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薬院法律事務所

刑事弁護

愛知県迷惑行為防止条例第2条の2(卑わいな行為の禁止)の解説・痴漢・盗撮行為


2025年01月17日刑事弁護

下書きはchatGPTo1 proに作成してもらいました。加筆した部分を赤字にしています。

以下では、愛知県迷惑行為防止条例第2条の2(以下「本条」といいます。)について、逐条的に解説を試みます。本条は、いわゆる「卑わいな行為の禁止」に関する規定を中心として、新たに導入(平成30年条例第53号により追加)されたものであり、旧来から各都道府県の迷惑行為防止条例において定められてきた“痴漢やのぞきなどの卑わい行為”に対する規制をより明確化、体系化するものです。以下、各項目を整理してご説明します。


1.第1項(公共の場所又は公共の乗物における卑わい行為の禁止)

(1) 概要

第1項は、「公共の場所又は公共の乗物(第三項に定めるものを除く。)」において、人を著しく羞恥させ、又は不安を覚えさせるような方法で行う卑わいな行為の禁止を定めています。「公共の場所」とは第2条本文にもあるとおり道路、公園、広場、駅、空港、埠頭、興行場、飲食店など、不特定又は多数の者が利用し得る場所を指し、「公共の乗物」とは汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他公衆が利用することができる乗り物をいいます。

また、本条には「第三項に定めるものを除く」とあります。これは、第3項で別途規定された「住居、浴場、更衣室等」の私的・半私的空間を、ここでいう「公共の場所又は公共の乗物」には含めない扱いにするという趣旨です。

(2) 具体的な禁止行為

本項では、以下の4号に分かれて行為類型が示されています。

  1. 人の身体に、直接又は衣服等の上から触れる行為(第1号)
    いわゆる痴漢行為の類型です。直接肌に触れるだけでなく、衣服を介して身体に触れる場合も対象になります。

    • 「衣服等」とは、条文にあるように「人の身に付ける物」であり、靴や帽子を含む広い概念です。ただし、この号にいう身体への触れ方が「著しく羞恥を与え、又は不安を覚えさせるような方法」である必要があります。
    • 行為者自身は「触っただけ」「満員電車での不可抗力」などと言い訳する場合がありますが、本条例の適用においては「正当な理由」がない限り違反になり得ます。
  2. 衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影する行為(第2号)
    • “のぞき”や“盗撮”を想定した規定です。下着や身体の撮影は、しばしば携帯電話や小型カメラの普及により深刻化している行為といえます。
    • 「衣服等で覆われている」とは、通常着衣状態で隠されている身体や下着を意味し、日常的に直接見えない部分の身体や下着が対象となります。
  3. 前号に掲げる行為をする目的で写真機等を設置し、又は衣服等で覆われている人の身体若しくは下着に向ける行為(第3号)
    • 第2号で規定した「のぞき見・撮影」自体に至らなくても、撮影目的でカメラを設置する、あるいは衣服内へ差し向けようとするなどの準備行為も禁止されます。
    • 「本来の撮影目的」ではなく、卑わい目的(=“人に著しく羞恥を与え、又は人を不安にさせる方法”)であるか否かが問われます。
  4. 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動(第4号)
    • 1号〜3号が身体接触やのぞき・盗撮などの具体的卑わい行為を扱うのに対し、本号では、それ以外の卑わい行為、例えば卑猥な文言を執ように投げかける、性的内容の質問を繰り返す等が想定されます。
    • 「卑わいな言動」とは具体的に定義されていませんが、性的羞恥心を害するようなセクハラ発言や、公共の場での露骨な性的表現の押し付けなどが該当すると考えられます。

(3) 正当な理由

いずれの号も共通して「正当な理由なく」と要件が付されています。例えば、医療行為や防犯目的等、「社会通念上やむを得ない事情」の下では適用が排除される可能性があります。ただし、行為者側が単なる言い訳として「正当理由」を主張することはできず、その理由が客観的かつ合理的に認められなければなりません。


