高校生の子どもが自転車で高齢者をはねて大けがをさせた場合、親はどう対応すべきか
2026年06月19日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市内に住む40代の母親です。高校2年生の息子が、自転車で通学中に高齢の歩行者と衝突し、相手の方に大けがをさせてしまいました。
息子の話では、朝の通学時間帯で少し急いでおり、前方をよく見ていなかったそうです。相手の方は転倒し、救急車で病院に搬送されました。後から、骨折している、入院が必要になったと聞きました。
警察からは、息子に話を聞きたいので、親も一緒に警察署へ来てほしいと言われています。学校にも知られるのではないか、家庭裁判所に送られるのではないか、相手の方への賠償がどうなるのか、とても不安です。
自転車保険に入っていたかどうかも、はっきり分かりません。自動車保険や火災保険に何か特約がついていた気もしますが、確認できていません。
息子はかなり落ち込んでおり、「自分の人生は終わった」と言っています。親としては、被害者の方に申し訳ない気持ちと、子どもの将来をどう守ればよいのかという気持ちで混乱しています。
このような場合、親はまず何をすべきでしょうか。
A、まず、相手の方が大けがをしている以上、これは単なる自転車事故ではなく、刑事事件・少年事件・民事賠償事件として対応する必要があります。
自転車は道路交通法上の軽車両です。自転車で歩行者に衝突し、けがをさせた場合には、過失傷害罪や重過失傷害罪が問題になることがあります。事故態様によっては、家庭裁判所での少年事件として扱われます。
親として最初にすべきことは、次の5つです。
第一に、警察からの呼出しを無視せず、出頭前に事実関係を整理することです。
第二に、自転車保険、個人賠償責任保険、自動車保険・火災保険・クレジットカード・学校関係の保険などを急いで確認することです。
第三に、被害者やご家族への謝罪・賠償対応を、感情だけで進めず、保険会社や弁護士と相談しながら行うことです。
第四に、息子さんに対して、事実を正確に話すこと、分からないことを想像で話さないこと、警察の調書に安易に署名しないことを伝えることです。
第五に、家庭裁判所での調査を見据えて、事故原因と再発防止策を家庭として具体化することです。
この種の事件では、「子どもが反省しています」だけでは足りません。
なぜ事故が起きたのか、急いでいたのか、スマートフォンを見ていたのか、イヤホンをしていたのか、速度はどの程度だったのか、歩道を走っていたのか、横断歩道付近だったのか、信号や一時停止を守っていたのか、自転車の整備状況はどうだったのかを確認する必要があります。
また、被害者が高齢者で大けがをしている場合、治療費、入院費、慰謝料、後遺障害、介護費用など、賠償額が高額になる可能性があります。保険の有無は極めて重要です。
警察対応、被害者対応、保険対応、学校対応、家庭裁判所対応を同時に進める必要があるため、早めに少年事件と交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
【解説】
1 自転車事故でも刑事事件になります
自転車は、道路交通法上、軽車両とされています。
そのため、自転車で歩行者に衝突し、けがをさせた場合、単なる「子どもの不注意」では済まないことがあります。
事故の内容によっては、刑法上の過失傷害罪、重過失傷害罪が問題になります。
過失傷害罪は、不注意によって人にけがをさせた場合に成立する犯罪です。もっとも、過失傷害罪は親告罪ですので、被害者側の告訴がなければ起訴されません。
これに対して、重過失傷害罪は、重大な過失によって人にけがをさせた場合に成立する犯罪です。重過失傷害罪は親告罪ではありません。したがって、被害者の告訴がなくても、事件として進む可能性があります。
自転車事故で重過失傷害罪が問題になりやすい事情としては、たとえば次のようなものがあります。
・信号無視
・一時停止違反
・歩道上での高速走行
・スマートフォンを見ながらの運転
・イヤホンで周囲の音が聞こえにくい状態での運転
・無灯火運転
・傘差し運転
・ブレーキ不良など整備不良の自転車での走行
・見通しの悪い交差点への飛び出し
・高齢者や子どもが歩いている場所での危険な走行
もっとも、被害者が大けがをしたからといって、直ちに重過失傷害罪になるわけではありません。
