)とより重い刑罰が用意されている。
- 条例違反でも、刑事事件として前科が付く恐れがあるため、その社会的影響は看過できません。
9. まとめ
- 島根県迷惑行為防止条例 第4条は、痴漢行為(身体接触)・のぞき見・盗撮(含む透かし撮り)など、性犯罪的迷惑行為を広範囲に取り締まる条文。
- (1) 公共空間での接触・のぞき・撮影・卑猥言動、(2) 透かし撮り、(3) 衣服を脱ぐ場所での撮影、(4) 半公共空間(学校、事務所、タクシーなど)での下着撮影、(5) 撮影準備行為の禁止といった細かい項目で、多様なシチュエーションに対応。
- 被害が深刻化しやすい「衣服を脱ぐ場所」での撮影や「透かし撮り」など、技術発展による新しい手口にも明確に対応。
- 罰則は最高で6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(常習加重あり)となり、一部撮影行為はさらに重い刑罰が適用されるため、条例違反でも前科が付くなど社会的影響は大きい。
- 国の刑法や「性的姿態等撮影罪」を補完する形で、比較的軽微な事案や未遂段階まで広く取り締まり、県民や滞在者の性的プライバシー・安心を守る狙いが表れている。
このように、第4条は「公共の場所・乗物」から「住居、更衣室」などの私的空間まで射程を広げ、撮影準備行為も含めて規制することで、性犯罪的迷惑行為の未然防止と迅速な摘発を目指す重要な条文となっています。
島根県迷惑行為防止条例
https://krm101.legal-square.com/HAS-Shohin/jsp/SVDocumentView
(卑わいな行為の禁止)
第4条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から又は直接に人の身体に触れること。
(2) 人の下着又は身体(これらのうち衣服等で覆われている部分に限る。以下この条において「下着等」という。)をのぞき見ること。
(3) 写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を使用して、人の下着等を撮影すること。
(4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、正当な理由がないのに、衣服等を透かして見ることのできる写真機等を使用して、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人の下着等を見、又は撮影してはならない。
3 何人も、正当な理由がないのに、写真機等を使用して、住居、浴場、更衣室、便所その他の人が通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所における当該状態の人の姿態を撮影してはならない。
4 何人も、正当な理由がないのに、写真機等を使用して、集会場、事務所、教室、タクシーその他の不特定又は多数の者が利用するような場所又は乗物(公共の場所又は公共の乗物を除く。)において、人の下着等を撮影してはならない。
5 何人も、第1項第3号又は前3項の規定による撮影の目的で写真機等を人に向け、又は設置してはならない。
(平29条例48・一部改正)
【参考文献】※情報公開で入手した資料は一部マスキング有
島根県警察本部生活安全部「島根県迷惑行為防止条例の解説~平成30年4月1日施行~(全87頁)」(2018年3月)