多機能トイレに小型カメラを設置して盗撮しようとしたら、発覚したという相談(盗撮、刑事弁護)
2024年11月21日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、福岡市に住む20代男性です。昔から、若い女性が排泄する姿を見るのが好きで、インターネットにある盗撮映像やアダルトビデオを見ていたのですが、どうしても自分で試したくなり、盗撮用の小型カメラを購入しました。女子トイレに設置しようと思ったのですが、見つかった場合に言い逃れができないと思い、駅の多機能トイレに設置することにしました。トイレの近くで待機して、女性が入るタイミングを見計らって起動したつもりだったのですが、遠隔操作がうまく出来なかったようで起動しませんでした。駅員さんがずっと多機能トイレの近くにいる私のことを不審に思っていたようで、声をかけられて、自白してしまいました。結局撮影はできていないのですが、犯罪になるのでしょうか。
A、建造物侵入罪と性的姿態等撮影罪の未遂罪が成立することが考えられます。ただ、微妙な判断が必要になりますので、弁護士の面談相談を受けるべきです。
【解説】
盗撮用カメラを設置する目的で多機能トイレに入った事例で、建造物侵入罪が成立するかということが問題になります。この点に対する回答は、「理論上は成立する」というものになります。最高裁平成19年7月2日決定は次のとおり判示しています。この判例からすると、建造物侵入罪が成立するという結論になると考えられます。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=34887
判示事項
1 現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的でした営業中の銀行支店出張所への立入りと建造物侵入罪の成否
2 現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮するためのビデオカメラを設置した現金自動預払機の隣にある現金自動預払機を,一般の利用客を装い相当時間にわたって占拠し続けた行為が,偽計業務妨害罪に当たるとされた事例
裁判要旨
1 現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入った場合,その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客と異なるものでなくても,建造物侵入罪が成立する。
2 現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮するためのビデオカメラを設置した現金自動預払機の隣にある現金自動預払機を,あたかも入出金や振込等を行う一般の利用客のように装い,適当な操作を繰り返しながら,1時間30分間以上にわたって占拠し続けた行為は,偽計業務妨害罪に当たる。
なお、本件については、内容次第では性的姿態等撮影罪の未遂罪は成立しないということもあり得ます。まったく撮影できる可能性がなかったといった場合であれば、未遂犯の処罰根拠である法益侵害の現実的危険性が存在しない、ということもあるでしょう。微妙な判断が必要になりますので、弁護士の面談相談を受けるべきです。
【参考文献】
近時の文献では、盗撮目的での侵入は、管理権者の同意があった場合でも建造物侵入罪が成立するというものもあります。もっとも、これも理論的には、ということでしょう。実務上は、男性が女子トイレに侵入したような場合に、トイレに侵入した時点で建造物侵入罪の成立を認めています。
佐久間修・橋本正博編『刑法の時間』(有斐閣,2021年4月)
【Case4 A大学の学生であったXは, A大学構内の講義棟のトイレ(管理権者はB学長)に小型カメラをしかけて盗撮をしようと計画した。ある日, Xは盗撮用の小型カメラをかばんにかくし持って,他の学生に交じって,警備員Cにたいしてあいさつをして(もちろん盗撮目的はかくして)大学の正門を通りぬけた。その後,講義棟のトイレに向かい, だれもいない間に小型カメラを設置した。
住居権者や管理権者が,立入りを許可していた場合には侵入とはいえません。Case4の場合, Xは管理権者Bから雇われた警備員Cの同意を得て講義棟に立ち入っていますので,建造物に侵入したとはいえないことになりそうです。しかし,警備員Cによる同意は無効だといわざるをえません。なぜなら, Xがトイレで盗撮をする目的を有していることを, Cがもし知っていれば, Xの立入りを許可しなかったであろうといえるからです。そのため, Cの同意は無効となり, Xには建造物侵入罪が成立することになります。】