重要なのは、事故の結果だけでなく、事故当時の運転態様、速度、道路状況、視認可能性、被害者側の動き、少年の注意義務違反の程度です。
警察から事情を聞かれる前に、事故態様を整理する必要があります。
2 事故直後の対応が重要です
交通事故を起こした場合、自転車であっても、運転者は直ちに停止し、負傷者を救護し、警察に事故を報告しなければなりません。
相手が高齢者で転倒している場合には、救急車を呼ぶべきです。
「大丈夫です」と言われた場合でも、安心してその場を離れてはいけません。事故直後は興奮して痛みを感じにくいことがあります。高齢者の場合、転倒による骨折、頭部外傷、硬膜下血腫などが後から分かることもあります。
その場で救急車や警察を呼んでいない場合、後から救護義務違反や報告義務違反を疑われることがあります。
もっとも、高校生の子どもが事故直後にパニックになり、適切に行動できなかったということもあります。その場合でも、親が後から事実を隠したり、子どもに口裏合わせをさせたりしてはいけません。
事故後に何をしたのか、何をしなかったのかを正確に整理し、警察に説明する必要があります。
3 警察から呼ばれたときに親が確認すべきこと
警察から呼出しがあった場合、まず次の点を確認してください。
・担当警察署
・担当警察官の氏名
・呼出し日時
・事件名
・被害者のけがの程度
・息子さん本人だけでよいのか、保護者も同行するのか
・自転車を持参する必要があるのか
・事故現場で実況見分をする予定があるのか
・逮捕の可能性があると言われているのか
通常、高校生の自転車事故で、本人と家族がきちんと対応している場合、直ちに逮捕されるとは限りません。
しかし、相手が重傷である、現場から立ち去っている、スマートフォンを操作していた、信号無視や一時停止違反がある、虚偽説明や証拠隠滅が疑われる、といった事情がある場合には、慎重な対応が必要です。
警察からの呼出しを無視することは避けるべきです。
ただし、何の準備もせずに警察署へ行き、その場で曖昧な供述をしてしまうことも危険です。弁護士に相談したうえで、事故当時の記憶、争いのある点、分からない点を整理しておくべきです。
4 子どもに伝えるべきこと
親として、子どもにまず伝えるべきことは、「正確に話すこと」です。
交通事故では、子ども本人も動揺しています。
「前を見ていたと思う」
「そんなにスピードは出していなかったと思う」
「相手が急に出てきた」
「スマホは見ていなかったと思う」
「イヤホンはしていたけど音は小さかった」
このように、記憶が曖昧なまま話してしまうことがあります。
警察の取調べでは、曖昧な供述が調書化されることがあります。後で「そういう意味ではなかった」と言っても、修正が難しい場合があります。
子どもには、次のことを伝えてください。
・嘘をついてはいけない
・分からないことを分かると言ってはいけない
・覚えていないことを想像で話してはいけない
・相手のせいにするために事実を曲げてはいけない
・自分がしていないことまで認めてはいけない
・警察官が作った調書は、署名する前に必ず確認する
・違うと思う表現があれば訂正を求める
・困ったときは弁護士や親に相談してよい
大事なのは、子どもを責めて萎縮させることではありません。
被害者に大けがをさせたことは重大です。しかし、だからといって、事実と違う供述をしてよいわけではありません。
正確な事実認定が、被害者対応にも、少年事件の処分にも、民事賠償にも関わります。
5 証拠を保全してください
自転車事故では、後から事故態様が争いになることがあります。
次の資料は、できるだけ早く保存してください。
・事故に使った自転車
・自転車のブレーキ、ライト、タイヤの状態
・事故現場の写真
・道路幅、歩道、横断歩道、信号、一時停止標識の写真
・通学ルート
・事故時刻の天候、明るさ、交通量
・子どものスマートフォン
・通話履歴、メッセージ履歴
・イヤホンの有無
・事故直後に撮影された写真や動画
・目撃者の情報
・防犯カメラ、ドライブレコーダーの有無
・学校や友人との連絡内容
・警察からの連絡内容のメモ
特に、防犯カメラやドライブレコーダー映像は、時間が経つと消えることがあります。
事故態様が問題になる場合には、早期に弁護士が現場確認や証拠保全を検討する必要があります。
6 被害者対応は慎重に進めるべきです
高齢者が大けがをした場合、被害者本人やご家族は強い怒りや不安を抱えています。