2.第2項(学校・事務所・タクシー等におけるのぞき・盗撮などの禁止)

(1) 概要

第2項は「学校、事務所、タクシーその他の不特定又は多数の者が利用する場所又は乗物」(ただし公共の場所・公共の乗物に該当しないもの、および第3項に定める場所を除く)での行為を規制します。ここでも同様に人を著しく羞恥させ、又は不安を覚えさせるような方法での行為が対象となります。

(2) 禁止される行為類型

ここでは、前項に類似した「(1)身体又は下着をのぞき見・撮影」「(2)それらを撮影する目的で撮影機器を設置・向ける行為」が禁止されています。ただし、場所が“学校や事務所、タクシー等”に限られ、公共の場所とは別カテゴリーに整理された点が特徴です。

  • 「学校」とは、小中高・大学等の教育機関や各種専修学校を含む広い概念が想定されます。
  • 「事務所」 は会社や役所など、多数が往来する仕事場のことが主に念頭に置かれます。
  • 「タクシー」 は公共交通機関に準じた扱いも多いですが、本条ではあえて第2項で区別し、私的な空間としての意味合いをもつ「タクシー」も規制対象に含めたと考えられます。

(3) 条例の趣旨

公共の場所・乗物ではないものの、一般人が比較的容易に出入りできる半公共的空間で起き得る盗撮・のぞき行為を処罰する趣旨といえます。また、業務上の施設や移動空間でも、卑わい行為に対する府民・滞在者の保護を手厚くする立法趣旨が確認できます。


3.第3項(住居・浴場・更衣室・便所等におけるのぞき・盗撮等の禁止)

(1) 保護対象の空間

第3項は、住居や浴場、更衣室、便所その他「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所」を特に取り上げています。これらの場所は、いわゆる「私的空間」「裸・半裸等、身体を晒すことの多い場所」であり、プライバシー保護やわいせつ行為規制の観点から、より強い保護が必要だと考えられます。

(2) 禁止される行為

ここで禁止される行為は、以下の2類型です。

  1. “人の姿態をのぞき見し、又は撮影する”行為(第3項第1号)
    • 入浴や着替えといった場面でののぞき見・盗撮が該当します。
    • 過去の迷惑行為防止条例改正の大きなポイントとして、浴場や更衣室での盗撮行為の取り締まり強化が挙げられます。
    • 住居など私的空間での「のぞき見」を条例で規制できるかは一つの論点です。

軽犯罪法違反事件の弁護要領・第23回 軽犯罪法1条23号(軽犯罪法、刑事弁護)

【判例時報賞応募論文】「性的盗撮規制の最前線-軽犯罪法の窃視罪と,迷惑防止条例の相克-」(2019年2月)

  1. “上記撮影の目的で写真機等を設置し、又は人の姿態に向ける”行為(第3項第2号)
    • 第1号に直接あたる撮影行為に至らずとも、カメラを隠し設置したり、浴場等でレンズを人に向けるなどの行為も処罰対象となります。

4.「正当な理由」の要否と典型例外

いずれの項目も「正当な理由なく」という文言が付されています。正当な理由があれば適用外となる可能性がありますが、実際には医療上の検査・治療、警備・防犯上の撮影などの“社会通念で認められる行為”であるかが問題となります。条例を適用するか否かの判断においては、行為者の主張する理由が合理的に認められるかどうかが大きな争点となります。


5.本条追加の背景と意義

(1) 追加の背景

愛知県では、痴漢や盗撮などの卑わい行為が年々社会問題化しており、刑法や軽犯罪法だけではカバーしきれない事案も増加傾向にありました。本条は、そうした実態への対応や、他府県の迷惑行為防止条例改正の流れを受け、平成30年(2018年)条例第53号により新設されたものです。