親として、すぐに謝罪したいと思うのは自然です。謝罪の姿勢は重要です。
しかし、被害者やご家族に直接連絡して、
「大ごとにしないでほしい」
「警察には軽く言ってほしい」
「告訴しないでほしい」
「学校に連絡しないでほしい」
「子どもの将来があるので許してほしい」
といった話をすることは避けるべきです。
被害者側からすれば、加害者側が圧力をかけてきたと受け取られるおそれがあります。
まずは、保険会社に連絡し、治療費や賠償対応の窓口を確認してください。重傷事故では、治療が長期化し、後遺障害の問題が出ることもあります。損害額が確定するまで時間がかかる場合もあります。
謝罪についても、いつ、誰が、どのように行うかを慎重に検討すべきです。必要に応じて、弁護士を通じて謝罪文を作成したり、面会の可否を確認したりします。
被害者対応は、刑事・少年事件の処分にも影響します。
ただし、被害者に許してもらうことだけを目的にするのではなく、被害者の治療と生活への影響をきちんと考えた対応をすることが重要です。
7 自転車保険・個人賠償責任保険を確認してください
自転車事故では、民事上の損害賠償額が高額になることがあります。
高齢者が転倒して骨折した場合でも、治療費、入院費、通院交通費、付添費、休業損害、慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益、将来介護費などが問題になります。
後遺障害が残る場合、賠償額が数百万円から数千万円になることもあります。死亡事故や重い後遺障害が残る事故では、さらに高額になります。
そのため、まず保険を確認してください。
確認すべき保険は、次のとおりです。
・自転車保険
・個人賠償責任保険
・自動車保険の個人賠償責任特約
・火災保険の個人賠償責任特約
・傷害保険
・クレジットカード付帯保険
・PTA保険、学校関係の保険
・共済
・家族の保険に付いている特約
福岡県や福岡市では、自転車損害賠償保険等への加入が義務化されています。未成年者が自転車を利用する場合には、保護者が保険加入状況を確認しておくべきです。
もっとも、保険に入っていると思っていても、実際には対象外だったり、示談代行が付いていなかったり、限度額が低かったりすることがあります。
保険証券や契約内容を確認し、保険会社に事故報告をしてください。
8 親自身が損害賠償責任を問われることがあります
高校生が自転車事故を起こした場合、子ども本人に責任能力があれば、本人が不法行為責任を負うことになります。
ただし、未成年の子どもによる事故では、親の監督責任も問題になることがあります。
特に、子どもが日常的に危険な自転車運転をしていた、親がそれを知っていたのに注意していなかった、自転車の整備を怠っていた、交通ルールについて指導していなかった、通学ルートの危険性を把握していなかった、という事情がある場合には、親の責任が問題になることがあります。
また、現実的には、子ども本人に十分な資力がないため、保険がなければ、被害者側は親に対して責任追及を検討することがあります。
自転車事故は、「子どものしたことだから」で済む問題ではありません。
被害者の生活が大きく変わることがありますし、加害者側の家庭にも大きな経済的負担が生じます。
9 学校への報告はどうするべきか
高校生の通学中の自転車事故では、学校への報告も問題になります。
学校に報告すべきかどうかは、次の事情によって変わります。
・通学中の事故か
・学校の自転車通学許可を受けていたか
・学校指定の通学路だったか
・学校の保険やPTA保険が関係するか
・警察や被害者側から学校に連絡が行く可能性があるか
・欠席、早退、家庭裁判所対応が必要になるか
・部活動や進学への影響があるか
学校に知られたくないという気持ちは理解できます。
しかし、通学中の重傷事故では、学校への報告を完全に避けることが難しい場合があります。むしろ、学校にどう説明するか、どの範囲で伝えるか、再発防止策をどう示すかを整理することが大切です。
学校に対しても、感情的に「すみません」と言うだけではなく、
・事故の概要
・警察対応中であること
・被害者対応を進めていること
・保険会社に連絡していること
・家庭で再発防止策を取ること
・今後の通学方法を見直すこと
を整理して伝えるべきです。
10 家庭裁判所では何が見られるか
高校生の自転車事故で人に大けがをさせた場合、少年事件として家庭裁判所に送られる可能性があります。
家庭裁判所では、単に事故の内容だけでなく、少年本人の生活状況、学校生活、家庭環境、交友関係、交通ルールへの理解、反省状況、保護者の監督体制が見られます。
家庭裁判所調査官との面接では、次のようなことを聞かれる可能性があります。
・事故当日の行動
・なぜ急いでいたのか
・普段から危険な自転車運転をしていなかったか
・スマートフォンやイヤホンの使用状況
・交通ルールをどの程度理解していたか
・被害者のけがについてどう受け止めているか
・被害者への謝罪や賠償対応
・家庭で事故後に何を話し合ったか
・今後、自転車通学をどうするか
・親がどのように監督するか
・学校生活に問題がないか
ここで親が、「本人は反省しています」「二度としませんと言っています」とだけ答えても不十分です。
家庭として、具体的な再発防止策を示す必要があります。
たとえば、
・一定期間、自転車通学をやめる
・徒歩、公共交通機関、家族の送迎に切り替える
・自転車を点検、整備する
・スマートフォンをカバンに入れて運転中に触れないルールを作る
・イヤホンを使用しない
・ヘルメットを着用する
・通学時間を早め、急がなくてよいようにする
・危険な交差点や歩道を避ける通学ルートに変更する
・家庭で交通ルールを確認する
・学校とも再発防止を共有する
といった対応が考えられます。
11 処分の見通し
処分の見通しは、事故態様、被害者のけがの程度、被害者対応、保険対応、少年の反省状況、家庭の監督体制によって変わります。
軽微な事故で、被害者対応ができており、少年本人の問題性が小さい場合には、家庭裁判所で審判不開始や不処分となることもあります。
しかし、高齢者に大けがをさせた事故では、家庭裁判所で慎重に調査される可能性があります。
重大な過失がある、被害者が重傷、示談や保険対応が進んでいない、少年が事実を軽く見ている、親が事故の重大性を理解していない、と判断されると、保護観察などの処分が検討される可能性もあります。
もっとも、少年事件の目的は、少年を処罰することだけではありません。少年が自分の行為の重大性を理解し、再び同じような事故を起こさないようにすることが重視されます。
そのため、事故後の親子の対応が非常に重要です。
12 弁護士ができること
このような事件で弁護士ができることは、警察対応だけではありません。
具体的には、次のような対応を行います。
・警察への出頭前相談
・取調べ対応の助言
・事故態様の整理
・実況見分への対応
・供述調書作成時の注意点の説明
・自転車、現場、スマートフォン等の証拠保全
・保険会社への連絡方針の整理
・被害者への謝罪、賠償、示談対応
・学校への報告方針の検討
・家庭裁判所調査官への対応準備
・保護者の監督計画作成
・再発防止策の具体化
・審判不開始、不処分、又は軽い処分を求める意見書作成
・少年審判への付添人活動
高齢者に大けがをさせた自転車事故では、被害者対応が非常に重要です。
一方で、事故態様について事実と違う認定をされると、少年本人に過度に重い責任が課されることもあります。
被害者への誠実な対応と、正確な事実認定の両方が必要です。
まとめ
高校生の子どもが自転車で高齢者をはねて大けがをさせた場合、親は強い不安を感じると思います。
しかし、そこで大事なのは、子どもを頭ごなしに責めることでも、逆に子どもをかばって事実を曖昧にすることでもありません。
自転車事故でも、人に大けがをさせれば刑事事件・少年事件になります。さらに、民事上の損害賠償額が高額になることもあります。
親としては、警察対応、被害者対応、保険確認、学校対応、家庭裁判所対応を同時に進める必要があります。
特に重要なのは、
・事故態様を正確に整理すること
・子どもに正確な供述をさせること
・被害者に誠実に対応すること
・保険の有無を確認すること
・家庭として再発防止策を作ること
・家庭裁判所で説明できる監督体制を整えること
です。
薬院法律事務所では、少年事件、交通事故、交通犯罪、被害者対応、家庭裁判所対応を踏まえた相談を受けています。
「高校生の子どもが自転車で人にけがをさせた」
「高齢者に大けがをさせてしまった」
「警察から親子で呼び出された」
「保険が使えるか分からない」
「家庭裁判所に送られるのか不安」
「学校にどう説明すればよいか分からない」
という場合には、早めにご相談ください。
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