(2) 保護法益

本条が保護するのは、「公共の場所や公共の乗物において平穏に活動する利益」あるいは「人の性的プライバシーや平穏」を重視した規定と解されます。場所ごとに区分しつつも、共通して「正当な理由なき卑わい行為」を厳しく規制することで、住民・滞在者が不安なく生活できる秩序の確保を目指しています。


6.違反時の処罰

本条に違反した者には、後段の罰則規定(第15条など)が適用され得ます。具体的には、

  • 第15条は、本条(第2条の2)に違反した者に対する懲役又は罰金の刑を定め、常習の場合には刑を加重する趣旨の規定を設けています。
  • 条例違反に当たるか否かは、具体的事実関係(行為態様・正当理由の有無・場所の区分など)や主観面(卑わい目的など)を考慮して判断されます。

7.まとめ

愛知県迷惑行為防止条例第2条の2は、痴漢・のぞき・盗撮などの卑わいな行為を、場所の態様に応じて三つの区分(公共の場所・乗物、学校・事務所・タクシー等、住居・浴場・更衣室等)に整理し、いずれの空間においても「正当な理由なく行えば処罰される」旨を定める重要な規定です。

  • 第1項:公共の場所又は公共の乗物(ただし第3項対象場所を除く)
  • 第2項:学校・事務所・タクシー等(公共の場所や第3項対象場所を除く)
  • 第3項:住居や浴場、更衣室、便所等
    これらの場所ごとに禁止される行為と、のぞき見・盗撮、カメラの設置・差し向け行為等の類型が詳細に規定され、悪質な痴漢・盗撮・のぞき行為を抑止する規範となっています。

本条の特徴は、「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」という要件設定により、“社会通念上許容されない卑わい行為”を取り締まる点にあるといえます。総じて、個人の性的プライバシーの保護を強化し、公共空間での安心・安全を担保しようとする条例の趣旨が表れています。

不同意わいせつ罪と、痴漢(迷惑行為防止条例違反)との分水嶺(痴漢、刑事弁護)

性的姿態等撮影罪(未遂)と、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)、軽犯罪法違反(つきまとい)の分水嶺

下着盗撮事件弁護要領(性的姿態等撮影罪・迷惑防止条例)

愛知県迷惑行為防止条例

https://ops-jg.d1-law.com/opensearch/SrJbF01/init?jctcd=8A8582E5AA&houcd=H338901010004&no=1&totalCount=2&fromJsp=SrMj

(卑わいな行為の禁止)
第二条の二 何人も、公共の場所又は公共の乗物(第三項に定めるものを除く。)において、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人の身体に、直接又は衣服その他の身に付ける物(以下「衣服等」という。)の上から触れること。
二 衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。
三 前号に掲げる行為をする目的で、写真機、ビデオカメラその他の機器(以下「写真機等」という。)を設置し、又は衣服等で覆われている人の身体若しくは下着に向けること。
四 前三号に掲げるもののほか、人に対し、卑わいな言動をすること。
2 何人も、学校、事務所、タクシーその他の不特定又は多数の者が利用することができる場所又は乗物(公共の場所又は公共の乗物に該当するもの及び次項に定めるものを除く。)において、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
一 衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。
二 前号に掲げる行為をする目的で、写真機等を設置し、又は衣服等で覆われている人の身体若しくは下着に向けること。
3 何人も、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所において、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人の姿態をのぞき見し、又は撮影すること。
二 前号に掲げる行為をする目的で、写真機等を設置し、又は人の姿態に向けること。
追加〔平成三〇年条例五三号〕

 

【参考文献】

 

愛知県警察本部地域地域部地域総務課監修『地域警察官が取り扱う軽易な事件捜査要領』(東京法令出版,2008年2月)

愛知県警察本部生活安全部「愛知県迷惑行為防止条例逐条解説(全127頁)」(2018年11月)※マスキング無し

「盗撮事案捜査要領」(KOSUZO AICHI 2019年4月号)21-24頁